アラフィフΩは檻の中

きみいち

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アラサーαは囲いたい

1.

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 ブラフォード伯爵家の女帝――レディ・イザベルはα体だ。

 夫である男性体のΩとの間に7人の子をもうけ、そのすべてが優秀なα体である。

 その長子たるリチャードの祖父の子も5人。すべてがα体だ。
 子だくさんで優秀なα体を多く輩出するブラフォード家は、英国内においてその地位はもはや盤石であった。

 そんなわけで、イザベルのひ孫で5人兄弟の末っ子であったリチャード少年は、いつもどこかのんびりとしていた。

 長兄のように、爵位を継ぐわけでもない。長女のように淑女教育を受けるわけでもない。唯一のΩ体である次女は、生まれた瞬間から嫁ぎ先が決まっていて、リチャードのすぐ上には、長兄のスペアである次兄もいる。

 ブラフォード伯爵家は、末っ子をとにかく甘やかした。

 日がな1日をぶらぶらと好きなことをして過ごし、空想にふけるリチャード少年が、自ら物語を生み出すまでに至るのは早かった。
 13で出版した処女作が、カーネギー賞を獲った。

「あなただけのΩを見つけなさいな」

 曾祖母であるレディ・イザベルが告げるのを、リチャード少年はどこか他人事のように聞いていた。

「運命の番って、どうしたらわかるんです?」

 曾祖母にたずねると、会えばわかるとにっこり笑う。

 ――わからないからたずねているのに。

 仕事柄、たくさんの人間に会ってきた。
 これは、と思う人間はたしかにいたけれど、いまひとつ決定打に欠ける。なにより、リチャードの心を動かすような相手がいない。

 αは番を持つのが早い。
 それと言うのも、Ωの発情期が10代半ばで始まるからだ。

 20歳になっても、運命の相手とやらが見つからないのは――、

「俺の運命は死んでいる」
「やめてよ、ディック。縁起でもない」

 我が子をあやす里帰り中の次女に向かって呟くと、指で額をビシリと弾かれた。

 痛みで熱を持った額をさすりながら、リチャードは幼子のようにむっとして見せる。

 自由きままな末っ子を本気で相手にしてくれるのは、子どもといっしょに里帰りをしている次女くらいだ。

「これだけ探しても見つからないんだ。おかしいだろ?」
「全然おかしかないわね。運命が身近にいるだなんて、だれが言ったの?」
「兄さんたちにも姉さんたちにも、ちゃんとステキな番がいるじゃないか」
「妥協したのよ、お馬鹿さん。あんたは自由なんだから、それこそ世界中から探すべきよ」

 今度は頬をきゅっとつねられた。
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