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第18話 星空 〜 Sofia Awake ep4
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「ん。星空。あなたが言ったように、本当に綺麗ね。あなたと歩むこれからの人生の中で、この星空は忘れられそうにないな~。後で写真に撮っときたいけど、カメラある?」
「あるある、研究職ですから、カメラは必須なんだ。なんなら今夜空を背景に一枚撮る?」
「え? 今? 裸で?」
「はは、裸はまずいよね。さすがに」
「あぁ、まずくないけど、現像するのに他の人に見られちゃうのは、やっぱりダメね」
「え? 問題は他の人なだけで、写真自体は問題ないの?」
「そりゃ、恥ずかしいけど、あなたにしか見せないのなら、これ以上ない思い出になるでしょう? それに、あなたと結ばれることを決心した以上、遅かれ早かれ、あなたにはすべて見られちゃうもの。うぅ、言ってて恥ずかしくなる。それにあなたも私も年をとる。一番きれいな身体の私と、一緒にいるあなた。今の私も、来年の私も、そのあとの私も、ずっと記憶に留めて欲しいけど、だんだん記憶はぼやけていくものだから、記録しておきたいなって思うの。でも、あなただけにしか見られたくないから無理かな?」
「すごく嬉しい。それと現像や焼き増しなら、オレできちゃうよ。研究者だもの。必須スキルなのです」
「えー? それなら撮ろう撮ろう。でも、恥ずかしいなぁ」
「決められないなら、別の日でもいいんじゃない?」
「ダメ。今日、この日が記念日だもの。よし決めた。撮るよ。カメラは準備できる?」
「わかった。持ってくる。でもすごいね、その踏ん切りの良さ。尊敬」
「うふふ。でしょ?」
大急ぎでカメラを取りに行き、戻ってきた。
「持ってきたよ」
「じゃ、ドラム缶に浸かってる、星空バックの記念すべき一枚ね」
パシャッ
「別のアングルで」
パシャッ
「月も入れたいなぁ」
パシャッ
「じゃあ、トップシークレットの神聖なやつ」
パシャッ
「ちょっとエッチな、コホン、神聖なバージョン」
パシャッ
「じゃあ、今度は君一人バージョンで」
「えー? は、恥ずかしいよぉ」
パシャッ
パシャッ
パシャッ
「ズルい」
「だって、可愛らしい君だけのが欲しいから」
「うー、仕方ないなぁ、もう。
そういえば、とっくに全部見られてるよね」
「恥ずかしそうなその表情込みでいただき」
パシャッ
「あー、もう。ズルいぞぉ」
パシャッ
「今度はドラム缶から出て全身で」
「えー? は、恥ずかしい……」
「いまさらだし、月をバックの神秘的な一枚が欲しい。美しすぎて、言葉にならないような一枚が欲しい」
「わかった」
パシャッ
「あーーっ、動いてる途中だよ~」
パシャッ
パシャッ
「もぉ、プンプンだよ」
「か、可愛いー、いただき」
パシャッ
「膨れっ面も可愛いけど、今度はキリッとした表情でね?」
「あ、いいね、そんな感じ」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「じゃあ、次はななめ45度から」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「なんかさっきから連写してない? フィルムもったいないよ?」
パシャッ
「君を写すのならお金いくらかかっても惜しくないよ」
「じゃあ、背を向けて、頭だけ振り返る。そう。風が出てきたから、そよぐ髪を右手で軽く押さえるみたいに」
「こう?」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「そう、すごくいい。お尻もとっても可愛くて、背中と振り向く横顔がとても神秘的」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「もう、誉めるのが巧いな。カメラマンできそうだよ」
