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第一話 突然の告白

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 私はお菓子作りが得意だ。
 運動音痴でたいして頭も良くない私にとって唯一の特技といえよう。この特技を活かさない手はないと思い、クッキー屋さんを始めた。
 本当は一軒家を借りてお店を開きたかったけど、そんな軍資金、貧乏な私には用意できない。
 どうしようか悩んでいたら武器屋を開いている友人が声をかけてくれた。

「じゃあさ、俺の店でクッキー売れば? その代わり店番頼むよ」

 つまり、武器屋の一角にスペースを作りクッキーを置いてくれると言うのだ。もちろんクッキーの売り上げは全て私のもの。場所代なども払わなくていい。その代わり、店番を頼みたいらしい。
 願ってもない申し出なので、快く了承した。
 それから私は午前中は武器屋で店番をし、午後はクッキーを作るための材料を揃えたり自由な時間を過ごすようになった。ちなみにクッキーを焼くのは夜だ。そんなに多く作らないので、それほど苦でもない。
 儲けが少ないので贅沢は出来ないけど、私は今の生活を結構気に入っている。
 このままこんな穏やかな日々が続けばいいなと思っていたある日、私の生活に変化が起こったのだった。

※※※※

「レノン。今日もわりーなぁ!」

 そう言って、キノルルはガハハと笑った。
 キノルルはこの武器屋の主人で、私の友達でもある。モジャモジャしたヒゲと髪、それとモリモリの筋肉を持った屈強な男だ。
 今日も朝から武器を買いにくる冒険者の相手をしていたのだが、十時くらいになってやっと落ち着いてきた。そんな時にキノルルが話しかけてきたのだ。私はニコニコ笑いながらひたいの汗を拭った。

「ううん。仕事楽しいから大丈夫だよ」
「そうかぁ?――そうだ! クッキーは何袋売れたんだ?」
「二十五袋売れたよ。完売までもう少し」
「そうかぁ! 良かったなぁ!」

 クッキーは毎日三十袋作っている。十時の時点でこれだけ売れたのなら、きっと今日も完売できるだろう。
 なぜ冒険者がクッキーなんて買うのか疑問に思うかもしれないが、それにはわけがある。
 私のクッキーはただのクッキーではなく、薬草をたっぷり使った『薬草クッキー』なのだ。  
 薬草は食べると少しだけ体力が回復するため、冒険者の必須アイテムだ。その薬草をたっぷり使ってクッキーを焼き上げたら、意外にもうけた。
 疲れた時に食べると糖分も補給できるし、体力も回復する。それに、自分でいうのもなんだが味も悪くない。
 冒険者にとって一石二鳥なのだ。
 だから薬草クッキーは毎日完売している。とても有難いことだ。
 もっとたくさん作らないの? と聞かれることもあるが、今以上に作ったら忙しくなってしまう。別に一儲けしたいわけではなく、質素な生活ができるだけのお金を稼げればいいので、一日三十袋という品数を変えるつもりはない。

 そんなことを考えていたら、キノルルが顎ひげを撫でながらニヤニヤ笑った。

「へへ。レノン。そろそろアイツが来る時間だぞ!」

 名前を聞かなくても誰だか分かった。
 十時十分か……。そうね、それそろ彼の来る時間だ。私はレジの下にキープしていた薬草クッキーを台の上に置いた。
 すると、それと同時に入口のドアのベルがカランカランと鳴った。

「らっしゃい!」
「いらっしゃいませ」

 キノルルと一緒に入ってきたお客さんに挨拶をする。キノルルの予想通り、来店したのは『彼』だった。

「こ、こんにちは」

 男は真っ直ぐ私とキノルルが立っているレジに向かって歩いてくる。店内には数多くの武器が揃っているのだが、見向きもしない。
 私の目の前で足を止めると、男は真っ赤になりながら口を開いた。

「レノンさん。今日も良い天気ですね」
「はい。こんな日にピクニックしたら気持ち良さそうですねぇ」

 この人はいつも世間話から会話を始めるのだ。全く不快に思わないので、私も楽しく返答する。しばらく他愛の無い話をしていたけど、そろそろ本題に入ろうかな。

「ゼルバさん、いつものクッキーですよね? ゼルバさんが来ると思ってキープしておいたんです」
「お、俺のために――!?」

 ゼルバさんの顔が更に真っ赤になった。
 そう――この人はゼルバさんと言う。この店の常連さんだ。
 なぜゼルバさんの名前を知っているのかと言うと、ゼルバさんはこの街一番の有名人だからだ。
 
「う、嬉しいです! レノンさん、俺の顔覚えてくれたんですね!」
「そりゃあ何度も来てくれたら覚えますよ。それにゼルバさんはこの街で一番の有名人ですからね」
「そ、そんな……。俺のことなんて、誰も知らないですよ」
「ご謙遜を。ゼルバさんはSランク冒険者でしょう? 冒険者たちの憧れですよ」

 そう……。この真面目そうな好青年は、泣く子も黙るSランク冒険者なのだ。
 しかも、顔も男らしい美形だ。背も高く、程よい筋肉がついた肉体は美しい虎を連想させる。
 太陽のように輝く金髪と、海のようなコバルトブルーの瞳を持った男はそれだけで目を惹く。

 そんな人が私の作ったクッキーを求めて足繁く通ってくれるのだ。顔を覚えるなと言う方が無理な話だ。

「はい、どうぞ」

 私は台の上に載せていたクッキーを渡した。ゼルバさんはワタワタとクッキーを受け取る。

「あ、ありがとうございます!――そ、そうだお金!」

 もう一度ワタワタとポケットを漁ると、コインを三枚取り出した。手を出してそれを受け取る。

「ふふ。ゼルバさん、いつも買いに来てくれてありがとうございます。これからお仕事ですよね? 頑張って下さいね」

 そう言いながらニコリと微笑むと、ゼルバさんは眩しいものを見るように目を細めた。
 いつもならそこでくるりと背を向け立ち去るのだが、今日のゼルバさんは動かない。
 クッキーの袋を大事そうに抱えながら立ち尽くしている。どうしたのかと思って眺めていたら、突然ゼルバさんが『あの!』と大声を上げた。

「はい?」
「と、突然こんなことを言ったら驚くと思うのですが――」
「?」

 ゼルバさんはキュッと目をつぶって更に大きな声を上げた。

「レノンさんのことが好きです!! 貴方の美しい笑顔に一目惚れしてしまいました!! よ、良かったら俺とお付き合いしてくれないでしょうか!?」

 そんなことを店内にいるお客さん全てに聞こえる大声で叫んだのだ。店内のお客さんたちは目を丸くして私たちを見ている。隣に立つキノルルは茶化すように『ヒュー』と口笛を鳴らした。

「え? え?」

 私も他のお客さんと同じように驚いて目を丸くした。
 次に、じわじわと頰が熱くなってゆく。
 え? 今ゼルバさんは何を言ったの? 私のことが好きって……好きって……。

 えーーー!?
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