Jet Black Witches - 3飛翔 -

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第9話 爆弾の封じ込め

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 爆弾対策に向けコックピットを後にしたジン達。ジンはそれぞれのやるべきことを指示する。

「マコト? もう一度スキャンして、対象を特定し、ママに教えてあげてくれるか?」
「りょ」

「ジェイムズ? 犯人達を身体検査してくれるか? あと拘束をもう一度きっちりね?」

「了解した」

「じゃあ、オレは多重シールドにかかるか。ある程度の厚みがあれば、1枚でも拳銃の弾丸程度なら通さないくらい強いけど、超高速、超高温の隕石の場合は300層でも足りなかったんだよな。でも車を壊す程度の威力なら、爆発の威力や爆風のショック吸収のために多重階層が有効だと思えるから、いったん10層くらいか? うん。こんな感じかな?」

「よしちょっと実験。マコトがよく言う爆裂魔法でバスを爆破できる威力ならこれ位か?」

 直径70~80cmくらいの球状の空気をオーラで包み、5cm大くらいまで圧縮していく。

「アチチ。これを素早くシールド10層で包み、ふぅ、熱かった。外からオーラの触手でさらに急激に圧縮してねじ込む、てぃ!」

 ぽむっ!

「おぉ、音もそんなにしないけど1枚も割れないね。うん、これならいけそうかな?」

 マコトが音に反応してきょろきょろしていた。すると、ソフィアから呼びかけられる。

「ジン? ちょっと来て欲しいのだけれど」
「あぁ、今行く」

「……はい、来たよ。なにかわかった?」
「えぇ、確かに埋め込まれているわ。さっきのよりずっと小さくて、マッチ箱くらいかしら」
「心臓のペースメーカーとかではないの?」

「え? お腹の付近だし、身体の機能を補助するような仕組みにはとうてい思えないわよ。仕切のようなものを挟んで怪しい液体みたいなものが二つ」
「あぁ、それなら爆弾で間違いなさそうだな?」

「ええ、たぶん。でも小さい分、周りへの威力もそれほど大きくなさそうなの。察するに、おそらくこの爆弾の目的は、爆発で弾け飛ぶ肉塊を周囲の人に見せつけて、恐怖を煽ることが目的じゃないかしら? ただきっかけとなるのがタイマーなのか、リモートなのか、衝撃なのか、もしくは取り除こうとすると破裂するのか、くらいの予想はできるけど、じっくり調べないと詳細まではわからないから断定はできないところなの。ここからどうしたらよいかしら?」

 頭脳明晰なソフィアが尋ねてくるのは自信なさの表れだ。顔色もよくないし表情にも余裕がない。きっと不安で仕方がないのだろう。時間の猶予がない今、少しでも進めることが重要だから、不安を取り除きつつ、会話を重ねて良い方法を特定すべきとジンは考えた。

「ソフィアでも、皮膚を切らないと取り出すことはできないんだよね?」
「うん、そう。SF映画やアニメなんかのように、瞬間移動みたいなことができるならそれがいいんだけど、そんなの物理的に無理な話じゃない」
「その通りだな。でも、切って取り出した後の治癒はできるんだよね?」
「それは大丈夫よ」
「じゃあこうしよう。まずよく消毒したナイフで、一番近いところの皮膚をざっくり切ろう」

「次に、爆弾が露見したところでオレが消毒した両手をオーラで包んだ状態で突っ込み、爆弾を包み込むように触れるその瞬間にシールドで包み剥ぎ取る。爆弾は剥ぎ取りながら、できれば5層くらいのシールドを形成する。もしも剥ぎ取ることで爆発するのならシールドの内側だけでそれは完結し、爆弾処理も完了となる。一方、剥ぎ取られた側の部分は癒着が酷ければ、ほっとくと死に直結するぐらいのダメージを受ける可能性があるから、剥ぎ取る瞬間から治癒を始めて欲しい。そうすれば癒着も含めて在るべき正常な状態へと治癒していけると思う」

