Jet Black Witches - 3飛翔 -

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第24話 瀕死のジン

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 『たたた、大変よ! 残りの戦闘機群、二カ国合同で来るみたい? 10時半40マイル』

 慌てふためくソフィアの少し甲高い声が念波で飛び込んで来る。

 既に8機もの戦闘機の襲来を奇跡的にも無事凌いだばかりのジンたちだが、告げられた速報は、幸運はもちろん慈悲など微塵も感じられない圧倒的な武力、まるまる一個飛行隊、18機もの殺戮武装が一気に襲いかかってくる非情な報せなのだ。

 もちろん一斉にやってくる可能性も危惧してはいたが、あまりにも強大過ぎる猛威に、自然と考えることから逃避していたジンにとって、最も嫌な展開となったことに肩を落としつつ、対策はまだ何も考えていないことを吐露する。

 『そ、そうか。ここまでは奇跡的になんとかなったが、今度ばかりはまったくのノープランだ。誰か、なにか妙案はない?』

 ジンのこの問いかけに、一息おいて、常日頃からジンの役に立ちたいと思い、懸命に思考を凝らしていたイルがおそるおそる提案を切り出す。

 『えーと、ステルスシールドを旅客機全体にかける、というのはどうですか?』

 ステルスシールドとは、覆う無色透明のオーラで対象物への参照を光学的にねじ曲げることで対象を見えにくくするものだが、ジンたちほどの豊潤な魔力量があれば飛行機であっても包み隠すことが可能だ。イルのこの提案に光明が差したように感じたジンは即食い付く。

 『お? おぉ、それは妙案……』

 そんな反応に嬉しさが込み上げ頬が綻ぶイルは「やたっ」と声にならないくらいの呟きを漏らす。しかし、それは続くジンの言葉で糠喜びに終わる。

 『ん? ……あ、だ、だめだ』

 具体的に状況を思い浮かべ、戦闘機側の性能諸元や位置関係に照らし合わせると、現状にマッチしないことにすぐに行き当たるジン。イルにとっては軽い不意打ちのようなジンの呟き。念波ゆえに明瞭なボイスて受け取るイル。言葉だけ聞けばダメ出しと受け取れ、眼を見開き一瞬固まるイル。ハッと我に帰るも役に立てなかったことを認識し、しょげる。念波で伝わる吐息と呟き具合からその様子が目に浮かんだジンは補足説明を加える。ここは機外上空。念波だけが頼りの会話だから心配りは重要だ。

 『人の目には見えなくても、見えるよりも遠くからレーダーで捕捉されたなら、ステルスは意味を成さないんだ。熱源追尾が見えなくても撃てるとはいえ、この場合は人の目で見えるところまで進んで対象を識別した上での発射の判断をするから、欺ける可能性はあってステルスの効果も高かったかもだけどね。でもいいアドバイスだ、イル。これでできることとできないことの範囲が狭まるのだから、すごく助かるよ。おかげで対策への精度が高まることになるんだ。流石イルだね。アイデア提供ありがとう』

 ジンのフォローを聞き届けると、思いは報われたことでホッとため息を漏らしたあと、念波のエフェクトがかかるジンの言葉に照れながらややハニカミ顔のイル。気持ちが落ち着いたところで振り返る記憶から、ふと違和感に気付きイルは疑問を返す。

 『あれっ? 監視役さんが乗ってるから、後方象限を想定って……』

 説明しきれていない自覚があるジンは、間を置かず説明を始める。

 『そう。だから今までは後方象限からの熱源追尾を想定してて、そのおかげでうまくやれたのだけれど、うまくいきすぎたからこそ、流石に三度目まで、ヤツらがおそらく失敗するとわかっている後方象限からの攻撃方法を選択するとは考えにくい気がするんだ』

 『な、なるほど』

 刻一刻と移り変わるその変化を如何に読み解くかが、戦況の勝敗を分けるのだと、昔何かの物語で読んだことを思い出すイル。今がその分かれ目で、こうやって歴史は創られていくのだなと、納得とともにやや高揚感を感じながら今のジンの言葉を噛みしめ聞き入っていた。

 『だから熱源追尾よりは、もうレーダー追尾に切り替えるとみるべき。オレならそうする』

 話の節目を捉えて、今度はマコトが案を述べる。

 『旅客機の分身というか、ゴーストみたいな、デコイみたいなのを作るってのは?』

 これも既に検討したのだろう。すぐさまジンは自分の見解を練り出す。

 『あぁ、それもいいけど、まずそれを作るには大きいから魔力量が心配なのと、レーダーには反応しないでしょ? レーダーを欺ける金属片チャフでもあればいいんだけどなぁ』

 軍用機なら、金属片チャフを撒いて敵の眼レーダーを撹乱させることはよくある手法だが、民間機にそんなものは搭載されていない。オーラからデコイを形作っても、物質化して初めて人に知覚させられるものの、金属ほどの反射特性でなければレーダーからは旅客機と認識されない。また物質化は即、様々な物理影響に晒されるから、空中を高速で進ませるための推進力や浮力も解決する必要があり、飛行機大のサイズとなれば、形成だけでなく、その制御には莫大な魔力を投入する必要が生じる。いずれにしても、まずレーダーに捕捉されない時点で論外となるアイデアだ。

 しかし、イルも含めて、積極的な意見が飛び出すこと、仮に答えにたどり着かなかったとしても思い思いの方向に会話が弾むことはとても良い傾向だと、ジンは心内で喜びさえ感じていた。今はそんな悠長なことを考えている場合ではない、と自身を叱咤しながらも、このような軽やかなやり取りの中から、時に優れたアイデアが飛び出すこともあるのだ、と思っているところに、ジンの説明に対し、マコトから何気ない思い付きの言葉が飛び出す。

 『うーん。確かに。見えるように実体化した時点で、空気抵抗も凄いしね。まぁ、レーダーに反応させるだけなら、さっきの戦闘機の破片から翼でも持ってくれば何とかな……』

 気持ちが沈みくすんで見えた世界に突然キラキラが降り注ぎ、急速な視界の広がりを感じるジン。為すべき何かが明瞭化し、興奮気味に指示を繰り出す。

 『そそそれだ! マコト? さっきの破片、持ってこれないかな? 尾翼くらいの大きさ以上なら何でもいい。見付けたら流線形のシールドで包んで、できるだけ沢山持ってきたい』

 翼くらいの大きさなら、攪乱目的の金属片チャフよりも、ミサイルの衝突判定を誘う分、手前で爆破させられる確率が格段に跳ね上がる。しかもその防護壁を事細かに魔力制御で位置調節できるのだから、少なくとも旅客機に対するミサイルへの対策の最終ラインは万全とも言える。そんな構想を巡らすジンの心はどこまでも澄み渡り、指示も軽快だ。

 『なら、急ごう。このまま降下するね?』
 『おぅ。それでソフィア? 破片を持ってこれたら、デコイおとり用にステルスシールドで包んで、ヤツらが飛来してくる9時方向に浮かべたい』

 旅客機の守り手だから、機内の者が適任で、魔力量も潤沢で魔力操作も秀逸とくれば、ソフィア以外の適任者はいない。絶大なる信頼をもって対策を依頼する。

 『あー、なるほど。戦闘機方向の少し手前に敷き詰めて、ロックオンを誤らせたり、ミサイルの手前に憚る物理的なバリアになるってことね?』

 言葉少なめの指示だったが、聡明なソフィアには充分伝わっていることに喜びを感じつつ、その小気味良さはジンの思考を更に加速する。今行おうとしている対策をより安全確実にするには対応者は多いほうが良いし、その分負荷も軽減できるから、もう一人追加すべくイル登用を打診する。

 『正解! 理解が早くて助かる。あとイルにも分担できればお願いしたいな』
 『イル了解です。ただイルが扱えるのはたぶん3つくらいが限度かもです』

 ジンからの指名なればと嬉しさにほくそ笑むイル。ただ、経験不足ながらも器用に魔力操作できている自覚はあるものの、大任過ぎる予感とジンからのオーダーは失敗したくない思いから、ある程度余裕を持ってなんとかできそうな個数を付け足す。

 『あぁ、それでも助かる。イルもコックピットに移動して機首寄りの3つを頼めるかな?』
 『イル了解です』

 心うちでは、おぉぉぉ、と唸りながら身も心も奮い立つイル。小学生ならば当然過ぎることだが、アクチュアルなミッションが示され、内容を解きほぐし、自身の意見を述べて、統合されたオーダーに向かう、そんなまるで映画のワンシーンのようなやりとりを交わす自分と、その格好良さにウットリしてしまうイルだった。

