アラフィフΩは檻の中

きみいち

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アラフィフΩは檻の中

3.

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 寝る前の歯磨きをしていると、仕事部屋のパソコンから通話ソフトの着信を告げる音がした。

『イオリ、起きてるか?』
「起きてた」

 多忙を極める彼とのやりとりは、常に電波越しだった。ビデオ通話という手段もあったけれど、彼の顔を見ながら話すなんて恥ずかしくて無理だ。

 その代わり、彼のインタビュー記事の切り抜きを、パソコンから見えるところにべたべたと貼っている。我ながら気持ち悪い。

「じいやさんに言付けしておいたんだけど、聞かなかったのか?」
『イオリの口から聞いたほうが早い』
「うへえ、めんどくさ……」
『ちゃんと話せ』
「話すけど……」

 1日の終わりに、友と話せるのはうれしいけれど困る。彼は伊織のことを気にかけている立場ではないのだ。執筆業に加え、貴族としての責務もあるだろう。

 ――そういえば、リックはどうして番を持たないんだろう?

 子孫を残すのも貴族のつとめではないか? 気になるけれど、たずねるのはずっと避けていた。彼にΩのパートナーがいるのを知ったら、きっと死にたくなってしまう。

『検査の結果は?』
「ああ、うん。ええと……」
『言え』

 壁に貼ってあるアルカイックスマイルを見つめながら、早々と白旗を揚げた。ごまかしたら後が恐いのは、この8年のつきあいでじゅうぶん身にしみている。

「オレ、もうすぐ死ぬっぽい」
『はあっ!?』
「あの、それで相談があるんだけど……」

 待てよ、と思った。

 彼にこれ以上めんどうを見てもらうのも、どうだろう? もしかしたら、友が番を持たない理由は、伊織の世話で手一杯だからなのかも知れない。

 処女を捧げるなら彼がよかったけど、ワガママは言っちゃいけない。

『相談?』
「ええと、あの、悪いんだけどさ。だれかよさげなαを紹介してくれないかな」
『……なぜ?』

 一拍置いたあとの声が、一段低くなった。え、なに? なんか恐らせた?

「ええと、ちょっと、あの、性交渉がしたくって……なんか、オレの病気が、治る可能性があるかも、って……」
『……』

 いや、待って、本当だぞ? これはあくまで治療なんだ! 医師にもオススメされた(?)、Ωの機能を回復するための治療だから!!

「あっ、やっぱりいいや! 自分でどうにかする! 忘れてくれ!」

 とは言え、ひきこもりの自分に性交渉をしてくれる都合のいいαを探しだせるのか?

 友人以外なら、だれでもおなじだと思うけど、自分が友人以外の知らない誰か――たとえば昼間に病院で会ったようなαに抱かれるだなんて、想像だけでもぞっとする。それなら、このままおとなしく死んだほうがましかも知れない。

 ――よし決めた。死のう。

『性交渉をすれば、おまえは死なないのか?』
「前例がないらしくって……物は試しってやつだけど」
『わかった。12時間でそっちに着く。待てるな?』

 そっちに着くって、友はいったいなにを言っているのか……?
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