 一頻りやれるかもな方式を会話しながら導き出すが、ソフィアの不安は除けていないようだ。

「私にできるかしら?」
「あぁ、おそらく。血はいっぱい出ると思うから、ソフィアは怯まず恐れず治癒に専念してくれればいい。大丈夫。オレが付いてる」

 励ましながらも、自身の発した言葉を振り返るジン。いかに人智を超える力を振るえるとはいえ、医者ではないソフィアは血飛沫なんて見る機会はこれまでもなかったはずだ。いや、それ以上に臓器ひとつの扱いは、誤れば簡単に死に至るくらいデリケートなもののはず。あまりにも酷なことを要求していることにジンは今さらながら気付く。

「嫌ならこの人には関わらない、という選択もあるよ? その代わりにこの人は悲惨・壮絶な最期迎えることになるかもしれないけど、医者ではないソフィアに背負う義務なんてないのだから。ソフィアの選択を尊重するよ」

 技術も経験も整わない状況での命がかかる場面。普通なら背負えない選択をすると思われるが、ソフィアは違っていた。背負えないは、即ち見殺しにするということだからだ。

「いえ、やるわ。何もしないで非業の死を迎えるのなら、もしも失敗したとしても私の手で苦しまずに尊厳のある死を迎えたほうがこの人はきっと幸せなはず。それに私が失敗などするはずがないもの。きっと大丈夫」
「うん、よく言った。ソフィア、偉いぞ!」
「ええ」

 心を決めたソフィアは凜々しく美しい。今更ながらだが、強く、優しく、美しく、信じるものへの潔さ、こんなにも尊い存在であるソフィア。自分の妻ながら惚れ惚れする、そう思わずにはいられないジンだった。改めて愛していると、絶対に護りぬくぞと、そして共に生きて帰るぞと、心に固く誓うジンは、体内爆弾除去のやり方の妙案に辿り着く。

「でも少し考えてみると、やはりこのやり方には問題が多いと思うから少し方向転換しよう。ソフィアの中で葛藤したと思う部分をオレの中でも確認するうちに思い付いた妙案だが……」
「え? それはどんなこと?」

 決心はしたものの、そんな妙案があるのならと、期待を寄せるソフィア。

「あぁ、まず考える前提には、埋め込まれた爆弾を取り除くという一点が考えを支配していた。だからこそ、さっきも聞いたような切って取り出すしかないという方法に縛られたわけだ」
「そ、そうよね。でもそうするしか……」

 ジンの説明からは、まだ理解が及ばないソフィアは、気難し気な表情だ。

「そう、その固定観念が邪魔をしてたんだ。ソフィアはオーラの触手のようなもので体内のものに触れることができるよね?」
「ええ、できるわ」
「その触手の先でシールドを張ることはできる?」
「体内でシールドを張るなんて考えたことも無かったからやったことはないけど多分大丈夫」

 ようやくジンの言わんとするところが見えてきたソフィア。顔の強張りは僅かにほどける。今度はシールドで囲った強度実験と、余裕で防げた結論を伝えるジン。

「さっきの時限爆弾。硬質化シールドで包むことに決めて、もう包んだんだ。それとは別に実験もしてみた。10層のシールドの中にバスを爆破できる以上の爆裂魔法? アハハ、マコトと一緒に考えた断熱圧縮のちょっとスゴい版? それを封じ込めて、さらに急速圧縮してねじ込んだら爆発したんだけど、軽く音はしたもののシールドは一枚も割れなかったよ。だから10層あれば余裕で防げるという結論なんだ」

「ああ、さっきの音はパパだったんだ。音は気にならないくらい小さかったけど、こんなところで聞くはずのない音だから、マコはちょっとびっくりしてた」
「あぁ、悪い悪い。話を戻すけど、最初の手順の説明で言ったシールドの5層はそういう根拠から余裕を持たせたものなんだ。それでソフィアは触手でも5層のシールドが張れそう?」
「やる前に別でちょっと練習はしてみるけど、たぶん大丈夫よ」