 『パパァ? まだけっこうザクザク浮いてる。この尾翼くらいの大きさならいいよね?』

 一方、自然体で粛々と作業をこなすマコト。ジンとのさまざまな掛け合いを重ねながらの共同作業は慣れたもので不安も少ないからか、一切の気負いなく次々に片づけてゆく。肝心の場面ですべき判断ジャッジメントは基本すべてジンに丸投げだ。

 『あぁ、そのくらいなら問題ないな。適当に見繕って拾い上げてくれ』

 マコトへの作業指示を言い終わるのを遮るように、ソフィアからの急報が割り込む。

 『ジン? 10時、35マイル切ったわよ?』
 『わかった。急ぐよ』
 『マコト? 時間があまりないから、適当なところで切り上げよう。何個になった?』

 『うーん、14個かな? じゃあ、一挙に拾い上げるね?』
 『あぁ、頼む。うん。数も大きさは申し分ないね。ありがとうマコト。それからソフィア? 破片達が認識できたら、ひとつずつ配置を頼む』

 『わかったわ。この3つはイルちゃの分ね? 9時方向の少し間を空けたところに壁を作る感じで前側の3つを担当してね? ただ、垂直に立てるのは攻撃を受ける直前で、待ってるときは水平よ? そうじゃないとコントロールが難しくて気疲れしちゃうし、一歩間違うとこの飛行機にぶつかっちゃうからね? あと、この飛行機が時速500kmくらいで進んでるから、前向きの力の調整も難しいからね?』

 『イル了解です。配置はこんな感じですか?』
 『OKよ。とても上手ね、イルちゃ。ジン? イルちゃの3個、私の11個、配置完了よ』

 『了解。じゃあ、あとはオレ達の行動プランをどうするかだな、マコト?』
 『うん。でも手当たり次第に射出するしかないんだよね?』

 『ジン、大変! 纏まってた18機が6機ずつ3つに分かれたわ。大体30マイルよ』
 『そうか、厄介だな。おそらくそのひとつは後方象限に占位するから回り込むのに時間がかかるとみて後回しだな。マコト? まずは互いの接近速度の分だけ先に接敵する前方象限のグループを先に片そう。かなり遠いからこっちも遠征するしかないな。ソフィア? 思いっきり離れて念波が途絶えるかもだけど、もしもミサイル発射されたらデコイで防いでくれるか?』

 『わかったわ。気を付けてね』
 『おぅ、すぐに戻るよ』

 『マコト? さっきのようなオーラに気付くやつがいたら困るから、上空から回り込んで、敵の背後上空に占位してから射出作戦を決行したいが、問題ないか?』
 『うん。大丈夫。それでいこう』

 『わかった。えぇと、ソフィア? 今何マイルくらい?』
 『えと、11時25マイル、9時半22マイル、7時18マイル、それぞれ6機ずつよ』
 『わかった。まさか3方向から一斉発射のつもりか? いやそれはマズいぞ。急ごうマコト。ヤツらが体制を整える前に。こんな数が一度にきたら、皆で頑張ったって防ぎきれない』
 『うん。急ごう!』

 ジンとマコトは、旅客機の12時方向の約18マイルの位置付近まで進出する。随分と旅客機から離れた位置だ。すると10時方向のまだ遠方だが、それらしき機影が見えてきた。

 『ん? あれだな? げっ、マジか。F-15だぞ。うぇ! しかもまた二手に分かれた。ヤバいヤバいヤバいヤバい。マコト? 左側の3機、任せて大丈夫か?』

 『え? うん。まだ機動大きくないからひとりでいけるけど、マコ達また分かれるの?』

 『あぁ、右側象限は何の守りもなくて、急いで叩かなきゃだからここで分かれよう。あとF-15は世界最強と言われるが、空中戦じゃないからそこは心配してない。ただオレ達の場合、脅威はミサイルの積載マウント数だ。確か8発あるから、見逃すと後々厄介だ。気を付けてな?』

 『うん。わかった。早く終わらせてパパに合流するよ!』

 『わかった。後でな』

 そうしてジンは旅客機の右側象限へと展開する3機のF-15に向けて飛翔していく。

 言葉にはしなかったが、相手がF-15と知り、圧倒的な武装量が一挙に襲い掛かるこの局面。どうにかできるレベルではないことを肌で感じ、震え、心折れる絶対的窮地に『無理』の二文字が脳裏をよぎる。

