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マシュマロ系令嬢と婚約者

1.

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 ――見られている。

 テラス席で婚約者とお茶をしながら、マリアベルは内心で冷や汗をかいていた。
 初めて顔を合わせたときもそうだったけれども、婚約者の視線は常にマリアベルの胸元に集中している。

 学園指定の制服は、なるべくゆとりがあるように作ってはあるものの、マリアベルの制服を押し上げる胸ははちきれんばかりで、少しでも力を入れたらボタンが弾け飛びそうになっている。
 とどのつまり――また太ったのである。

「マリアベル嬢。明後日の予定はあるか?」

 背後を振り返り、マリアベルの侍女のエマに予定を確認する。

「針子を呼んでおります」
「ドレスでも仕立てるのか?」
「ええ、まあ」

 実際は制服の採寸である。
 入学して1年にも満たないというのに、制服を作り直さなければならないなんて――マリアベルは白い頬を赤くさせ、恥じ入るようにうつむいた。

「私も行っていいだろうか?」
「へ?」

 マリアベルはぽかんと口を開けて、美しい婚約者の顔を見つめた。

「シモン様は、ドレスに興味をお持ちなんですか?」
「いや、あなたに贈りたいんだ。出来れば生地からいっしょに選びたい」

 婚約者の言葉に、マリアベルは頬をますます赤くさせた。

 ――嬉しい!!

 政略的な意味合いを持つ縁組のはずなのに、婚約者のシモンはマリアベルに対しいつもやさしい。

 生まれて初めて父や兄以外の異性(家令とか料理人とか庭師は割愛)に優しくされたマリアベルは、嬉しくて涙ぐんでしまった。
 となりの席に移動してきた婚約者が、マリアベルの肩を抱き寄せそっとハンカチで目元をぬぐってくれた。

「シモン様……」

 婚約者の体温を近くに感じ、マリアベルの胸は早鐘のように鳴っていた。
 頬が熱くて、胸がドキドキして、息が苦しい。

 熱に潤んだ瞳で美しい婚約者の顔を見つめると、マリアベルの近いところで喉がこくりと動いた。

「――シモン様、ここは屋外ですよ」

 近づきすぎた婚約者同士の顔の間に、手のひらが割って入る。
 手のひらの主は、婚約者の侍従のハンスだった。

 ちっと婚約者から舌打ちが聞こえたような気がしたけれど、きっと気のせいだ。



「シモン様って、本当にお優しいわ!」
「それだけじゃないと思いますけど」

 マリアベルが両手を組んでうっとりしていると、侍女のエマが口を挟む。乳姉妹でもあるので、マリアベルとの関係はとても気安い。

「どういうこと?」
「男はオオカミってことです。初心うぶなマリア様なんて、ぱっくり食べられてしまいますよ」
「まあ! では、シモン様にはわたしをお腹いっぱい食べていただかねば!」
「マリア様……それは、お休み前にお菓子を食べる言い訳にはなりませんからね」

 マリアベルのふっくらした手から、クッキー缶が取り上げられた。

「エマのけちんぼ」
「はいはい。とにかく、マリア様はシモン様に流されないよう、お気をつけくださいませ」
「心得たわ」
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