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第二章 恋と陰謀の輪舞曲
24.前王太子アドリアンの誤算
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「命が危ういなど、そんな大袈裟な母上」
アドリアンは戸惑ったような笑みをかえした。
「たかが女同士の嫉妬から始まったことですよ。それを王太子位の剥奪だの
命がどうこうだの馬鹿げていますよ。父上もクレヴィング公爵の手前、一応ああ言ってみせただけで、しばらくしたらまたすべてが元通りになりますよ」
「元通りとは?」
「ですから私は元のまま王太子で、母上は第一王妃。アマーリアとの婚約は解消しましたが、それではクレヴィング公爵が収まらないというのならあれを形ばかりの王太子妃としてマリエッタを側室として迎えてもいい」
「それでも良いと思っているのなら、どうして最初からそうしなかったのです! 何故、衆人環視の前でアマーリアに婚約解消を言い渡すなど、そんな馬鹿げたことをしたのですか!!」
とうとう王妃は口元を覆って泣き出した。
侍女が駆け寄ってハンカチを差し出し、ひじ掛け椅子をもってきて王妃にすすめた。
王妃はそこに崩れ落ちるように腰を下ろした。
「いや、だって母上もご存じでしょう。マリエッタはアマーリアに酷い嫌がらせを受けていたのですよ。
調査報告を見ると、少し彼女の側にも誤解というか勘違いがあったのかもしれませんが。
それでもそれはアマーリアとその友人たちがマリエッタがそう感じるように仕向けたからだ。
名だたる大貴族の娘たちによってたかって嫉妬の目を向けられたら、マリエッタのようにか弱い繊細な少女がノイローゼのような状態になり、事実を多少誤認したとしても責めることは出来ませんよ」
王妃も目を通した報告書に書かれていたマリエッタによる「アマーリアからの執拗な苛め」に関する証言は、とても事実を多少誤認したなどといって済む内容ではなかった。
・「男爵令嬢風情が殿下に馴れ馴れしく近づかないで」と言われた。
・ 身分を理由に差別をされ、カフェテリアや図書館の利用を断られた。
・ 着ている衣服を馬鹿にされ、複数人で取り囲まれて嘲笑された。
・ 教科書やノートを破られたり、側溝に捨てられたりした。
・ アドリアンからの贈り物のドレスを破かれたり、汚されたりした。
・ 「今度殿下に近づいたらただではおかないわよ」と脅された。
・ それから数日後。一人でいるところを狙われて学院内の階段から突き落とされた。
アドリアンに婚約の解消を決意させたのは最後の項目だったそうだ。
実際にその日マリエッタは足を捻挫したと言って学院の医務室を利用しており、取り巻きの一人の知らせを受けて駆けつけたアドリアンは、
「このことは誰にも言わないで下さい。大事にしたくないのです」
と涙ぐみながら健気に微笑むマリエッタを抱きしめて、その場でアマーリアに皆の前で婚約破棄を叩きつけてやることを宣言したという。
ちなみにマリエッタが階段から突き落とされたといっているその日の同時刻。アマーリアは友人のアンジェリカとミレディと三人で図書室で過ごしていた。
その姿を図書館司書をはじめ複数の生徒たちが目撃している。
嘘をつくにしてもお粗末としかいいようがない。
もっとお粗末なのはそんな嘘にころっと騙されて、自ら将来を真っ黒に塗りつぶした我が息子だ。
(いったい、どうしてこんな風に育ってしまったのかしら。王太子らしくのびやかに自分に自信を持った人間になって欲しいと思って育てたのがいけなかったの?)
