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第16話 拘束と尋問
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ファーストクラスのブロックに戻ると、待ちくたびれたソフィアとマコトは既にその豪華なシートに腰掛け寛いでいた。ジェイムズは市長を連れてくるために客室に戻っていく。
「あら? ジン、お帰りなさい。意外に早かったのね? こちらのシート、なかなか快適だったわぁ。でも、そう、もう自分の席に戻るということなのね?」
王室を離れてからはゴージャスな設備に触れることすらなかったソフィア。もちろん質素な暮らしに不満などないが、不意に豪華なものに触れる機会が訪れ、甦る懐かしい感覚に、うっかり名残を惜しんでしまう。おまけにバタバタと忙しく過ごした数日の身体の凝りを解すのに最適な柔らかさの、ベッドにも近いリクライニングシートだったことも嬉しかったようだ。
「あぁ、それが、機長から要請を受けたからこのままここにいていいよ。ここで尋問と拘留を行うジェイムズ達を増強するために、うちの一行もここに移動して欲しいとの意向でね」
「え? ほんとなの? えへへ、それは嬉しいわ。まだまだ時間はたっぷりあるものね」
「ぃゃったぁ! マコも嬉しぃー! パパァ、気持ちいいよ、このシート。それにほら、スイッチでいろんな変化もするし、テレビも付いてる。新しいアニメもやってるよ!」
マコトはマコトで、目新しい仕組みのシートが楽しくて仕方ないらしい。
「そうか良かったな2人とも。そんなわけだからマコト? イル達を連れてきてくれないか」
「え? 念波で呼べばいいんじゃない?」
「お? おぉ、そうか、そうだったな。あ、でもそれだけじゃなくて、マコトは、ジェイムズ達と合流して、さっきの二人組を叩き起こして、連れてきて欲しいんだ。寛いでいるところを申し訳ないが、頼まれてくれないか? 彼らにも聞かなきゃいけないことがあるんだ」
「うーん、そっかぁ、マコが教えてあげないとジェイムズさん達にはわからないかぁ。わかった。二人組がどの人かを教えれば、後はジェイムズさん達が連れてくるってことだね?」
「その通り。あ、彼らの通信機かもしれない荷物も忘れずにね?」
「りょ」
マコトが飛び出すのを見届けて、ジンはイルに話しかける。
『イル、聞こえる?』
『はい、イルです。後部座席異常なし』
任された仕事をきっちりこなしているイルを微笑ましく思いながら、ファーストクラスへと誘うジン。
『あ、ご苦労さま。警備はもういいから、ケインを連れてコッチにおいでよ。拘束してる犯人達の見張りを兼ねて、機長がファーストクラスを使っていいとのことなんだ』
思いがけない言葉に驚きが止まらないイル。事態が飲み込めた後、興奮気味に返す。
『え? ファファファ、ファーストクラスゥ? でで、ですかぁ? い、行く行く! 行きたい! ちょ、ちょっと待っててください。お母さんを起こしてすぐ行きますね。ふんふん』
『ふふふ。もぉ、可愛いね、イルは。待ってるよ』
ふいにジンの特殊効果付き念波が炸裂する。特にイルはジンを崇拝する傾向にあるからこそ、余計に効果が高そうだ。
『はぅ。き、来たぁ、パパのダイナマイト級攻撃~。はにぁ~、こ腰が。く砕けそう……』
『出たぁ、パパのドキドキトークが炸裂しちゃったよ。イル、大丈夫?』
『あ、マコちゃん? だだ、大丈夫だけど、少し遅れるかも?』
ファーストクラスへの興奮すら凌駕する特殊効果付き念波を放つジンに、マコトが釘を刺す。
『わかった。ゆっくりおいで。もぉパパダメじゃない。イルには刺激が強すぎるかもだよ』
『ご、ごめん。そんなつもりはなかったんだけど、自重するよう気を付けるよ』
