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マシュマロ系令嬢と乙女ゲーヒロイン
2.
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「ならばシモン様のこと、あきらめてくださいましたの?」
「まっさかあ。シモンて攻略対象者の中じゃ、いちばんのイケメンじゃん? 王子もいいかなあって思ったんだけど、わたしってば王妃ってガラじゃないしねえ!」
あっはっは! と大口を開けて笑う様は、とても貴族令嬢とは思えない。
「あなたにしては賢明な判断です」
リリーティアが国母などになったら、次の宰相位のシモンが苦労してしまうではないか。
もちろんマリアベルはシモンを支える気満々ではあるけれど、シモンはなんでも出来てしまうので、果たして力になれるかどうかが悩みどころであった。
――シモン様の横に立つなら、ふさわしくならねば!!
マリアベルはキリリと表情を引きしめると、リリーティアに対峙する。
「ですが、シモン様はわたしの婚約者ですのよ。あなたには渡しませんわ」
「あっ、それ悪役令嬢っぽい!! あんたもやれば出来んじゃん!!」
「まあ、ありがとうございます」
なにお礼を言ってるんですか! エマが新たに淹れ直した紅茶をテーブルに置きながら、たしなめてくる。
「あら、そういえばそうね」
ほめられたら、素直に礼を言うのがマリアベルの美点のひとつである。
「まったくもう……マリア様ってば、のんきなんですから~」
まあ、そこが可愛いんですけどね! エマがマリアベルに向かってウインクした。
マリアベルの侍女は、主人を好きすぎるのが難点であった。
マリアベルは気を取り直すように椅子にゆったり腰をかけ、紅茶をひとくち飲んだ。さわやかな花の香りが口内に広がる。
穏やかな気分になったマリアベルはほうっ、と息を吐いた。
「ところでリリーティアさん、その『悪役令嬢』というものについてですけど……」
「おお、うるわしのリリーティア! 戻って来たんだね!!」
かぶった。
マリアベルがテラス席の入口に視線を向けると、有象無象がやって来た。
男子生徒ばかりのリリーティアの愉快なとりまきたちである。
めんどくさいことになったなあ、とマリアベルは視線を宙に向けた。
リリーティアひとりだけならまだ対処出来るけれども、数で来られてはさすがにきびしい。
「みんなー、久しぶり。元気だったー?」
「ああ、みんな元気だよ。反省文100枚なんてあっという間さ。ちゃんと3日で出れたよ」
「そう、よかったわね……わたしなんて1000枚だったわ」
「えっ、いっせんまい……? な、なんてことだ」
「ああ、だからこんなにやつれているんだね……モンテイエは鬼か!!」
「いや、血も涙もないから、人外だ」
「みんな、やめてちょうだい。わたしがぜんぶ悪いのよ。侯爵家のご息女に無礼を働いたのだもの」
とりまきたちがいっせいにマリアベルを見る。
その視線は殺気に近い。
とはいえ、背後のエマもじゅうぶん殺気を放っているので負けてはいない。
間に挟まれたマリアベルは、両者ともよく目が疲れないな、とのんびり紅茶を飲んだ。
しかし、反省房の意味とはいったいなんだったのか?
せっかくシモンが反省する機会を与えてくれたというのに、まったく心を入れ替えた様子のないリリーティアとその愉快なとりまきたちを見て、マリアベルは悲しくなった。
「あなたたちが反省房に入ったなんて知ったら、郷里のご家族はさぞお嘆きになるでしょうね……」
「うっ……」
男子生徒たちは、マリアベルの言葉に返す言葉もない。
彼らも爵位が低いとはいえ貴族である。王立学園に入ったのも、王太子殿下や高位貴族、そして隣国からやって来た留学生たちとの爵位の垣根を越えたおつきあい――プチ社交場を体験するためである。
男爵令嬢にうつつを抜かし、高位貴族にたてついたなんて知れたら……。
「まっさかあ。シモンて攻略対象者の中じゃ、いちばんのイケメンじゃん? 王子もいいかなあって思ったんだけど、わたしってば王妃ってガラじゃないしねえ!」
あっはっは! と大口を開けて笑う様は、とても貴族令嬢とは思えない。
「あなたにしては賢明な判断です」
リリーティアが国母などになったら、次の宰相位のシモンが苦労してしまうではないか。
もちろんマリアベルはシモンを支える気満々ではあるけれど、シモンはなんでも出来てしまうので、果たして力になれるかどうかが悩みどころであった。
――シモン様の横に立つなら、ふさわしくならねば!!
マリアベルはキリリと表情を引きしめると、リリーティアに対峙する。
「ですが、シモン様はわたしの婚約者ですのよ。あなたには渡しませんわ」
「あっ、それ悪役令嬢っぽい!! あんたもやれば出来んじゃん!!」
「まあ、ありがとうございます」
なにお礼を言ってるんですか! エマが新たに淹れ直した紅茶をテーブルに置きながら、たしなめてくる。
「あら、そういえばそうね」
ほめられたら、素直に礼を言うのがマリアベルの美点のひとつである。
「まったくもう……マリア様ってば、のんきなんですから~」
まあ、そこが可愛いんですけどね! エマがマリアベルに向かってウインクした。
マリアベルの侍女は、主人を好きすぎるのが難点であった。
マリアベルは気を取り直すように椅子にゆったり腰をかけ、紅茶をひとくち飲んだ。さわやかな花の香りが口内に広がる。
穏やかな気分になったマリアベルはほうっ、と息を吐いた。
「ところでリリーティアさん、その『悪役令嬢』というものについてですけど……」
「おお、うるわしのリリーティア! 戻って来たんだね!!」
かぶった。
マリアベルがテラス席の入口に視線を向けると、有象無象がやって来た。
男子生徒ばかりのリリーティアの愉快なとりまきたちである。
めんどくさいことになったなあ、とマリアベルは視線を宙に向けた。
リリーティアひとりだけならまだ対処出来るけれども、数で来られてはさすがにきびしい。
「みんなー、久しぶり。元気だったー?」
「ああ、みんな元気だよ。反省文100枚なんてあっという間さ。ちゃんと3日で出れたよ」
「そう、よかったわね……わたしなんて1000枚だったわ」
「えっ、いっせんまい……? な、なんてことだ」
「ああ、だからこんなにやつれているんだね……モンテイエは鬼か!!」
「いや、血も涙もないから、人外だ」
「みんな、やめてちょうだい。わたしがぜんぶ悪いのよ。侯爵家のご息女に無礼を働いたのだもの」
とりまきたちがいっせいにマリアベルを見る。
その視線は殺気に近い。
とはいえ、背後のエマもじゅうぶん殺気を放っているので負けてはいない。
間に挟まれたマリアベルは、両者ともよく目が疲れないな、とのんびり紅茶を飲んだ。
しかし、反省房の意味とはいったいなんだったのか?
せっかくシモンが反省する機会を与えてくれたというのに、まったく心を入れ替えた様子のないリリーティアとその愉快なとりまきたちを見て、マリアベルは悲しくなった。
「あなたたちが反省房に入ったなんて知ったら、郷里のご家族はさぞお嘆きになるでしょうね……」
「うっ……」
男子生徒たちは、マリアベルの言葉に返す言葉もない。
彼らも爵位が低いとはいえ貴族である。王立学園に入ったのも、王太子殿下や高位貴族、そして隣国からやって来た留学生たちとの爵位の垣根を越えたおつきあい――プチ社交場を体験するためである。
男爵令嬢にうつつを抜かし、高位貴族にたてついたなんて知れたら……。
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