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本編
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◆
サロンで紅茶をたしなみながら考えるのは、ついに学園に姿を現したヒロインのこと。
ヒロインは、恐るべしヒロイン力でもって攻略対象者たちを次々と攻略していた。
「___どうしたんだ?」
「きゃあ!」
いきなり、わたくしの眼前にアルバート殿下が顔を見せた。
思わず持っていた扇でぴしゃりと頬を打つ。
「お、ま、え、なあああ~?」
「だ、だって驚いたんですもの。ごめんなさい」
いくらぼんやりしていたとは言え、扇で打ったのはさすがに悪かったわ。赤くなっている殿下の頬を手でさすってあげたら、乱暴に振り払われる。
「やめろ!」
「そんなにいやがらなくてもいいじゃない」
「そうじゃない。気安く男に触れるなど……」
「わたくし、殿下にしか触れませんけれど」
とたんに苦虫を噛みつぶしたような顔をされた。
小悪魔め……なんてぶつぶつ言ってるけれど、わたくし小悪魔じゃないわ、ただの悪役令嬢よ。
「ゼノヴィア、なにか悩み事か?」
わたくしの席の正面に、アルバートが腰を下ろした。
「どうしてそう思うんですの?」
「眉間にしわを寄せていただろうが」
「あら、いやだわ」
クセがついたら大変だわ。わたくしはこわばっていた眉間を指でもみほぐす。
「悩み事があるんなら相談に乗るぞ?」
「バート」
たずねてもいいのかしら? ヒロインとはどこまで進んでいるの? って___。
「あっ、アルバート殿下! 探していたんです!!」
紳士淑女の交流の場がざわりとする。
バートと同時にサロンの入口へと視線を向ければ、複数の男子を従えた薄桃色の髪をした女子が見えた。
___出たわね、ヒロイン!!
わたくしはソファから腰を上げ、口の前に扇をばっと広げた。
「あらあら、品のないこと。ここは動物園じゃなくてよ?」
「ぜ、ゼノヴィア様……!」
「まわりに男子を侍らせて、発情期のメスザルのようね。ああ、サルだもの。人間の常識が通じないのは当然でしたわよね? メスザルさん、ごめんなさいね?」
「わたし、ゼノヴィア様に人間と認めてもらえるよう頑張ります!」
そう言って小犬のような表情でわたくしを見つめるヒロイン。かわいらしさでは、わたくしの犬には遠く及ばないわね。
わたくしの周囲から、くすくすと嘲笑が聞こえる。
おそらく、中にはヒロインが侍らせている攻略対象者たちの婚約者もいるのでしょうね。
「おい、ヴィア。そのへんでやめてやれ」
アルバートを見下ろすと困った表情をしていた。
思わずむっとする。
「なあに? バートはこの娘をかばうんですの?」
「いろいろ面倒だろうが」
「あっ、そういう……」
頬を染めてわたくしを見つめるヒロインを、やたらちやほやしている攻略対象者たち。第二王子の婚約者でもあるわたくしを睨みつける者までいる。
たしかに、面倒だし不愉快ね。
「アルバート殿下は、とってもおやさしいのですね。でもわたしは強い子なので、このくらいへっちゃらです。ゼノヴィア様、ごめんなさい。わたしに悪いところがあったら直しますので、いくらでも言ってくださ……きゃあっ!?」
思わずヒロインの顔面めがけて扇を投げつけてしまった。
「ヴィア!! なにをやっているんだ!?」
「だって、なんか気持ち悪い」
「気持ち悪いって……」
自分がプレイしていたときは、あからさまなイジワルにもめげないヒロインに好感が持てたけど、客観的に見てみると心広すぎて、頭おかしいレベルよ。
ていうか、台本でも読むみたいにセリフが棒読みなんだけれど……。
わたくしを馬鹿にしているの?
「おい、娘。ゼノヴィアが悪かったな。ヴィア、おまえも謝れ」
「まっぴらごめんだわ」
「ヴィア、おまえな……」
「いいえ、殿下。わたしがゼノヴィア様の気に触るような真似をしてしまったのがいけないんです」
おい、ヒロイン。なぜ、わたくしの投げつけた扇を手に持って頬ずりしているの? 引くんですけどぉ。
「ゼノヴィア様、ぜひわたしとお友だちになってください」
「はあ?」
この娘、なにを言ってるのかしら?
わたくしたちはアルバート殿下を争う敵同士。そんなこと出来るわけないでしょう?
「あなたとなんて、心からお断りよっ!」
「はああんっ、ゼノヴィア様ぁ!!」
わたくしはどうにも気持ち悪いヒロインから後ずさり、足早にサロンを去った。逃げたわけじゃなくてよ!!