ジンにとっては無自覚の発話。あからさまな影響の大きさに自重宣言するが、イルは慌てる。
『や、いや、そそそ、それだけは……た、耐えられるようになるから、自重しないでパパ。イルは投げかけて欲しいもの。イルは強くなるから!』
『そ、そう? そういう前向きなところもイルらしくて可愛いね?』
やはり無自覚なジン。思うとそのまま発話となる念波だから、なかなか制御が難しいようだ。
『ぐはぁ。うぅぅぅ、頑張ります。うん、踏みこらえたよ。イ、イルは強くなったよ!』
『ふふふ。見えないからわからないけど、プルプルしてるイルちゃが想像できるわ。ジンもほどほどにね? イルちゃが来れなくなっちゃうわよ?』
『わ、わかった』
それから、ほどなくしてジェイムズ達とマコトと不審者2名が到着する。市長には席に着いてもらい、ジェイムズは2人の尋問を始める。
2人によると、マコトの推測通り、今日はモールス信号による報告役として搭乗したとのこと。ただし、犯人達が、何をしようとしているのかは知らされていなかったらしい。ただ、テロ組織のやることなので、おそらくハイジャックであることは想像していたが、テロ組織に捕らえられて、腹に爆弾を仕込まれたため、逆らうわけにいかなかったとのこと。この飛行機はそのままいくと墜落させられるはずだったこと、それが失敗しても爆破される運命にあったことを告げると、ガタガタ震えながら涙を浮かべていた。
そうしてるうちにケインとイルが到着する。ケインはソフィアのサポートでシートに着く。
「こ、これがファーストクラスの超豪華シートなのね? なんという座り心地なの? きっと最初で最後の体験かもしれないから満喫しなきゃだわ。うふふん」
ケインは初めてのファーストクラスのシートにご満悦そうだ。この数日ろくに睡眠がとれなかったケインにとっては誘い水のように、あっという間に熟睡状態となっていた。
「ケインはお疲れだからソッとしておこう。イルは先に手伝って欲しいことがあるんだけど」
「はい、お役に立てることなら何でも言ってください!」
「もぅ、うちの子達は、なんて可愛いんだろうか? いつも助かるよ!」
「ぃへへへ、パパの生声は、破壊力はそれほど無いけどジンワリ染み入るねぇ、マコちゃん」
生声はそうでもないらしいイル。ふと別のアイデアが浮かんで仕掛けてみる策士マコト。
「そだねぇ。アッチはアッチで、コッチはコッチでくすぐられちゃうから、いつの間にかこき使われてるんだけどね、パパ?」
「そ、そんなことはないよ? マコトもイルもその特殊なスゴい才能を認めてるからだよ?」
ジンが話に乗ってきたところで、さらにひねりを入れるマコト。
「うーん。確かに本心で言ってくれてるのはわかる。でもいつの間にかうまく乗せられてたことに、ハッと気付くのも確か」
「あぁ、そういえばそんな気も……でもイルはパパのお願いなら一生懸命にやってあげられるよ?」
イルも策に乗りそうだったが、一転、素朴な思いを投げる。ならばとマコトは方向修正だ。
「まぁ、マコもそうなんだけどね? それでもバトルだったり、魔法の修練だったら面白いし、自分のためにもなるんだったら全然いいんだけど、なんか最近、単純作業の繰り返しだったり、そのくせ、クォリティというか要求だけ高かったりで、なんだか割に合わないというか……」
「あぁ、そうだな。すごーく感謝してるけど、ご褒美も何もないんじゃな。じゃあ、日本に着いたら好きなアイス、パフェでも何でもごちそうしてあげるよ? それならどう?」
マコトは違う意味で聡く成長していた。実はしてあげることに全く嫌な気持ちなどなく、ジンからのお願いならむしろ全て無償でも何も惜しいことはないのだが、イルもそれだとかわいそうな気がしたことと、目の前にニンジンをぶら下げて貰えるならイルと共通の励む目標ができるのは何かと都合がいい。また以前から交渉により何かを引き出すスキルを身に付けたいとも思っていたから、ちょうど手頃な機を捉えての交渉話術にもなる。結果として、スウィーツという大きな戦果に小さなガッツポーズと勝ち誇る笑みをコッソリ浮かべるマコトだった。