王妃はハンカチで涙を拭ってアドリアンをみつめた。
息子がこうなってしまったのは自分にも責任がある。
今の自分が母として出来ることはこの愚かな息子を夢から覚めさせて現状をしっかりと把握させることだ。
王妃は小さく深呼吸をして落ち着きを取り戻そうと努めた。
「アドリアン・クラウス。母の話をよくお聞きなさい」
日頃、温厚な母の珍しく取り乱した様子に戸惑っていたアドリアンは、落ち着いた母の声にほっとした顔になった。
「はい。何でしょう。母上」
王妃は覚悟を決めて開いた。
「あなたが二度と再び王太子位につくことは決してありません。新王太子にはエルリック王子がお立ちになることがすでに決定していて、立太子の儀の日取りも決まっています。覆されることはありません」
「え……っ」
ぽかんとしたような顔に幼い頃の面影が重なり胸が痛む。
しかし生半可な希望をもたせることはかえって息子の息の根を止めることになりかねない。王妃はそう思って心を鬼にして言葉を続けた。
「アマーリアが形ばかりにでもあなたの妃になってくれることもありません。
彼女はクルーガー伯爵家の嫡男、ラルフ・クルーガーとの婚約を正式に国王陛下に願い出ました。今日、いまこの時にでも陛下の御前で二人は婚約を許され、そう遠くないうちに結婚することになるでしょう」
「アマーリアがあの騎士と!? こんなに早くですか? つい先日まで私の婚約者であったのに何という恥知らずな女だ!」
(恥知らずは貴方とマリエッタ嬢の方でしょう)
王妃は溜息とともに首を振った。
「叶うことならば私から公爵に頭を下げてリアとの復縁だけでも認めて貰おうと思っていたのに遅かったようです」
「何を言っているのですか。母上! 先ほど私が言ったあれを形ばかりの正妃にという言葉を真に受けていらっしゃるのですね。
あれはあくまで、むこうがどうしてもと言うのならそうしてやってもいいという意味ですよ。
あんな高慢ちき女こっちから願い下げです。クルーガーだか何だか知らないがどこの誰とでも好きに一緒になればいい!」
虚勢をはっているとしか思えないわざとらしい大声でまくしたてるアドリアンを見て王妃はつくづく悲しくなった。
「貴方はまだそんなことを言っているのですか? リアとの復縁を望んだのは先ほども言ったようにあなたの命を守りたいと思ったからです」
「どういうことです?」
「あなたの処遇について貴族たちからはさまざまな意見が出ています。なかにはのちの争いの種を除くためにあなたを王族の籍から除外して臣下の身分とするようにとの意見もあるようです」
「なっ!? そのようなことを申しておるのはどこのどいつですか!!」
アドリアンは目を剥いて怒鳴った。
「ザイフリート公爵です」
四大公爵家の一つの当主が自分に対して公然と敵対したという事実を知ってアドリアンは蒼白になった。
「ザイフリート公爵がなぜ……」
「公爵の姫君、カタリーナ嬢はこの度エルリック王子の婚約者に選ばれました。公爵は未来の王太子妃、ゆくゆくは王妃となる娘とその娘が産むであろう次代の王子のために脅威となる可能性のあるものは極力、除いておきたいとお考えなのですよ」
アドリアンはふらりと先ほどまでマリエッタと座っていたベンチに腰を下ろした。
頭のなかが真っ白になり、指先がすうっと冷たくなっていく。
「ザイフリート公爵は立太子と同時に婚約発表。それから時を移さずに即、結婚式を挙げることを国王陛下に願い出ているそうです。
そしてそれにはロザリー妃の父君であるマール辺境伯も賛成していらっしゃるとか」
ザイフリート公爵とマール辺境伯。二つの有力貴族の希望とあっては国王も無視は出来ず、宮廷内の世論もだいぶそちらの方へ傾き始めているらしい。
「あなたの廃位を決めた時、国王陛下はあなたとマリエッタ嬢の婚約を認め、どこか王家の直轄領……マイセンあたりを賜って大公の一人として暮らさせようとお考えだったのですよ。
けれどザイフリート公爵はそれに反対を唱えました。
年の近い、しかも第一王妃の産んだ第一子であるアドリアン王子に豊かな領地と多くの家臣を与え、王都から出すことはエルリック王子が即位された時の治世に反乱の種を蒔くようなものだと。
まずはあなたの血筋を永久に王位継承権から除くことを公布し、そのうえで王都の中に邸を与え当分の間監視下におき、不穏な動きがないと分かれば男爵位あたりを与えて家臣の一人として宮廷に上がらせてはどうかというのです」
それはつまり、不穏な動きがあると見なされれば即座に捕縛、投獄される可能性があるということである。
王位を狙っているなどという罪を着せられれば良くて生涯幽閉。
悪ければ処刑されかねない。
「馬鹿な……」
アドリアンは力なく呟いた。
国王の第一王子として生まれた自分が、家臣として他の貴族たちに混ざって宮廷に上がるというのか。しかも貴族としては末席の男爵として!
今まで自分に家臣として仕えてきたヴィクトールやクレイグに対して、身分が下の者として礼を尽くさなければならないというのか。
あまりの屈辱に震えるアドリアンを痛ましげに見ながら王妃は話を続けた。
肝心なのはここから先だった。
自分は母としてこの愚かな息子の、せめて命だけでも守ってやらなければならない。
「陛下はそれではあまりにはあなたが哀れだと思し召され渋っておられます。しかし、ザイフリート公爵だけでなく、マール辺境伯もあなたを男爵にまで落とすのはやり過ぎだとしても、マイセン直轄領をあなたに与えることはザイフリート公爵と同じ理由で反対だそうです。王都を離れ、権力争いから遠ざかった場所で平穏に暮らすことは難しいでしょう」
王妃は立ち上がり、茫然と座っている息子のとなりに腰を下ろした。
「マール辺境伯はエルリック王子には外祖父。ザイフリート公爵は王子には舅となります。その二人の意向を陛下とはいえ無視出来ない。二人に対抗し得るのは今の宮廷ではクレヴィング公爵だけなのです」
縋るように見上げてくるアドリアンの髪を王妃はやさしく撫でた。
「だからこれ以上クレヴィング公爵を怒らせるようなことをしないで頂戴。出来ればもうあのマリエッタ嬢とは別れて欲しいけれど出来ないのならそれは構いません。ただ、金輪際、あんな下品な歌を得意げに歌ったりしてクレヴィング公爵家を敵にまわすようなことはおやめなさい。母から言えることはそれだけです」
話し終えて静かに立ち去る母王妃の背中を見送りながらアドリアンは茫然と座り続けていた。
アドリアンは戸惑ったような笑みをかえした。
「たかが女同士の嫉妬から始まったことですよ。それを王太子位の剥奪だの
命がどうこうだの馬鹿げていますよ。父上もクレヴィング公爵の手前、一応ああ言ってみせただけで、しばらくしたらまたすべてが元通りになりますよ」
「元通りとは?」
「ですから私は元のまま王太子で、母上は第一王妃。アマーリアとの婚約は解消しましたが、それではクレヴィング公爵が収まらないというのならあれを形ばかりの王太子妃としてマリエッタを側室として迎えてもいい」
「それでも良いと思っているのなら、どうして最初からそうしなかったのです! 何故、衆人環視の前でアマーリアに婚約解消を言い渡すなど、そんな馬鹿げたことをしたのですか!!」
とうとう王妃は口元を覆って泣き出した。
侍女が駆け寄ってハンカチを差し出し、ひじ掛け椅子をもってきて王妃にすすめた。
王妃はそこに崩れ落ちるように腰を下ろした。
「いや、だって母上もご存じでしょう。マリエッタはアマーリアに酷い嫌がらせを受けていたのですよ。
調査報告を見ると、少し彼女の側にも誤解というか勘違いがあったのかもしれませんが。
それでもそれはアマーリアとその友人たちがマリエッタがそう感じるように仕向けたからだ。
名だたる大貴族の娘たちによってたかって嫉妬の目を向けられたら、マリエッタのようにか弱い繊細な少女がノイローゼのような状態になり、事実を多少誤認したとしても責めることは出来ませんよ」
王妃も目を通した報告書に書かれていたマリエッタによる「アマーリアからの執拗な苛め」に関する証言は、とても事実を多少誤認したなどといって済む内容ではなかった。
・「男爵令嬢風情が殿下に馴れ馴れしく近づかないで」と言われた。
・ 身分を理由に差別をされ、カフェテリアや図書館の利用を断られた。
・ 着ている衣服を馬鹿にされ、複数人で取り囲まれて嘲笑された。
・ 教科書やノートを破られたり、側溝に捨てられたりした。
・ アドリアンからの贈り物のドレスを破かれたり、汚されたりした。
・ 「今度殿下に近づいたらただではおかないわよ」と脅された。
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「このことは誰にも言わないで下さい。大事にしたくないのです」
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ちなみにマリエッタが階段から突き落とされたといっているその日の同時刻。アマーリアは友人のアンジェリカとミレディと三人で図書室で過ごしていた。
その姿を図書館司書をはじめ複数の生徒たちが目撃している。
嘘をつくにしてもお粗末としかいいようがない。
もっとお粗末なのはそんな嘘にころっと騙されて、自ら将来を真っ黒に塗りつぶした我が息子だ。
(いったい、どうしてこんな風に育ってしまったのかしら。王太子らしくのびやかに自分に自信を持った人間になって欲しいと思って育てたのがいけなかったの?)
王妃はハンカチで涙を拭ってアドリアンをみつめた。
息子がこうなってしまったのは自分にも責任がある。
今の自分が母として出来ることはこの愚かな息子を夢から覚めさせて現状をしっかりと把握させることだ。
王妃は小さく深呼吸をして落ち着きを取り戻そうと努めた。
「アドリアン・クラウス。母の話をよくお聞きなさい」
日頃、温厚な母の珍しく取り乱した様子に戸惑っていたアドリアンは、落ち着いた母の声にほっとした顔になった。
「はい。何でしょう。母上」
王妃は覚悟を決めて開いた。
「あなたが二度と再び王太子位につくことは決してありません。新王太子にはエルリック王子がお立ちになることがすでに決定していて、立太子の儀の日取りも決まっています。覆されることはありません」
「え……っ」
ぽかんとしたような顔に幼い頃の面影が重なり胸が痛む。
しかし生半可な希望をもたせることはかえって息子の息の根を止めることになりかねない。王妃はそう思って心を鬼にして言葉を続けた。
「アマーリアが形ばかりにでもあなたの妃になってくれることもありません。
彼女はクルーガー伯爵家の嫡男、ラルフ・クルーガーとの婚約を正式に国王陛下に願い出ました。今日、いまこの時にでも陛下の御前で二人は婚約を許され、そう遠くないうちに結婚することになるでしょう」
「アマーリアがあの騎士と!? こんなに早くですか? つい先日まで私の婚約者であったのに何という恥知らずな女だ!」
(恥知らずは貴方とマリエッタ嬢の方でしょう)
王妃は溜息とともに首を振った。
「叶うことならば私から公爵に頭を下げてリアとの復縁だけでも認めて貰おうと思っていたのに遅かったようです」
「何を言っているのですか。母上! 先ほど私が言ったあれを形ばかりの正妃にという言葉を真に受けていらっしゃるのですね。
あれはあくまで、むこうがどうしてもと言うのならそうしてやってもいいという意味ですよ。
あんな高慢ちき女こっちから願い下げです。クルーガーだか何だか知らないがどこの誰とでも好きに一緒になればいい!」
虚勢をはっているとしか思えないわざとらしい大声でまくしたてるアドリアンを見て王妃はつくづく悲しくなった。
「貴方はまだそんなことを言っているのですか? リアとの復縁を望んだのは先ほども言ったようにあなたの命を守りたいと思ったからです」
「どういうことです?」
「あなたの処遇について貴族たちからはさまざまな意見が出ています。なかにはのちの争いの種を除くためにあなたを王族の籍から除外して臣下の身分とするようにとの意見もあるようです」
「なっ!? そのようなことを申しておるのはどこのどいつですか!!」
