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第48話 変わったもの
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夜になり、日向さんと二人きりの時間が終わりに近づいている。
「行きたい場所があるんだけど、いいかな?」
「はい! いいですよ! どこですか?」
日向さんは『はい!』と返事をしてから、どこに行くのか質問をしてきた。普通は順番が逆だと思うけど。
「初めてプライベートで会った場所を覚えてる?」
「もちろんですよ! あのレストランですよね!」
日向さんが答えたのは、俺が考えている場所と同じだった。よかった、覚えていてくれたみたいだ。日向さんがどう思っているのかは分からないけど、俺にとっては特別な場所なんだ。
「前と同じ店で面白くないかな?」
「そんなことはないです! 私にとっては、どこへ行くかよりも、誰と行くかということの方が大事なんです。ラーメン屋でも牛丼屋でもいいんです。コンビニでおにぎりを買って外で食べるだけでもいいです」
「俺もそう思ってるよ。でもさすがにコンビニで済ませたりはしないよ」
そして俺達は店内に入り個室へ案内された。今日も店内にはスローテンポなBGMが流れており、本当に落ち着いて話すことに向いている店だ。
案内された席は、初めて日向さんと食事をした日に座った個室だった。
こうしてまた日向さんと対面して話せるなんて、あの時は考えてもいなかった。
「なんだか懐かしいですね」
「もう一ヶ月以上も前だからね」
「あの時は異世界の話と魔法の話をしましたよね。楽しかったぁ。なんだか思い出の場所って感じで、感慨深いです」
あの日、俺が壊れた電子レンジの代わりに魔法を使って、自力で温めた弁当を食べようとした時に、同席した日向さんから「先輩、魔法使えますよね?」と言われて、本当に驚いたことを今でもハッキリと思い出せる。
「あの日の昼休みなんだけど、どうして俺に声をかけてきてくれたの?」
「うーん、珍しかったから?」
「いや俺に聞かれても……」
「私が魔法を察知できることは知ってますよね。あの日の昼休みにですね、突然『ピキーン !』ってきたんです。私、本当にびっくりしました」
魔法察知をマンガ風に表現すると、『ピキーン !』という感じで、日向さん本人でさえもそれ以上うまくは説明できないそうだ。
「それで魔法が使われた場所に先輩が居たんですよ。ホントのことを言うと、声をかけるかすっごく迷いました。だって、それでもし違ったら、ただのイタい子だと思われちゃう。でも私は勇気を出して聞いてみることにしたんです」
「そうだったんだ。あの時は俺も本当に驚いて、動揺してしまったんだよね」
「お箸で掴んだお弁当のおかずを落としてましたね!」
「くっ! 覚えていたか!」
「先輩のことは何でも覚えてますよ。そういえばその日に初めて、先輩がテレポートを使えることを知ったんですよね。実はその日の朝にも魔法を察知したんですけど、その時は誰がどんな魔法を使ったのかまでは分からなくて」
その日の朝はなぜかアラームが鳴らなかったので、普段は使わないテレポートで出勤していた。
「あの時はただ本当に、異世界帰りの仲間がいて嬉しいという気持ちの方が強かったんです」
それは俺も同じだった。その時はまだ日向さんを『かわいい後輩』としか思っていなかった。見た目のかわいさもあるけど、明るくて素直ないい子という印象だった。
そのため俺も、他の人の異世界での話を聞いてみたいという興味の方が強かったので、気軽に日向さんと食事に行けた。
でも今はその時とは違う。俺の気持ちがいつの間にか変わっていたんだ。
「そして先輩と初めてプライベートでお話しをしたら、すごくリラックスできて楽しかったんです」
「俺としては、普段からコミュニケーションをとっていたつもりなんだけどね。ほら、メッセージのやり取りだってしていたし」
「ミーティングの時間が変更になったというメッセージのことですよね? あんなものはコミュニケーションじゃありません。ただの業務連絡です」
「あんなものって……。一応、大事な連絡なんだけどね」
「いいですか? 私は異世界とか関係無くても、先輩ともっとお話をしてみたかったんです。でも先輩って、どことなく壁を作ってるというか、必要以上に踏み込もうとしませんよね」
「だって会社の男の先輩が、必要以上に話しかけてきたら嫌だよね?」
「もう! 先輩は気を使いすぎなんですよ! 私は先輩のことが嫌だなと思ったことは一度もありません! むしろ私の教育係が先輩で本当によかったと思ってます。それに先輩は人の気持ちを無視するようなことは、絶対にしないし言わないですよね」
「それは俺がそういうことをされたら嫌だから、気をつけてるだけだよ」
「私はそうやって人を思いやることができる人を尊敬しているんです」
怒るような口ぶりの日向さんだけど、その表情からは怒りというものは感じられない。
「私、今度こそ決めました。夏祭りの時とは違って、もう迷いません」
ここで「何を?」と聞いてしまってはいけないのだと、瞬間的に悟った。
日向さんの中で『答え』が出たのだろう。あとは告白するのみだ。
でもその前に伝えないといけないことがあった。
「行きたい場所があるんだけど、いいかな?」
「はい! いいですよ! どこですか?」
日向さんは『はい!』と返事をしてから、どこに行くのか質問をしてきた。普通は順番が逆だと思うけど。
「初めてプライベートで会った場所を覚えてる?」
「もちろんですよ! あのレストランですよね!」
日向さんが答えたのは、俺が考えている場所と同じだった。よかった、覚えていてくれたみたいだ。日向さんがどう思っているのかは分からないけど、俺にとっては特別な場所なんだ。
「前と同じ店で面白くないかな?」
「そんなことはないです! 私にとっては、どこへ行くかよりも、誰と行くかということの方が大事なんです。ラーメン屋でも牛丼屋でもいいんです。コンビニでおにぎりを買って外で食べるだけでもいいです」
「俺もそう思ってるよ。でもさすがにコンビニで済ませたりはしないよ」
そして俺達は店内に入り個室へ案内された。今日も店内にはスローテンポなBGMが流れており、本当に落ち着いて話すことに向いている店だ。
案内された席は、初めて日向さんと食事をした日に座った個室だった。
こうしてまた日向さんと対面して話せるなんて、あの時は考えてもいなかった。
「なんだか懐かしいですね」
「もう一ヶ月以上も前だからね」
「あの時は異世界の話と魔法の話をしましたよね。楽しかったぁ。なんだか思い出の場所って感じで、感慨深いです」
あの日、俺が壊れた電子レンジの代わりに魔法を使って、自力で温めた弁当を食べようとした時に、同席した日向さんから「先輩、魔法使えますよね?」と言われて、本当に驚いたことを今でもハッキリと思い出せる。
「あの日の昼休みなんだけど、どうして俺に声をかけてきてくれたの?」
「うーん、珍しかったから?」
「いや俺に聞かれても……」
「私が魔法を察知できることは知ってますよね。あの日の昼休みにですね、突然『ピキーン !』ってきたんです。私、本当にびっくりしました」
魔法察知をマンガ風に表現すると、『ピキーン !』という感じで、日向さん本人でさえもそれ以上うまくは説明できないそうだ。
「それで魔法が使われた場所に先輩が居たんですよ。ホントのことを言うと、声をかけるかすっごく迷いました。だって、それでもし違ったら、ただのイタい子だと思われちゃう。でも私は勇気を出して聞いてみることにしたんです」
「そうだったんだ。あの時は俺も本当に驚いて、動揺してしまったんだよね」
「お箸で掴んだお弁当のおかずを落としてましたね!」
「くっ! 覚えていたか!」
「先輩のことは何でも覚えてますよ。そういえばその日に初めて、先輩がテレポートを使えることを知ったんですよね。実はその日の朝にも魔法を察知したんですけど、その時は誰がどんな魔法を使ったのかまでは分からなくて」
その日の朝はなぜかアラームが鳴らなかったので、普段は使わないテレポートで出勤していた。
「あの時はただ本当に、異世界帰りの仲間がいて嬉しいという気持ちの方が強かったんです」
それは俺も同じだった。その時はまだ日向さんを『かわいい後輩』としか思っていなかった。見た目のかわいさもあるけど、明るくて素直ないい子という印象だった。
そのため俺も、他の人の異世界での話を聞いてみたいという興味の方が強かったので、気軽に日向さんと食事に行けた。
でも今はその時とは違う。俺の気持ちがいつの間にか変わっていたんだ。
「そして先輩と初めてプライベートでお話しをしたら、すごくリラックスできて楽しかったんです」
「俺としては、普段からコミュニケーションをとっていたつもりなんだけどね。ほら、メッセージのやり取りだってしていたし」
「ミーティングの時間が変更になったというメッセージのことですよね? あんなものはコミュニケーションじゃありません。ただの業務連絡です」
「あんなものって……。一応、大事な連絡なんだけどね」
「いいですか? 私は異世界とか関係無くても、先輩ともっとお話をしてみたかったんです。でも先輩って、どことなく壁を作ってるというか、必要以上に踏み込もうとしませんよね」
「だって会社の男の先輩が、必要以上に話しかけてきたら嫌だよね?」
「もう! 先輩は気を使いすぎなんですよ! 私は先輩のことが嫌だなと思ったことは一度もありません! むしろ私の教育係が先輩で本当によかったと思ってます。それに先輩は人の気持ちを無視するようなことは、絶対にしないし言わないですよね」
「それは俺がそういうことをされたら嫌だから、気をつけてるだけだよ」
「私はそうやって人を思いやることができる人を尊敬しているんです」
怒るような口ぶりの日向さんだけど、その表情からは怒りというものは感じられない。
「私、今度こそ決めました。夏祭りの時とは違って、もう迷いません」
ここで「何を?」と聞いてしまってはいけないのだと、瞬間的に悟った。
日向さんの中で『答え』が出たのだろう。あとは告白するのみだ。
でもその前に伝えないといけないことがあった。
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