「わぁ、それならチョコパフェ食べたい! じゃあ、それでいいんじゃない? マコちゃん」
「そだね、それなら、ま、いっか? 日本に着いたら、一番ゴージャスなパフェがいいな」
「OK。いいよ。S国には、そんなものがほとんどなかったからな」
スウィーツ談義に花が咲く。甘いものを思い浮かべただけでとろけそうな瞳のイル。
「そうそう。久し振りの日本のスウィーツ。イル、ほっぺた落ちちゃうかもよ?」
「そ、そんなに? ヤバい。今からドキドキしてきちゃった。あれ? よだれ出ちゃうよ」
「アハハハ。イルがびっくりして喜ぶ顔が楽しみだな? はい。じゃあお仕事を頼むよ」
「ハーイ」
ひとまずイルには光を一切通さないアイマスクを、マコトには耳栓ではなくヘッドホンのような耳を丸ごと優しく覆うが、キッチリ音を遮断するものを人数分作成してもらう。
「あとイルは紙オムツみたいな吸水性のものは作れる? 最悪綿みたいなものでもいいけど」
「あぁぁ。紙オムツは作ったことは無いけど、生理用のショーツに少しだけ取り組んだことがあって、まだまだ不完全だけど、多少の吸い取り素材みたいなものならできるよ?」
「あぁ、それで充分。日本までまだまだ時間がかかるから、不格好でもかまわない、分厚い大人用オムツを人数分仕立ててくれるかな?」
「この人達用なの?」
「そう。ふつうならトイレに行かせてやりたいところだけど、そこが一番突かれやすい隙だと思うから、トイレという手段を排除したいんだ」
「なるほど」
そのあとイルは、作成しては淡々と装着していき、監視役以外の犯人用はすべて完了する。監視役は水に浸かるらしく不要とのことだった。中には臭う人もいて、病気を持っていないとも限らないため、最後に手洗い殺菌消毒を徹底して、オムツ装着作業はすべて完了だ。
続いて犯人達の拘束用空間の作成だ。いくら犯人とはいえ転がしたまま何時間も放置は可哀想なことと、大人数で踏み場もない密着度では死角が生じて新たな反撃の種を生みかねない。よくある衣服ロッカーくらいのギリギリ一人用の扉付き空間をマコトに作成してもらう。特徴はシースルーで立ったままだが腕とお尻を置ける出っ張り付きなら少しは改善されるだろう。
もう一つ。監視役には身動きを完全に封じるピッタリ仕様だ。顔部は露出し、以外は完全密閉で水を流し込んで電気系の異能を封じる。最も危険なヤツには僅かな自由も許容しない。
それぞれ作成が完了し監視役から順に封入していく。全員の封入が終わると次は尋問開始だ。詳細な尋問は到着後に本職が本格的にやるから、ここでは識別できる名称や目的等に留める。
監視役以外から尋問を開始、順調に聴取は進み、終わると視覚聴覚を遮断して拘留状態に戻す。最後は気を失ったままの監視役の男だが、これ以上待つ気はなく無理やり叩き起こす。
「おい、起きろ!」
監視役の男は、知らなかったとはいえ、マコトの中の眠れる獅子を叩き起こしてしまったせいで、死の淵まで追い込まれ業火に焼かれる体験までした。死なせぬよう無理矢理蘇生したものの、身体は衰弱していたり、ふつうなら発狂してもおかしくないくらいの心のダメージを負っている可能性が高い。そういう最悪なパターンも想定しつつ男の頬を軽く叩く。
「ん、ふぅ、んん?」
「お? 起きたか?」
「ん? 夜か? あぁ、目を塞がれてるのか? 身体も動かせなくなってるな。拘束されてるのか? 何か怖い夢を見ていたような……ん、ぅ、うわぁぁぁぁぁ、熱い熱い……ハァハァハァ、いや、今は熱くない。我は焼かれ爛れて死んだはず。ここは死後の世界なのか?」
