上 下
24 / 30
マシュマロ系令嬢と第1の悪役令嬢

3.

しおりを挟む
 フィオーラが細い顎をくいっと窓の外へと向ける。

 見下ろせばバルサスが、リリーティアにハンカチを貸しているところであった。仮にも貴族令嬢が鼻から血を垂れ流している姿は、見るに堪えなかったのだろう。

「ほら、浮気でしょう?」
「いえ。あの程度なら、浮気には含まれてはいないと思いますけど」

 フィオーラの浮気判定が厳しすぎて、バルサスが気の毒になってきた。

 というか、相手は美少女だけれども貴族令嬢としては残念なリリーティアである。常識のある貴族令息であれば、まずは相手にしないだろう。

「マリアベルさん、グスタフに肩入れし過ぎじゃありません?」

 ――アチチッ! こっちに飛び火してきたわ。
 マリアベルは首を振った。

「バルサス様とはお会いしたことも、お話したこともございませんわ。それにわたしには婚約者がおりますし」

 フィオーラが深い蒼の瞳を瞬かせた。

「あらっ、そうでしたわね。ごめんなさい、マリアベルさん」
「謝罪を受け入れますわ」

 気が強そうな顔立ちをしているのに、フィオーラは根は素直らしい。すぐに非を認め、謝るところは好感が持てる。

「マリアベルさんのご婚約者は、たしかモンテイエ様でしたわね?」
「ええ」
「モンテイエ様って、どうなのかしら?」
「どう、とは?」
「お優しいのかしら?」

『氷の貴公子』などと呼ばれているほどだ。プライベートでもそのような態度であると思われているのかもしれない。
 ここは婚約者の名誉のためにも言っておくべきだろう。

「シモン様はとってもお優しいですよ。いつもわたしに気を遣ってくださるし、綺麗なお花や異国のめずらしいお菓子を送ってくださいますし、先日は街までエスコートをしてくださいましたし、カフェではパンケーキを半分下さったし、それからドレスも見立ててくださいましたの! わたし、そんなシモン様のことが、なんですの!! はあはあ……」

 無理をしてテンションを上げたせいで、若干息切れ気味のマリアベルに、始めは驚いていたフィオーラだったけれども、どんどんさみしげな表情になっていく。

「……うらやましいですわ。わたしはグスタフはランチすら一度もしたことがないのです」
「えっ、そうなんですの!?」

 マリアベルは、自分がいかに婚約者が好きで幸せかを、フィオーラにアピールしただけであった。
 反省――。

「グスタフ……」

 窓の外に視線を移したフィオーラは、リリーティアとその場で別れ、別棟に向かうバルサスの後ろ姿を追っているようだ。
 見た目は華やかで苛烈な性格をしているのに、なんともいじらしい。

 マリアベルが察するに、フィオーラとバルサスは、近くに居すぎたせいで言葉が足りていないのではないか?
 そこでキュピーンとマリアベルは閃いた。

「あの、フィオーラさん。もしよろしければ、わたしたちとのランチを口実に、バルサス様をランチにお誘いしませんか? それに婚約者とバルサス様はおなじ生徒会の役員同士、不自然ではございませんわ」
「え、よろしいの?」

 フィオーラの言葉に、マリアベルは微笑み深くうなずいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

公爵令嬢の立場を捨てたお姫様

羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ 舞踏会 お茶会 正妃になるための勉強 …何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる! 王子なんか知りませんわ! 田舎でのんびり暮らします!

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

処理中です...