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第二部 学校編

3.

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 岩崎くんが背中を叩くと、甲斐くんがのっそりと起きあがった。
 甲斐かい将臣まさおみくんはラグビー部だ。小山田くんとおなじくらいの背丈で、肩幅ががっちりしているので、大きく見える。

 甲斐くんの瞳がうろうろとしてたけど、ここが教室だということに気がついたらしい。

「甲斐くん、おはよー。久しぶり」
「あー、上野か。相変わらずちみっこいな。メシ、ちゃんと食ってんのか?」
「食べてるよ!」

 ちみっこいって! ぼくは高校一年生男子の平均身長だよ!?

「なに言ってんだよ、甲斐。上野はちっこいから、かわいいんじゃねえか」
「ぼくよりも背の低い岩崎くんには、言われたくないんだけど」
「へへーん、残念でした。オレはこの夏に5センチ、伸びたもんねー」
「えっ!?」

 ウソだ!!
 岩崎くんに視線を合わせれば、わずかに目線の位置が高くなったような……。

 うわあん、ショックー!! あと、すぐ目の前の岩崎くんのドヤ顏、ウザいよー!!

「おまえら、近い」

 小山田くんに引き離されたぼくは、ぼくの机に突っ伏した。

「ぼくがいちばんチビ……」

 今まで列に並ぶときは、岩崎くんがいちばんまえだったのに、これからはぼくがいちばんまえ。

「なーに、まだ成長期だろ。適度に運動すれば、まだまだ伸びるって。上野、ラグビー部に入れよ。歓迎するぞ」
「野球部にしろ! オレといっしょに甲子園目指そうぜ!」
「あ、カズのことは俺がめんどうみるから、おまえらはいいよ」
「小山田の保護者ヅラ、ウゼエ!!」

 あれれ? なんかべつの意味で、モテ期に突入してない?

「みんなありがとう。でも、ぼくは家でのんびりしているほうがいい」
「一生チビでいろ!!」

 ――岩崎くん、ヒドイ。


 始業のチャイムとともに、担任の酒井先生が入ってくると教室が静まり返る。こういうところ、よく訓練されてるなあって思う。

「クラス全員で二学期が迎えられて、先生はうれしい。ところで、今日は試験をするんだったな? ちゃんと復習はしてきたか?」

 はーい、と返事があがる。それに混じって、やべえっ! と声をあげたのは岩崎くんだ。
 酒井さかい先生は苦笑をしながら、プリントを配り始めた。

「上野は復習、やってきたのか?」

 こっそりたずねてくる岩崎くんにうなずいてやったら、裏切り者め……と呟かれた。
 いやいやいや、ぼくは悪くないでしょ?
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