目が覚めた男は、不意に蘇る闘いの記憶から、業火に包まれた状況に行き着いたようだ。
「いや、確かにおまえは焼け焦げて、死んだも同然の状態だったが、蘇生と治癒で引き戻してなんとか生きている状態だ。まだどこか痛いのか?」
「いや、痛いところは……あゎゎゎゎ……記憶が甦っ……ふ、震えが止まらない……ヴヴヴ……あ、あの幼き少女は神の使いなのか?」
男はガタガタ震えながら、心の芯から恐怖を絞り出すように、次々と吐露していく。
「我が人を殺しすぎたことを怒って罰を下そうと舞い降りたのか? 恐ろしい、実に恐ろしい。我は死ぬことなど恐いと思ったことはない。この世に執着などないし、どうせ痛みなど一瞬のことだからだ。だが、業火に焼かれるなど、狂気の沙汰だ。生きながらにして焼かれるなんて。信じられない熱さ。焼ける音。一秒だって耐えられないのに、全身に止むことのない狂気の痛みをこれでもかとばかりに、何度も何度も何度も何度も叩きつけられる。恐ろしい。恐ろしい。あれほどの苦しみを経て、なぜ我は生きている? はっ、まさかまた同じ苦しみを味合わせようとしているのか? そうか、そうなのか? いや、そうに決まってる。そのために生き返らせたんだな。またあの狂気を味わうのか? いやだ、イヤだ、無限地獄なんて気が狂いそうだ。死んだ方がマシだ。よし、我は死……」
「待て!」
男は自害するために舌を噛み切るつもりだ。いち早く察したジンは、自害防止用の棒状のものを突っ込む。
「……ぬ、ぐがごごっ、ひゃぇぉ、ひゃぁぅぅぁ」
「勝手に死ぬことは許さない!」
ジンはオーラの帯を口に巻き付ける。が、身動きが取れない中で暴れようとしているのか、ガタガタと煩く、その激しさも増していく。そんな激しさの中で監視するのも大変だが、激しさにより、どこかに緩みが生じるのも思わぬ展開を引き起こしそうなため、可哀想だが黙らせることにした。ジンはオーラの触手を強く一発お腹にぶち込む。
「ぐほっ」
男は再び気を失い、静かな状態となった。
「これ以上、この男の尋問は無理か。到着して引き渡す頃には少しは落ち着くだろう。今は勝手に自害しないように注意を配ることに専念するか」
「そうだな」
監視役の男の尋問は諦めたが、他の犯人達への一通りの尋問は無事に終えることができた。
「あら? ジン、お帰りなさい。意外に早かったのね? こちらのシート、なかなか快適だったわぁ。でも、そう、もう自分の席に戻るということなのね?」
王室を離れてからはゴージャスな設備に触れることすらなかったソフィア。もちろん質素な暮らしに不満などないが、不意に豪華なものに触れる機会が訪れ、甦る懐かしい感覚に、うっかり名残を惜しんでしまう。おまけにバタバタと忙しく過ごした数日の身体の凝りを解すのに最適な柔らかさの、ベッドにも近いリクライニングシートだったことも嬉しかったようだ。
「あぁ、それが、機長から要請を受けたからこのままここにいていいよ。ここで尋問と拘留を行うジェイムズ達を増強するために、うちの一行もここに移動して欲しいとの意向でね」
「え? ほんとなの? えへへ、それは嬉しいわ。まだまだ時間はたっぷりあるものね」
「ぃゃったぁ! マコも嬉しぃー! パパァ、気持ちいいよ、このシート。それにほら、スイッチでいろんな変化もするし、テレビも付いてる。新しいアニメもやってるよ!」
マコトはマコトで、目新しい仕組みのシートが楽しくて仕方ないらしい。
「そうか良かったな2人とも。そんなわけだからマコト? イル達を連れてきてくれないか」
「え? 念波で呼べばいいんじゃない?」
「お? おぉ、そうか、そうだったな。あ、でもそれだけじゃなくて、マコトは、ジェイムズ達と合流して、さっきの二人組を叩き起こして、連れてきて欲しいんだ。寛いでいるところを申し訳ないが、頼まれてくれないか? 彼らにも聞かなきゃいけないことがあるんだ」