 いや、最期まで諦めない。後方の機種は不明だが、このF-15よりは劣るなら、ソフィア達で守れる可能性だってある。だがここで1機でも逃せば活路は絶たれたも同然。この身が滅ぼうと、せめてマコトとソフィア達だけは守りたい。そんな決死の覚悟で挑むジン。

 マコトの電撃や同時多数の分身が放てるならまだ余裕を持てるが、ジンには単機破壊しか方法が見いだせない。しかも3機なら、攻撃に気付いた他機が応戦してくる。非常に厄介だ。

 ジンはまずリーダー機を含む2機の同時無効化を決意。3機のデルタ編隊フォーメーションの背後上空に占位する。リーダー機の左側主翼と、左側僚機の右側主翼に狙いを定める。さぁ、作戦開始だ。

「よし! やるぞ!」

 どが、どがっ。

 ジンは、両手の如意棒を一気に伸長して主翼に突き刺し、突き破る。その衝撃と破損により、大きくバランスを崩した両機は、互いに寄り合い接触する。

「う、うまくいったか? よし、もう一機だ」

 これで飛行継続はできない筈だから、とすかさず如意棒を抜いて、ジンは3機めに目を向けるが、既に異常を検知した3機めは編隊から離脱し、こちらを伺う構えとなっている。

「クソォ、身構えられるとやりにくい」

 しかし3機めには、ステルスシールドで身を隠すジンの姿は見付けることができない。如意棒だって、透過率100%だから、その打突があったことすら気付けないはず。おそらく何かのアクシデントでバランスを崩した結果だと思っているだろう。

 接触の2機は、異常な交錯に継続不能と判断、それぞれ緊急脱出ベイルアウトを試み、無事成功する。主を失った両機は、主翼が折れ、漏れ出す燃料に引火、爆発炎上しながら落下していく。

 ちょうどそのときマコト側の射出作戦も成功し、3機とも緊急射出ベイルアウトに成功したようだ。

 ジンは残る3機めの背後上空への占位を目論むが、別の緊急射出ベイルアウトを見ればこそ、さすがに察した最後のF-15。右往左往から一転、大きな機動で旅客機の12時方向へ離脱を図る。

「さすがに気付くよな。あれを捉えるのは骨が折れるが、1機だけなら何とか……」

 急旋回ハードターンを繰り返し、必死に足掻くF-15。その土俵で食らいつくなら、激しい機動にある機体との接触の危険や、何より強烈なGに耐えられない。ジンは行動範囲の内側、少し高めに占位し機を窺う。やや疲労気味の旋回の切れ目でなんとか主翼のホールドに成功し、自身を引き寄せ、F-15の背中、コックピットのやや後方位置にそっと張り付く。

 だが、思いのほかうまくいきすぎるこの状況に、ジンは欲をかいてしまう。

 F-15の最後の1機だから、他から攻撃されることはない。死角にある今ならば、このF-15からのガンもミサイルも向けられる心配はなく、パイロットをどうにでもできそうだ。その上でもしもパイロットを気絶させられたなら、この世界最強の戦闘機で他の戦闘機も追い払えるのではないかとの考えに心が傾倒していくジン。残る12機もの戦闘機への同時対処の困難さは想像を絶する。数の原理はもとより、一発受けた時点で皆の人生は終了してしまう。

 そう思案した一瞬のこと。何を血迷ったか、パイロットは突然エアブレーキを作動させる。

 多くの戦闘機はその腹部に急減速のためのエアブレーキを備える。しかしF-15のエアブレーキはちょうどジンが張り付いた背中部分で上方に開く仕組みだ。ジンは前上方に押し上げられたうえ機体は急減速するため相対的にF-15の前方位置に放り出される。

「し、しまった。今離れたら……あ、あれは射出レバー、あれさえ引けば……」

 ジンは上方に放り出されながらもコックピット内に目を配り、緊急射出レバーを確認、と同時にオーラの触手を伸ばして、即引き上げる。パイロットは意に沿わぬ減速動作に重ねて、射出レバーの異常作動を目の当たりにして軽いパニックに陥ったのか、20mmバルカン砲のトリガーを一瞬引いてしまう。秒間100発の性能を誇るバルカン砲ならほんの一瞬でも数10発は発射してしまう。と、次の瞬間には、緊急射出の動作によりキャノピーを突き破っていった。

