俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム

文字の大きさ
上 下
44 / 58

第44話 女子高生と日向さん

しおりを挟む
「あれー? また会いましたねー?」

 俺と日向ひなたさんがラノベを選んでいたところ、間延びした声をかけられた。

 声の主は如月きさらぎ 結瑠璃ゆるり。如月の妹の高校三年生だ。とにかくお姉ちゃんが大好きで、どうにかして俺と如月を付き合わせようとしている。

 でも俺はすでに如月の告白を断った。如月はそれをわざわざ、結瑠璃ちゃんに報告したりはしていないだろう。

「先輩、お知り合いですか?」

「如月の妹さん」

「はじめまして! 如月 結瑠璃、高校三年生です!」

「前から思ってたけど、わざわざ高校三年生って言う必要ある?」

「だってそれを言わないと、誰も女子高生だと思ってくれないんですよ」

 確かに160センチ後半であろう長身に、シュッとしたシルエットだから、実年齢より上に見られることが多いだろう。

 今日はショルダーバッグは持っていないけど、黒いショートパンツから見える、白くてスラッと長い脚がスタイルの良さを主張している。本当になんで如月姉妹は、いつもけしからんの?

「隣のきれいなお姉さんは誰ですか?」

 結瑠璃ちゃんがそう聞いてきたので、日向さんも結瑠璃ちゃんに自己紹介をした。

「もしかしてこちらの美人お姉さんが、この前言ってた彼女にしたい——」

「結・瑠・璃・ちゃん?」

 俺は結瑠璃ちゃんに圧をかけた。結瑠璃ちゃんが何を言おうとしていたのか、分かったからだ。

 前に結瑠璃ちゃんとカフェに行った時に、「彼女はいないけど、彼女にしたい人ならいるよ」と、ハッキリ言った。
 結瑠璃ちゃんは、そのことを言おうとしていたのだろう。でもそれは絶対に俺の口から日向さんに伝える。

 いつもと違う俺の雰囲気を察したのか、結瑠璃ちゃんは俺から顔をそらして、『プスー』と鳴らない口笛を吹いている。

「結瑠璃、ですか……」

 日向さんが言葉をもらした。如月もそうだったけど、なんでそこに引っかかるんだろう。

「本人たっての希望でそう呼んでくれと言われてね」

 俺は今、何に言い訳しているのか全く分からない。でも、日向さんを日向ちゃんと呼ぶことには違和感がある。この違いってなんだろうか。

「二人は今日は何を探しに来たんですか?」

「俺も日向さんも面白そうなラノベがあるか、見に来たんだよ」

「日向さんもラノベ好きなんですね!」

「そうなの。……そうなんです? そうなんだよ?」

 さすがの日向さんも、会社の年上の後輩の初対面の妹という、ややこしい関係性の対応に困っているようだ。俺も最初は結瑠璃ちゃんに敬語だった。

「あははっ! 日向さんの楽な話し方でいいですよ!」

「そう? ならそうするね!」

 そういえば、日向さんが誰かと敬語以外で話してるところを見るの、初めてじゃないか? なんかすごく新鮮で可愛い。

「結瑠璃さんもラノベ好きなんだ?」

「私はどちらかといえばマンガをよく読みますね。ラノベはお姉ちゃんに勧められてから、読むようになりました」

「そうなんだね。如月さんもラノベにハマってるって言ってたもんね」

「そうなんですよ! しかも最近はWeb小説にもハマってるみたいで。最近では、『嫌われ令嬢は魔王を倒して完璧王子と結婚したい』って作品を推してるって言ってました!」

 ここで日向さん固まる! なぜなら結瑠璃ちゃんが言った作品の作者は日向さんだからだ。でもその事実を知っているのは、俺だけ。俺と日向さんの『二人だけの秘密』だ。

「お姉ちゃんがそんなにも推す作品って、どんなのだろうと、私も読んでみたんです。するとどうでしょう、面白いんですよ」

 俺も読んでいるから、作品の面白さは知っている。

「主人公の女の子が最初はみんなから嫌われているんですけど、一人だけ優しくしてくれる人がいて、実はその人が王子だと序盤で読者にも明かされるんです」

 これはデジャブなのか? 前に如月も同じようなことを作者である日向さんの前で言って、べた褒めしていた。それで日向さんが盛大に水筒を倒してしまったんだ。

「そういうのって終盤まで謎として残してもいいのに、あえて序盤で読者に明かすんです。そこから嫌われていたことが誤解だと分かったり、魔王が謎の存在として物語に関係してくるんですね。それに胸キュンポイントもたくさんあって、きっと作者さんは女性ですね! それにそれに——」

 知らないとはいえ、作者に向かって作品をべた褒めする結瑠璃ちゃん。これ絶対、日向さん恥ずかしいよな。姉妹で同じことするの、やめて差し上げて!

「——こっ、このように、ですね……。私としても、応援してるんです」

 息を切らせて結瑠璃ちゃんが語り終えたようだ。熱心なファンを目の前にしている、日向さんの様子はどうだろうか。

「結瑠璃さん……。お腹空いてない!? もしよかったら、一緒にお昼ごはん食べに行かないかな?」

(なんで!?)

 息切れしてまで、自分の作品の良さを語ってくれる熱心なファンを前にしているんだから、そうなってもおかしくはない……のか? 

 まだ昼過ぎだから、このくらいはいいか。何よりも日向さんが嬉しそうだ。でも終わったら絶対に二人きりになってやろう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...