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アラフィフΩは檻の中
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さて、いまさらの話だけれど、この世界には男性、女性がいて、そこにα、β、Ωの性が加わり枝分かれする。つまり6種類の人間がいる計算だ。
優秀なαが統率し、一般人が多いβはそれに従い、Ωはαの子を唯一宿す――そうしてこの世界は回っていた。
男性体のΩは、発情期に子を宿し育む器官を体内に作る。
しかし、伊織はそれを30年も怠ってきた。医師の話によれば、その発情期のみに現れる器官が、異常をきたしているのだそうだ。
世界の中心にいるαの子を宿さないΩなど、生きている価値はない。この世界の神がそう判断したのだろう。
「つまり、その器官が正常に戻れば、オレは死なずに済むんではないでしょうか?」
「試す価値はあるかも知れませんね」
治る保証はどこにもない。治そうと努力するΩ体が、今までいなかったのだと医師は告げた。
伊織は出来ればまだ死にたくない。
友人のファンタジー小説のシリーズが完結していない。それを読むまでは、死んでたまるものか。
方法としては、発情期が来ないのなら、来るように強引に仕向けるまで……つまり――、
――αと性交渉だ!!
そうと決めたら、いつものように友に相談である。
果たして彼は付き合ってくれるだろうか? 無理ならいい。でも、出来るなら彼がいい。
「大丈夫ですか?」
へ? と顔をあげるとやさしげな風貌の男がいた。仕立ての良さそうなスーツ。ひと目でわかる。コイツ、高額所得者だ。
「気分が悪そうだったから、思わず声をかけてしまいました」
「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
「ああ、よかった。大丈夫なようなら、このあと食事でも……」
「結構です」
ぴしゃりと断ると、ちょうどタイミングよく伊織に順番が回って来たので、これ幸いと会計の列に並んだ。
伊織の姿をじっとりと追いかけてくる男の視線が気持ち悪い。鳥肌の立つ腕を、シャツの上からさすった。
――これだから、外に出たくないんだよ!!
伊織は若い頃から中性的な容姿をしていたので、男女分け隔てなく声をかけられた。
自宅マンションの玄関先にまで付いてこられたことも、一度や二度ではない。あれにはさすがに肝を冷やした。
もうずっとひきこもりでいたい……友人にそう愚痴ったら、次の日にはコンシェルジュが24時間常駐している、駅直結のタワーマンションに引っ越しをさせられていた。
さすがに横暴過ぎるだろ! マンションの最上階から、東京タワーを呆然と見つめながら文句を言うと、めずらしく殊勝な態度で謝罪された。
そばで守ってあげられないから、イオリが心配なんだ、雑務はコンシェルジュがすべてやってくれる、安全は保障する、ずっとそこにひきこもっておいで――彼になだめられているうちに、それもいいかな、とほだされてしまった。
伊織は、15も年下の友人のことが、もうずっと前から好きだった――。
優秀なαが統率し、一般人が多いβはそれに従い、Ωはαの子を唯一宿す――そうしてこの世界は回っていた。
男性体のΩは、発情期に子を宿し育む器官を体内に作る。
しかし、伊織はそれを30年も怠ってきた。医師の話によれば、その発情期のみに現れる器官が、異常をきたしているのだそうだ。
世界の中心にいるαの子を宿さないΩなど、生きている価値はない。この世界の神がそう判断したのだろう。
「つまり、その器官が正常に戻れば、オレは死なずに済むんではないでしょうか?」
「試す価値はあるかも知れませんね」
治る保証はどこにもない。治そうと努力するΩ体が、今までいなかったのだと医師は告げた。
伊織は出来ればまだ死にたくない。
友人のファンタジー小説のシリーズが完結していない。それを読むまでは、死んでたまるものか。
方法としては、発情期が来ないのなら、来るように強引に仕向けるまで……つまり――、
――αと性交渉だ!!
そうと決めたら、いつものように友に相談である。
果たして彼は付き合ってくれるだろうか? 無理ならいい。でも、出来るなら彼がいい。
「大丈夫ですか?」
へ? と顔をあげるとやさしげな風貌の男がいた。仕立ての良さそうなスーツ。ひと目でわかる。コイツ、高額所得者だ。
「気分が悪そうだったから、思わず声をかけてしまいました」
「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
「ああ、よかった。大丈夫なようなら、このあと食事でも……」
「結構です」
ぴしゃりと断ると、ちょうどタイミングよく伊織に順番が回って来たので、これ幸いと会計の列に並んだ。
伊織の姿をじっとりと追いかけてくる男の視線が気持ち悪い。鳥肌の立つ腕を、シャツの上からさすった。
――これだから、外に出たくないんだよ!!
伊織は若い頃から中性的な容姿をしていたので、男女分け隔てなく声をかけられた。
自宅マンションの玄関先にまで付いてこられたことも、一度や二度ではない。あれにはさすがに肝を冷やした。
もうずっとひきこもりでいたい……友人にそう愚痴ったら、次の日にはコンシェルジュが24時間常駐している、駅直結のタワーマンションに引っ越しをさせられていた。
さすがに横暴過ぎるだろ! マンションの最上階から、東京タワーを呆然と見つめながら文句を言うと、めずらしく殊勝な態度で謝罪された。
そばで守ってあげられないから、イオリが心配なんだ、雑務はコンシェルジュがすべてやってくれる、安全は保障する、ずっとそこにひきこもっておいで――彼になだめられているうちに、それもいいかな、とほだされてしまった。
伊織は、15も年下の友人のことが、もうずっと前から好きだった――。
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