俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム

文字の大きさ
上 下
40 / 58

第40話 想定外

しおりを挟む
 約束したデートの日、日向ひなたさんが体調不良で来られなくなってしまった。

 日向さんの了承をもらって、差し入れを持って行って帰ろうとしたら、日向さんにお願いされてしまった。

「先輩、帰らないで」

 俺のTシャツの裾をつまんだまま、いつもの半分ほどのボリュームでつぶやく日向さん。

「帰らないでって、どういうこと?」

「先輩、いじわるですね」

 さすがに俺だってそれくらい分かる。部屋に入っていいということだ。分かっていたけど本当にいいのかと思った俺は、わざととぼけてみせた。

「少しだけお邪魔します」

「はい、どうぞ」

 俺は日向さんの家に入った。女の子の部屋に入るなんて何年ぶりだろうか。

 日向さんは上下とも薄い青のルームウェアで、ゆったりめの半袖シャツとショートパンツという、意外な服装だった。
 日向さんの白い肌と合わさって、夏らしく清涼感が出ている。黒のストレートロングの髪は、ややボサッとしており、直前まで寝ていたであろうことが垣間見える。

 間取りは1Kで白を基調としており、ベッド・テレビ・小さめのテーブルにソファ・その上に薄いピンクのクッション・カラーボックスや本棚など、全体的に女性らしくかわいい印象だ。エアコンからの風で室内は快適に保たれている。

 きちんと整理整頓がされているようだ。俺の部屋とは大違い。男の部屋と比べるのは失礼かもしれないが、俺も部屋はきれいにしているつもりだ。
 余計な物は置かない、必要無いと判断した物はすぐに捨てるようにしている結果、きれいに見えるだけだけど。

 本棚では大衆小説やラノベが目立つ。パッと見では、やはり悪役令嬢ものや異世界恋愛ものが多い。もっと細かくチェックしたいが、日向さんに「あんまり見られると恥ずかしいです」と言われそうなので、止めておいた。

「あんまり見られると恥ずかしいです」

 どうやら遅かったらしい。一言一句同じセリフを言われてしまった。

「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ俺の家の本棚とそっくり入れ替えて、読み合いをしてみたいなと思っただけで」

「それは私もやってみたいかも。あ、どうぞ座ってください」

 テーブルの近くにあるクッションに俺が座ると、日向さんが隣に座って俺が持って来た差し入れを確認した。

「こんなにたくさんありがとうございます。おいくらでしたか?」

「俺から言ったことだし、お見舞い品だから遠慮なく受け取ってもらえれば嬉しいな」

「やっぱり先輩は優しいですよね」

「他の人にはここまでしないから、優しくはないよ」

「わっ……私、食べ物を冷蔵庫に入れてきます」

 日向さんが立ち上がってキッチンへと足を運ぶ。でも途中でフラついて、へたり込んでしまった。

「大丈夫!? やっぱり俺帰るよ。安静にしないと」

「いえ……大丈夫です。せっかく来てくれたから、おもてなしをしないと」

「いやいや! 体調不良の子におもてなしをしてもらうなんて、できないよ」

「少しだけ寝かせてもらいますね」

 俺が代わりに食べ物を冷蔵庫に入れたあと、日向さんはベッドに入り横になった。

 正直、何をすればいいのか全く分からない。夜まで居るわけにもいかないし、本棚のラノベを読んで過ごすのも変だ。

 女の子の部屋に入ったとはいえ、デートした後でもないし、飲み会の帰りでもない。付き合ってもいない。同じ会社の体調不良の子に手を出すなんて、いくらなんでも無しだ。

 日向さんだって、当然そんなつもりじゃないだろう。きっと心細いんだ。俺だって一人暮らしだから分かる。

 一人暮らしで最もツラいと言ってもいい時は、体調を崩した時だと俺は思う。
 どんなに体が動かなくても、一人でなんとかしないといけない。病院に行くことですら大変だ。そんな時恋人がいてくれたら。

「先輩、私、今日本当に楽しみにしていたんです」
 
「それは俺も同じだ」

「実は私、エアコンはあまり使わなくて。エアコンの風で体調を崩すことがあるから、今までは他の方法で問題無く過ごせていたんですけど、どうして今日に限ってそれで体調を崩してしまったのか……」

 それなのに今この部屋は、エアコンによって快適な室温に保たれている。思い当たる理由といえば、俺が屋外からやって来ることを考えて、予め部屋を適温にしておいてくれた以外に思い浮かばない。

「とりあえずエアコンを切ろうか。俺なら大丈夫、テレポートで来たから日光なんて浴びていないよ。冷却シートは山ほど買ったから、日向さんはそれを使って。それに俺は冷却シートを魔法で冷やせるから、一枚で半永久に涼しくできるよ」

『手に持った物の温度を変えられる魔法』の出番だ。意外に使える。

「先輩、ここに来てください」

 日向さんが言った『ここ』とは、ベッドの横で枕元に近い位置、つまり日向さんの顔がよく見える場所のことだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...