Jet Black Witches - 1萌芽 -

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第36話 ボード 〜 魔力修練 ep7 【閑話】

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「整理するよ。エアボードに乗る、ということは、ただ乗るだけでも、重心位置が高くなる=かなり不安定なうえ、乗る場所を間違えると簡単に転覆してしまう特性がある。さらにそれを高速飛行させるのだから、重心の変化もかなり注意する必要がある。危険度もかなり高いぞ?」

「それ、あまりにも難易度が高いから、やめたほうがいい、という勧告なのかな?」
「ん? あぁ、もしも軽い気持ちで言ってるのならやめたほうが無難だな」
「やっぱり?」

「いや? それを踏まえてなお、エアボードでいきたいなら、その意志は尊重したいし、不安定は必ずしもデメリットではないからね」
「どういうこと?」

「うん。飛行機を例にいうと、高翼機のセスナ機なんかはすごく安定していて、操作を多少間違えても、最悪手放しでも、勝手に水平飛行してくれるくらい安定してるんだけど、安定性が高い=機動性が低い、という関係性があるんだ。無茶な機動をしようとすると安定性がそれを妨げる方向に働くんだ。だから、戦闘機なんかは機動性を上げるために敢えて不安定な設計をしてるぐらいだよ」

「そ、そうなの? 知らなかったよ」
「だから、エアボードで高機動を求めるなら、不安定なままのほうがいいんだ。もし潜入救出することを想定するなら、のほほんと飛んでいられるはずもなく、むしろ見つからないための、ムチャクチャな機動が求められる場面もあるから、この不安定さを乗りこなす必要があるのかもしれない。覚悟を決めて、暴れ馬を制する気合いがあるなら頑張れ。まぁ、乗りこなせたら、ムチャクチャカッコいいけどな?」

「だよね? ヴーッ、やるぞぉ、マコは頑張るぞぉ!」
「うむ。その意気やよし。じゃあ、スケボー持ってきて!」

 ジンはスケボーを持ってくるよう指示したが、直ぐに言い直す。

「あ、ちょっと待った。自分は動かないで、その位置から一本釣りで」
「うん。やってみる」

 マコトはオーラから触手状のものを伸ばしていき、スケボーを掴み、一気に自分へと引っ張る。

 ひゅーん。ちゃっ。
 ジンの目にも、軽トラの荷台から、スケボーが飛び出して、マコトの手にピッタリ収まったことを確認する。

「うん。申し分ないね。お見事!」
「エヘヘ」

「これからやりたいことは、スケボーにいつでも乗ったり降りたりできるけど、乗ってるときは足にくっついたまま簡単には離れないもの。ある一定以上の衝撃が加わるか、外したいときに限って即外れるが、今度はどこかに飛んでいかないかが問題になるから繋ぎ止めておく。まぁ紐みたいなもので繋がっている感じかな? そんな仕組みを作りたい」
「なんか難しそう?」

「イメージはスノボーで、ブーツをボードに装着して滑るけど、転倒したり無理な力が加わるときに外れる仕組み。これがないと大ケガする可能性があるから重要なんだ。空を飛ぶ以上、落とすのは絶対にダメだから繋いでおく、これも重要ね」

「あぁ、そういうことね」
「で、実際にどうするかだけど、最初に練習した、紐状のものを出してボードに巻き付けるか、ボードに纏わせるオーラから紐状で脚に巻き付かせるか、または紐に拘らず足を拘束する仕組みをオーラから創り出すかのいずれかと、落とさないための長さに余裕のある紐状のもので括り付けておく、ということを考えているのだけど、できそう?」

「うーん、ちょっとやってみる」

―― よし。まず、スケボーをオーラで纏い、その上に乗ってみる。
―― 位置はこれでいい感じかな?
―― スケボー側から無数の紐状のオーラでくるぶしくらいまで包んで固定。
―― うん、できた。
―― 抜けないし、ガタガタもしないね。
―― 続けて、ボードの末尾から一本、ペットのリードのようなものを余裕を少し持たせて左手首に繋ぐ。

「よしっと、できたよ、パパ」
「じゃあ、ちょっと試してみようか?」
「うん」
「今、ボードに乗って、安定して立っている状態だな?」

「そのまま、その場ジャンプしてみて? できるだけ膝を高く、着地のタイミングでは元の姿勢くらいまで戻して接地する感じで。2、3回跳んで、接地は少し強めに打ちつける感じがいいな。さぁ、やってみて!」

「はい、ジャンプ。接地」ガン。
「接地」ガン。
「接……あっ」ガシッ。

 マコトはタイミングを誤ってボードが少し斜めの状態で接地してしまい、足を固定していた紐状のオーラが解け、転びそうになるが、ジンが素早く近付き抱きかかえる。
 ボードは離れる方向に跳ねていくところが、リードに阻まれ足下からそう離れない位置で停止する。

「マコト、大丈夫か? ケガは? 痛いところはない? 捻ってないか?」
「だ、大丈夫。パパが抱えてくれたから、なんともないよ」

「ホッ、良かった。今のはどうして解けたの? 自分で意図して解いた? それとも衝撃が強かったから解けたの?」
「あ、うん。パパが言ってた、強い衝撃の場合に解けるイメージで固定してみた。どのくらいの強さかはわからなかったから、なんとなくのイメージでね。こんな感じで合ってる?」

「パパはバッチリだと思うよ。やっぱりマコトはなかなか良いセンスを持っているな?」
「ホントに? パパの言葉に嘘・偽りはないから、いつも信用してるけど、さっき、マコは「誉めてくれると嬉しい」って言った気がするから、それで少しオーバーに誉めてくれてるのかな?」

「いやいや、そんなことはないよ。お世辞でもなんでもなくて、マコトのやることなすこと、全部すごいんだよ。だから、もっと誉めるべきところなのに、あんまり誉めないから、パパは冷たい、とか思われてるんじゃないか、って心配してるぐらいだよ」

「あははは、そうなの? じゃあ、さっきのは喜んでいいんだね。失敗しちゃったかと思ってたから、嬉しいな」

「あぁ、転びそうになったことを気にしてたのか? あははは、それ、パパの想定通りなんだよ? 大体ジャンプするのに、ムチャクチャ空気抵抗がある方向に大きくジャンプするなんて、ふつうはうまくできるはずがないんだよ。ところが、いつもマコトは上手くやってのけるんだ。しかも初めてやるのにだよ。だから、数回跳ぶように言ったんだよ。そうすると若干の疲れから、空気抵抗を大きく受けるボードの傾きにも変化が生まれるから、さっきみたいに、ようやくパパの意図する衝撃脱着の検証ができたわけさ」

「なぁんだ、またパパの手のひらのうえだったわけか。ちぇーっだよ」
「そういうな、マコト。そうでもしないと本当の検証にならないだろ?」

「うそだよーっと。パパがそうやって真剣に検証してくれた分、マコたちが守られているのはわかってるよーだ」
「どこまでも可愛いな、マコト」
「エヘヘ」
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