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第一話 灯台でうっかり死にかかっている人を助ける話
§4 - 午後三時二十分
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ようやく着いた灯台の駐車場はガランとしていた。さすがにオフシーズン且つ夕方に差し掛かった頃なので、観光客も帰ったのだろう。
「うわっ! 寒っつ!!」
外へ出ると冷たい海風が吹き付けてきた。気づけば上空にはどんよりした雲が立ち込め、気温もどんどん下がり、ちらほらと雪が舞いつつある。
慌てて後部座席のドアを開け、念の為に持ってきたモッズコートを手に取り羽織る。ちょっと肩がキツいし袖が短いけれど、無いよりはマシだ。備えあれば憂いなし。
車に鍵をかけながら、目の前にそびえる白亜の灯台を見上げたところ。
「おお……意外と高い……」
定食屋のおばちゃんは、中に階段があって展望台まで登れるという話をしていたよな。
「よっしゃ、いっちょ登ったるか」
周辺に人がいないのを良いことに、独り言もためらわない。もしかして、人はこうしてお一人様への道まっしぐらになるのだろうか。
■ ■ ■
「四時で参観終了です。あと三十分ほどになりますのでご注意下さい」
受付でそう告げられた後、海と灯台の写真が印刷されたチケットを渡された。観光地っぽくって少し感激する。大学時代は部活かバイトか研究室に籠りっぱなしで、社会人になってからは会社と家の往復だけの生活なので、最後に観光地へ行ったのは何年前だろうか? もう思い出せない。
(うおおお……脚が攣りそう)
併設の資料館をざっと回ってから灯台の中へ入ったところ、かなり急な螺旋階段だった。ヒーヒー言って登りつつ、筋力の衰えを自覚する。これでも高校時代はバスケットボールのスポーツ特待生、大学でも遊び半分とはいえバスケ部で、それなりに運動をしてきたつもりだったが……月日の流れが容赦なさすぎる。というより運動不足が祟っているんだ。今度からエレベーター使うの止めよう。
最後はハシゴみたいな階段をよじ登り、展望台へのドアを開けたところ、ビュウッと強い風が吹き付けて髪がぐしゃぐしゃになった。ああ、コンタクトじゃなく眼鏡で来て良かった……と、ほっとしたちょうどその時。
「たっ……助けて……下さい……」
苦しそうにかすれた男の声が耳に入った。幻聴?
「こっちです……手が……外せなくて」
また聞こえてきた。何? どういうこと? なんとなくだが、若者っぽい感じ。左方向から聞こえた気がしたので、展望台の狭い通路をおずおず歩くと、
「すっ、すみませんっ! 助けて下さい!!」
胸の高さまである転落防止柵に手錠で繋がれている、十代と思しき少年がいた。
「うわっ! 寒っつ!!」
外へ出ると冷たい海風が吹き付けてきた。気づけば上空にはどんよりした雲が立ち込め、気温もどんどん下がり、ちらほらと雪が舞いつつある。
慌てて後部座席のドアを開け、念の為に持ってきたモッズコートを手に取り羽織る。ちょっと肩がキツいし袖が短いけれど、無いよりはマシだ。備えあれば憂いなし。
車に鍵をかけながら、目の前にそびえる白亜の灯台を見上げたところ。
「おお……意外と高い……」
定食屋のおばちゃんは、中に階段があって展望台まで登れるという話をしていたよな。
「よっしゃ、いっちょ登ったるか」
周辺に人がいないのを良いことに、独り言もためらわない。もしかして、人はこうしてお一人様への道まっしぐらになるのだろうか。
■ ■ ■
「四時で参観終了です。あと三十分ほどになりますのでご注意下さい」
受付でそう告げられた後、海と灯台の写真が印刷されたチケットを渡された。観光地っぽくって少し感激する。大学時代は部活かバイトか研究室に籠りっぱなしで、社会人になってからは会社と家の往復だけの生活なので、最後に観光地へ行ったのは何年前だろうか? もう思い出せない。
(うおおお……脚が攣りそう)
併設の資料館をざっと回ってから灯台の中へ入ったところ、かなり急な螺旋階段だった。ヒーヒー言って登りつつ、筋力の衰えを自覚する。これでも高校時代はバスケットボールのスポーツ特待生、大学でも遊び半分とはいえバスケ部で、それなりに運動をしてきたつもりだったが……月日の流れが容赦なさすぎる。というより運動不足が祟っているんだ。今度からエレベーター使うの止めよう。
最後はハシゴみたいな階段をよじ登り、展望台へのドアを開けたところ、ビュウッと強い風が吹き付けて髪がぐしゃぐしゃになった。ああ、コンタクトじゃなく眼鏡で来て良かった……と、ほっとしたちょうどその時。
「たっ……助けて……下さい……」
苦しそうにかすれた男の声が耳に入った。幻聴?
「こっちです……手が……外せなくて」
また聞こえてきた。何? どういうこと? なんとなくだが、若者っぽい感じ。左方向から聞こえた気がしたので、展望台の狭い通路をおずおず歩くと、
「すっ、すみませんっ! 助けて下さい!!」
胸の高さまである転落防止柵に手錠で繋がれている、十代と思しき少年がいた。
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