マシュマロ系令嬢は悪役令嬢にはなれない

きみいち

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婚約者とマシュマロ系令嬢

3.

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 ◆

「全然めでたくないわっ!!」

 ぱあん! とポータブルゲーム機をリビングの床に叩きつけたのはオレの妹だ。

 フローリングに分厚いラグマットが敷かれていてよかった。
 貸してやったポータブルゲーム機が無事であることを確認したオレは、ホっとしながら妹を見やる。

「なんだ? そんなに腹立つゲームだったのか?」
「攻略対象者に腹が立って、怒りで吐きそう!!」

 へえ、と相づちを打ちながら、ゲームを起動させてみる。

 オープニングはフルアニメーションで、可愛らしいヒロインが攻略対象者と次々と出会い、フラグを立てていく様子が再生された。

「コイツよ、コイツ! シモン・モンテイエ!」

 妹が画面に向かってビシッと指を突きつけた。

 銀髪に紅玉の瞳をした冷たい感じのする男だ。
 攻略対象者なだけあって、ずいぶんと整った容姿をしている。

「顔だけなら、まんまお前の性癖じゃん」
「だから、いちばん初めに攻略したんだけど、コイツがもう性格最悪のモラハラ男で一気に萎えたわ」
「なるほど」
「男の目から見たらこういう男って、ありなのかどうか知りたい。アニキ、ちょっとやってみてよ」

 妹にすすめられ、初めて乙女ゲームをプレイしてみた感想は、ずいぶんとヒロインが優遇されているゲームだな、だった。

「乙女ゲームって、こんなにぬるいのか?」
「女の子のやるゲームだから、わかりやすくちやほやされるのが好まれるのよ」
「そういうもんか」

 さすがにポータブルゲーム機を、叩きつけたりはしなかったけれども、たしかにシモン・モンテイエの婚約者への態度はどうかと思う。

「ベルたん、健気な子じゃん! なんでコイツの言うこといちいち聞いてんの? 意味がわからん!!」
「婚約者に惚れてるんでしょ」
「顔か? 顔なのか?」

 オレがベルたんなら、すぐに別れる。

「ヒロインなんて、肉体関係がないだけのビッチだしね。周りの男に媚び媚びだし、空気読めないし、あと家庭の事情に首ツッコミ過ぎ!! 婚約者に一途な悪役令嬢のほうが、よっぽど好感が持てるわ!!」
「オレ、ハーレム系作品が苦手なの、そういうとこなんだよな」
「わたしも無理ぃ」

 元々趣味が似ている兄妹は、乙女ゲームのおかげでますます仲がよくなった。

「世間ではこのくらいのぽっちゃりした女の子を、マシュマロ系女子って言うんだって」
「そうやって、なんにでも例えるよなあ」
「的確じゃない?」
「まあ、たしかに」

 画面の中のマリアベル・オーランシュは、マシュマロのように甘く、ふわふわやわらかそうな女の子だった。

 ――オレがもしシモン・モンテイエだったら、ぜったい泣かせたりしないのに……。
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