26 / 30
マシュマロ系令嬢と第1の悪役令嬢
5.
しおりを挟む
「あの、シモン様……」
婚約者がテーブルに用意された紅茶に口を付けたまま、マリアベルに視線を向ける。
「ん?」
「わたし、シモン様にご奉仕いたします!!」
ぶっほおっ!!
紅茶色の霧雨が降り注いだ。
夏に近い午後の日差しを受け、それはきらきらと輝く。しばし見とれていたマリアベルは、はっと我に返った。
「きゃあっ、シモン様。大丈夫ですか?」
げほげほ咳き込むシモンに、慌ててハンカチを差し出した。
「~~っ、ごほっ。あなたはなにを言っているんだ……」
「無理なお願いを聞いていただいたので、そのお礼にと思いまして」
古来より感謝のお礼と言えば、ドラゴンを倒した英雄には救国の姫だろう。
つまり、婚約者ならば当然マリアベルだ。
「わたしの奉仕など、お礼にもなりませんが……」
「どちゃくそご褒美です」
「どちゃ……く?」
「ありがたくいただ……!!」
婚約者が言葉を途中で切ると、マリアベルの部屋を見回した。
「シモン様?」
「――あなたの侍女は、今どこだ?」
「エマなら先ほど、ハンスさんに誘われて買い物に出かけましたけど」
「でかした、ハンス!!」
「すぐ戻るそうですが」
「給料下げっぞ、こら」
婚約者の浮き沈みが激しい。
マリアベルはシモンの腕を引き、自身の膝にシモンの頭を乗せる。
「うわ、ちょ」
「シモン様、おとなしくしてください」
慌てる婚約者を羽交い締めにすれば、マリアベルのふくよかな胸の下ですぐにおとなしくなった。
「あ、ふかふか……」
「体育祭も近いですし、シモン様はいろいろとお疲れなのですね」
「ああ、いや、うん。私は疲れている、の、か……」
くぐもった声がすぐに寝息に変わった。
マリアベルは婚約者から身体を離し、無防備な寝顔を見せる婚約者を見下ろした。
婚約者を見ていると、マリアベルの胸の奥があたたかくなって、なんだかむずむずしてくる。
マリアベルは恐る恐る手を伸ばし、婚約者の形のよい頭を撫でた。
――うふふ。可愛いわ……。
身じろぎもしない婚約者にふといたずら心がわいた。
高い鼻梁を指でなぞったり、つんつんしたり、なめらかな頬にちゅっちゅする。
「……マリアベル様、なにやってるんですか」
「ふわあああっ!!?」
顔を上げると、エマがリビングの入口に立っていた。
エマの背後にはシモンの侍従がいて、壁に向かって肩を震わせている。
「だっ、だって、シモン様がっ、可愛いの! 無理なの!! やだあ!!」
「はいはい、わかりましたから落ち着いて。シモン様が起きてしまいますよ」
「っ!?」
マリアベルは自身の口を手のひらで押さえた。
見下ろすと、婚約者の眉間にしわが寄っている。
寝室からブランケットを持って来たエマが、婚約者の身体に掛けた。
「夕食の時間までは、このまま寝かせてあげましょうね」
「ええ」
足がしびれてきたけれど、マリアベルは愛しい婚約者のために頑張った。
婚約者がテーブルに用意された紅茶に口を付けたまま、マリアベルに視線を向ける。
「ん?」
「わたし、シモン様にご奉仕いたします!!」
ぶっほおっ!!
紅茶色の霧雨が降り注いだ。
夏に近い午後の日差しを受け、それはきらきらと輝く。しばし見とれていたマリアベルは、はっと我に返った。
「きゃあっ、シモン様。大丈夫ですか?」
げほげほ咳き込むシモンに、慌ててハンカチを差し出した。
「~~っ、ごほっ。あなたはなにを言っているんだ……」
「無理なお願いを聞いていただいたので、そのお礼にと思いまして」
古来より感謝のお礼と言えば、ドラゴンを倒した英雄には救国の姫だろう。
つまり、婚約者ならば当然マリアベルだ。
「わたしの奉仕など、お礼にもなりませんが……」
「どちゃくそご褒美です」
「どちゃ……く?」
「ありがたくいただ……!!」
婚約者が言葉を途中で切ると、マリアベルの部屋を見回した。
「シモン様?」
「――あなたの侍女は、今どこだ?」
「エマなら先ほど、ハンスさんに誘われて買い物に出かけましたけど」
「でかした、ハンス!!」
「すぐ戻るそうですが」
「給料下げっぞ、こら」
婚約者の浮き沈みが激しい。
マリアベルはシモンの腕を引き、自身の膝にシモンの頭を乗せる。
「うわ、ちょ」
「シモン様、おとなしくしてください」
慌てる婚約者を羽交い締めにすれば、マリアベルのふくよかな胸の下ですぐにおとなしくなった。
「あ、ふかふか……」
「体育祭も近いですし、シモン様はいろいろとお疲れなのですね」
「ああ、いや、うん。私は疲れている、の、か……」
くぐもった声がすぐに寝息に変わった。
マリアベルは婚約者から身体を離し、無防備な寝顔を見せる婚約者を見下ろした。
婚約者を見ていると、マリアベルの胸の奥があたたかくなって、なんだかむずむずしてくる。
マリアベルは恐る恐る手を伸ばし、婚約者の形のよい頭を撫でた。
――うふふ。可愛いわ……。
身じろぎもしない婚約者にふといたずら心がわいた。
高い鼻梁を指でなぞったり、つんつんしたり、なめらかな頬にちゅっちゅする。
「……マリアベル様、なにやってるんですか」
「ふわあああっ!!?」
顔を上げると、エマがリビングの入口に立っていた。
エマの背後にはシモンの侍従がいて、壁に向かって肩を震わせている。
「だっ、だって、シモン様がっ、可愛いの! 無理なの!! やだあ!!」
「はいはい、わかりましたから落ち着いて。シモン様が起きてしまいますよ」
「っ!?」
マリアベルは自身の口を手のひらで押さえた。
見下ろすと、婚約者の眉間にしわが寄っている。
寝室からブランケットを持って来たエマが、婚約者の身体に掛けた。
「夕食の時間までは、このまま寝かせてあげましょうね」
「ええ」
足がしびれてきたけれど、マリアベルは愛しい婚約者のために頑張った。
0
お気に入りに追加
2,258
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる