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婚約者とマシュマロ系令嬢
4.
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◆
「シモン様、気が付かれましたか?」
「ああ、ハンスか……」
シモンは自室のベッドの中で目覚めた。
どのくらいの間、意識を失っていたのか、あたりはすっかり暗く、ハンスの手に持つ燭台が淡い光をゆらめかせている。
「マリアベル嬢は?」
「婚約者とはいえ、いつまでも男子寮には止めてはおけないでしょう? 夕飯前にお帰りいただきましたよ」
「そうか。ありがとう」
手を貸してもらい、ベッドから身体を起こす。
特におかしなところはなかったけれど、全身が汗で湿っていて気持ちが悪い。
「すぐに湯浴みの用意をいたします」
「ああ、頼む。それと、マリアベル嬢に手紙を書くので、届けてくれ」
「承知しました」
便せんとペンをベッドの脇机に置いた侍従は、足早に部屋を出て行った。
シモンは汗ばむ額に手を当てて、はあっとため息を吐く。
――信じられない。どれだけ、マリアベル・オーランシュに心残りがあったんだ。
くくっ、と肩をふるわせ、シモンは笑った。
どうりで見覚えがあったはずだ。
ここは、死の直前までシモンがプレイしていた乙女ゲームの世界だったのだ。
しかも、シモン・モンテイエは物語の主人公どころか、リリーティア・リクールのためだけに存在している攻略対象者。そして、婚約者の少女マリアベル・オーランシュをないがしろにする男……。
しかし、今はちがう。
自分はこの世界でしっかり生きているし、なにより自我もある。ゲームの中のシモン・モンテイエとはちがい、マリアベル・オーランシュをたいせつに思っている。
――ざまあみろだな、シモン・モンテイエ。
オレは、リリーティア・リクールなど絶対に選ばない。
「シモン様、気が付かれましたか?」
「ああ、ハンスか……」
シモンは自室のベッドの中で目覚めた。
どのくらいの間、意識を失っていたのか、あたりはすっかり暗く、ハンスの手に持つ燭台が淡い光をゆらめかせている。
「マリアベル嬢は?」
「婚約者とはいえ、いつまでも男子寮には止めてはおけないでしょう? 夕飯前にお帰りいただきましたよ」
「そうか。ありがとう」
手を貸してもらい、ベッドから身体を起こす。
特におかしなところはなかったけれど、全身が汗で湿っていて気持ちが悪い。
「すぐに湯浴みの用意をいたします」
「ああ、頼む。それと、マリアベル嬢に手紙を書くので、届けてくれ」
「承知しました」
便せんとペンをベッドの脇机に置いた侍従は、足早に部屋を出て行った。
シモンは汗ばむ額に手を当てて、はあっとため息を吐く。
――信じられない。どれだけ、マリアベル・オーランシュに心残りがあったんだ。
くくっ、と肩をふるわせ、シモンは笑った。
どうりで見覚えがあったはずだ。
ここは、死の直前までシモンがプレイしていた乙女ゲームの世界だったのだ。
しかも、シモン・モンテイエは物語の主人公どころか、リリーティア・リクールのためだけに存在している攻略対象者。そして、婚約者の少女マリアベル・オーランシュをないがしろにする男……。
しかし、今はちがう。
自分はこの世界でしっかり生きているし、なにより自我もある。ゲームの中のシモン・モンテイエとはちがい、マリアベル・オーランシュをたいせつに思っている。
――ざまあみろだな、シモン・モンテイエ。
オレは、リリーティア・リクールなど絶対に選ばない。
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