「うーん、そっかぁ、マコが教えてあげないとジェイムズさん達にはわからないかぁ。わかった。二人組がどの人かを教えれば、後はジェイムズさん達が連れてくるってことだね?」
「その通り。あ、彼らの通信機かもしれない荷物も忘れずにね?」
「りょ」
マコトが飛び出すのを見届けて、ジンはイルに話しかける。
『イル、聞こえる?』
『はい、イルです。後部座席異常なし』
任された仕事をきっちりこなしているイルを微笑ましく思いながら、ファーストクラスへと誘うジン。
『あ、ご苦労さま。警備はもういいから、ケインを連れてコッチにおいでよ。拘束してる犯人達の見張りを兼ねて、機長がファーストクラスを使っていいとのことなんだ』
思いがけない言葉に驚きが止まらないイル。事態が飲み込めた後、興奮気味に返す。
『え? ファファファ、ファーストクラスゥ? でで、ですかぁ? い、行く行く! 行きたい! ちょ、ちょっと待っててください。お母さんを起こしてすぐ行きますね。ふんふん』
『ふふふ。もぉ、可愛いね、イルは。待ってるよ』
ふいにジンの特殊効果付き念波が炸裂する。特にイルはジンを崇拝する傾向にあるからこそ、余計に効果が高そうだ。
『はぅ。き、来たぁ、パパのダイナマイト級攻撃~。はにぁ~、こ腰が。く砕けそう……』
『出たぁ、パパのドキドキトークが炸裂しちゃったよ。イル、大丈夫?』
『あ、マコちゃん? だだ、大丈夫だけど、少し遅れるかも?』
ファーストクラスへの興奮すら凌駕する特殊効果付き念波を放つジンに、マコトが釘を刺す。
『わかった。ゆっくりおいで。もぉパパダメじゃない。イルには刺激が強すぎるかもだよ』
『ご、ごめん。そんなつもりはなかったんだけど、自重するよう気を付けるよ』
ジンにとっては無自覚の発話。あからさまな影響の大きさに自重宣言するが、イルは慌てる。
『や、いや、そそそ、それだけは……た、耐えられるようになるから、自重しないでパパ。イルは投げかけて欲しいもの。イルは強くなるから!』
『そ、そう? そういう前向きなところもイルらしくて可愛いね?』
やはり無自覚なジン。思うとそのまま発話となる念波だから、なかなか制御が難しいようだ。
『ぐはぁ。うぅぅぅ、頑張ります。うん、踏みこらえたよ。イ、イルは強くなったよ!』
『ふふふ。見えないからわからないけど、プルプルしてるイルちゃが想像できるわ。ジンもほどほどにね? イルちゃが来れなくなっちゃうわよ?』
『わ、わかった』
それから、ほどなくしてジェイムズ達とマコトと不審者2名が到着する。市長には席に着いてもらい、ジェイムズは2人の尋問を始める。
2人によると、マコトの推測通り、今日はモールス信号による報告役として搭乗したとのこと。ただし、犯人達が、何をしようとしているのかは知らされていなかったらしい。ただ、テロ組織のやることなので、おそらくハイジャックであることは想像していたが、テロ組織に捕らえられて、腹に爆弾を仕込まれたため、逆らうわけにいかなかったとのこと。この飛行機はそのままいくと墜落させられるはずだったこと、それが失敗しても爆破される運命にあったことを告げると、ガタガタ震えながら涙を浮かべていた。
そうしてるうちにケインとイルが到着する。ケインはソフィアのサポートでシートに着く。
「こ、これがファーストクラスの超豪華シートなのね? なんという座り心地なの? きっと最初で最後の体験かもしれないから満喫しなきゃだわ。うふふん」
ケインは初めてのファーストクラスのシートにご満悦そうだ。この数日ろくに睡眠がとれなかったケインにとっては誘い水のように、あっという間に熟睡状態となっていた。
「ケインはお疲れだからソッとしておこう。イルは先に手伝って欲しいことがあるんだけど」
「はい、お役に立てることなら何でも言ってください!」
