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第28話 流星群観測会
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すぐ近くには人家はなく、少し離れたところの街の灯りが薄っすらと空を照らしていた夜空だったが、今はもう24時にさしかかる時間帯。夜空は漆黒の度合いが増し、相対的に明るさを増す星々。それだけでも息を呑む美しい夜空だったが、儚げな尾ひれとともに一閃の流れ星がすぅーーっと流れて消えた。
「あ! 流れ星! イル、見て見て!」
マコが最初に見つけ、イルに方向を教える。
「始まったみたいだな」
「えー? 見えないよぉ、あ、見えたような? というか、たぶんあんまり明るくなかったよね? もう見えないと思うけど消えちゃった?」
イルが見たころにも、確かにそこに流れ星はあった残像のような感触を覚えるが、もうその姿を見ることは叶わぬほどの淡い流れ星だったようだ。最初に見つけたかったらしく、ちょっとだけ気が沈むイル。
「あはは、イルちゃ、そんなに残念がらなくても、今夜はたくさん流れるから大丈夫よ」
まだ始まったばかりなのに、とイルを気に掛けるソフィア。
「う、うん。大丈夫。次こそ見つけるわ。マコちゃんよりも早くね」
「えー。マコはきっとまた先に見つけちゃうよ。すぐに教えてあげるから今度は見逃さないでね?」
「えぇー! 今度はイルが先……」
ケインが次の流れ星を見つけ、イルの言葉を遮る。
「ほら、流れ星。南の空よ!」
「え? どこどこ? あーん、消えかかる直前の残滓だけ見えたよ。もぉー」
「お話なんかしてるからよぉ、イル。言い合いなんかしないで黙って探せばいいのよ?」
ケインは焦れったそうだ。
と、イルから勝負宣言。
「はーい。マコちゃん、流れ星を見つけた個数で勝負よ! 今度はイルが先に見つけるし、たくさん見つけるよ!」
「マコ、りょっかーい。負けないよ?」
「はい、今からね? スタート!」
イルがスタートの合図。と同時に真剣に目を見張り始めるマコとイル。
「はい、見っけ! 南東の空。マコ1個ね」
「早いマコちゃん。次こそイルだよ? でも、あれ? それ今流れてるあれでしょ?」
イルは、言われた方角を見ても『何も見えないなぁ』と思った瞬間の直後に光をキャッチ。イルにとっては今見えたばかりの流れ星。イルは思った『ん? マコちゃんは予知能力もあるの? ううん、そんなはずはないよね』
「そうだよ。はい、また見っけ! 南の空。マコ2個ね」
『やっぱり。マコちゃんの言った方角に一瞬遅れて現れるから、マコちゃんが見つけているのは確かよね? そうマコちゃんは嘘はついていない。でもマコちゃんが言った直後の瞬間には絶対に見えてなかったよ?』イルの脳裏を掠めるモヤモヤとした決着しない違和感。イルは気を取り直して、真上に目を向けると、『あ! 光った』ちょうど見た真上方向に流れ星を見つけ、1個めだけど、気持ちが、見つけられないかもしれない焦りと不安が、ひとまず払拭されて、ちょっぴりだけど満足感と達成感に包まれる。
「イルも見っけ! 真上から西に向けて、イル1個」
イルも見つけられたことで得意気な感情になれたが、すぐさま打ち消される。
「はい、見っけ~! 南の空。マコ3個目ね」
『むぅ~~。やっぱりそうだ。マコちゃん見つけるのが早すぎる。あれ? そういえば…』イルは、ふとマコが以前、遠方のリヤカーを発見していたことを思い出す。
「マコちゃん、早すぎない? というか、見えたの今でしょ? 見える前に見つけちゃえるの? は! そういえばマコちゃん、異常に目がよかったよね? 確か、超視力。あぁ、ずるいマコちゃん。イルが見つける前に見えてるのは反則だよー!」
『そうよそうよ! じゃなきゃ納得いかない状況だよ~』イルの中では腑に落ちる状況に、モヤモヤしていた気持ちが徐々に安堵していく感覚を覚える。
