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アラフィフΩは檻の中
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コンシェルジュから連絡を受けた。
『佐倉様。ブラフォード様がお見えです』
「うわあ、マジでかー……」
マジだった。玄関を開けたら、大きなバラの花束を抱えたご本人様が立っていた。
――生のリチャード=ブラフォード!!
この8年、会話でしか親交のなかった友人が目の前にいる。
眼前に花束を突き出された。慌てて受け取ってはみたものの、困惑してしまう。ひとり住まいの男の家に、花瓶なんて存在するわけがない。というか、なんでバラ?
しかし、なんだかガン見されている気がする。部屋中の掃除をしたあとはシャワーも浴びたし、出来るかぎり身なりを整えた。どこにもおかしいところはないはずだけれど……?
そろりと、頭の半分ほど背が高い男をうかがうと、圧倒的な存在感を放つ友の秀麗な眉がかすかに寄せられた。
「おい、ドアスコープで姿を確認するくらいしろ」
「大丈夫だろ。ここに越してから、たずねて来たのはリックが初めてだし」
そもそも、伊織の住む部屋は最上階だ。用事のある人間しか登ってこないはず。そういう部屋に住まわせているのは他でもない。オマエじゃないか。
「なんで来たんだ?」
「自家用ジェットぐらい、だれでも持ってるだろう?」
「だれでも持ってねえよ……って、そっちの意味じゃないんだけど」
いつも壁に貼った動かない彼としか向き合ったことがないので、そわそわきょどきょど挙動不審気味になった。視線はどこに向ければいいんだ? あっ、なんだかお高そうなネクタイですねえ! ブランドとか知らんけども……。
「おい、中に入れてくれ」
「あ、悪い」
伊織は慌てて、友を部屋に招き入れる。客用スリッパなどはなかったので、伊織の履いているスリッパを貸そうとしたら、不要だと断られた。
そういえば、織田信長は部下のふところで温めてもらった草履を履いたんだよ、と世間話のように言うと、俺のまえでほかの男の名前を出すな、と叱られた。なんなの、この俺様。世間話も許さないの?
靴下で玄関を上がったリチャードがまっすぐ向かったのはベッドルームだった。
伊織は思わず、ぎゃあ、と悲鳴をあげた。
「リック! そっちはベッドルームだ!!」
「問題ない」
「いや、あるだろ!!」
友がネクタイをゆるめながら、不機嫌そうに伊織を振り返った。
コイツ、眉をしかめる顔もイケメンだな。アルカイックスマイルしか知らなかったけれど、友は思いのほか表情豊かな男だった。
「おまえがαを紹介しろと言ったんじゃないか」
「えっ、紹介してくれんの? だれ?」
「俺だ」
「おまえなのかよ!!」
伊織は早起きして必死で磨き上げた廊下にひざを付くと、床をばんっと叩いた。死のうと決めたのに、友人が相手なら生きるしかない。
「俺じゃあ、不服か? だが悪いな。替えはなしだ」
「か、替えなんて……」
――リチャードの代わりなんて、だれにもなれない。
『佐倉様。ブラフォード様がお見えです』
「うわあ、マジでかー……」
マジだった。玄関を開けたら、大きなバラの花束を抱えたご本人様が立っていた。
――生のリチャード=ブラフォード!!
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眼前に花束を突き出された。慌てて受け取ってはみたものの、困惑してしまう。ひとり住まいの男の家に、花瓶なんて存在するわけがない。というか、なんでバラ?
しかし、なんだかガン見されている気がする。部屋中の掃除をしたあとはシャワーも浴びたし、出来るかぎり身なりを整えた。どこにもおかしいところはないはずだけれど……?
そろりと、頭の半分ほど背が高い男をうかがうと、圧倒的な存在感を放つ友の秀麗な眉がかすかに寄せられた。
「おい、ドアスコープで姿を確認するくらいしろ」
「大丈夫だろ。ここに越してから、たずねて来たのはリックが初めてだし」
そもそも、伊織の住む部屋は最上階だ。用事のある人間しか登ってこないはず。そういう部屋に住まわせているのは他でもない。オマエじゃないか。
「なんで来たんだ?」
「自家用ジェットぐらい、だれでも持ってるだろう?」
「だれでも持ってねえよ……って、そっちの意味じゃないんだけど」
いつも壁に貼った動かない彼としか向き合ったことがないので、そわそわきょどきょど挙動不審気味になった。視線はどこに向ければいいんだ? あっ、なんだかお高そうなネクタイですねえ! ブランドとか知らんけども……。
「おい、中に入れてくれ」
「あ、悪い」
伊織は慌てて、友を部屋に招き入れる。客用スリッパなどはなかったので、伊織の履いているスリッパを貸そうとしたら、不要だと断られた。
そういえば、織田信長は部下のふところで温めてもらった草履を履いたんだよ、と世間話のように言うと、俺のまえでほかの男の名前を出すな、と叱られた。なんなの、この俺様。世間話も許さないの?
靴下で玄関を上がったリチャードがまっすぐ向かったのはベッドルームだった。
伊織は思わず、ぎゃあ、と悲鳴をあげた。
「リック! そっちはベッドルームだ!!」
「問題ない」
「いや、あるだろ!!」
友がネクタイをゆるめながら、不機嫌そうに伊織を振り返った。
コイツ、眉をしかめる顔もイケメンだな。アルカイックスマイルしか知らなかったけれど、友は思いのほか表情豊かな男だった。
「おまえがαを紹介しろと言ったんじゃないか」
「えっ、紹介してくれんの? だれ?」
「俺だ」
「おまえなのかよ!!」
伊織は早起きして必死で磨き上げた廊下にひざを付くと、床をばんっと叩いた。死のうと決めたのに、友人が相手なら生きるしかない。
「俺じゃあ、不服か? だが悪いな。替えはなしだ」
「か、替えなんて……」
――リチャードの代わりなんて、だれにもなれない。
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