「もぅ、うちの子達は、なんて可愛いんだろうか? いつも助かるよ!」
「ぃへへへ、パパの生声は、破壊力はそれほど無いけどジンワリ染み入るねぇ、マコちゃん」
生声はそうでもないらしいイル。ふと別のアイデアが浮かんで仕掛けてみる策士マコト。
「そだねぇ。アッチはアッチで、コッチはコッチでくすぐられちゃうから、いつの間にかこき使われてるんだけどね、パパ?」
「そ、そんなことはないよ? マコトもイルもその特殊なスゴい才能を認めてるからだよ?」
ジンが話に乗ってきたところで、さらにひねりを入れるマコト。
「うーん。確かに本心で言ってくれてるのはわかる。でもいつの間にかうまく乗せられてたことに、ハッと気付くのも確か」
「あぁ、そういえばそんな気も……でもイルはパパのお願いなら一生懸命にやってあげられるよ?」
イルも策に乗りそうだったが、一転、素朴な思いを投げる。ならばとマコトは方向修正だ。
「まぁ、マコもそうなんだけどね? それでもバトルだったり、魔法の修練だったら面白いし、自分のためにもなるんだったら全然いいんだけど、なんか最近、単純作業の繰り返しだったり、そのくせ、クォリティというか要求だけ高かったりで、なんだか割に合わないというか……」
「あぁ、そうだな。すごーく感謝してるけど、ご褒美も何もないんじゃな。じゃあ、日本に着いたら好きなアイス、パフェでも何でもごちそうしてあげるよ? それならどう?」
マコトは違う意味で聡く成長していた。実はしてあげることに全く嫌な気持ちなどなく、ジンからのお願いならむしろ全て無償でも何も惜しいことはないのだが、イルもそれだとかわいそうな気がしたことと、目の前にニンジンをぶら下げて貰えるならイルと共通の励む目標ができるのは何かと都合がいい。また以前から交渉により何かを引き出すスキルを身に付けたいとも思っていたから、ちょうど手頃な機を捉えての交渉話術にもなる。結果として、スウィーツという大きな戦果に小さなガッツポーズと勝ち誇る笑みをコッソリ浮かべるマコトだった。
「わぁ、それならチョコパフェ食べたい! じゃあ、それでいいんじゃない? マコちゃん」
「そだね、それなら、ま、いっか? 日本に着いたら、一番ゴージャスなパフェがいいな」
「OK。いいよ。S国には、そんなものがほとんどなかったからな」
スウィーツ談義に花が咲く。甘いものを思い浮かべただけでとろけそうな瞳のイル。
「そうそう。久し振りの日本のスウィーツ。イル、ほっぺた落ちちゃうかもよ?」
「そ、そんなに? ヤバい。今からドキドキしてきちゃった。あれ? よだれ出ちゃうよ」
「アハハハ。イルがびっくりして喜ぶ顔が楽しみだな? はい。じゃあお仕事を頼むよ」
「ハーイ」
ひとまずイルには光を一切通さないアイマスクを、マコトには耳栓ではなくヘッドホンのような耳を丸ごと優しく覆うが、キッチリ音を遮断するものを人数分作成してもらう。
「あとイルは紙オムツみたいな吸水性のものは作れる? 最悪綿みたいなものでもいいけど」
「あぁぁ。紙オムツは作ったことは無いけど、生理用のショーツに少しだけ取り組んだことがあって、まだまだ不完全だけど、多少の吸い取り素材みたいなものならできるよ?」
「あぁ、それで充分。日本までまだまだ時間がかかるから、不格好でもかまわない、分厚い大人用オムツを人数分仕立ててくれるかな?」
「この人達用なの?」
「そう。ふつうならトイレに行かせてやりたいところだけど、そこが一番突かれやすい隙だと思うから、トイレという手段を排除したいんだ」
「なるほど」
そのあとイルは、作成しては淡々と装着していき、監視役以外の犯人用はすべて完了する。監視役は水に浸かるらしく不要とのことだった。中には臭う人もいて、病気を持っていないとも限らないため、最後に手洗い殺菌消毒を徹底して、オムツ装着作業はすべて完了だ。