「あー、そうだよね、やっぱり。マコ負ける気しないもん。ズルしてるわけじゃないけど、視力に違いがあるのならフェアじゃないよね? やっぱり勝負は止めよっか?」
「うーん。悔しいけど、このまま続けるとコテンパンに負けてしまうのが目に見えてるよね? うーん。イルの負け! 勝負はお終い!」
勝負してたのだから、今、白黒付けるならイルの負けとなる。だからひとまずは敗北宣言をしておく。でも途中でやめたのだから本当の敗北とは違うし、理由もあるから悔しさはほとんどない。
「じゃあ、ただ無心に星を眺めよっか?」
イルの無心観測の提案にマコが同意する。
「そうだね。そうしよう!」
ソフィアがダブル流星発見を報告する。
「あ! 真上! 流れ星がダブルよ」
すぐにイルは別の流星の発見。その特徴にうっとりしながら呟く。
「西の空! 凄く長い軌跡。きれーい」
今度はケイン。複数流星の連携プレイに興奮気味だ。
「わぁぁぁ、イル、マコちゃん、見て見て北西の空! 花火の連射砲みたい。矢継ぎ早にたくさんの流れ星がいっぺんに流れてる。こんなの見たの私初めてよ! 夜空ってこんなに素敵だったのね?」
今見ている複数の流星はたまたまなのか、小気味よいタイミングで、本当に連携しているような感じの動きに見えて、その小気味よさに思わず笑みと感嘆の声を漏らすイル
「うふふふっ、ほんとだね。まるで流れ星がリズムに合わせて踊っているみたい。綺麗。イルも初めて! こんな夜空があったなんてびっくり! 今日は流星群観測できてほんとによかった。パパ、ソフィー、こんな世界を教えてくれて、見れるように配慮してくれて、本当にありがとう。今夜のことは一生忘れられない思い出になりそうよ」
「そうでしょう、そうでしょう。でもイルちゃ? 流星群は今夜だけではないわよ? 1年に数回、いろいろな流星群が流れる日があって、これからの人生は何十年もあるのだから、これから先でもたくさん見れるわよ?」
「え? そうなの? 今までもあったってことよね? あー、こんな素敵な体験ができることを知らなかったなんて、ちょっとショックね」
「あー、でも今日ほど澄み切った空での流星群観測はなかなかないかもしれないわね。だから一生の思い出としての位置付けというのもあながち間違いじゃないわよ?」」
「そうなの? じゃあ、やっぱり今日のこの体験は忘れないようにしよーっと」
「あ、じゃあ、流星を背景に写真撮っちゃう? ケインとイルちゃの魔女の羽化記念日でもあるし…」
「え? お風呂で? しかも裸で?」
「え、あ、あぁ、そうよね。そういう考え方は私だけかもしれないし……うん。忘れて?」
しかしケインは喰い付く。
「えぇ? 写真かビデオ、撮れるのなら撮りたい。若さと潤いを取り戻したこの肢体、それに羽化で髪色も戻った記念日で、夜空をバックになんて、素敵よね? 夜空に流れ星も落とし込めた背景なら、一生モノの思い出になるし、それが写真に残せるなら、何度でも振り返れるじゃない? イルがイヤなら私だけでも撮ってほしいわ」
「イルもイヤじゃないよ? むしろ羽化の記念日も今日の星空の感動も記録として残せるのは超賛成よ? でも写真なら現像が必要だから、誰かに見られてしまうでしょう? それだけは恥ずかしすぎてイヤだなぁ」
「あぁ、やっぱりそういう理由だけなのね? それだけなら大丈夫よ? ジンが現像できるから、他人の目に触れることはないわよ?」
「そ、そうなの? それ早く言ってほしかったわよ。私、このボディになれて、嬉しすぎて、隅々まで写真か何かに残せないかなぁってずっと思ってたもの」
「イルもそれなら、たくさんの思いが詰まった家族だけの今日のこの瞬間を切り取って残してほしいな」
「マコはどっちでもいいけど、そういえばこの金髪碧眼の自分自身の写真ってなかったからちょうどいい機会かもね」
