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第四話 灯台でハートがとけるほど恋しちゃった話
§4 - 午前十時(その三)
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泣いたせいか、なんだか心がふわふわした状態で、頭の中でいろいろな考えが暴走していた。あれ、兵頭さんがおれの背中を優しくさすってくれてる。やっぱり優しい人だなあ。
「あ、あのさ、後期日程はちゃんと受験した方がいいよ」
なんとか気持ちを落ち着けようと目を閉じていたら、兵頭さんの声が妙にクリアに耳に入った。え? と思って顔を上げる。
「どうしてですか?」
だって、TH大じゃなくてC大だよ。確かに歴史を学べるけど、伊達政宗の研究なんてできないんじゃないかな? あれ、おれ、伊達政宗の研究がしたかったのかな? 研究? そもそも、おれ、TH大で何をしたかったんだろ……。
感情があっちこっちに飛んでいる。考えがうまくまとまらない。すると、兵頭さんは真剣な顔で、
「だって、もしかしたら編入できるかもしれないし」
「へんにゅう?」
へんにゅうって、転校とかそういうことかな? でも、大学は義務教育じゃないし、途中から入るって変じゃない? 言葉の意味が分からなくて混乱していると、兵頭さんから爆弾発言が。
「実はオレ、TH大のOBなんだ……」
「えっつ!!!」
う、うそ……嘘だろーっつ!!
いや、嘘じゃない。兵頭さんはこんな嘘をつく人じゃない。そもそも嘘をつく理由がない。す、すごい。こんなにかっこよくて背が高くてスタイル良くて優しい人がTH大のOB……おれの憧れのTH大の……どうしよう、すごいよ。恐ろしい偶然? それとも運命? え、どういうこと? おれに今なにが起こっているんだ?!
「それで、ええと、オレが三年の時に編入してきた奴がいたんだよね。まあ、オレは工学部だったから、文学部でも編入制度があるかどうかは知らないんだけど」
兵頭さんの口から立て続けに明かされる衝撃の事実を、おれはアホな子みたいな顔で聞いていた。要するに、大学三年になってから学校を替えられるってことか?! でも、それだと大学入試の意味がないんじゃ……。混乱はまだ続いているが、少なくともC大を受験して合格すればいいってことだけは理解できた。
呆然としたまま、兵頭さんの話に耳を傾ける。
「それに、もしC大に合格すれば、卒業してからTH大の大学院に行けるかもしれないし」
「大学院?」
大学院って、同じ大学じゃなくても平気なのかな?
「研究内容によるけど、院試が通ればTH大の大学院に入れるんじゃないかな? まあ、そう簡単な話ではないと……」
そうなんだ。院試って、大学院への入試ってことだよな? とにかく、それをクリアできれば、C大からTH大に行けるんだ。編入か大学院のどっちかになるけど、少なくとも、おれが仙台で……伊達政宗と同じ空気を吸いながら学べる可能性はゼロではないんだ!!
「受験します! 後期日程!!」
気付いた時には、両手で握りこぶしを作ってベンチから立ち上がっていた。
「うん。その方がいいよ。頑張れ!」
「はい! ありがとうございます!」
兵頭さんの笑顔が眩しい。まるで天使みたい。きっとそうだ、落ち込んで絶望していたおれを救うために現れた天使なんだ! この出会いは偶然じゃない! 運命の人に巡り会えたんだ!!
(兵頭さん、大好き!!!)
この瞬間、おれは兵頭さんに恋をした。100%恋に落ちた。頭も心も溶けそうなくらい恋の喜びで満ち溢れた。ところが、おれの天使は少し困ったように眉を下げて現実を突き付けてきた。
「それじゃあ磯上くん、家の近くまで送るよ」
「えっ?」
「後期試験は倍率高いからさ。今の勢いで勉強した方が良いだろ?」
「え、あ、まあ、そう……そうですね」
そうだった。まだC大に合格したわけじゃなかった。そして自分を客観視できた。今のおれは高校卒業寸前なのに進路が未定という残念な男なので、兵頭さんみたいなハイスペックな天使には釣り合わない。ようし、メチャクチャ勉強して、何が何でもC大に入ってやる!! だけど、その前に……。
「あ、あのっ!! 兵頭さん!!」
おれはこのチャンスを逃したりはしない!!
「その、連絡先……ライン交換して下さい! お願いします!」
あんだけ液晶にヒビが入っているのに、さっき灯台の受付で確認したらスマホが動いたってことは、確実に天がおれに味方している。兵頭さんとおれの間にはきっとすごい何かがあるんだ! ならばおれは全力で攻める! 押せ押せだ!!
「う、うん。いいよ。でもオレ仕事中は見られないし残業も多いから、既読無視になるかも……」
いやったあああああっっつ!!! オッケーしてくれたあああっつ!!!
「平気です! おれも勉強してる時は集中しちゃうんで、既読つかないかもしれません」
「それは全然かまわないよ。えっと、じゃあ、その、よろしくお願いします」
もう完全に舞い上がったおれは、前のめりで兵頭さんのラインにスタンプを送った。ちなみにスタンプにしたのは、嬉しさのあまり妙なメッセージを送ってフラれたくなかったからでもある。
【こちらこそよろしく】
すぐに返信が届いた。嬉しすぎてニヤニヤしてしていると、顔を上げた兵頭さんと目が合った。
「あ、あのさ……オレ、実はこういうの初めてなんだよね」
こういうの、ってどういう意味だろ? 会ったばかりの人に連絡先を教えること? それとも、年下とラインすることかな? うーん……まあどっちでもいいや。だっておれだって初めてだし。
「へへっ。おれも家族と学校の友達以外の人とライン交換するの初めてです」
再び目が合った瞬間に、いっしょに笑いだした。あ、兵頭さん、笑うとエクボができるんだ。かわいいな。好きだなあ。好きだーーーーっつ!!!
