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9.後宮の秀女選出
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鴻は、もともとは遊牧民の部族、殷族が、中原を治める曹帝国から独立して興った国である。
初代皇帝、青鷹は、曹の将軍だった。
二代、黄鷹帝の代に、鴻国として独立し、その後も曹との間で戦いを繰り返しながら、次第に勢力範囲を広げている。
現皇帝、飛鷹は初代から数えて、第七代目の皇帝であった。
その飛鷹には現在、後継ぎとなる皇子がいない。
それを憂えた皇帝の生母、宣皇太后は後宮に新たな妃を入れることを進言した。
新しい妃など、争いの種だと思った飛鷹は気がすすまなかったが、何としても次の皇帝に飛鷹の息子をつけたいと切望している皇太后は聞く耳を持たず、なかば強引に後宮の増員を決めてしまった。
その新しい妃を選ぶ、「秀女選出」が今夜行われるのだ。
ちなみに鴻の後宮は、皇后の下に「四妃」と呼ばれる貴妃、淑妃、徳妃、恵妃がいて、その下に「九嬪」と呼ばれる麗儀、麗容、麗媛、佳儀、佳容、佳媛、慎儀、慎容、慎媛がいる。
その下に貴人、美人、才人、宝林、御花、采女、と続くが嬪以下は、すべて「宮女」と呼ばれ、この階級には人数の定めはない。
現在、飛鷹の後宮では皇太后の姪である皇后宣氏と、北方遠征で武功を挙げ続けている常勝将軍、江 康勇の妹である江貴妃が勢力を二分していた。
そんなところに新しい妃がぽっと入ってきて下手に皇子でも産もうものなら争いの種になるのは目に見えている。
(まったく母上ときたら、ご自分がさんざん後宮の争いで苦しめられたというのに、平気で姪に同じ苦しみを強いようというんだからな)
皇后は飛鷹には、従姉にあたる。
二つ年上で控え目な性質の彼女に、飛鷹はおだやかな愛情を抱いていた。
二人の間には、三つになる春瑤公主もいる。
このまま皇后が嫡子となる男の子を生んでくれれば、それが一番良いのだが、もともと丈夫な方でない皇后は公主を生んだあと、自分の宮で休養することが多くなり、皇子の誕生はとうぶん見込めそうもないと言われていた。
江貴妃は、その間に自分こそが皇子を産み、国母の座についてみせると息巻いているようだが、今のところ子には恵まれていない。
皇太后にしてみれば、皇后が無理ならばせめてライバルの江貴妃には皇子を産ませたくない。
その前に自分の息のかかった妃嬪に皇子を産ませようと考えているらしかった。
妃選びなどといっても色気もなにもない。
重要視されるのは、恐らく健康で多産そうな体を持っていることと、おとなしく従順で皇太后の意のままになりそうな娘かどうかということだろう。
だったら自分が出ていって選ぶ必要などないだろうと思うのだが、そうもいかないらしい。
飛鷹は、なかばうんざりしながら会場となっている仁寿宮に行った。
そこではすでに皇太后が待ちかねていた。
「随分遅かったのですね。皇上。どちらかへお出かけでしたか?」
飛鷹がお忍びで城下に出ていたことも、母はすっかりお見通しらしい。
「いえ、ちょっと支度に手間取りまして……」
飛鷹は、曖昧に言葉を濁して中央の玉座についた。
秀女たちとの間には、御簾が下ろされあちらからは、こっちの顔が見えないようになっている。
やがて秀女選びが始まった。
最初に入ってきたのは、痩せた小柄な娘だった。
「式部省の副長官、索氏の娘、玉琳、十七歳」と太監が名を読み上げる。
前に進み出てお辞儀をするが早いか、皇太后が手にした扇をすっと閉じる。
御前太監が心得たように、
「索 玉琳に花を賜る」
と高らかに告げる。
索氏の娘はいたたまれない様子で、うつむきがちに渡された花をとり下がっていった。
選ばれた娘には、宮女の印である銀の札を賜る。
花を賜るというのは、札を貰えない。つまり、落選したという意味なのだった。
初代皇帝、青鷹は、曹の将軍だった。
二代、黄鷹帝の代に、鴻国として独立し、その後も曹との間で戦いを繰り返しながら、次第に勢力範囲を広げている。
現皇帝、飛鷹は初代から数えて、第七代目の皇帝であった。
その飛鷹には現在、後継ぎとなる皇子がいない。
それを憂えた皇帝の生母、宣皇太后は後宮に新たな妃を入れることを進言した。
新しい妃など、争いの種だと思った飛鷹は気がすすまなかったが、何としても次の皇帝に飛鷹の息子をつけたいと切望している皇太后は聞く耳を持たず、なかば強引に後宮の増員を決めてしまった。
その新しい妃を選ぶ、「秀女選出」が今夜行われるのだ。
ちなみに鴻の後宮は、皇后の下に「四妃」と呼ばれる貴妃、淑妃、徳妃、恵妃がいて、その下に「九嬪」と呼ばれる麗儀、麗容、麗媛、佳儀、佳容、佳媛、慎儀、慎容、慎媛がいる。
その下に貴人、美人、才人、宝林、御花、采女、と続くが嬪以下は、すべて「宮女」と呼ばれ、この階級には人数の定めはない。
現在、飛鷹の後宮では皇太后の姪である皇后宣氏と、北方遠征で武功を挙げ続けている常勝将軍、江 康勇の妹である江貴妃が勢力を二分していた。
そんなところに新しい妃がぽっと入ってきて下手に皇子でも産もうものなら争いの種になるのは目に見えている。
(まったく母上ときたら、ご自分がさんざん後宮の争いで苦しめられたというのに、平気で姪に同じ苦しみを強いようというんだからな)
皇后は飛鷹には、従姉にあたる。
二つ年上で控え目な性質の彼女に、飛鷹はおだやかな愛情を抱いていた。
二人の間には、三つになる春瑤公主もいる。
このまま皇后が嫡子となる男の子を生んでくれれば、それが一番良いのだが、もともと丈夫な方でない皇后は公主を生んだあと、自分の宮で休養することが多くなり、皇子の誕生はとうぶん見込めそうもないと言われていた。
江貴妃は、その間に自分こそが皇子を産み、国母の座についてみせると息巻いているようだが、今のところ子には恵まれていない。
皇太后にしてみれば、皇后が無理ならばせめてライバルの江貴妃には皇子を産ませたくない。
その前に自分の息のかかった妃嬪に皇子を産ませようと考えているらしかった。
妃選びなどといっても色気もなにもない。
重要視されるのは、恐らく健康で多産そうな体を持っていることと、おとなしく従順で皇太后の意のままになりそうな娘かどうかということだろう。
だったら自分が出ていって選ぶ必要などないだろうと思うのだが、そうもいかないらしい。
飛鷹は、なかばうんざりしながら会場となっている仁寿宮に行った。
そこではすでに皇太后が待ちかねていた。
「随分遅かったのですね。皇上。どちらかへお出かけでしたか?」
飛鷹がお忍びで城下に出ていたことも、母はすっかりお見通しらしい。
「いえ、ちょっと支度に手間取りまして……」
飛鷹は、曖昧に言葉を濁して中央の玉座についた。
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やがて秀女選びが始まった。
最初に入ってきたのは、痩せた小柄な娘だった。
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前に進み出てお辞儀をするが早いか、皇太后が手にした扇をすっと閉じる。
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