上 下
46 / 58

第46話 味方

しおりを挟む
 如月きさらぎが合流したことにより、俺・日向ひなたさん・如月・結瑠璃ゆるりちゃんという、ハーレム状態になった。ラノベ風にタイトルをつけるなら、『会社の後輩とデートしていただけなのに、なぜかハーレムになった件』といった感じだろうか。

 如月が日向さんの横に座ったことにより、俺から見て対面の左に結瑠璃ちゃん、正面に日向さん、右に如月という位置関係になった。
 どちら側もソファ席なのに、俺一人にテーブルをはさんで女の子三人ということになる。

「四人いたら普通二人ずつに分かれない? 俺、嫌われてるの? それとも俺の考え方がおかしいの?」

「私はアンタの横なんて嫌よ」

「ハッキリ言うんじゃない!」

「なら私は結瑠璃の横にしようかな」

「最初からそう言ってくれれば、俺の心がダメージを負うことなんてなかったのに」

「日向さん、悪いけど向こう側に移動してくれないかな?」

「分かりました! 気にしないでください!」

 というわけで俺の右側に日向さんが来たので、俺から見て正面に結瑠璃ちゃん、その少し右側に如月という位置関係に変わった。

 思い返せば仕事以外で、日向さんと隣同士で座るのは初めてかもしれない。テーブル席の場合は、二人だと対面で座ることが多いからだろう。

 二人で四人がけの席に座る場合、隣同士で座る人達をたまに見かけるが、あれはあれですげーなと思う。もちろん正解なんて無いから、ダメってことではないけど。

「それで今日はなんでこんなことになったの?」

 如月が全員に聞いたので、結瑠璃ちゃんが率先して答える。

「お姉ちゃんがおすすめしてくれたWeb小説の話をしたら、日向さんがご飯に誘ってくれたんだよ」

 如月が結瑠璃ちゃんにおすすめしたWeb小説とは、『嫌われ令嬢は魔王を倒して完璧王子と結婚したい』という、作者が日向さんの作品のことだ。

「そうなんだ。前に昼休み中に私が言った作品のことね。日向さんもあの作品のファンになってくれたの? あ、そういえばあの時、日向さんがお茶を大量にこぼしたんだっけ」

「あの時は恥ずかしいところをお見せしました」

「そんなことないわよ。むしろ日向さん可愛いなって思ったから」

「今の方が恥ずかしいです……」

 日向さんは横に居るから表情が見えづらい。でも表情を見たいから、右を向く。申し訳なさそうに下を向いていてめちゃくちゃ可愛かった。

「日向さんはあの作品のどういうところが好きなんですか?」

「えっ!? えーっと、それはね」

 作者なんだから全部好きに決まってるだろうけど、うっかり作者しか知らない裏設定とか答えたりしないか心配だ。

「あの作品はね、ツラい境遇でも頑張っていれば、見ていてくれる人がいて、周りの人にもそれが伝わって、自分で幸せを掴み取ることができるんじゃないかという、希望を感じさせてくれるところかな」

「分かります! 努力は報われるというか、世の中そうでないといけないんです!」

「そうね、私もそう思うわ」

「みんなでもっと、あの作品のいいところや面白いところを挙げていきましょう!」

 結瑠璃ちゃんのその言葉を皮切りに、『日向さんの作品』をべた褒めする大会がスタートした。無論そこに作者である日向さんも含まれている。

 てっきり日向さんは恥ずかしがって、終始下を向いたままになるのかと思いきや、一つ褒められる度に表情がとろけていた。ファンの生の声というやつだ。
 嬉しそうな日向さんを見ていると、俺も嬉しくなる。

 四人もいれば一つくらいは不満なところも出てきそうなものだが、それを口にした人は一人もいなかった。
 好きなものの話を好きなだけできるので、如月姉妹も本当に楽しそうだ。まさか目の前に居る人が作者だなんて、考えもしないだろう。

「そろそろ出ましょうか」

 如月の言葉を聞いて時計を見ると、二時間が過ぎていた。本当になんで楽しい時間は過ぎるのがあっという間なんだろう。

「ねえねえ、次はどこに行くの? お姉ちゃんも来たことだし、みんなでゲームでもしに行かない?」

 結瑠璃ちゃんが目を輝かせて楽しそうな提案をしてきた。始めから四人で出かける予定ならそれでも良かったが、今日は俺にとっては本当に大事な一日になる。そういう意味では、日向さんと二人きりで過ごせないと意味が無い。

 結瑠璃ちゃんには悪いけど、ここはハッキリと断ろう。問題はどう伝えるのかだ。

「結瑠璃、私達は映画を観に行こうか」

「えー、映画はまた別の日でもいいけど、次に四人で過ごせるこんな楽しい日は、いつになるか分からないんだよ?」

「それなら私がまた機会を作るから、今日は私と楽しもうね!」

「うん! お姉ちゃん大好き!」

 気がつくと俺は如月の助け舟に乗っていた。俺は日向さんと結瑠璃ちゃんに聞こえないように、如月に声をかけた。

「いいのか? 無理してないか?」

「いいのよ。無理なんてしてないし、それに私だって結瑠璃と過ごすの好きなんだから。せっかく日向さんと二人きりだったのに、邪魔して悪かったわね」

「俺も楽しかったし、それは気にしなくていいよ。それと、その……ありがとう」

「私だってね、アンタがどうしたいのか分かるからね。それに前にも言ったじゃない。私はいつでもアンタの味方だからね!」

 そう言葉をかけてくれた如月の心情は察するに余りある。本当に俺のために動いてくれている。

 そんな如月の思いに応えるためにも、今日で答えを出そう。どんな結果になったとしても、後悔することは無い。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた

上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。 そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。 ※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様  高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511) ※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
青春
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...