カラダだけが目当てなの！？

夏休み編

同情なんかじゃナイ・・・

「このたびは息子がお世話になりまして」

　口元のほくろが色っぽい和服美人が、ぼくに向かって深々と頭を下げた。

「いえ、そんな。ぼ、ぼくこそいつも、桜くんにはお世話になって……」

　へどもどしながら返事をすれば、微笑まれて心臓が跳ねる。
　小山田くん、お母さん似なんだね。笑った顔がそっくりだよ。

「夕餉の用意をさせますので、店のほうに来てくださいな」
「いえ、いいです！　家でも夕飯の用意をしていると思うし」

　ぼくは全力で遠慮した。

　料亭『小山田』と言えば、高級食材を使った懐石料理が有名だ。

　かなり前に、母さんがキィちゃんママといっしょに食事に行って、『小山田』の懐石は、一度は味わったほうがいい！　と力説してた。

　でも、お高いんでしょう？　って突っ込んだら、お父さんにはナイショよ？　ってすごみのある笑顔でお願いをしてきた。

　千●屋のパフェはとても美味しかったです！！

　と、とにかくそんな素晴らしい料理は、たった16年しか生きてないヒヨッコなぼくには、まだまだハードルが高すぎるわけで。
　食べたって味の善し悪しなんて、わかんないからね？

「食べて行けよ。おばさんには、連絡しておけばいいだろ？」

　思わず小山田くんのほうを見てしまう。

「でも……」
「母さん、夕飯はこっちに用意してくれる？　店のほうには、さすがに行きづらい」
「あ、そうね。上野くん、気が付かずにごめんなさいね」
「いえ」

　結局、夕飯をごちそうしていただくことになってしまった。
　
　小山田家の食卓で、豪華な懐石料理をいただいたあとは、小山田くんの部屋に移動する。

「お礼とか、いらないのに」
　
　小山田くんは大事な友だちだし、助けてやりたいと思うのは当然のことだし。

「カズって、お人好しだよな」
「え、そう？」

　わりと打算的なほうだと思うけど。

「４月頃にさ、駅前でバスを待っているときに、タバコ吸ってたサラリーマンに注意してただろ？」
「妊婦さんも並んでたんだよ。それに、注意じゃなくてお願い」
「おなじだろ。そういうのさ、ふつうは見て見ぬ振りするだろ？　なんかあったらめんどうだし」
「たまたま近くにいたからだよ」

　そう言ったら、はあっと大きなため息を吐かれた。

「――カズって、見た目詐欺だよな」

　どうせ見た目平凡ですよ！！