続いて犯人達の拘束用空間の作成だ。いくら犯人とはいえ転がしたまま何時間も放置は可哀想なことと、大人数で踏み場もない密着度では死角が生じて新たな反撃の種を生みかねない。よくある衣服ロッカーくらいのギリギリ一人用の扉付き空間をマコトに作成してもらう。特徴はシースルーで立ったままだが腕とお尻を置ける出っ張り付きなら少しは改善されるだろう。
もう一つ。監視役には身動きを完全に封じるピッタリ仕様だ。顔部は露出し、以外は完全密閉で水を流し込んで電気系の異能を封じる。最も危険なヤツには僅かな自由も許容しない。
それぞれ作成が完了し監視役から順に封入していく。全員の封入が終わると次は尋問開始だ。詳細な尋問は到着後に本職が本格的にやるから、ここでは識別できる名称や目的等に留める。
監視役以外から尋問を開始、順調に聴取は進み、終わると視覚聴覚を遮断して拘留状態に戻す。最後は気を失ったままの監視役の男だが、これ以上待つ気はなく無理やり叩き起こす。
「おい、起きろ!」
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「ん、ふぅ、んん?」
「お? 起きたか?」
「ん? 夜か? あぁ、目を塞がれてるのか? 身体も動かせなくなってるな。拘束されてるのか? 何か怖い夢を見ていたような……ん、ぅ、うわぁぁぁぁぁ、熱い熱い……ハァハァハァ、いや、今は熱くない。我は焼かれ爛れて死んだはず。ここは死後の世界なのか?」
目が覚めた男は、不意に蘇る闘いの記憶から、業火に包まれた状況に行き着いたようだ。
「いや、確かにおまえは焼け焦げて、死んだも同然の状態だったが、蘇生と治癒で引き戻してなんとか生きている状態だ。まだどこか痛いのか?」
「いや、痛いところは……あゎゎゎゎ……記憶が甦っ……ふ、震えが止まらない……ヴヴヴ……あ、あの幼き少女は神の使いなのか?」
男はガタガタ震えながら、心の芯から恐怖を絞り出すように、次々と吐露していく。
「我が人を殺しすぎたことを怒って罰を下そうと舞い降りたのか? 恐ろしい、実に恐ろしい。我は死ぬことなど恐いと思ったことはない。この世に執着などないし、どうせ痛みなど一瞬のことだからだ。だが、業火に焼かれるなど、狂気の沙汰だ。生きながらにして焼かれるなんて。信じられない熱さ。焼ける音。一秒だって耐えられないのに、全身に止むことのない狂気の痛みをこれでもかとばかりに、何度も何度も何度も何度も叩きつけられる。恐ろしい。恐ろしい。あれほどの苦しみを経て、なぜ我は生きている? はっ、まさかまた同じ苦しみを味合わせようとしているのか? そうか、そうなのか? いや、そうに決まってる。そのために生き返らせたんだな。またあの狂気を味わうのか? いやだ、イヤだ、無限地獄なんて気が狂いそうだ。死んだ方がマシだ。よし、我は死……」
「待て!」
男は自害するために舌を噛み切るつもりだ。いち早く察したジンは、自害防止用の棒状のものを突っ込む。
「……ぬ、ぐがごごっ、ひゃぇぉ、ひゃぁぅぅぁ」
「勝手に死ぬことは許さない!」
ジンはオーラの帯を口に巻き付ける。が、身動きが取れない中で暴れようとしているのか、ガタガタと煩く、その激しさも増していく。そんな激しさの中で監視するのも大変だが、激しさにより、どこかに緩みが生じるのも思わぬ展開を引き起こしそうなため、可哀想だが黙らせることにした。ジンはオーラの触手を強く一発お腹にぶち込む。
「ぐほっ」
男は再び気を失い、静かな状態となった。
「これ以上、この男の尋問は無理か。到着して引き渡す頃には少しは落ち着くだろう。今は勝手に自害しないように注意を配ることに専念するか」
「そうだな」
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