28 / 62
第二話 灯台でうっかり死にかかったら助けてもらった話
§13 - 午後七時半
しおりを挟む
ギリギリ電車に間に合って、座席に腰を下ろした直後に発車した。着ているコートのファスナーを上げ、ふうと一息つく。ゴトンゴトンと揺れるうちに身体が温まり、いつのまにか熟睡していたらしい。目を覚ました時には降りる駅の直前だったのでヒヤヒヤした。
(ああ良かった……家に帰れる)
駐輪場へ行って自転車に乗る。なんかスッキリした気分だったので、鼻歌を歌いながら立ち漕ぎして家に向かった。
■ ■ ■
自宅の車庫に自転車を入れていたら、隣接する浴室からザバーンと音が聞こえた。誰か風呂に入ってる。父ちゃんかな? 駆け足で玄関へ向かい、ドアを開ける前にいちど深呼吸する。みんなに「心配かけてごめん」って謝らないと……。
「ただいま」
恐る恐るドアを開けると、すぐにゴン兄がドタドタと足音を立てて現れた。
「遅いよ皐月! 待ってたんだぜ?!」
「え、待ってた?」
「おうよ。ドンキで手錠買ったんだろ? 早く出せや」
金髪モヒカンの頭を左右に揺らしながら、ゴン兄がニコニコ笑顔で両手を差し出している。すると台所から母ちゃんの怒った声が響き渡った。
「権三! あんた弟になんて買い物させてんの!」
「これからマリアヤとコスプレ同伴なんだよ。ミニスカポリスと犯人役で」
「は? 夕ごはんどうするの? もう作っちゃったわよ」
「食ってから行くって。あの店、メシまずいし」
あまりにも普段通りの日常で、一瞬びびった。あれ、誰もおれのこと心配してないの? 目を白黒させながら靴を脱いでいたら、ゴン兄がヒューと口笛を吹いた。
「お、皐月、いいの着てるじゃん」
おれをジロジロ見ながらそう言った。いつの間にか母ちゃんまで来ていて、
「あら、本当。どこで買ったの?」
ずいぶん高そうなモッズコートねえ、と目を丸くした。
(二人とも何の話をしてるんだ? モッズコート? 高そう??)
ゆっくりと左右に首を回す。部屋着のスウェット姿のゴン兄と、セーターとズボンにエプロンの母ちゃん。ってことは、モッズコートを着ているのは…………おそるおそる視線を腕に向ける。おれの服じゃない。何気なく袖を触る。さらさらした手触りの布地。どこかで覚えがあるような……。
(こっ……これは、あのイケメンお兄さんが着ていた……)
灯台で助けてもらった時に、おれに被せてくれたコートだ!! 頭から血の気が引くのと同時に、子供時代の記憶が蘇る。近所の女の子たちと集団下校中に、気付いたら歩道の点字シートを持って歩いていた時の……。
——さつきくん、何もってるの~?
——え? なにって?
——手に持ってる黄色いの、どこから取ってきたの?
——え? あれ?? どうして持ってるんだろう!?
やっちまった!!!
おれ、もしかして、灯台で低体温症になって死にかかってたところを助けてくれた命の恩人でイケメンのお兄さんに勃起ちんこをフェラさせた上に交通費として一万円もらったあげく高そうなコートを盗んで帰ったことになるのか??
よく考えたら、スマホも灯台に落としたままだし、手錠も柵にひっかけたままかも。
そっ、それに、おれ、お兄さんの名前も連絡先も知らない。
あんなにかっこよくて優しくて一目惚れしたかもしれない人なのに……。
どうしよう……どうしたらいいんだ……。
(ああ良かった……家に帰れる)
駐輪場へ行って自転車に乗る。なんかスッキリした気分だったので、鼻歌を歌いながら立ち漕ぎして家に向かった。
■ ■ ■
自宅の車庫に自転車を入れていたら、隣接する浴室からザバーンと音が聞こえた。誰か風呂に入ってる。父ちゃんかな? 駆け足で玄関へ向かい、ドアを開ける前にいちど深呼吸する。みんなに「心配かけてごめん」って謝らないと……。
「ただいま」
恐る恐るドアを開けると、すぐにゴン兄がドタドタと足音を立てて現れた。
「遅いよ皐月! 待ってたんだぜ?!」
「え、待ってた?」
「おうよ。ドンキで手錠買ったんだろ? 早く出せや」
金髪モヒカンの頭を左右に揺らしながら、ゴン兄がニコニコ笑顔で両手を差し出している。すると台所から母ちゃんの怒った声が響き渡った。
「権三! あんた弟になんて買い物させてんの!」
「これからマリアヤとコスプレ同伴なんだよ。ミニスカポリスと犯人役で」
「は? 夕ごはんどうするの? もう作っちゃったわよ」
「食ってから行くって。あの店、メシまずいし」
あまりにも普段通りの日常で、一瞬びびった。あれ、誰もおれのこと心配してないの? 目を白黒させながら靴を脱いでいたら、ゴン兄がヒューと口笛を吹いた。
「お、皐月、いいの着てるじゃん」
おれをジロジロ見ながらそう言った。いつの間にか母ちゃんまで来ていて、
「あら、本当。どこで買ったの?」
ずいぶん高そうなモッズコートねえ、と目を丸くした。
(二人とも何の話をしてるんだ? モッズコート? 高そう??)
ゆっくりと左右に首を回す。部屋着のスウェット姿のゴン兄と、セーターとズボンにエプロンの母ちゃん。ってことは、モッズコートを着ているのは…………おそるおそる視線を腕に向ける。おれの服じゃない。何気なく袖を触る。さらさらした手触りの布地。どこかで覚えがあるような……。
(こっ……これは、あのイケメンお兄さんが着ていた……)
灯台で助けてもらった時に、おれに被せてくれたコートだ!! 頭から血の気が引くのと同時に、子供時代の記憶が蘇る。近所の女の子たちと集団下校中に、気付いたら歩道の点字シートを持って歩いていた時の……。
——さつきくん、何もってるの~?
——え? なにって?
——手に持ってる黄色いの、どこから取ってきたの?
——え? あれ?? どうして持ってるんだろう!?
やっちまった!!!
おれ、もしかして、灯台で低体温症になって死にかかってたところを助けてくれた命の恩人でイケメンのお兄さんに勃起ちんこをフェラさせた上に交通費として一万円もらったあげく高そうなコートを盗んで帰ったことになるのか??
よく考えたら、スマホも灯台に落としたままだし、手錠も柵にひっかけたままかも。
そっ、それに、おれ、お兄さんの名前も連絡先も知らない。
あんなにかっこよくて優しくて一目惚れしたかもしれない人なのに……。
どうしよう……どうしたらいいんだ……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる