Jet Black Witches - 2芽吹 -

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超速これまで② ~ 萌芽

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 時は流れ、1980年代半ばを少し経過した頃、ここはアフリカ南部に位置する、とある国 (以降、S国と呼称)の小さな集落。そこにキャンプ暮らしの様相で、家族で住まう日本と北欧のとある国 (以降、N国と呼称)のハーフの女の子、一ノ瀬マコトがこの物語の主人公。両親がこの地で出会い、結ばれ、出産と育児のために日本に移り住むが、そうして生まれたマコトが思いのほか急成長したことや、さまざまな事情が絡んだこともあり、就学前に貴重な経験をさせられることも含め、再びここS国に、家族で戻り住むこととなる。

 この『思いのほか』とは主にマコトの資質に関することだ。母親の血が濃いのか、周囲の同世代の幼児とは一線を画していた。背丈は周りとそれほど変わらないのだが、手足がシュッと長く小顔の可愛らしい顔付きで、思春期真っ盛りの女の子をそのままキュッと小さくしたような、日本の幼児とは全く異なる見目もあるのだが、大きな違いはその頭脳にある。特に何かを教えることなどしてはいなくとも、日本ではひたすらテレビにかじり付くことで、アニメ、ドラマ、エンタメ、ニュースなどさまざまな視覚聴覚がインプットされるとその殆どをそのまま覚えてしまうという特異な優秀性を発揮する。また覚えたらすぐに使ってみたいらしく、最初の頃は実際の状況との微妙な差異から生まれる言葉使いのちぐはぐさはあったが、繰り返す内に差異は収束していき、今では大人ともなんとなくな会話を交わせるくらいの神童振りだ。

 その驚異的な振る舞いは、蓄積知識とともに養われる各種判断力と、優しさや強い正義感とともに目立ち始め、日を追うごとに周囲の認知度も高まりを見せる。事情により余儀なく名門幼稚園に通うこととなった経緯も大きく関わるが、名門とはいえ親社会が形成するカースト構造の影響が濃く、浅慮な幼児の世界もまた不条理に包まれるのだ。しかし、もしも理不尽な現場が目に入ったなら、マコトの知識と正義感が黙っていられるはずはない。さまざまな無法・軋轢へ介入してしまうことで、自然と注目も集めてしまうという状況が続く。しかしある時、理不尽を圧し通そうとする輩の度を超える振る舞いに対して立ち向かうマコトは、あまりの昂ぶりから無意識に魔法を発動しそうになる。それを察知したソフィアにより最悪な状態は免れるが、何か得体の知れない異常に気付く母親がじわじわと騒ぎ立て、次第に騒動へと発展しそうになる。周囲のいろんな視点も含め、そのようなざわめきを躱す目的、これが一番の要因ではあったが、ほかにも、大人と会話できるほどなら異国の暮らしでも心配が少ないこと、また貴重な経験をさせてやれるうえに父の仕事ぶりを近くで見せられる良い機会でもあり、両親にとっての大切な思い出の場所も見せてやれることから、小学校に入学するまでの間、一家総出で移り住む。間もなく誕生日を迎えるが、まだ5歳の日本なら秋深まる季節、ここS国では初夏を迎える活発な季節の物語だ。

 父の名はジン、栗色の髪の日本人で現地調査員、母の名はソフィア、金髪の超絶美人なだけでなく、類い稀なる優秀な頭脳の持ち主だ。マコトはどちらの髪色かというと、そのどちらでもなく、漆黒、本当に真っ黒な髪色で、最近気になり始めの本人は、少しコンプレックスを抱いているようだ。併せて、最近、何か悩んでいるような素振りを見せることがあったが、両親ともにいくつかの忙しさが重なり、あまりかまってやれない日が続く。元々明るい活発な性格のマコトだったから大きな心配はしていないが、一段落したところで思いっきり甘えさせてあげるつもりの両親だった。

 そんなある日、マコトは母ソフィアに悩みを告白する。普通の人に見えないモノが見えるというもの。その内容に少し驚くソフィアだったが、既に理解は整っていて時が満ちたとばかりにある真実を語り出す。ソフィアは実は魔女の末裔、中でも『漆黒の魔女』と呼ばれる傑出した魔女であること、また同時にN国の王女であることだ。付随する事象も含め同時多数の信じ難いワードが飛び込んでくれば、マコトが如何な優れた頭脳の持ち主でも幼さゆえか対処能力は追い付かない。極度の思考疲労による眠気の襲来で継続困難とみて翌日に持ち越すことに。