 導き出した道筋で、不安なくやれそうな予感を皆でともに感じ取る。

「そう、良かった。あとは爆弾の周囲の癒着からの分離で少し血が流れるかもしれないからそこは治癒で収める、という寸法さ。残りは着陸してから医者に除去してもらえればいいだけだ。これならソフィアの心を抉るような懸念事項には全く触れないだろう? それに魔力を駆使した切らないオペなんて、オレ達らしい解決方法だと思わないか?」

 思い詰め、やや青ざめて見えたソフィアの顔色にすぅーっと血の気が戻っていった。同時に頬の強張りも完全にほどけ、涙腺が緩んでいくソフィア。

「うん、うん、良かったぁ。ホントは私、怖かったのよ。ズズ。命の領域に踏み込む覚悟を持てるほどの知識が圧倒的に欠けていることを思い知ったわ。でも容赦なく迫り来るタイムリミット。この人にとっての不幸ではない未来を秤に掛けて、もしもの時、この人の業は私が背負うんだって。考えるだけでも重かったよ~、うぅぅ、ジンありがとう~、よがっだぁ、ズズ」

 そうして自身のお腹の中にとても小さな5層のシールドを作成しては消し、生じる小さな痛みと軽い損傷を癒やすことを数回繰り返す。すっかり手慣れたソフィアは、二人の体内爆弾の体内隔離に取りかかる。内部出血を抑えるために低体温となるようにパーサーに氷を準備してもらい患部付近を冷やす。施術開始を告げ、あとは手順に従い爆弾のシールド隔離を手早く済ませると、治癒のための癒やしをかける。特に痛みや拒絶反応もなく、施術は完了した。もう一人も同じ手順で無事完了だ。

「終わったわ~、ジン。ひどく疲れたぁ」
「よくやったな、ソフィア。お疲れさま」

 そう言いながら口付け、そう、エネルギー補充が目的だからディープなやつ。今のソフィアは相継ぐ癒やし行使で枯渇しかけていたため今は何をおいても必要な行為だ。パーサー達はそんな光景を羨ましそうにポゥーッと眺めている。しかしジェイムズ達は羨ましいが今やることなのかと少々呆れ顔で目を背ける。が、あまりにも長く感じて募るイライラ感が口から漏れる。

「仲がいいのはよくわかったけど、今の緊急時にやること? それ。羨ましすぎるけど」

 少しやっかみも混じっていたようだ。これにはマコトが返す。

「あー、知らないから無理もないけど、あれはただのキスとは違うんだよ? 力を使いすぎたママのエネルギーを補充してるんだもの。ママは動けなくなる寸前まで、みんなに力を分け与えたから、今、誰もけが人がいないわけでしょう?」

「そ、そうなのか? 理解は充分じゃないが、状況は理解した。でも今は緊急時だから、もうそろそろ切り上げてくれないと、打てる対策も打てなくなるだろう?」
「え? あ、あぁ、時間はまだだけど、対策は終わってるみたいだよ」
「え? えぇぇ? いつの間に?」

 ジンが会話に復帰する。マコトから対策完了を告げられても鵜呑みにできないジェイムズ。

「あぁ、済まない。待たせたね。ソフィアの方が緊急だったから、優先させてもらったよ。体内爆弾については、今し方、ソフィアが体内隔離を終えたから、爆発は防げてるし、着陸後に医者に除去してもらえば完了だ。時限爆弾については、ほら、この通り、と言っても見えないかもしれないが、10層のシールドで包んであるから、爆発しても影響はないはず。だから対策としては完了だ。犯人達の所持物はジェイムズ達がやってくれたんだろう?」

 時限爆弾を囲った現物を見せられても、まだジェイムズの理解は納得に至らない。

「あぁ、その通りだが、時限爆弾は、あぁ、これかぁ、確かに見えない、堅い何かに覆われてるな? とても不思議な感じだな。強度は大丈夫なのか?」

「そうだな、実践しないとわからないか。マコト? そこにシールド張って立ってくれる?」

「あ! 実験するんだ。いいよ。はい、準備OK!」
「そこで、今は試しに直径5cm位の空気をキュッと圧縮する」
「そ、そんなことができるのか?」
「まぁ、見てて? それをねじ込むように放つ。いくよ、マコト」