パシャッ
「その笑顔いただき」
パシャッ
「もぅ。ん? なんか「もう」ばっかり言ってる気がする」
「いいじゃん。ビーフ記念日」
「いやぁ、そんなの絶対いや」
「うそ、うそ、冗談だよ。じゃあ、最後にしようか? 二人で撮ろう? そんでそのまま残りのフィルムも連写で使い切っちゃおうか?」
「うん」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「今日の初めてのスキンシップはこうだったよね」
パシャッ、パシャッ
「近付いて大きく写ろう」
「ちょっと恥ずかしいね。胸隠していーぃ?」
パシャッ、パシャッ
「えぇ? 今更じゃない?」
「そっか、ま、いっか?」
パシャッ、パシャッ
「手は少し動くでしょ? いっそのこと、俺の首に両手を回して、キスしながら、胸もバーンって、大胆に撮ろうよ?」
「それもいっか、秘密の記念写真だもんね」
パシャッ、パシャッ
「あれっ? せっかくの胸が足で隠れちゃう」
カメラの方向と体の向きを調整していく。
パシャッ、パシャッ
「んぐっ、ね、ねぇ、そんなに向きを変えたら、私の大事なところ、見えてない?」
「見える訳ないじゃん。胸は丸見えだけどね」
「ちが、ば、ばか、カメラからよ」
パシャッ、パシャッ
「え? あっ! あーーっ」
「えぇ? 写ってる、写ってる、キャーッ、止めてー」
パシャッ、パシャッ
「バカ、暴れると手が……」
抱っこ状態の片足がスルリと落ちた。
あーーっ、全開。
パシャッ、パシャッ
「いやぁーーーぁっ、撮らないでー」
パシャッ、パシャッ
カメラに近付いて止めようとする。
「ば、ばか、近付くと、どアップじゃない!」
パシャッ、パシャッ、シーン。
「あ、終わったみたい。良かった」
二人してシャッターの嵐に大慌てしていたから、連写が止まって、安堵する。
「止まって良かったね? でもすごく楽しかった。あははは。二人で必死だったもんね」
「うん。って、あれっ? なんかおかしい。終わったのはいいけど、撮られちゃった後じゃない、バカバカバカバカ。大体、まだしたこともないのに、ここまで見られちゃうって、火が出そうなくらい恥ずかしい。
このスケベ、どスケベ、スケベ星人。もう知らない。ぐすん」
「ごめん。でも、見たのはカメラで、オレには見えてないじゃん。それにすべて見て欲しいって言ったの君だよ。だから、すべて見たいし、記録した。それと、ドキドキするような時間が楽しかった。ありがとう。オマケに二人でドギマギ大慌てして、すごく楽しい時間が加わったのも嬉しい、あー、楽しかった。アハハハ。あ、さっき、記憶が戻ったときが怖いような話をして、君は大丈夫、みたいに言ってくれたけど、どう転ぶかわからない怖さはまだあって、おれとの時間が色濃く君の記憶の中に刻み込みたいって思った。そういう意味で、さっきのは、君の心に爪痕を残せる、願ってもない、嬉しいハプニング。君を勝ち取りたい。そんな思いを叶えてくれようと、神様が取り計らってくれたのだと思ってる。だから君は嫌でもオレは嬉しかったし、とても大切な思い出だよ?」
この主張に、やましい気持ちがあることは、オレも男だから否定できない。言わないけどね。
でもいろんなハプニングも含めた彼女とオレの記念すべき瞬間のすべてを写し取れた、もうオレたちの宝物とも言える。彼女の恥ずかしさも、オレのドキドキも、もうすべてがかけがえのない一瞬たちを、図らずも記録として封入に成功したのだ。もしも明日世界が滅ぶとしたら、彼女とこの思い出の記録だけ守れたら、オレは死んでもかまわない。
少し心配なのは、ピンぼけに終わっていないか? ということ。まぁ、その場合は、見えないけど、思い出にはなるかな。最悪、情景が思い出せるならヨシだ。あぁ、しまった! 音! このやりとりと、彼女の声! 録れば良かった。