「わかったわ。っていうか勝手に話を進めちゃったけど、ジン? 大丈夫だったかしら? その機材とか、フィルムとか、電池とか?」
「あぁ、大丈夫だよ。確かに今日のこの瞬間は切り取って残したほうが良いような気がするね。それにソフィア? 昔と違って、今はビデオもカメラも高性能化してるのと、試したいこともあるから、それでやっていい?」
「小難しいことはジンに任せるわよ。さぁ、流星群の時間も数時間しかないから、手早くお願いね?」
「わかった、みんなは星を愉しんでて!」
駆け足で機材を取りに行ったと思ったら、着々と設置作業にかかるジン。なんだか大掛かりになっている。その後も何往復か行き来して、カメラだけで10台近くがお風呂場を取り囲むように配置される。
「お待たせ。今日の場合、流れ星がいつどの方角に見えるかわからないのと、残りの時間なんて1、2時間くらいのものなのと、機材もデジタル化が進んできているから、カメラは変化を捉えて勝手にシャッターを切ったりする機能をオンにしておくし、ビデオも設置しているから常時撮影中な状況にしておくよ」
「つまり、どういうことなの? ジン」
「つまりすべて被写体依存ってことなんだ。撮られたい人が撮られたい瞬間、そう、たとえば流れ星が流れる瞬間にそれをベストのアングルで撮れるカメラを選んで撮られたいポーズをとるの。それ以外は特に撮られてる意識はしないで、純粋に流星群を愉しめばいい。そんなスタンスだよ? 自然体のみんなの今このときも収められるし、どうでもよい絵面は後で編集していくらでもカットできる。デジタルってすごいよね? だからオレは現像もできるけど、その現像作業すら実は必要ないんだ」
「へぇー、すごいのね? でも今日なんかはいつがベストショットなのかが難しいから、ピッタリかもしれないね? ケインはたくさん撮られるように動くとよいわね?」
「す、すごいのね? ジンさん。なんかテレビ局も顔負けな機材たちだわ。あぁ、そういえば私すっぴんよ?」
「あぁ、ケインもほどほどに暗いのだから大丈夫よ~。それにお風呂なんだからすっぴんは当たり前だし、お化粧なんて必要ないくらい、あなたお肌がプルンとして美しいお顔よ? ほら、今も流れ星が忙しないし、残り時間はそんなにないわよ?」
「そ、そうね。いざ撮るとなると緊張してくるわ、あわわわ」
「あははは、もうケインったらおバカさんね。ずぅーっと撮られっぱなしなんだから緊張しても仕方ないわよ。諦めなさい? 私は空いてるカメラの前で、ジンとの2ショットも撮らなくちゃ。マコちゃと一緒の3ショットもたくさん撮らないとね? マコちゃ?」
「えー? まぁ、1、2枚ならね?」
「あら、ノリが悪いわね。それにさっきからずっと静かだけど、もう眠いのかしら? マコちゃ」
「ううん。マコはね、星空が大好きなの。今日の流れ星も綺麗で素敵だけど、止まったままの夜空でも、ついつい引き込まれて、時間なんて忘れて、ずぅーっと見てられるんだ」
「そういえばマコちゃ。寝る時間だからあまり機会はなかったかもだけど、日本に居たときも、星空を見れるときはずぅーっと黙って見てたわよね?」
「うん。そう。星空はほとんど止まっているけど、でもゆっくりと動いているんだよね? その変化を感じながら、ほら、星座があって、いろいろな名前・形があって、ギリシャ神話なんかのエピソードもあるでしょう? 太古の昔から、人は星を見ていろいろなことを考えていたのかなぁ、とかいろいろと思いを馳せていると、時間が勝手にどんどん過ぎていっちゃうんだ」
「あら、マコちゃはロマンチストだったのかしら?」
「あ、ううん、そんなことはないと思うけど、夜空の闇は吸い込まれるような何かがあるんだよね。理由はわからないけど。それにケインやイルはこの空が当たり前で、変化のある流れ星に注目しているけど、マコは日本からここに来て、夜空の美しさに驚いたの。今みたいな深夜だと、たぶん街の灯りがほとんどないから、夜空が本当に漆黒なんだよね?」
「そ、そうね。この漆黒さは星を見るには最高かもね」
「そんな深い闇だからこそ、対照的に浮かび上がる星。こんなにもたくさんの星があるのがびっくりなんだ。たぶん空気も綺麗なんだろうけど、特に今日は空気が澄み渡っているから余計だけど、天の川も綺麗に見えるし、たぶんあれ、マゼラン雲って言うんでしょう?」
「あぁ、そうね。天の川かぁ、それと星雲ね。確かに日本じゃほとんど見えないかもね?」
「そう、マコはみんなよりも視力がいいみたいだから余計なんだけど、日本で見たときより1億倍素敵なの。何億光年の彼方に散りばめられたような星々の美しさ。ただそれだけでも感動しているの。それに星座だって……」
「そうよね。星座といえば、こっちのは私はよく知らないかもね。知ってるのは南十字星くらい? あの明るい4つの星かな?」
「あぁ、たぶん違うよ、ママ。あれはたぶんニセ十字といって間違われやすいやつで別の星座の一部みたいだよ。マコもこんなことならもっと南半球の星座も勉強しておけばよかったなって後悔してるけど、たぶん、あっちが南十字星で、あれがはちぶんぎ座で、南十字星の4.5倍の位置だから、南極点はあのあたりかなぁ? とか、カメレオン座があれで、はえ座があれで、あぁ、本当にはえを狙ったカメレオンだ、みたいなことを考えたりしているの。もう時間なんて忘れちゃう」
「あぁ、そういえば北半球の北斗七星やカシオペア座でもそんな方法で北極星を見つけることができたわよね? 懐かしいなぁ。子供のころ以来だよ、そんなことを考えたの」
「え? ママにも子どもの頃なんてあったの?」
「あ、あるわぃ、ぼけぇ」
「あははは、ママ、ちょっと怖いかも。あははは」
「でも、そうね。そんなマコちゃを見てると、ここに連れて来れてよかったな、ってつくづく思うわね」
「うん。ありがとう、ママ。今夜、星空を満喫させてくれて感謝だよ」
「そう。よかったわ」
……
マコの言葉を聞いていたみんなも、流れ星だけでなく、星空を満喫するように、ただただ黙って夜空を見上げる時間が続いた。ケインだけは、時折、流れ星とそれを背景とするポージングに余念がないシーンも含まれるが。
……
「あ! 流れ星! イル、見て見て!」
マコが最初に見つけ、イルに方向を教える。
「始まったみたいだな」
「えー? 見えないよぉ、あ、見えたような? というか、たぶんあんまり明るくなかったよね? もう見えないと思うけど消えちゃった?」
イルが見たころにも、確かにそこに流れ星はあった残像のような感触を覚えるが、もうその姿を見ることは叶わぬほどの淡い流れ星だったようだ。最初に見つけたかったらしく、ちょっとだけ気が沈むイル。
「あはは、イルちゃ、そんなに残念がらなくても、今夜はたくさん流れるから大丈夫よ」
まだ始まったばかりなのに、とイルを気に掛けるソフィア。
「う、うん。大丈夫。次こそ見つけるわ。マコちゃんよりも早くね」
「えー。マコはきっとまた先に見つけちゃうよ。すぐに教えてあげるから今度は見逃さないでね?」
「えぇー! 今度はイルが先……」
ケインが次の流れ星を見つけ、イルの言葉を遮る。
「ほら、流れ星。南の空よ!」
「え? どこどこ? あーん、消えかかる直前の残滓だけ見えたよ。もぉー」
「お話なんかしてるからよぉ、イル。言い合いなんかしないで黙って探せばいいのよ?」
ケインは焦れったそうだ。
と、イルから勝負宣言。
「はーい。マコちゃん、流れ星を見つけた個数で勝負よ! 今度はイルが先に見つけるし、たくさん見つけるよ!」
「マコ、りょっかーい。負けないよ?」
「はい、今からね? スタート!」
イルがスタートの合図。と同時に真剣に目を見張り始めるマコとイル。
「はい、見っけ! 南東の空。マコ1個ね」
「早いマコちゃん。次こそイルだよ? でも、あれ? それ今流れてるあれでしょ?」
イルは、言われた方角を見ても『何も見えないなぁ』と思った瞬間の直後に光をキャッチ。イルにとっては今見えたばかりの流れ星。イルは思った『ん? マコちゃんは予知能力もあるの? ううん、そんなはずはないよね』
「そうだよ。はい、また見っけ! 南の空。マコ2個ね」
『やっぱり。マコちゃんの言った方角に一瞬遅れて現れるから、マコちゃんが見つけているのは確かよね? そうマコちゃんは嘘はついていない。でもマコちゃんが言った直後の瞬間には絶対に見えてなかったよ?』イルの脳裏を掠めるモヤモヤとした決着しない違和感。イルは気を取り直して、真上に目を向けると、『あ! 光った』ちょうど見た真上方向に流れ星を見つけ、1個めだけど、気持ちが、見つけられないかもしれない焦りと不安が、ひとまず払拭されて、ちょっぴりだけど満足感と達成感に包まれる。
「イルも見っけ! 真上から西に向けて、イル1個」
イルも見つけられたことで得意気な感情になれたが、すぐさま打ち消される。
「はい、見っけ~! 南の空。マコ3個目ね」
『むぅ~~。やっぱりそうだ。マコちゃん見つけるのが早すぎる。あれ? そういえば…』イルは、ふとマコが以前、遠方のリヤカーを発見していたことを思い出す。
「マコちゃん、早すぎない? というか、見えたの今でしょ? 見える前に見つけちゃえるの? は! そういえばマコちゃん、異常に目がよかったよね? 確か、超視力。あぁ、ずるいマコちゃん。イルが見つける前に見えてるのは反則だよー!」
『そうよそうよ! じゃなきゃ納得いかない状況だよ~』イルの中では腑に落ちる状況に、モヤモヤしていた気持ちが徐々に安堵していく感覚を覚える。
「あー、そうだよね、やっぱり。マコ負ける気しないもん。ズルしてるわけじゃないけど、視力に違いがあるのならフェアじゃないよね? やっぱり勝負は止めよっか?」
「うーん。悔しいけど、このまま続けるとコテンパンに負けてしまうのが目に見えてるよね? うーん。イルの負け! 勝負はお終い!」
勝負してたのだから、今、白黒付けるならイルの負けとなる。だからひとまずは敗北宣言をしておく。でも途中でやめたのだから本当の敗北とは違うし、理由もあるから悔しさはほとんどない。
「じゃあ、ただ無心に星を眺めよっか?」
イルの無心観測の提案にマコが同意する。
「そうだね。そうしよう!」
ソフィアがダブル流星発見を報告する。
「あ! 真上! 流れ星がダブルよ」
すぐにイルは別の流星の発見。その特徴にうっとりしながら呟く。
「西の空! 凄く長い軌跡。きれーい」
今度はケイン。複数流星の連携プレイに興奮気味だ。
「わぁぁぁ、イル、マコちゃん、見て見て北西の空! 花火の連射砲みたい。矢継ぎ早にたくさんの流れ星がいっぺんに流れてる。こんなの見たの私初めてよ! 夜空ってこんなに素敵だったのね?」
今見ている複数の流星はたまたまなのか、小気味よいタイミングで、本当に連携しているような感じの動きに見えて、その小気味よさに思わず笑みと感嘆の声を漏らすイル
「うふふふっ、ほんとだね。まるで流れ星がリズムに合わせて踊っているみたい。綺麗。イルも初めて! こんな夜空があったなんてびっくり! 今日は流星群観測できてほんとによかった。パパ、ソフィー、こんな世界を教えてくれて、見れるように配慮してくれて、本当にありがとう。今夜のことは一生忘れられない思い出になりそうよ」
「そうでしょう、そうでしょう。でもイルちゃ? 流星群は今夜だけではないわよ? 1年に数回、いろいろな流星群が流れる日があって、これからの人生は何十年もあるのだから、これから先でもたくさん見れるわよ?」
「え? そうなの? 今までもあったってことよね? あー、こんな素敵な体験ができることを知らなかったなんて、ちょっとショックね」
「あー、でも今日ほど澄み切った空での流星群観測はなかなかないかもしれないわね。だから一生の思い出としての位置付けというのもあながち間違いじゃないわよ?」」
