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第三話 灯台に住むロマンスの神様どうもありがとうの話
§2 - 午前九時(その二)
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「昨日の落とし物ですか? ああ、スマホですね」
そう言いながら、受付のおばさんがビニール袋を持ってきた。袋には昨日の日付が油性ペンで書かれており、中には液晶に派手なヒビが入ったスマホと、おもちゃの手錠が入っている……。
「こちらになります。両方ともお客様の所有物ということで宜しいでしょうか?」
「……ええっと……」
毒を食らわば皿まで、と心の中で呟きながら頷いた。恐らくオレの顔は引きつっているだろう。灯台の職員たちの間で、どんな変態かと嘲笑されているような気がする。だがしかし、今は耐えねばならない。こらえろオレ! こんな灯台、二度と来なければいいんだ!! 旅の恥はかき捨てだ!!
できるだけ表情が顔に出ないよう心がけていると、受付のおばさんはデスクから書類を取り出してきて、オレの目の前に広げた。そして淡々とした口調で、
「それでは、恐れ入りますがお客様の身分証明書をご提示頂けますか?」
「へ? 身分証明書?」
「はい。運転免許証か何かございましたらお願いします。あと、こちらの受領書に名前と住所と電話番号をご記入下さい」
「……」
どうしよう。この事態は想定していなかった。でもよく考えればそうだよな。本人確認せずにスマホなんて渡せないよな。うーん……マズいな。出直すか。「財布を車に忘れてきた」とか言ってこの場を離れた方が良さそう……。
脂汗を垂らしながら、どうすれば自然に撤退できるか考えていたところ、
「あっ! いた! よかったああっ!!」
天の助けと言おうか、あの少年が駆け寄ってきた。
「昨日は本当にありがとうございました!」
はつらつとした声に満面の笑顔でお辞儀される。ほっ。例の一件がトラウマになってないみたいだ……って、ちょっと待って! いまオレが君のスマホを灯台の受付から盗もうとしているのがバレる!!
「あら、お知り合いだったんですか?」
受付のおばさんが鋭いツッコミを入れてきた。いやあのその知り合いというほどでも……名前も知らないし……。
「はい! あ、おれのスマホだ。代わりに取りに来てくれたんですか?」
にっこにこの笑顔が返ってくる。え、これ、オレ、どう反応したらいいの??
「え、えっと、そ、そうなんだけど……」
「助かりました! ああ良かった~」
一気に場が明るくなる。こっ……この子、コミュ力高いな。もしかして陽キャ? じゃあ、なんで昨日あんな目に遭ってたんだろ? いじめられるタイプには見えないぞ。混乱しまくったオレがその場で固まる中、受付のおばちゃんが驚き顔で少年に問いただした。
「じゃあ、この落とし物はあなたの?」
「はい、おれのです! 手錠は兄ちゃんから頼まれてたやつで……」
「あらあら。それじゃあ、学生証か何か見せてもらえる? あと、受領書の受取人のところに名前と住所を書いてほしいんだけど」
「わかりました」
てきぱき、はきはき、という感じでスマホと手錠の返還手続きが進む。まあ、窃盗の現行犯で通報されなかっただけマシか……ふう、きわどかった。
そう言いながら、受付のおばさんがビニール袋を持ってきた。袋には昨日の日付が油性ペンで書かれており、中には液晶に派手なヒビが入ったスマホと、おもちゃの手錠が入っている……。
「こちらになります。両方ともお客様の所有物ということで宜しいでしょうか?」
「……ええっと……」
毒を食らわば皿まで、と心の中で呟きながら頷いた。恐らくオレの顔は引きつっているだろう。灯台の職員たちの間で、どんな変態かと嘲笑されているような気がする。だがしかし、今は耐えねばならない。こらえろオレ! こんな灯台、二度と来なければいいんだ!! 旅の恥はかき捨てだ!!
できるだけ表情が顔に出ないよう心がけていると、受付のおばさんはデスクから書類を取り出してきて、オレの目の前に広げた。そして淡々とした口調で、
「それでは、恐れ入りますがお客様の身分証明書をご提示頂けますか?」
「へ? 身分証明書?」
「はい。運転免許証か何かございましたらお願いします。あと、こちらの受領書に名前と住所と電話番号をご記入下さい」
「……」
どうしよう。この事態は想定していなかった。でもよく考えればそうだよな。本人確認せずにスマホなんて渡せないよな。うーん……マズいな。出直すか。「財布を車に忘れてきた」とか言ってこの場を離れた方が良さそう……。
脂汗を垂らしながら、どうすれば自然に撤退できるか考えていたところ、
「あっ! いた! よかったああっ!!」
天の助けと言おうか、あの少年が駆け寄ってきた。
「昨日は本当にありがとうございました!」
はつらつとした声に満面の笑顔でお辞儀される。ほっ。例の一件がトラウマになってないみたいだ……って、ちょっと待って! いまオレが君のスマホを灯台の受付から盗もうとしているのがバレる!!
「あら、お知り合いだったんですか?」
受付のおばさんが鋭いツッコミを入れてきた。いやあのその知り合いというほどでも……名前も知らないし……。
「はい! あ、おれのスマホだ。代わりに取りに来てくれたんですか?」
にっこにこの笑顔が返ってくる。え、これ、オレ、どう反応したらいいの??
「え、えっと、そ、そうなんだけど……」
「助かりました! ああ良かった~」
一気に場が明るくなる。こっ……この子、コミュ力高いな。もしかして陽キャ? じゃあ、なんで昨日あんな目に遭ってたんだろ? いじめられるタイプには見えないぞ。混乱しまくったオレがその場で固まる中、受付のおばちゃんが驚き顔で少年に問いただした。
「じゃあ、この落とし物はあなたの?」
「はい、おれのです! 手錠は兄ちゃんから頼まれてたやつで……」
「あらあら。それじゃあ、学生証か何か見せてもらえる? あと、受領書の受取人のところに名前と住所を書いてほしいんだけど」
「わかりました」
てきぱき、はきはき、という感じでスマホと手錠の返還手続きが進む。まあ、窃盗の現行犯で通報されなかっただけマシか……ふう、きわどかった。
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