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第二話 灯台でうっかり死にかかったら助けてもらった話
§7 - 午後三時二十分(その二)
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しばらく泣き叫んだ後、ようやく心が落ち着きを取り戻してきた。それもそのはず。
「寒い……」
気づけば海からの風が強くなっていた。しかも雪が舞っている。日中はパーカーでちょうど良かったのに、どんどん体温が奪われる。
(そろそろ家に帰らないと。母ちゃんが早く帰って来そうだし)
パーカーの腹にあるポケットに右手を突っ込み、手錠のパッケージを取り出した。折り曲がった透明プラスチックケースの間に鍵と説明書が挟み込まれている。この鍵を使って手錠を外せば……ところが、寒さで手がかじかみ、なかなか開けられない。
「え、あれ? 開かないや。どうしよう?」
両手の自由が効く時は容易い作業が、片手だけでは難しい。ようやくケースを開くことができた直後、小さな鍵が下に落ちた。
「わっ! ダメだってば!!」
カチーンという擬音が脳内で再現される。しかし、実際は音もなく鍵が転がった。自分の足元から少し離れた場所。展望台ドアの方向に。
(手を伸ばせば取れるかな?)
エイッと右手を伸ばす。届かない。その時、運の悪いことに下から強風が吹き上げた。
「うわっつ!!」
風から顔を守るように身体をひねったところ、左手の力が抜けた。転瞬、持っていたパッケージが空を舞い、海へ向かって飛んでいく。
「……どうしよう……」
鉛色の空はどんどん重く垂れ込め、目の前は荒れ狂った海。寒さで身体が震え出す。あれ? 飛び降りなくて済んだけど凍死しそう。
(そうだ、ゴン兄に電話して迎えに来てもらおう!!)
わりと自由がきく職場で働いている兄ならば、きっとすぐに来てくれるはず……震える右手でデニムのカーゴパンツの左太腿にあるポケットを漁る。いつもスマホを入れている場所だ。しかし、手がかじかんでいて上手く動かない。腰をひねって腕を伸ばして、ようやく取り出せたと思いきや。
「あああああーーーっつ!!!」
ガッチャーーーン!!!
時が止まった。スローモーションで見えた。手からスマホが落ちて、靴の先にぶつかり、コンクリート製の通路に転がったのだ。しかも、鍵とは正反対の位置。そして、手を伸ばしても到底届かないであろう距離に。
(ヤバい……)
雨雪まじりの冷たい風が吹き付ける。全身から血の気が引いているのは寒さのせいか、それとも最悪の事態を招いたからか。
「寒い……」
気づけば海からの風が強くなっていた。しかも雪が舞っている。日中はパーカーでちょうど良かったのに、どんどん体温が奪われる。
(そろそろ家に帰らないと。母ちゃんが早く帰って来そうだし)
パーカーの腹にあるポケットに右手を突っ込み、手錠のパッケージを取り出した。折り曲がった透明プラスチックケースの間に鍵と説明書が挟み込まれている。この鍵を使って手錠を外せば……ところが、寒さで手がかじかみ、なかなか開けられない。
「え、あれ? 開かないや。どうしよう?」
両手の自由が効く時は容易い作業が、片手だけでは難しい。ようやくケースを開くことができた直後、小さな鍵が下に落ちた。
「わっ! ダメだってば!!」
カチーンという擬音が脳内で再現される。しかし、実際は音もなく鍵が転がった。自分の足元から少し離れた場所。展望台ドアの方向に。
(手を伸ばせば取れるかな?)
エイッと右手を伸ばす。届かない。その時、運の悪いことに下から強風が吹き上げた。
「うわっつ!!」
風から顔を守るように身体をひねったところ、左手の力が抜けた。転瞬、持っていたパッケージが空を舞い、海へ向かって飛んでいく。
「……どうしよう……」
鉛色の空はどんどん重く垂れ込め、目の前は荒れ狂った海。寒さで身体が震え出す。あれ? 飛び降りなくて済んだけど凍死しそう。
(そうだ、ゴン兄に電話して迎えに来てもらおう!!)
わりと自由がきく職場で働いている兄ならば、きっとすぐに来てくれるはず……震える右手でデニムのカーゴパンツの左太腿にあるポケットを漁る。いつもスマホを入れている場所だ。しかし、手がかじかんでいて上手く動かない。腰をひねって腕を伸ばして、ようやく取り出せたと思いきや。
「あああああーーーっつ!!!」
ガッチャーーーン!!!
時が止まった。スローモーションで見えた。手からスマホが落ちて、靴の先にぶつかり、コンクリート製の通路に転がったのだ。しかも、鍵とは正反対の位置。そして、手を伸ばしても到底届かないであろう距離に。
(ヤバい……)
雨雪まじりの冷たい風が吹き付ける。全身から血の気が引いているのは寒さのせいか、それとも最悪の事態を招いたからか。
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