アドリアンは目を剥いて怒鳴った。
「ザイフリート公爵です」
四大公爵家の一つの当主が自分に対して公然と敵対したという事実を知ってアドリアンは蒼白になった。
「ザイフリート公爵がなぜ……」
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アドリアンはふらりと先ほどまでマリエッタと座っていたベンチに腰を下ろした。
頭のなかが真っ白になり、指先がすうっと冷たくなっていく。
「ザイフリート公爵は立太子と同時に婚約発表。それから時を移さずに即、結婚式を挙げることを国王陛下に願い出ているそうです。
そしてそれにはロザリー妃の父君であるマール辺境伯も賛成していらっしゃるとか」
ザイフリート公爵とマール辺境伯。二つの有力貴族の希望とあっては国王も無視は出来ず、宮廷内の世論もだいぶそちらの方へ傾き始めているらしい。
「あなたの廃位を決めた時、国王陛下はあなたとマリエッタ嬢の婚約を認め、どこか王家の直轄領……マイセンあたりを賜って大公の一人として暮らさせようとお考えだったのですよ。
けれどザイフリート公爵はそれに反対を唱えました。
年の近い、しかも第一王妃の産んだ第一子であるアドリアン王子に豊かな領地と多くの家臣を与え、王都から出すことはエルリック王子が即位された時の治世に反乱の種を蒔くようなものだと。
まずはあなたの血筋を永久に王位継承権から除くことを公布し、そのうえで王都の中に邸を与え当分の間監視下におき、不穏な動きがないと分かれば男爵位あたりを与えて家臣の一人として宮廷に上がらせてはどうかというのです」
それはつまり、不穏な動きがあると見なされれば即座に捕縛、投獄される可能性があるということである。
王位を狙っているなどという罪を着せられれば良くて生涯幽閉。
悪ければ処刑されかねない。
「馬鹿な……」
アドリアンは力なく呟いた。
国王の第一王子として生まれた自分が、家臣として他の貴族たちに混ざって宮廷に上がるというのか。しかも貴族としては末席の男爵として!
今まで自分に家臣として仕えてきたヴィクトールやクレイグに対して、身分が下の者として礼を尽くさなければならないというのか。
あまりの屈辱に震えるアドリアンを痛ましげに見ながら王妃は話を続けた。
肝心なのはここから先だった。
自分は母としてこの愚かな息子の、せめて命だけでも守ってやらなければならない。
「陛下はそれではあまりにはあなたが哀れだと思し召され渋っておられます。しかし、ザイフリート公爵だけでなく、マール辺境伯もあなたを男爵にまで落とすのはやり過ぎだとしても、マイセン直轄領をあなたに与えることはザイフリート公爵と同じ理由で反対だそうです。王都を離れ、権力争いから遠ざかった場所で平穏に暮らすことは難しいでしょう」
王妃は立ち上がり、茫然と座っている息子のとなりに腰を下ろした。
「マール辺境伯はエルリック王子には外祖父。ザイフリート公爵は王子には舅となります。その二人の意向を陛下とはいえ無視出来ない。二人に対抗し得るのは今の宮廷ではクレヴィング公爵だけなのです」
縋るように見上げてくるアドリアンの髪を王妃はやさしく撫でた。
「だからこれ以上クレヴィング公爵を怒らせるようなことをしないで頂戴。出来ればもうあのマリエッタ嬢とは別れて欲しいけれど出来ないのならそれは構いません。ただ、金輪際、あんな下品な歌を得意げに歌ったりしてクレヴィング公爵家を敵にまわすようなことはおやめなさい。母から言えることはそれだけです」
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