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マシュマロ系令嬢と第1の悪役令嬢
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「あの、シモン様……」
婚約者がテーブルに用意された紅茶に口を付けたまま、マリアベルに視線を向ける。
「ん?」
「わたし、シモン様にご奉仕いたします!!」
ぶっほおっ!!
紅茶色の霧雨が降り注いだ。
夏に近い午後の日差しを受け、それはきらきらと輝く。しばし見とれていたマリアベルは、はっと我に返った。
「きゃあっ、シモン様。大丈夫ですか?」
げほげほ咳き込むシモンに、慌ててハンカチを差し出した。
「~~っ、ごほっ。あなたはなにを言っているんだ……」
「無理なお願いを聞いていただいたので、そのお礼にと思いまして」
古来より感謝のお礼と言えば、ドラゴンを倒した英雄には救国の姫だろう。
つまり、婚約者ならば当然マリアベルだ。
「わたしの奉仕など、お礼にもなりませんが……」
「どちゃくそご褒美です」
「どちゃ……く?」
「ありがたくいただ……!!」
婚約者が言葉を途中で切ると、マリアベルの部屋を見回した。
「シモン様?」
「――あなたの侍女は、今どこだ?」
「エマなら先ほど、ハンスさんに誘われて買い物に出かけましたけど」
「でかした、ハンス!!」
「すぐ戻るそうですが」
「給料下げっぞ、こら」
婚約者の浮き沈みが激しい。
マリアベルはシモンの腕を引き、自身の膝にシモンの頭を乗せる。
「うわ、ちょ」
「シモン様、おとなしくしてください」
慌てる婚約者を羽交い締めにすれば、マリアベルのふくよかな胸の下ですぐにおとなしくなった。
「あ、ふかふか……」
「体育祭も近いですし、シモン様はいろいろとお疲れなのですね」
「ああ、いや、うん。私は疲れている、の、か……」
くぐもった声がすぐに寝息に変わった。
マリアベルは婚約者から身体を離し、無防備な寝顔を見せる婚約者を見下ろした。
婚約者を見ていると、マリアベルの胸の奥があたたかくなって、なんだかむずむずしてくる。
マリアベルは恐る恐る手を伸ばし、婚約者の形のよい頭を撫でた。
――うふふ。可愛いわ……。
身じろぎもしない婚約者にふといたずら心がわいた。
高い鼻梁を指でなぞったり、つんつんしたり、なめらかな頬にちゅっちゅする。
「……マリアベル様、なにやってるんですか」
「ふわあああっ!!?」
顔を上げると、エマがリビングの入口に立っていた。
エマの背後にはシモンの侍従がいて、壁に向かって肩を震わせている。
「だっ、だって、シモン様がっ、可愛いの! 無理なの!! やだあ!!」
「はいはい、わかりましたから落ち着いて。シモン様が起きてしまいますよ」
「っ!?」
マリアベルは自身の口を手のひらで押さえた。
見下ろすと、婚約者の眉間にしわが寄っている。
寝室からブランケットを持って来たエマが、婚約者の身体に掛けた。
「夕食の時間までは、このまま寝かせてあげましょうね」
「ええ」
足がしびれてきたけれど、マリアベルは愛しい婚約者のために頑張った。
婚約者がテーブルに用意された紅茶に口を付けたまま、マリアベルに視線を向ける。
「ん?」
「わたし、シモン様にご奉仕いたします!!」
ぶっほおっ!!
紅茶色の霧雨が降り注いだ。
夏に近い午後の日差しを受け、それはきらきらと輝く。しばし見とれていたマリアベルは、はっと我に返った。
「きゃあっ、シモン様。大丈夫ですか?」
げほげほ咳き込むシモンに、慌ててハンカチを差し出した。
「~~っ、ごほっ。あなたはなにを言っているんだ……」
「無理なお願いを聞いていただいたので、そのお礼にと思いまして」
古来より感謝のお礼と言えば、ドラゴンを倒した英雄には救国の姫だろう。
つまり、婚約者ならば当然マリアベルだ。
「わたしの奉仕など、お礼にもなりませんが……」
「どちゃくそご褒美です」
「どちゃ……く?」
「ありがたくいただ……!!」
婚約者が言葉を途中で切ると、マリアベルの部屋を見回した。
「シモン様?」
「――あなたの侍女は、今どこだ?」
「エマなら先ほど、ハンスさんに誘われて買い物に出かけましたけど」
「でかした、ハンス!!」
「すぐ戻るそうですが」
「給料下げっぞ、こら」
婚約者の浮き沈みが激しい。
マリアベルはシモンの腕を引き、自身の膝にシモンの頭を乗せる。
「うわ、ちょ」
「シモン様、おとなしくしてください」
慌てる婚約者を羽交い締めにすれば、マリアベルのふくよかな胸の下ですぐにおとなしくなった。
「あ、ふかふか……」
「体育祭も近いですし、シモン様はいろいろとお疲れなのですね」
「ああ、いや、うん。私は疲れている、の、か……」
くぐもった声がすぐに寝息に変わった。
マリアベルは婚約者から身体を離し、無防備な寝顔を見せる婚約者を見下ろした。
婚約者を見ていると、マリアベルの胸の奥があたたかくなって、なんだかむずむずしてくる。
マリアベルは恐る恐る手を伸ばし、婚約者の形のよい頭を撫でた。
――うふふ。可愛いわ……。
身じろぎもしない婚約者にふといたずら心がわいた。
高い鼻梁を指でなぞったり、つんつんしたり、なめらかな頬にちゅっちゅする。
「……マリアベル様、なにやってるんですか」
「ふわあああっ!!?」
顔を上げると、エマがリビングの入口に立っていた。
エマの背後にはシモンの侍従がいて、壁に向かって肩を震わせている。
「だっ、だって、シモン様がっ、可愛いの! 無理なの!! やだあ!!」
「はいはい、わかりましたから落ち着いて。シモン様が起きてしまいますよ」
「っ!?」
マリアベルは自身の口を手のひらで押さえた。
見下ろすと、婚約者の眉間にしわが寄っている。
寝室からブランケットを持って来たエマが、婚約者の身体に掛けた。
「夕食の時間までは、このまま寝かせてあげましょうね」
「ええ」
足がしびれてきたけれど、マリアベルは愛しい婚約者のために頑張った。
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