「そ、そんなもっともらしいこと言われたら、消してって言いにくいじゃない」
「消さないよ。大切な、とても神聖な思い出だもん」
「だって、恥ずかしすぎる写真だよ?」
「だって誰にも見せないから大丈夫だよ?」
「あなたに見られるもん」
「オレはいいでしょ? 遅かれ早かれ、全部見られちゃうって、言ってたじゃん」
「それはそうだけど、するとき見られちゃうのは仕方ないじゃない」
「仕方ないって、やっぱりオレでも見られたくはないってこと?」
「そうじゃないけど、恥ずかしいよぉ」
またまた可愛い。でも破棄だけは回避したい。
「わかった。なるべく見ないようにする。それならいいでしょ?」
「見ないならそれでいい。あれっ? なんかおかしい気がする。それって見ることは見るってことだよね?」
あ、惜しい。もう少しだ。
「記録だもん。1回は確認するよ」
「あーん、それもダメー。恥ずかしいよぉ」
「わかった。写真できたら、二人で一緒に確認しよう。今日のこのとき大慌てしたことや恥ずかしかったことを2人で思い出し笑いしよう。それが終わったら、写真全部渡すから君が保管して管理すればいい、また何年かして、また二人で見て思い出し笑いしようよ。それならいいだろう?」
「ん? う、うん。わかった。それならいいか。うん。そうしよう」
ホッ、なんとか危機は回避できたかな? 話題もそらしとかなきゃ。
「じゃあ、また寒くなってきたから、一緒にお風呂浸かろう!」
「うん。私たち、今日お風呂入ってばっかりだね。えへへへ。なんか楽しいね」
あー、もー、可愛すぎる。
「まったく君って人は、どんだけ可愛いいの?」
「それ、誉めてくれてるの? なんか責められてるようにも聞こえるよ?」
「アハハハ。責めてるのかも?」
「え? 私、何か悪いことしたの?」
「あー、したねぇ」
「えぇ? なに? ごめんなさい。私なにしたの?」
「オレの心を盗んでいったの」
つい先日なんかの映画か、アニメのセリフで似たようなのがあったな。ついパクっちゃったかも?
「え? あぁ、もぅ。焦ったでしょ。もぉ~。今日の1日だけで、何回ドギマギさせれば気が済むのよ~?」
「え? あ、やっぱり自覚ないんだ。あぁ、そうだった。君は記憶なくしてて、自分が可愛いことも知らなかったんだっけ? それならばなおのこと、純粋な可愛さだけで、それほどの可愛さパワーを放出してるんだよね。それ、すごく嬉しいし、すごく苦しい」
「よくわからないけど、誉めてくれてる? でも、苦しめてるの? ん? うーん? やっぱり私悪い子ってことなのかな~」
少し落ち込み加減で呟く。
「ちが、違うよ! 苦しいって言ったのは、辛い意味じゃなくて、むしろ嬉しい苦しさ。好きとか、可愛いとか、思うたびに胸の中で渦巻くザワザワもやもやしたものが溜まっていく感じ。今一緒にいるオレは、君が許してくれるから君を抱きしめられて、なんとかなるけど、もし家に帰るとかで一時的でも離れるときは、たぶん会えない苦しさで悶えそうになるかも? もしも君を可愛いと思う他の人は、抱きしめることもできずに、苦しむんだろうなってこと。罪作りなやつ」
「あぁ、罪作りな女ってことね? なんかカッコいい響き。そんな風に言われるのは、勲章のような誉められてる感じがして嬉しいと思う。でも、誰かが苦しんでいるのなら、喜んじゃいけないんだね。そもそも、買い被り過ぎじゃない? 私なんて、たぶん何の取り柄もないよ。きっと。私なんて、好きになったって、でも、あなたには好きになってほしい。うぅ、ジレンマだね」
「そうだね。でも、誰かが好きになってくれることはいいことなんだよ。苦しいのが嫌なら好きにならなければいい。それに、たとえ報われなくても、誰かを好きになったことは幸せな気持ちにさせてもらえたのだから、本人は喜ぶべきことなんだから、気にすることはないさ。そりゃあ、今のオレみたいに報われて嬉しくてたまらないやつも入るけど、もし報われてなかったとしても、君には感謝の念しか抱かない。だから大丈夫」
「嬉しくてたまらないの?」
「そりゃそうさ。いまだに感動に打ち震えているよ。もしも夢なら覚めないで、って思ってる。って、ずいぶん長湯しちゃったね。そろそろお風呂を出て、夕ご飯の準備しないと、今日は宴じゃあ」
「そうだそうだ、宴じゃあ。急ごう!」
あり合わせのもので、かんたんな食事を作ると、今度はおつまみ。今日は特別。宴だから、こっちに力を入れる。お菓子がたぶん好きだろうから、あれこれ並べて、とっておきの缶詰めもたくさん開けて、野菜を洗って、サラダを盛りつける。
「あのさ、わからないと思うけど、多分未成年者だよね?」
「んー、いくつに見える?」
「17、18歳くらいかなぁ? 可愛らし過ぎるから、16歳以下でも通るかも?」
「でも何で?」
「お酒飲めるのかな~? って思って。お酒は18歳以上でしょ?」
「あー、うん、きっと18歳だよ」
「アレ? 飲んでみたいの?」
「うん。ちょっと興味ある。それに今日は突然恋して、それが実って、オマケにプロポーズまでされたし、一緒にお風呂も入ったし、なんと言っても、私の生還祝いも兼ねた、盛大な宴なんだよ。お酒もちょっとくらいなら大丈夫よね?」
「うーん、そうだね。今日ほどおめでたい日はないし、うん、乾杯だけはお酒にしようか?」
「え、ホント? やったぁ。そうね。自称18歳だから問題なし」
「何が飲めそうかな? ビールいける?」
「ニガいんでしょ? でも、今日はオトナの階段をひとつ登るんだ。ビールでいいよっ」
「わかった。じゃあ、直前にバイクで買ってくるよ」
「あとは、っと、特にないよね。私も一緒にお買い物行けるかな?」
「あぁ、行きたいの? じゃあ、軽トラで一緒に行こうか? でも自販機しかないよ?」
「ホント? やったぁ! 夫婦でおっかいものっ、自販機バンザァイ」
「コラコラ、まだ結婚してないし」
「もう、したようなもんだよ」
もう、黒子の一言一言がオレの心をくすぐってくる。もう、たまらない。抑えきれず、黒子を抱きしめキスをする。そのあとも、黒子が心をくすぐるたびに、もう、止まらない。ギュッと抱きしめ、チュッ。そしてまた抱きしめる。そんな繰り返し。らちがあかないけど、嬉しい時間だ。端から見たら、ただのイチャイチャだけどね。
「あるある、研究職ですから、カメラは必須なんだ。なんなら今夜空を背景に一枚撮る?」
「え? 今? 裸で?」
「はは、裸はまずいよね。さすがに」
「あぁ、まずくないけど、現像するのに他の人に見られちゃうのは、やっぱりダメね」
「え? 問題は他の人なだけで、写真自体は問題ないの?」
「そりゃ、恥ずかしいけど、あなたにしか見せないのなら、これ以上ない思い出になるでしょう? それに、あなたと結ばれることを決心した以上、遅かれ早かれ、あなたにはすべて見られちゃうもの。うぅ、言ってて恥ずかしくなる。それにあなたも私も年をとる。一番きれいな身体の私と、一緒にいるあなた。今の私も、来年の私も、そのあとの私も、ずっと記憶に留めて欲しいけど、だんだん記憶はぼやけていくものだから、記録しておきたいなって思うの。でも、あなただけにしか見られたくないから無理かな?」
「すごく嬉しい。それと現像や焼き増しなら、オレできちゃうよ。研究者だもの。必須スキルなのです」
「えー? それなら撮ろう撮ろう。でも、恥ずかしいなぁ」
「決められないなら、別の日でもいいんじゃない?」
「ダメ。今日、この日が記念日だもの。よし決めた。撮るよ。カメラは準備できる?」
「わかった。持ってくる。でもすごいね、その踏ん切りの良さ。尊敬」
「うふふ。でしょ?」
大急ぎでカメラを取りに行き、戻ってきた。
「持ってきたよ」
「じゃ、ドラム缶に浸かってる、星空バックの記念すべき一枚ね」
パシャッ