 コォー、ドォン、ハラハラハラ

 一般の客室までは届かないほどの小さな音だったが、ジェイムズ達には充分な迫力だった。

「おぉぉぉ、なんでそんなことができるんだ?」
「あぁ、だからそれはあとで説明するって言ったでしょ?」
「そ、そういう秘密の話だったのか?」
「そう。ジェイムズは信頼に足る男だと判断できたからね。それより続けるよ?」
「あぁ、続けてくれ」

 素っ気なく継続を促したが、『信頼に足る』の言葉が遅れて脳に届いたジェイムズの頬はみるみる緩んでいく。よほど嬉しかったようだ。

「さっきの直径5cmの空気があの威力ね? 今度は70~80cm位。想像できると思うけど、バス程度なら簡単に爆破できる威力はありそうでしょう?」
「いや、たぶんそれ以上だよ」
「それを5cm位にって、アチチチ。シールドに入れてっと、ふぅー熱かったぁ、それでシールド10層重ねでさっきの時限爆弾と同じね。中の空気をさらに急速圧縮してねじ込むと……」

 ぽむっ

「10層重ねだから、音は小さいけど、かなりの爆裂状態だと思うよ。このシールドはひとつも破れてないんだ。だからあの時限爆弾も大丈夫なはずなんだ」
「ほぉぉぉっ、なるほど、納得したよ。わかった。すべて対策完了ってわけだな?」

 目にも明らかな根拠が提示され、信頼までされたジェイムズはすっかり上機嫌で口調も軽い。

「あぁ、そういうわけだから機長のところに戻ろうか? きっとやきもきしていると思うぞ」
「あぁ、戻ろう」

 ジェイムズの部下を見張りに残し、ジェイムズとジン、ソフィア、マコト、それからパーサーの2人を伴いコックピットに入る。案の定、究極のやきもき状態の機長が声を発する。

「どどど、どうなった? そろそろひとつめのリミットの時間が……」
「えぇ、すべて対策は完了です」

 気が急いて仕方のない機長とは裏腹に、落ち着き払った口調で返すジン。

「え? どうやったのかは知らんが、仮に対策できたとしても爆発はこれからのはず。しかし、なぜかみんなからは不安が微塵も感じられないと思うんだが。それに肝心の時限爆弾はジンさんの手にあるそれだろう? 普通はヒヤヒヤしながら丁重に扱うものだと思っておったが、扱いが無造作過ぎて、ややずさんに見えるのは私だけか?」

 ジェイムズが答える。

「え? あぁ、そうですよね。普通なら。でも、ジンさんに見せられたんです。対策していることの効果がどれほどかを。あんなのを見せられたら、もう全幅の信頼しかありません。あとは時間が来るのを待つだけで、私の中ではもう終わったようなものです」

 そこからジンが対応したことの説明を始める。所持品の回収、体内爆弾の隔離、時限爆弾のシールド多重ガード、そして想定超越の威力検証を順に説明し、機長から一定の理解を得る。
 そうしてるうちに、ひとつめの時間がやってきた。

 ぽふっ

「あれ? どこかで何か音がしたと思ったら、ひとつめの時間が来てたみたいだ。中は爆発したみたいだけど、なんてことはなかったな」

 忘れていたかのようなジンの言葉、いやおそらく忘れていたのだろうと確信しながら、安穏さを噛み締める機長だった。

「いやいや、爆弾騒動には緊迫してたような気がするが、ジンさん達の人智を超える力の前には大したことのない話に成り下がったようで、蓋を開ければやはり今日は良い1日だったよ」

 もう一人の隠れ安穏族、紗栄子は、そんな機長の呟き具合にしっかり同調してくる。

「そうですよね、機長キャプテン。どこかの遊園地のアトラクションのようなスリルと、映画のようなサスペンスをいっぺんに楽しめた感覚です。あー、おもしろかったぁ。楽しい1日をどうもありがとうございます、ジンさん達」

 ジンの信頼を得たから余計だが、ジェイムズもちゃっかりたっぷりそんな空気に浸っていた。

「アッハッハッハ、このテロ計画の立案者の悔しがる顔が目に浮かぶようだな」
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