「あ、あのさ、後期日程はちゃんと受験した方がいいよ」
なんとか気持ちを落ち着けようと目を閉じていたら、兵頭さんの声が妙にクリアに耳に入った。え? と思って顔を上げる。
「どうしてですか?」
だって、TH大じゃなくてC大だよ。確かに歴史を学べるけど、伊達政宗の研究なんてできないんじゃないかな? あれ、おれ、伊達政宗の研究がしたかったのかな? 研究? そもそも、おれ、TH大で何をしたかったんだろ……。
感情があっちこっちに飛んでいる。考えがうまくまとまらない。すると、兵頭さんは真剣な顔で、
「だって、もしかしたら編入できるかもしれないし」
「へんにゅう?」
へんにゅうって、転校とかそういうことかな? でも、大学は義務教育じゃないし、途中から入るって変じゃない? 言葉の意味が分からなくて混乱していると、兵頭さんから爆弾発言が。
「実はオレ、TH大のOBなんだ……」
「えっつ!!!」
う、うそ……嘘だろーっつ!!
いや、嘘じゃない。兵頭さんはこんな嘘をつく人じゃない。そもそも嘘をつく理由がない。す、すごい。こんなにかっこよくて背が高くてスタイル良くて優しい人がTH大のOB……おれの憧れのTH大の……どうしよう、すごいよ。恐ろしい偶然? それとも運命? え、どういうこと? おれに今なにが起こっているんだ?!
「それで、ええと、オレが三年の時に編入してきた奴がいたんだよね。まあ、オレは工学部だったから、文学部でも編入制度があるかどうかは知らないんだけど」
兵頭さんの口から立て続けに明かされる衝撃の事実を、おれはアホな子みたいな顔で聞いていた。要するに、大学三年になってから学校を替えられるってことか?! でも、それだと大学入試の意味がないんじゃ……。混乱はまだ続いているが、少なくともC大を受験して合格すればいいってことだけは理解できた。
呆然としたまま、兵頭さんの話に耳を傾ける。
「それに、もしC大に合格すれば、卒業してからTH大の大学院に行けるかもしれないし」
「大学院?」
大学院って、同じ大学じゃなくても平気なのかな?
「研究内容によるけど、院試が通ればTH大の大学院に入れるんじゃないかな? まあ、そう簡単な話ではないと……」
そうなんだ。院試って、大学院への入試ってことだよな? とにかく、それをクリアできれば、C大からTH大に行けるんだ。編入か大学院のどっちかになるけど、少なくとも、おれが仙台で……伊達政宗と同じ空気を吸いながら学べる可能性はゼロではないんだ!!
「受験します! 後期日程!!」
気付いた時には、両手で握りこぶしを作ってベンチから立ち上がっていた。
「うん。その方がいいよ。頑張れ!」
「はい! ありがとうございます!」
兵頭さんの笑顔が眩しい。まるで天使みたい。きっとそうだ、落ち込んで絶望していたおれを救うために現れた天使なんだ! この出会いは偶然じゃない! 運命の人に巡り会えたんだ!!
(兵頭さん、大好き!!!)
この瞬間、おれは兵頭さんに恋をした。100%恋に落ちた。頭も心も溶けそうなくらい恋の喜びで満ち溢れた。ところが、おれの天使は少し困ったように眉を下げて現実を突き付けてきた。
「それじゃあ磯上くん、家の近くまで送るよ」
「えっ?」
「後期試験は倍率高いからさ。今の勢いで勉強した方が良いだろ?」
「え、あ、まあ、そう……そうですね」
そうだった。まだC大に合格したわけじゃなかった。そして自分を客観視できた。今のおれは高校卒業寸前なのに進路が未定という残念な男なので、兵頭さんみたいなハイスペックな天使には釣り合わない。ようし、メチャクチャ勉強して、何が何でもC大に入ってやる!! だけど、その前に……。
「あ、あのっ!! 兵頭さん!!」
おれはこのチャンスを逃したりはしない!!
「その、連絡先……ライン交換して下さい! お願いします!」
あんだけ液晶にヒビが入っているのに、さっき灯台の受付で確認したらスマホが動いたってことは、確実に天がおれに味方している。兵頭さんとおれの間にはきっとすごい何かがあるんだ! ならばおれは全力で攻める! 押せ押せだ!!
「う、うん。いいよ。でもオレ仕事中は見られないし残業も多いから、既読無視になるかも……」
いやったあああああっっつ!!! オッケーしてくれたあああっつ!!!
「平気です! おれも勉強してる時は集中しちゃうんで、既読つかないかもしれません」
「それは全然かまわないよ。えっと、じゃあ、その、よろしくお願いします」
もう完全に舞い上がったおれは、前のめりで兵頭さんのラインにスタンプを送った。ちなみにスタンプにしたのは、嬉しさのあまり妙なメッセージを送ってフラれたくなかったからでもある。
【こちらこそよろしく】
すぐに返信が届いた。嬉しすぎてニヤニヤしてしていると、顔を上げた兵頭さんと目が合った。
「あ、あのさ……オレ、実はこういうの初めてなんだよね」
こういうの、ってどういう意味だろ? 会ったばかりの人に連絡先を教えること? それとも、年下とラインすることかな? うーん……まあどっちでもいいや。だっておれだって初めてだし。
「へへっ。おれも家族と学校の友達以外の人とライン交換するの初めてです」
再び目が合った瞬間に、いっしょに笑いだした。あ、兵頭さん、笑うとエクボができるんだ。かわいいな。好きだなあ。好きだーーーーっつ!!!
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