「そうなの? じゃあ、やっぱり今日のこの体験は忘れないようにしよーっと」
「あ、じゃあ、流星を背景に写真撮っちゃう? ケインとイルちゃの魔女の羽化記念日でもあるし…」
「え? お風呂で? しかも裸で?」
「え、あ、あぁ、そうよね。そういう考え方は私だけかもしれないし……うん。忘れて?」
しかしケインは喰い付く。
「えぇ? 写真かビデオ、撮れるのなら撮りたい。若さと潤いを取り戻したこの肢体、それに羽化で髪色も戻った記念日で、夜空をバックになんて、素敵よね? 夜空に流れ星も落とし込めた背景なら、一生モノの思い出になるし、それが写真に残せるなら、何度でも振り返れるじゃない? イルがイヤなら私だけでも撮ってほしいわ」
「イルもイヤじゃないよ? むしろ羽化の記念日も今日の星空の感動も記録として残せるのは超賛成よ? でも写真なら現像が必要だから、誰かに見られてしまうでしょう? それだけは恥ずかしすぎてイヤだなぁ」
「あぁ、やっぱりそういう理由だけなのね? それだけなら大丈夫よ? ジンが現像できるから、他人の目に触れることはないわよ?」
「そ、そうなの? それ早く言ってほしかったわよ。私、このボディになれて、嬉しすぎて、隅々まで写真か何かに残せないかなぁってずっと思ってたもの」
「イルもそれなら、たくさんの思いが詰まった家族だけの今日のこの瞬間を切り取って残してほしいな」
「マコはどっちでもいいけど、そういえばこの金髪碧眼の自分自身の写真ってなかったからちょうどいい機会かもね」
「わかったわ。っていうか勝手に話を進めちゃったけど、ジン? 大丈夫だったかしら? その機材とか、フィルムとか、電池とか?」
「あぁ、大丈夫だよ。確かに今日のこの瞬間は切り取って残したほうが良いような気がするね。それにソフィア? 昔と違って、今はビデオもカメラも高性能化してるのと、試したいこともあるから、それでやっていい?」
「小難しいことはジンに任せるわよ。さぁ、流星群の時間も数時間しかないから、手早くお願いね?」
「わかった、みんなは星を愉しんでて!」
駆け足で機材を取りに行ったと思ったら、着々と設置作業にかかるジン。なんだか大掛かりになっている。その後も何往復か行き来して、カメラだけで10台近くがお風呂場を取り囲むように配置される。
「お待たせ。今日の場合、流れ星がいつどの方角に見えるかわからないのと、残りの時間なんて1、2時間くらいのものなのと、機材もデジタル化が進んできているから、カメラは変化を捉えて勝手にシャッターを切ったりする機能をオンにしておくし、ビデオも設置しているから常時撮影中な状況にしておくよ」
「つまり、どういうことなの? ジン」
「つまりすべて被写体依存ってことなんだ。撮られたい人が撮られたい瞬間、そう、たとえば流れ星が流れる瞬間にそれをベストのアングルで撮れるカメラを選んで撮られたいポーズをとるの。それ以外は特に撮られてる意識はしないで、純粋に流星群を愉しめばいい。そんなスタンスだよ? 自然体のみんなの今このときも収められるし、どうでもよい絵面は後で編集していくらでもカットできる。デジタルってすごいよね? だからオレは現像もできるけど、その現像作業すら実は必要ないんだ」
「へぇー、すごいのね? でも今日なんかはいつがベストショットなのかが難しいから、ピッタリかもしれないね? ケインはたくさん撮られるように動くとよいわね?」
「す、すごいのね? ジンさん。なんかテレビ局も顔負けな機材たちだわ。あぁ、そういえば私すっぴんよ?」
「あぁ、ケインもほどほどに暗いのだから大丈夫よ~。それにお風呂なんだからすっぴんは当たり前だし、お化粧なんて必要ないくらい、あなたお肌がプルンとして美しいお顔よ? ほら、今も流れ星が忙しないし、残り時間はそんなにないわよ?」
「そ、そうね。いざ撮るとなると緊張してくるわ、あわわわ」
