上 下
80 / 99
第二部 学校編

6.

しおりを挟む
 逃げるコマンドを選択したけれど、現実は逃げられるわけがないのだ。
 マドカと目が合うと、またあんたなの、って顔をされる。

 マドカのうしろにはまつげバサバサ女子もいて、申し訳なさそうに頭を下げられた。

「――なにか用?」

 小山田くんの声はかたい。

 岩崎くんと甲斐くんも、マドカを見て眉をひそめている。
 マドカのかわいらしい外見にまどわされない友人たちで、ぼくはうれしいよ。

「なあ、上野。あの子だれ?」
「小山田くんのファン」
「それにしちゃあ、ずいぶんとピリピリしてるじゃないか」
「えと、ちょっといろいろあって……」

 甲斐くんの冷静な瞳がぼくを見下ろした。

「原因は上野か」
「う」

 ぼくは言葉に詰まった。甲斐くんて、するどいんだよね。

 マドカはニブいのか、それともわざと無視をしているのか、不機嫌そうな小山田くんにもとびきりの笑顔を向けた。

「この間、差し入れしたお弁当の感想が聞きたくて」

 そういえばお弁当の存在、頭から抜け落ちてた。
 ホテルを出たのは明け方だったから、丸1日放置していたことになる。小山田くん、まさか食べてないよね?

「悪い。痛んでたから、食べなかったんだ」
「そうなんだ。じゃあ、また作って来たら食べてくれる?」
「いや、悪いけどそういうのは全部断ってるから」
「この間は受け取ってくれたじゃない」
「あれは、あんたがカズを盾にしたからだろ?」

 マドカが憎らしげにぼくを見た。

 視線を避けるようにして岩崎くんのほうに顔を向けると、よしよし、と頭を撫でられた。
 岩崎くん、やさしい!

「ずいぶんめんどうなのに、からまれちまったな」
「向こうが勝手にからんできたんだよ……」

 マドカなんて、ぼくの人生には出演しなかったはずの女子なのに!

「マドカ、もうやめなよ。小山田くんにもその子にも迷惑だよ」

 ――お?

 まつげバサバサ女子がマドカを止めた。

「どうしてよ! マドカの作ったお弁当を食べてって、言ってるだけじゃない!!」
「だから、それが迷惑だってわかんないの?」
「わかんないよ! 迷惑だなんて、言われたことないもの!」
「気をつかわれてるのに、いいかげん気が付きなよ。ほら、行こう」
「いやっ! マドカはここにいる!!」

 わーやーめーてー!! あんまり騒がしくされると――。

「……るせえ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

市川先生の大人の補習授業

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:603

もう少し、そこで待っていな。

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:7

うまく笑えない君へと捧ぐ

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:493

抱かれたい男1位と同居しています

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:194

幸福の神様

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:16

地味で冴えない俺の最高なポディション。

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:1,869

異世界勘違い日和

BL / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:3,148

【完結】金曜日の秘め事マッサージ。

BL / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:1,111

僕は社長の奴隷秘書♡

BL / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:715

処理中です...