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第40話 想定外
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約束したデートの日、日向さんが体調不良で来られなくなってしまった。
日向さんの了承をもらって、差し入れを持って行って帰ろうとしたら、日向さんにお願いされてしまった。
「先輩、帰らないで」
俺のTシャツの裾をつまんだまま、いつもの半分ほどのボリュームで呟く日向さん。
「帰らないでって、どういうこと?」
「先輩、いじわるですね」
さすがに俺だってそれくらい分かる。部屋に入っていいということだ。分かっていたけど本当にいいのかと思った俺は、わざととぼけてみせた。
「少しだけお邪魔します」
「はい、どうぞ」
俺は日向さんの家に入った。女の子の部屋に入るなんて何年ぶりだろうか。
日向さんは上下とも薄い青のルームウェアで、ゆったりめの半袖シャツとショートパンツという、意外な服装だった。
日向さんの白い肌と合わさって、夏らしく清涼感が出ている。黒のストレートロングの髪は、ややボサッとしており、直前まで寝ていたであろうことが垣間見える。
間取りは1Kで白を基調としており、ベッド・テレビ・小さめのテーブルにソファ・その上に薄いピンクのクッション・カラーボックスや本棚など、全体的に女性らしくかわいい印象だ。エアコンからの風で室内は快適に保たれている。
きちんと整理整頓がされているようだ。俺の部屋とは大違い。男の部屋と比べるのは失礼かもしれないが、俺も部屋はきれいにしているつもりだ。
余計な物は置かない、必要無いと判断した物はすぐに捨てるようにしている結果、きれいに見えるだけだけど。
本棚では大衆小説やラノベが目立つ。パッと見では、やはり悪役令嬢ものや異世界恋愛ものが多い。もっと細かくチェックしたいが、日向さんに「あんまり見られると恥ずかしいです」と言われそうなので、止めておいた。
「あんまり見られると恥ずかしいです」
どうやら遅かったらしい。一言一句同じセリフを言われてしまった。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ俺の家の本棚とそっくり入れ替えて、読み合いをしてみたいなと思っただけで」
「それは私もやってみたいかも。あ、どうぞ座ってください」
テーブルの近くにあるクッションに俺が座ると、日向さんが隣に座って俺が持って来た差し入れを確認した。
「こんなにたくさんありがとうございます。おいくらでしたか?」
「俺から言ったことだし、お見舞い品だから遠慮なく受け取ってもらえれば嬉しいな」
「やっぱり先輩は優しいですよね」
「他の人にはここまでしないから、優しくはないよ」
「わっ……私、食べ物を冷蔵庫に入れてきます」
日向さんが立ち上がってキッチンへと足を運ぶ。でも途中でフラついて、へたり込んでしまった。
「大丈夫!? やっぱり俺帰るよ。安静にしないと」
「いえ……大丈夫です。せっかく来てくれたから、おもてなしをしないと」
「いやいや! 体調不良の子におもてなしをしてもらうなんて、できないよ」
「少しだけ寝かせてもらいますね」
俺が代わりに食べ物を冷蔵庫に入れたあと、日向さんはベッドに入り横になった。
正直、何をすればいいのか全く分からない。夜まで居るわけにもいかないし、本棚のラノベを読んで過ごすのも変だ。
女の子の部屋に入ったとはいえ、デートした後でもないし、飲み会の帰りでもない。付き合ってもいない。同じ会社の体調不良の子に手を出すなんて、いくらなんでも無しだ。
日向さんだって、当然そんなつもりじゃないだろう。きっと心細いんだ。俺だって一人暮らしだから分かる。
一人暮らしで最もツラいと言ってもいい時は、体調を崩した時だと俺は思う。
どんなに体が動かなくても、一人でなんとかしないといけない。病院に行くことですら大変だ。そんな時恋人がいてくれたら。
「先輩、私、今日本当に楽しみにしていたんです」
「それは俺も同じだ」
「実は私、エアコンはあまり使わなくて。エアコンの風で体調を崩すことがあるから、今までは他の方法で問題無く過ごせていたんですけど、どうして今日に限ってそれで体調を崩してしまったのか……」
それなのに今この部屋は、エアコンによって快適な室温に保たれている。思い当たる理由といえば、俺が屋外からやって来ることを考えて、予め部屋を適温にしておいてくれた以外に思い浮かばない。
「とりあえずエアコンを切ろうか。俺なら大丈夫、テレポートで来たから日光なんて浴びていないよ。冷却シートは山ほど買ったから、日向さんはそれを使って。それに俺は冷却シートを魔法で冷やせるから、一枚で半永久に涼しくできるよ」
『手に持った物の温度を変えられる魔法』の出番だ。意外に使える。
「先輩、ここに来てください」