「別のアングルで」
パシャッ
「月も入れたいなぁ」
パシャッ
「じゃあ、トップシークレットの神聖なやつ」
パシャッ
「ちょっとエッチな、コホン、神聖なバージョン」
パシャッ
「じゃあ、今度は君一人バージョンで」
「えー? は、恥ずかしいよぉ」
パシャッ
パシャッ
パシャッ
「ズルい」
「だって、可愛らしい君だけのが欲しいから」
「うー、仕方ないなぁ、もう。
そういえば、とっくに全部見られてるよね」
「恥ずかしそうなその表情込みでいただき」
パシャッ
「あー、もう。ズルいぞぉ」
パシャッ
「今度はドラム缶から出て全身で」
「えー? は、恥ずかしい……」
「いまさらだし、月をバックの神秘的な一枚が欲しい。美しすぎて、言葉にならないような一枚が欲しい」
「わかった」
パシャッ
「あーーっ、動いてる途中だよ~」
パシャッ
パシャッ
「もぉ、プンプンだよ」
「か、可愛いー、いただき」
パシャッ
「膨れっ面も可愛いけど、今度はキリッとした表情でね?」
「あ、いいね、そんな感じ」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「じゃあ、次はななめ45度から」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「なんかさっきから連写してない? フィルムもったいないよ?」
パシャッ
「君を写すのならお金いくらかかっても惜しくないよ」
「じゃあ、背を向けて、頭だけ振り返る。そう。風が出てきたから、そよぐ髪を右手で軽く押さえるみたいに」
「こう?」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「そう、すごくいい。お尻もとっても可愛くて、背中と振り向く横顔がとても神秘的」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「もう、誉めるのが巧いな。カメラマンできそうだよ」
パシャッ
「その笑顔いただき」
パシャッ
「もぅ。ん? なんか「もう」ばっかり言ってる気がする」
「いいじゃん。ビーフ記念日」
「いやぁ、そんなの絶対いや」
「うそ、うそ、冗談だよ。じゃあ、最後にしようか? 二人で撮ろう? そんでそのまま残りのフィルムも連写で使い切っちゃおうか?」
「うん」
パシャッ、パシャッ、パシャッ
「今日の初めてのスキンシップはこうだったよね」
パシャッ、パシャッ
「近付いて大きく写ろう」
「ちょっと恥ずかしいね。胸隠していーぃ?」
パシャッ、パシャッ
「えぇ? 今更じゃない?」
「そっか、ま、いっか?」
パシャッ、パシャッ
「手は少し動くでしょ? いっそのこと、俺の首に両手を回して、キスしながら、胸もバーンって、大胆に撮ろうよ?」
「それもいっか、秘密の記念写真だもんね」
パシャッ、パシャッ
「あれっ? せっかくの胸が足で隠れちゃう」
カメラの方向と体の向きを調整していく。
パシャッ、パシャッ
「んぐっ、ね、ねぇ、そんなに向きを変えたら、私の大事なところ、見えてない?」
「見える訳ないじゃん。胸は丸見えだけどね」
「ちが、ば、ばか、カメラからよ」
パシャッ、パシャッ
「え? あっ! あーーっ」
「えぇ? 写ってる、写ってる、キャーッ、止めてー」
パシャッ、パシャッ
「バカ、暴れると手が……」
抱っこ状態の片足がスルリと落ちた。
あーーっ、全開。
パシャッ、パシャッ
「いやぁーーーぁっ、撮らないでー」
パシャッ、パシャッ
カメラに近付いて止めようとする。
「ば、ばか、近付くと、どアップじゃない!」
パシャッ、パシャッ、シーン。
「あ、終わったみたい。良かった」
二人してシャッターの嵐に大慌てしていたから、連写が止まって、安堵する。
「止まって良かったね? でもすごく楽しかった。あははは。二人で必死だったもんね」