 そして翌朝、父、ジンを巻き込む家族会議の様相に、さらにご先祖さまであるシャナが加わる。シャナとは、『漆黒の魔女』の元祖となったシャナのことだ。それがどういう理屈か、過去の時間断面からその精神体だけ血脈を辿ってアクセスできるらしく、ソフィアとリンクしている状態だ。その精神体から血筋上の子孫に憑依するように精神体を移動すれば、その身体で話すことができ、マコトの身体から会議に参加する形だ。そこで次々と語られる真実。シャナ両親の出会いから漆黒の生まれる経緯、幼少時代のソフィアと日本留学への活動、そこからソフィアが王室を離れるキッカケとなった、北方聖十字教司教の息子ケネトの謀略、北の軍事大国、V国調査員の動向、民間機撃墜事件とソフィアの奮闘、アフリカ南部へ離散するも死にかけて、ジンに見つけられ蘇生により命を取り留める。しかし記憶喪失が判明するも、その後に脅威の回復、いや、とある理由から、5割増くらいの強化回復とも言える覚醒を果たし、同時に記憶まで取り戻す。そうして心の強い結び付きとともに大きく愛を育み、今に至る。

 そんな経緯をジンとマコトに共有できたところで、ジンがシャナの父親である武人の血縁であることが判明する。『漆黒』が生まれた理由とソフィアの強化回復の理由、またそれゆえに感じるマコトの驚異的な潜在資質に一定の説明が着くことを確認する。同時に、これから起こり得るソフィアへの脅威を考えれば、その素性が知れたときに、マコトにも危険が及ぶ可能性があることと、能力を正しく扱えるための修練は遅かれ早かれ必要となるため、マコトに対しての修練の必要性をシャナから説かれる。また、ジンにも力が継承している可能性があることも含め、ジンの知的感性によるマコトとジン自身の修練を行うことを提案する。話が落ち着いたところで、本筋からは逸れるが、ソフィアからマコトを絡めたアイドルユニット構想、ジンから日本移住後の住まいについて無人島案などが提言されるなど、飛躍した話で盛り上がり家族会議は終結する。

 後日、ジン主導にてマコトの魔力修練が開始される。魔力行使とは、自身が纏うオーラを練り上げ操ること、と捉えたジンの力学的解釈による検証から始まる。予想通り、ジンにも魔力が扱える素養を備えていることを認識する。そこからはジンの物理学的知見をベースに魔力の特性を利用して力の行使する独特のアプローチで、検証しながらの修練が開始される。

 オーラとは即ち生体エネルギーであり、その特性を変化させたり特定方向への力を付与する、というような特性を使いこなすのが魔女なのだが理屈はどうあれなんとなくなイメージを持って力を行使しているのが実情だった。時代が流れあらゆる事象が科学的に解明されつつある現代において、そのことわりを深くはないが広く偏りなく修得しているジンにかかれば、効率よく最大効果を発揮できるであろうことをシャナとソフィアは感じ取っていたことも踏まえてのマコトの教育係だ。併せて自身の能力開発を含めた魔力修練が行えることを見据えてだ。

 そのような特性はすぐに発揮される。オーラなどへの力の付与に着目し、つぶてを飛ばしたり、つぶての代わりに空気を包み、急激に圧縮することで引き起こされる、断熱圧縮による高温度化の特性を利用して放つ空気弾や、さらに極端な超高温度化を瞬間、極限まで高めることで、アニメや映画のファンタジー世界にある爆裂魔法のようなものを放つなどだ。炎の現象を伴うには燃える核となるものが必要だが、空気を包む固形化したオーラがその役割を担い、速度はなくとも、極限までの断熱圧縮となれば、ちょうど大気圏に突入する隕石と同様の状態となり、何かに当たって壊れるときに急激に膨張する空気は炸裂音とともに爆発のような状態を引き起こす。

 またそれ以外の力では、たとえばほうきなどで空を浮揚する魔女の定番ともいえる飛行術などは、オーラで包んで力を付与するという方法で実現できることがわかると、ジンとマコトも自身が浮揚する修練を開始する。ただ、そんな力を揮えるとしても、空間とはそんな甘い世界ではない。飛行機の操縦経験のあるジンは、そんな経験からも、空間に在ること、その難しさをマコトに伝えるための修練を行い、本質的な空間力学をイメージ的に捉えながらの浮揚検証を繰り返す。その結果、箒である必要はないことから、マコトは格好良さ優先のスケートボードを選び取る。重心位置が高くなり制御の困難度は高まるが、敢えて不安定にすることで機動性を高めることと、当時のアニメや映画などに登場するエアボードへの憧れも強かったこともあるが、ふとマコトのDIY魂が刺激されると、孫悟空の筋斗雲を模した雲をオーラからデコり包み込んだ、スケートボード改め、筋斗雲もどきに乗ることで、孫悟空気分でのフライト訓練となる始末だった。
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