日向さんが言った『ここ』とは、ベッドの横で枕元に近い位置、つまり日向さんの顔がよく見える場所のことだった。
日向さんの了承をもらって、差し入れを持って行って帰ろうとしたら、日向さんにお願いされてしまった。
「先輩、帰らないで」
俺のTシャツの裾をつまんだまま、いつもの半分ほどのボリュームで呟く日向さん。
「帰らないでって、どういうこと?」
「先輩、いじわるですね」
さすがに俺だってそれくらい分かる。部屋に入っていいということだ。分かっていたけど本当にいいのかと思った俺は、わざととぼけてみせた。
「少しだけお邪魔します」
「はい、どうぞ」
俺は日向さんの家に入った。女の子の部屋に入るなんて何年ぶりだろうか。
日向さんは上下とも薄い青のルームウェアで、ゆったりめの半袖シャツとショートパンツという、意外な服装だった。
日向さんの白い肌と合わさって、夏らしく清涼感が出ている。黒のストレートロングの髪は、ややボサッとしており、直前まで寝ていたであろうことが垣間見える。
間取りは1Kで白を基調としており、ベッド・テレビ・小さめのテーブルにソファ・その上に薄いピンクのクッション・カラーボックスや本棚など、全体的に女性らしくかわいい印象だ。エアコンからの風で室内は快適に保たれている。
きちんと整理整頓がされているようだ。俺の部屋とは大違い。男の部屋と比べるのは失礼かもしれないが、俺も部屋はきれいにしているつもりだ。
余計な物は置かない、必要無いと判断した物はすぐに捨てるようにしている結果、きれいに見えるだけだけど。
本棚では大衆小説やラノベが目立つ。パッと見では、やはり悪役令嬢ものや異世界恋愛ものが多い。もっと細かくチェックしたいが、日向さんに「あんまり見られると恥ずかしいです」と言われそうなので、止めておいた。
「あんまり見られると恥ずかしいです」
どうやら遅かったらしい。一言一句同じセリフを言われてしまった。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ俺の家の本棚とそっくり入れ替えて、読み合いをしてみたいなと思っただけで」
「それは私もやってみたいかも。あ、どうぞ座ってください」
テーブルの近くにあるクッションに俺が座ると、日向さんが隣に座って俺が持って来た差し入れを確認した。
「こんなにたくさんありがとうございます。おいくらでしたか?」
「俺から言ったことだし、お見舞い品だから遠慮なく受け取ってもらえれば嬉しいな」
「やっぱり先輩は優しいですよね」
「他の人にはここまでしないから、優しくはないよ」
「わっ……私、食べ物を冷蔵庫に入れてきます」
日向さんが立ち上がってキッチンへと足を運ぶ。でも途中でフラついて、へたり込んでしまった。
「大丈夫!? やっぱり俺帰るよ。安静にしないと」
「いえ……大丈夫です。せっかく来てくれたから、おもてなしをしないと」
「いやいや! 体調不良の子におもてなしをしてもらうなんて、できないよ」
「少しだけ寝かせてもらいますね」
俺が代わりに食べ物を冷蔵庫に入れたあと、日向さんはベッドに入り横になった。
正直、何をすればいいのか全く分からない。夜まで居るわけにもいかないし、本棚のラノベを読んで過ごすのも変だ。
女の子の部屋に入ったとはいえ、デートした後でもないし、飲み会の帰りでもない。付き合ってもいない。同じ会社の体調不良の子に手を出すなんて、いくらなんでも無しだ。
日向さんだって、当然そんなつもりじゃないだろう。きっと心細いんだ。俺だって一人暮らしだから分かる。
一人暮らしで最もツラいと言ってもいい時は、体調を崩した時だと俺は思う。
どんなに体が動かなくても、一人でなんとかしないといけない。病院に行くことですら大変だ。そんな時恋人がいてくれたら。
「先輩、私、今日本当に楽しみにしていたんです」
「それは俺も同じだ」
「実は私、エアコンはあまり使わなくて。エアコンの風で体調を崩すことがあるから、今までは他の方法で問題無く過ごせていたんですけど、どうして今日に限ってそれで体調を崩してしまったのか……」
それなのに今この部屋は、エアコンによって快適な室温に保たれている。思い当たる理由といえば、俺が屋外からやって来ることを考えて、予め部屋を適温にしておいてくれた以外に思い浮かばない。
「とりあえずエアコンを切ろうか。俺なら大丈夫、テレポートで来たから日光なんて浴びていないよ。冷却シートは山ほど買ったから、日向さんはそれを使って。それに俺は冷却シートを魔法で冷やせるから、一枚で半永久に涼しくできるよ」
『手に持った物の温度を変えられる魔法』の出番だ。意外に使える。
「先輩、ここに来てください」
日向さんが言った『ここ』とは、ベッドの横で枕元に近い位置、つまり日向さんの顔がよく見える場所のことだった。
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