 ガガッ。バリン、ドシュン……。

「ぐはっ!」

 凶弾はジンに向かう。さすがの硬質化シールドも1層のみでは至近距離からの20mm砲の砲撃には耐えられない。パリンと割れ、それによる緩衝と弾道の逸れは生じたものの、その数発がジンの脇腹を掠める。拳銃とは違い、20mm砲なら掠めるだけでも散弾銃よりもひどい致命傷となる。脇腹部分がごっそり抉れ、内蔵がひどく損傷しつつも、身体全体が吹き飛ぶまで至らなかったことは不幸中の幸いだが、血飛沫が激しく飛び散り、血液は大量に失われる。

 ジンは、激しい痛みに襲われるとともに、どんどん体力は失い、ひどい寒さに襲われる。直ぐにシールドを張り直したものの、一瞬でもマイナス50度の大気に晒されたから尚更だ。その薄れゆく意識の中で、最後の力を振り絞り、念波に乗せる。

 『マコト、済まない。パパは……し、しくじった……み……たいだ……』

 ただならないジンの口調に異常事態を認識するマコト。

 『え? パパ? いゃーーーーっ』

 信じがたい事態が起こってることに震撼し、ひたすら混乱し、ガクガク、ブルブル、わなわなと、身体も感情もひどくかき乱れる。心はひどく動揺し、すべき行動が定まらない。

 『ママ…たち……たの…む……』

 ああ、そうか、と、今すべきこと、ソフィア達を守るということ、それを脳裏のやるべきリストに置くマコト。いや、それも重要だが、今今のやるべきことは、もっと大事な最優先事項はジンの命。ジンの救出だ。と、やっと動揺を振り切れたマコトだった。
 ギリギリ念波が届き、尋常ならざる事態を感知したソフィアが問いかける。

 『え? ジン? 何があったの? マコちゃ? ジンは?』
 『今探してる……』

 今は何を置いても優先すべきはジンの命。ソフィアの問いかけに言葉少なく返す。マコトは目を見開き、必死の形相でジンのいたらしき方向を探すと、落下するF-15の近くに……。

 『いた! パパ、今行く。よくもパパを……』
 『よかった。ジンをお願い。助けて、マコちゃ!』
 『ん』

 浮揚もままならないほど傷ついているのか、力なく落下していくジンの元へ超高速で移動、キャッチし、旅客機から離されないよう浮上しながら、シールドで包み直し温め抱きしめる。

 脈は殆ど感じられず、その一瞬一瞬、著しく下がり続ける体温。負傷した脇腹は内蔵が露見し流血痕が痛ましい。一瞬でもマイナス50度の超冷気に晒され凍りかけていたから尚更だ。

 ここでソフィアの癒しは得られない。今繋ぎ止めなければジンの命の灯火が消えてしまう。覚えたての癒しと共に口付け。自分のエネルギーを分け与えたくて願いを込めて必死に祈る。

「お願い! マコのエネルギー届いて!」

 血は止まっているが、癒しの効果かはわからない。肝心なことはジンの意識が戻らず、負傷部がただならない状態ということ。旅客機に戻っていては絶対に間に合わない。なんとか損壊部を再生か、壊死させない手当てが必要だ。だが、臓器の再生なんて、そんなこと、どうやって? っと、そんな思考がぐるぐると渦巻きながら、癒しを掛け続けるマコト。

「パパ、パパ、パパ、死なないで。お願い。また抱きしめてくれるって約束でしょう?」

 弱く絶え絶えな呼吸間隔はさらに開いていく。人口呼吸で大きく息を吹き込むも反応は皆無。

「デラックスなスウィーツを食べさせてくれる約束もまだだよ? まだまだ教えてもらうことはたくさんあるんだよ? お願い、帰ってきて!」

 必死に語りかけるが反応を示さない。呼吸はもうしていないに等しい。無情にも体温低下も止まらない。鼓動も感じられず、ついには手足から力が抜け出たようにダランと垂れ下がる。

 この状態は、誰が見ても、今際のとき、とそんな言葉が頭をよぎり、医者がいたなら、御臨終です、と告げられる、そんな末期の状態となっていた。

「ぅぅぅ……そんな、うそでしょ? イヤだよ、パパ待って! まだ早いよ!」

「…………ぃゃやぁーーーーーーっ!!」
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