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第49話 嘘
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俺は日向さんに嘘をついている。初めて日向さんとプライベートで出かけた日、食事をしてから映画を観に行った。
映画が終わる頃には終電の時間になっていた。深夜に女の子を一人で帰らせるわけにはいかない。
そのために俺の家とは逆方向の終電に乗り、同じ駅で降りて日向さんの自宅付近まで一緒に帰り、俺はテレポートで帰ったのだった。
なので日向さんは、同じ駅で降りるくらいだから俺と家が近いと思っているはずだ。
事実、その翌日に日向さんから「近くに住んでいるんでしょうか?」と聞かれたので、俺は「そうだね」と答えている。
日向さんは優しいから俺が本当のことを言うと、日向さんを後ろめたい気持ちにさせてしまうんじゃないかと思ったからだ。
俺の家がどこかなんて、ほんのささいなことで、どうでもいいことかもしれない。
でもこれから告白しようというのに、嘘をついたままにしておくことが、俺にはどうしてもできない。
「俺、日向さんに謝らないといけないことがあるんだ」
「うーん、なんだろう? そんなことありますか?」
「初めて日向さんと出かけた日、映画を観た後に一緒の終電で帰ったよね」
「もちろん覚えてます。私を家の近くまで送ってくれましたよね! 最寄り駅が同じだなんて、すごい偶然ですよね!」
「実は俺の家は日向さんの家とは逆方向なんだ。だから今までずっと、日向さんに嘘をついていたんだよ」
「その時のことならよく覚えています。私が部屋に着いた時に魔法を察知したんです。きっと先輩だと思ったんですけど、普段は魔法を使わないようにしている先輩が、家が近いのにテレポートで帰るなんて、おかしいなとは思いました」
「実際はめちゃくちゃ遠かったんだよ」
「私も不思議に思ってたので、次の日先輩に聞きましたよね。『先輩、また魔法使いましたよね?』って」
「あの時は魔法に頼りすぎだと怒られると思ったよ。これでも自重しているつもりなんだけどね」
「フフッ、それでもよかったんですけどね! でも先輩のことだから、もしかして私を送るために近くまで一緒に帰ってくれたのかも? なんて思い始めてから、先輩のことを考える時間が増えていったんです」
あの時の日向さんは、なんだかとても嬉しそうだった。今考えると、日向さんは俺の嘘に薄々気が付いていたのかもしれない。
「もし私のためにしてくれたことだったとしたら、どうしてそう言ってくれないんだろう? きっと本当のことを私が知ったら、後ろめたい気持ちにさせてしまうとでも考えているんだろうなって」
「見事に見破られている……!」
「やっぱりそうだったんですね。そこはですね、『実は俺の家はめちゃくちゃ遠いけど、テレポートで一瞬で着くから問題無し!』でいいんです!」
「それを言うと恩着せがましくなると思ったんだ。それにあえて伝える必要は無いかなって。でもそれを日向さんがずっと気にしていたなんて、思ってもみなかったよ」
「だって先輩のことばかり考えていましたからね! こっそりお礼だってしているんですよ」
「一緒に昼休みを過ごした時にもらった卵焼きだよね?」
「えへへ……やっぱり分かっちゃいましたか」
「さすがにあれは俺でも分かるよ」
「料理ってやっぱり誰かに食べてもらいたいもので、それで喜んでもらえれば最高だなって思うんです。それに先輩の喜ぶ顔が見たくって」
「どちらの味付けも本当に美味かった」
「毎日だって作りますよ」
「その時は俺からお願いするよ」
「それからの私は、どうすれば先輩が喜んでくれるかなって、それを一番に考えるようになりました」
もはや日向さんは言葉を選ぶということを、していないように思えた。
「そこへ如月さんが入社してきて、先輩と楽しそうに話をしているところを見て気持ちがモヤモヤしたり、私がWeb小説を投稿しているという、先輩との『二人だけの秘密』がまた一つ増えたりして、私の生活の中心が先輩になっていることに気が付きました」
日向さんからの言葉のアプローチが止まらない。元々、自分の気持ちを素直に表現する女の子だとは思っていたけど、こんなこと言われると気になるに決まってるじゃないか。
「私も先輩の家が知りたいです」
(ちょっと待て! それはどういうことだ? 日向さん、意味分かって言ってるのか?)
俺は日向さんを見つめたが、恥ずかしがっている様子は無い。
(そういえば日向さんは、悪気なくこういうことを言っちゃう子だった。
俺が異世界帰りだとバレた日に日向さんから、「私たち二人だけの秘密ですね!」と言われたんだ。その時も深い意味は無かったのだろう。俺だって日向さんを見てきたから、このくらいのことは分かるつもりだ)
この状態になった時の日向さんの意思は固い。本当はここで告白するつもりだったけど、まだ今日が終わったわけではない。ここを出てから静かな場所へ行こう。
俺だって、『今日も言えなかった……』なんてことにするつもりは無い。俺にだって、今日絶対に俺から伝えるという強い意思がある。
映画が終わる頃には終電の時間になっていた。深夜に女の子を一人で帰らせるわけにはいかない。
そのために俺の家とは逆方向の終電に乗り、同じ駅で降りて日向さんの自宅付近まで一緒に帰り、俺はテレポートで帰ったのだった。
なので日向さんは、同じ駅で降りるくらいだから俺と家が近いと思っているはずだ。
事実、その翌日に日向さんから「近くに住んでいるんでしょうか?」と聞かれたので、俺は「そうだね」と答えている。
日向さんは優しいから俺が本当のことを言うと、日向さんを後ろめたい気持ちにさせてしまうんじゃないかと思ったからだ。
俺の家がどこかなんて、ほんのささいなことで、どうでもいいことかもしれない。
でもこれから告白しようというのに、嘘をついたままにしておくことが、俺にはどうしてもできない。
「俺、日向さんに謝らないといけないことがあるんだ」
「うーん、なんだろう? そんなことありますか?」
「初めて日向さんと出かけた日、映画を観た後に一緒の終電で帰ったよね」
「もちろん覚えてます。私を家の近くまで送ってくれましたよね! 最寄り駅が同じだなんて、すごい偶然ですよね!」
「実は俺の家は日向さんの家とは逆方向なんだ。だから今までずっと、日向さんに嘘をついていたんだよ」
「その時のことならよく覚えています。私が部屋に着いた時に魔法を察知したんです。きっと先輩だと思ったんですけど、普段は魔法を使わないようにしている先輩が、家が近いのにテレポートで帰るなんて、おかしいなとは思いました」
「実際はめちゃくちゃ遠かったんだよ」
「私も不思議に思ってたので、次の日先輩に聞きましたよね。『先輩、また魔法使いましたよね?』って」
「あの時は魔法に頼りすぎだと怒られると思ったよ。これでも自重しているつもりなんだけどね」
「フフッ、それでもよかったんですけどね! でも先輩のことだから、もしかして私を送るために近くまで一緒に帰ってくれたのかも? なんて思い始めてから、先輩のことを考える時間が増えていったんです」
あの時の日向さんは、なんだかとても嬉しそうだった。今考えると、日向さんは俺の嘘に薄々気が付いていたのかもしれない。
「もし私のためにしてくれたことだったとしたら、どうしてそう言ってくれないんだろう? きっと本当のことを私が知ったら、後ろめたい気持ちにさせてしまうとでも考えているんだろうなって」
「見事に見破られている……!」
「やっぱりそうだったんですね。そこはですね、『実は俺の家はめちゃくちゃ遠いけど、テレポートで一瞬で着くから問題無し!』でいいんです!」
「それを言うと恩着せがましくなると思ったんだ。それにあえて伝える必要は無いかなって。でもそれを日向さんがずっと気にしていたなんて、思ってもみなかったよ」
「だって先輩のことばかり考えていましたからね! こっそりお礼だってしているんですよ」
「一緒に昼休みを過ごした時にもらった卵焼きだよね?」
「えへへ……やっぱり分かっちゃいましたか」
「さすがにあれは俺でも分かるよ」
「料理ってやっぱり誰かに食べてもらいたいもので、それで喜んでもらえれば最高だなって思うんです。それに先輩の喜ぶ顔が見たくって」
「どちらの味付けも本当に美味かった」
「毎日だって作りますよ」
「その時は俺からお願いするよ」
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もはや日向さんは言葉を選ぶということを、していないように思えた。
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日向さんからの言葉のアプローチが止まらない。元々、自分の気持ちを素直に表現する女の子だとは思っていたけど、こんなこと言われると気になるに決まってるじゃないか。
「私も先輩の家が知りたいです」
(ちょっと待て! それはどういうことだ? 日向さん、意味分かって言ってるのか?)
俺は日向さんを見つめたが、恥ずかしがっている様子は無い。
(そういえば日向さんは、悪気なくこういうことを言っちゃう子だった。
俺が異世界帰りだとバレた日に日向さんから、「私たち二人だけの秘密ですね!」と言われたんだ。その時も深い意味は無かったのだろう。俺だって日向さんを見てきたから、このくらいのことは分かるつもりだ)
この状態になった時の日向さんの意思は固い。本当はここで告白するつもりだったけど、まだ今日が終わったわけではない。ここを出てから静かな場所へ行こう。
俺だって、『今日も言えなかった……』なんてことにするつもりは無い。俺にだって、今日絶対に俺から伝えるという強い意思がある。
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