「うん。って、あれっ? なんかおかしい。終わったのはいいけど、撮られちゃった後じゃない、バカバカバカバカ。大体、まだしたこともないのに、ここまで見られちゃうって、火が出そうなくらい恥ずかしい。
このスケベ、どスケベ、スケベ星人。もう知らない。ぐすん」
「ごめん。でも、見たのはカメラで、オレには見えてないじゃん。それにすべて見て欲しいって言ったの君だよ。だから、すべて見たいし、記録した。それと、ドキドキするような時間が楽しかった。ありがとう。オマケに二人でドギマギ大慌てして、すごく楽しい時間が加わったのも嬉しい、あー、楽しかった。アハハハ。あ、さっき、記憶が戻ったときが怖いような話をして、君は大丈夫、みたいに言ってくれたけど、どう転ぶかわからない怖さはまだあって、おれとの時間が色濃く君の記憶の中に刻み込みたいって思った。そういう意味で、さっきのは、君の心に爪痕を残せる、願ってもない、嬉しいハプニング。君を勝ち取りたい。そんな思いを叶えてくれようと、神様が取り計らってくれたのだと思ってる。だから君は嫌でもオレは嬉しかったし、とても大切な思い出だよ?」
この主張に、やましい気持ちがあることは、オレも男だから否定できない。言わないけどね。
でもいろんなハプニングも含めた彼女とオレの記念すべき瞬間のすべてを写し取れた、もうオレたちの宝物とも言える。彼女の恥ずかしさも、オレのドキドキも、もうすべてがかけがえのない一瞬たちを、図らずも記録として封入に成功したのだ。もしも明日世界が滅ぶとしたら、彼女とこの思い出の記録だけ守れたら、オレは死んでもかまわない。
少し心配なのは、ピンぼけに終わっていないか? ということ。まぁ、その場合は、見えないけど、思い出にはなるかな。最悪、情景が思い出せるならヨシだ。あぁ、しまった! 音! このやりとりと、彼女の声! 録れば良かった。
「そ、そんなもっともらしいこと言われたら、消してって言いにくいじゃない」
「消さないよ。大切な、とても神聖な思い出だもん」
「だって、恥ずかしすぎる写真だよ?」
「だって誰にも見せないから大丈夫だよ?」
「あなたに見られるもん」
「オレはいいでしょ? 遅かれ早かれ、全部見られちゃうって、言ってたじゃん」
「それはそうだけど、するとき見られちゃうのは仕方ないじゃない」
「仕方ないって、やっぱりオレでも見られたくはないってこと?」
「そうじゃないけど、恥ずかしいよぉ」
またまた可愛い。でも破棄だけは回避したい。
「わかった。なるべく見ないようにする。それならいいでしょ?」
「見ないならそれでいい。あれっ? なんかおかしい気がする。それって見ることは見るってことだよね?」
あ、惜しい。もう少しだ。
「記録だもん。1回は確認するよ」
「あーん、それもダメー。恥ずかしいよぉ」
「わかった。写真できたら、二人で一緒に確認しよう。今日のこのとき大慌てしたことや恥ずかしかったことを2人で思い出し笑いしよう。それが終わったら、写真全部渡すから君が保管して管理すればいい、また何年かして、また二人で見て思い出し笑いしようよ。それならいいだろう?」
「ん? う、うん。わかった。それならいいか。うん。そうしよう」
ホッ、なんとか危機は回避できたかな? 話題もそらしとかなきゃ。
「じゃあ、また寒くなってきたから、一緒にお風呂浸かろう!」
「うん。私たち、今日お風呂入ってばっかりだね。えへへへ。なんか楽しいね」
あー、もー、可愛すぎる。
「まったく君って人は、どんだけ可愛いいの?」
「それ、誉めてくれてるの? なんか責められてるようにも聞こえるよ?」
「アハハハ。責めてるのかも?」
「え? 私、何か悪いことしたの?」
「あー、したねぇ」
「えぇ? なに? ごめんなさい。私なにしたの?」
「オレの心を盗んでいったの」
つい先日なんかの映画か、アニメのセリフで似たようなのがあったな。ついパクっちゃったかも?