「あははは、もうケインったらおバカさんね。ずぅーっと撮られっぱなしなんだから緊張しても仕方ないわよ。諦めなさい? 私は空いてるカメラの前で、ジンとの2ショットも撮らなくちゃ。マコちゃと一緒の3ショットもたくさん撮らないとね? マコちゃ?」
「えー? まぁ、1、2枚ならね?」
「あら、ノリが悪いわね。それにさっきからずっと静かだけど、もう眠いのかしら? マコちゃ」
「ううん。マコはね、星空が大好きなの。今日の流れ星も綺麗で素敵だけど、止まったままの夜空でも、ついつい引き込まれて、時間なんて忘れて、ずぅーっと見てられるんだ」
「そういえばマコちゃ。寝る時間だからあまり機会はなかったかもだけど、日本に居たときも、星空を見れるときはずぅーっと黙って見てたわよね?」
「うん。そう。星空はほとんど止まっているけど、でもゆっくりと動いているんだよね? その変化を感じながら、ほら、星座があって、いろいろな名前・形があって、ギリシャ神話なんかのエピソードもあるでしょう? 太古の昔から、人は星を見ていろいろなことを考えていたのかなぁ、とかいろいろと思いを馳せていると、時間が勝手にどんどん過ぎていっちゃうんだ」
「あら、マコちゃはロマンチストだったのかしら?」
「あ、ううん、そんなことはないと思うけど、夜空の闇は吸い込まれるような何かがあるんだよね。理由はわからないけど。それにケインやイルはこの空が当たり前で、変化のある流れ星に注目しているけど、マコは日本からここに来て、夜空の美しさに驚いたの。今みたいな深夜だと、たぶん街の灯りがほとんどないから、夜空が本当に漆黒なんだよね?」
「そ、そうね。この漆黒さは星を見るには最高かもね」
「そんな深い闇だからこそ、対照的に浮かび上がる星。こんなにもたくさんの星があるのがびっくりなんだ。たぶん空気も綺麗なんだろうけど、特に今日は空気が澄み渡っているから余計だけど、天の川も綺麗に見えるし、たぶんあれ、マゼラン雲って言うんでしょう?」
「あぁ、そうね。天の川かぁ、それと星雲ね。確かに日本じゃほとんど見えないかもね?」
「そう、マコはみんなよりも視力がいいみたいだから余計なんだけど、日本で見たときより1億倍素敵なの。何億光年の彼方に散りばめられたような星々の美しさ。ただそれだけでも感動しているの。それに星座だって……」
「そうよね。星座といえば、こっちのは私はよく知らないかもね。知ってるのは南十字星くらい? あの明るい4つの星かな?」
「あぁ、たぶん違うよ、ママ。あれはたぶんニセ十字といって間違われやすいやつで別の星座の一部みたいだよ。マコもこんなことならもっと南半球の星座も勉強しておけばよかったなって後悔してるけど、たぶん、あっちが南十字星で、あれがはちぶんぎ座で、南十字星の4.5倍の位置だから、南極点はあのあたりかなぁ? とか、カメレオン座があれで、はえ座があれで、あぁ、本当にはえを狙ったカメレオンだ、みたいなことを考えたりしているの。もう時間なんて忘れちゃう」
「あぁ、そういえば北半球の北斗七星やカシオペア座でもそんな方法で北極星を見つけることができたわよね? 懐かしいなぁ。子供のころ以来だよ、そんなことを考えたの」
「え? ママにも子どもの頃なんてあったの?」
「あ、あるわぃ、ぼけぇ」
「あははは、ママ、ちょっと怖いかも。あははは」
「でも、そうね。そんなマコちゃを見てると、ここに連れて来れてよかったな、ってつくづく思うわね」
「うん。ありがとう、ママ。今夜、星空を満喫させてくれて感謝だよ」
「そう。よかったわ」
……
マコの言葉を聞いていたみんなも、流れ星だけでなく、星空を満喫するように、ただただ黙って夜空を見上げる時間が続いた。ケインだけは、時折、流れ星とそれを背景とするポージングに余念がないシーンも含まれるが。
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