「ヴィア!」
アルバートがわたくしを追ってきた。
ということは、ヒロインにはまだ心を奪われていないようね。よしよし。
「いつものおまえらしくないぞ」
「バートはあの娘と仲がよろしいの?」
「ん?」
アルバートが首をかしげる。
「最近よく見かけるが、仲がいいと言うほどではないな。名乗りもしないから、どこのだれかも知らんし、知る必要も感じない」
「……あら、まあ」
ヒロインに対するアルバートの印象は、ふつう以下のようだ。
けれども、ヒロインにとってのわたくしは、殿下ルートの#敵__ライバル_#。
ヒロインが殿下を狙っているのなら、わたくしとアルバートの未来は望めない。
サロンで紅茶をたしなみながら考えるのは、ついに学園に姿を現したヒロインのこと。
ヒロインは、恐るべしヒロイン力でもって攻略対象者たちを次々と攻略していた。
「___どうしたんだ?」
「きゃあ!」
いきなり、わたくしの眼前にアルバート殿下が顔を見せた。
思わず持っていた扇でぴしゃりと頬を打つ。
「お、ま、え、なあああ~?」
「だ、だって驚いたんですもの。ごめんなさい」
いくらぼんやりしていたとは言え、扇で打ったのはさすがに悪かったわ。赤くなっている殿下の頬を手でさすってあげたら、乱暴に振り払われる。
「やめろ!」
「そんなにいやがらなくてもいいじゃない」
「そうじゃない。気安く男に触れるなど……」
「わたくし、殿下にしか触れませんけれど」
とたんに苦虫を噛みつぶしたような顔をされた。
小悪魔め……なんてぶつぶつ言ってるけれど、わたくし小悪魔じゃないわ、ただの悪役令嬢よ。
「ゼノヴィア、なにか悩み事か?」
わたくしの席の正面に、アルバートが腰を下ろした。
「どうしてそう思うんですの?」
「眉間にしわを寄せていただろうが」
「あら、いやだわ」
クセがついたら大変だわ。わたくしはこわばっていた眉間を指でもみほぐす。
「悩み事があるんなら相談に乗るぞ?」
「バート」
たずねてもいいのかしら? ヒロインとはどこまで進んでいるの? って___。
「あっ、アルバート殿下! 探していたんです!!」
紳士淑女の交流の場がざわりとする。
バートと同時にサロンの入口へと視線を向ければ、複数の男子を従えた薄桃色の髪をした女子が見えた。
___出たわね、ヒロイン!!
わたくしはソファから腰を上げ、口の前に扇をばっと広げた。
「あらあら、品のないこと。ここは動物園じゃなくてよ?」
「ぜ、ゼノヴィア様……!」
「まわりに男子を侍らせて、発情期のメスザルのようね。ああ、サルだもの。人間の常識が通じないのは当然でしたわよね? メスザルさん、ごめんなさいね?」
「わたし、ゼノヴィア様に人間と認めてもらえるよう頑張ります!」
そう言って小犬のような表情でわたくしを見つめるヒロイン。かわいらしさでは、わたくしの犬には遠く及ばないわね。
わたくしの周囲から、くすくすと嘲笑が聞こえる。
おそらく、中にはヒロインが侍らせている攻略対象者たちの婚約者もいるのでしょうね。
「おい、ヴィア。そのへんでやめてやれ」
アルバートを見下ろすと困った表情をしていた。
思わずむっとする。
「なあに? バートはこの娘をかばうんですの?」
「いろいろ面倒だろうが」
「あっ、そういう……」
頬を染めてわたくしを見つめるヒロインを、やたらちやほやしている攻略対象者たち。第二王子の婚約者でもあるわたくしを睨みつける者までいる。
たしかに、面倒だし不愉快ね。
「アルバート殿下は、とってもおやさしいのですね。でもわたしは強い子なので、このくらいへっちゃらです。ゼノヴィア様、ごめんなさい。わたしに悪いところがあったら直しますので、いくらでも言ってくださ……きゃあっ!?」
思わずヒロインの顔面めがけて扇を投げつけてしまった。
「ヴィア!! なにをやっているんだ!?」
「だって、なんか気持ち悪い」
「気持ち悪いって……」
自分がプレイしていたときは、あからさまなイジワルにもめげないヒロインに好感が持てたけど、客観的に見てみると心広すぎて、頭おかしいレベルよ。
ていうか、台本でも読むみたいにセリフが棒読みなんだけれど……。
わたくしを馬鹿にしているの?
「おい、娘。ゼノヴィアが悪かったな。ヴィア、おまえも謝れ」
「まっぴらごめんだわ」
「ヴィア、おまえな……」
「いいえ、殿下。わたしがゼノヴィア様の気に触るような真似をしてしまったのがいけないんです」
おい、ヒロイン。なぜ、わたくしの投げつけた扇を手に持って頬ずりしているの? 引くんですけどぉ。
「ゼノヴィア様、ぜひわたしとお友だちになってください」
「はあ?」
この娘、なにを言ってるのかしら?
わたくしたちはアルバート殿下を争う敵同士。そんなこと出来るわけないでしょう?
「あなたとなんて、心からお断りよっ!」
「はああんっ、ゼノヴィア様ぁ!!」
わたくしはどうにも気持ち悪いヒロインから後ずさり、足早にサロンを去った。逃げたわけじゃなくてよ!!
「ヴィア!」
アルバートがわたくしを追ってきた。
ということは、ヒロインにはまだ心を奪われていないようね。よしよし。
「いつものおまえらしくないぞ」
「バートはあの娘と仲がよろしいの?」
「ん?」
アルバートが首をかしげる。
「最近よく見かけるが、仲がいいと言うほどではないな。名乗りもしないから、どこのだれかも知らんし、知る必要も感じない」
「……あら、まあ」
ヒロインに対するアルバートの印象は、ふつう以下のようだ。
けれども、ヒロインにとってのわたくしは、殿下ルートの#敵__ライバル_#。
ヒロインが殿下を狙っているのなら、わたくしとアルバートの未来は望めない。
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