「え? あぁ、もぅ。焦ったでしょ。もぉ~。今日の1日だけで、何回ドギマギさせれば気が済むのよ~?」
「え? あ、やっぱり自覚ないんだ。あぁ、そうだった。君は記憶なくしてて、自分が可愛いことも知らなかったんだっけ? それならばなおのこと、純粋な可愛さだけで、それほどの可愛さパワーを放出してるんだよね。それ、すごく嬉しいし、すごく苦しい」
「よくわからないけど、誉めてくれてる? でも、苦しめてるの? ん? うーん? やっぱり私悪い子ってことなのかな~」
少し落ち込み加減で呟く。
「ちが、違うよ! 苦しいって言ったのは、辛い意味じゃなくて、むしろ嬉しい苦しさ。好きとか、可愛いとか、思うたびに胸の中で渦巻くザワザワもやもやしたものが溜まっていく感じ。今一緒にいるオレは、君が許してくれるから君を抱きしめられて、なんとかなるけど、もし家に帰るとかで一時的でも離れるときは、たぶん会えない苦しさで悶えそうになるかも? もしも君を可愛いと思う他の人は、抱きしめることもできずに、苦しむんだろうなってこと。罪作りなやつ」
「あぁ、罪作りな女ってことね? なんかカッコいい響き。そんな風に言われるのは、勲章のような誉められてる感じがして嬉しいと思う。でも、誰かが苦しんでいるのなら、喜んじゃいけないんだね。そもそも、買い被り過ぎじゃない? 私なんて、たぶん何の取り柄もないよ。きっと。私なんて、好きになったって、でも、あなたには好きになってほしい。うぅ、ジレンマだね」
「そうだね。でも、誰かが好きになってくれることはいいことなんだよ。苦しいのが嫌なら好きにならなければいい。それに、たとえ報われなくても、誰かを好きになったことは幸せな気持ちにさせてもらえたのだから、本人は喜ぶべきことなんだから、気にすることはないさ。そりゃあ、今のオレみたいに報われて嬉しくてたまらないやつも入るけど、もし報われてなかったとしても、君には感謝の念しか抱かない。だから大丈夫」
「嬉しくてたまらないの?」
「そりゃそうさ。いまだに感動に打ち震えているよ。もしも夢なら覚めないで、って思ってる。って、ずいぶん長湯しちゃったね。そろそろお風呂を出て、夕ご飯の準備しないと、今日は宴じゃあ」
「そうだそうだ、宴じゃあ。急ごう!」
あり合わせのもので、かんたんな食事を作ると、今度はおつまみ。今日は特別。宴だから、こっちに力を入れる。お菓子がたぶん好きだろうから、あれこれ並べて、とっておきの缶詰めもたくさん開けて、野菜を洗って、サラダを盛りつける。
「あのさ、わからないと思うけど、多分未成年者だよね?」
「んー、いくつに見える?」
「17、18歳くらいかなぁ? 可愛らし過ぎるから、16歳以下でも通るかも?」
「でも何で?」
「お酒飲めるのかな~? って思って。お酒は18歳以上でしょ?」
「あー、うん、きっと18歳だよ」
「アレ? 飲んでみたいの?」
「うん。ちょっと興味ある。それに今日は突然恋して、それが実って、オマケにプロポーズまでされたし、一緒にお風呂も入ったし、なんと言っても、私の生還祝いも兼ねた、盛大な宴なんだよ。お酒もちょっとくらいなら大丈夫よね?」
「うーん、そうだね。今日ほどおめでたい日はないし、うん、乾杯だけはお酒にしようか?」
「え、ホント? やったぁ。そうね。自称18歳だから問題なし」
「何が飲めそうかな? ビールいける?」
「ニガいんでしょ? でも、今日はオトナの階段をひとつ登るんだ。ビールでいいよっ」
「わかった。じゃあ、直前にバイクで買ってくるよ」
「あとは、っと、特にないよね。私も一緒にお買い物行けるかな?」
「あぁ、行きたいの? じゃあ、軽トラで一緒に行こうか? でも自販機しかないよ?」
「ホント? やったぁ! 夫婦でおっかいものっ、自販機バンザァイ」
「コラコラ、まだ結婚してないし」
「もう、したようなもんだよ」
もう、黒子の一言一言がオレの心をくすぐってくる。もう、たまらない。抑えきれず、黒子を抱きしめキスをする。そのあとも、黒子が心をくすぐるたびに、もう、止まらない。ギュッと抱きしめ、チュッ。そしてまた抱きしめる。そんな繰り返し。らちがあかないけど、嬉しい時間だ。端から見たら、ただのイチャイチャだけどね。
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