38 / 58
第38話 再びデートに誘う
しおりを挟む
俺が如月からの告白を断った次の日からも、如月は今まで通りに接してくれている。本当にありがたい。
告白を断る方も、こんなにも気を使うものだとは思わなかった。振られた直後の如月に対して、『俺は断られることなら百戦錬磨(笑)』とか言って、茶化した自分を小一時間ほど問い詰めてやりたい。
さあ、こうなったからには俺も本気にならないと、如月に顔向けできない。
日向さんに告白したいが、もしかしたらすでに一回失敗しているのかもしれない。花火大会の日、雰囲気に任せて俺は日向さんに告白しようとした。
だけど日向さんの「帰りましょうか!」という言葉に遮られて、タイミングを失ってしまったのだ。
あの時はまだ日向さんの中では、俺が好きというわけではなかったのだろう。だから止められた。
それなら今はどうか? 夏祭り以来、日向さんと二人で会っていない。今のままでは失敗する可能性は高い。もう一度デートに誘おう。
俺と如月が話していると、日向さんが出社したのでお互いにあいさつを交わした。
いつものように俺の左隣に如月、右隣に日向さんという位置関係だ。
「先輩が私より早く来てるなんて、どうしたんですか?」
いかん、日向さんの中で俺は『いつも時間ギリギリに出社する先輩』として、イメージが固まっているのか? 近いうちに告白しようというのに、マイナスイメージは避けたい。
普段からの良い印象の積み重ねはやっぱり大事なんだな。
「今日は電車が空いていてね。おかげで早く着いたよ」
「電車の混み具合は関係ないですよー」
あれ? なんだかこの流れに覚えがあるぞ。確か初めて日向さんに、俺が異世界帰りだとバレた日の朝にした会話と似てるな。一ヶ月以上も前の話だ。
「フフッ、先輩、前は電車が混んでるから遅刻しそうになったって言ってましたよね!」
まったく、一ヶ月以上も前の会話をなんで覚えてるんだ日向さんは。
「そういえば、その日でしたよね。私が先輩のまほ——」
俺は咄嗟に右を向き、それと同時に左手のひらで日向さんの口元を隠していた。
日向さんは『魔法』という言葉を口に出そうとしていたのだろう。でも如月は日向さんも異世界帰りだということを知らないのだ。
だってそれは俺と日向さんの『二人だけの秘密』だから。
俺は日向さんに小声で語りかける。
「魔法とか言ったらダメだよ。如月は日向さんが異世界帰りだと知らないんだからね」
俺の言葉を聞いて、日向さんが黙ってコクコクと小さく頷いた。
「はーいアウトー。セクハラ案件で通報ね」
如月が平然と言ってのけた。俺はセクハラには人一倍気をつけているんだと、ビシッと言ってやろうとしたが、言えるはずがなかった。
なぜなら俺は今も、日向さんの口元を手のひらで覆っているからだ。手に柔らかい感触がある。日向さんの唇に触れていた。俺はバッと手を離した。
「日向さんごめん!」
「い、いえ……大丈夫です」
「日向さん大丈夫? 嫌なら嫌とハッキリ言っていいんだからね。私が代わりに断罪してあげようか?」
「そんな重いことを軽く引き受けるなよ」
「アンタはどうしていつも女の子に不用意に触れちゃうの? 海に行った時だって私の——」
如月はそこまで言って黙った。またかと思ったが、そのまま俯いてしまった。
おそらく三人で海に行った時に、転びそうになった如月を俺が助けようとして、如月の胸を思い切り掴んだことを思い出しているんだろう。勝手に自分で思い出して恥ずかしがるんじゃないよ、かわいいじゃないか。
日向さんは日向さんで顔を真っ赤にして少し俯いている。やっぱり日向さんもかわいい。なんなんだこの職場は。最高かよ。
そしてそのまま始業時間に。なんかもう全てが中途半端でふわふわした状態で会話が終わってしまった。
俺は今日のうちに日向さんをデートに誘おうと考えていたが、意識してみると意外と職場で雑談できる機会が無いことに気がついた。
それでもなんとか、今週末に会う約束を取り付けることができた。日向さんは「誘ってくれて嬉しいです! すごく楽しみです!」と、笑顔で返してくれた。本当にどうしてこんなにも素直なんだろう。
詳細は帰ってからメッセージをやり取りして決めた。
いつの間にか俺も、自然に日向さんとのコミュニケーションが取れるようになっていたことに、自分でも驚いていた。
告白を断る方も、こんなにも気を使うものだとは思わなかった。振られた直後の如月に対して、『俺は断られることなら百戦錬磨(笑)』とか言って、茶化した自分を小一時間ほど問い詰めてやりたい。
さあ、こうなったからには俺も本気にならないと、如月に顔向けできない。
日向さんに告白したいが、もしかしたらすでに一回失敗しているのかもしれない。花火大会の日、雰囲気に任せて俺は日向さんに告白しようとした。
だけど日向さんの「帰りましょうか!」という言葉に遮られて、タイミングを失ってしまったのだ。
あの時はまだ日向さんの中では、俺が好きというわけではなかったのだろう。だから止められた。
それなら今はどうか? 夏祭り以来、日向さんと二人で会っていない。今のままでは失敗する可能性は高い。もう一度デートに誘おう。
俺と如月が話していると、日向さんが出社したのでお互いにあいさつを交わした。
いつものように俺の左隣に如月、右隣に日向さんという位置関係だ。
「先輩が私より早く来てるなんて、どうしたんですか?」
いかん、日向さんの中で俺は『いつも時間ギリギリに出社する先輩』として、イメージが固まっているのか? 近いうちに告白しようというのに、マイナスイメージは避けたい。
普段からの良い印象の積み重ねはやっぱり大事なんだな。
「今日は電車が空いていてね。おかげで早く着いたよ」
「電車の混み具合は関係ないですよー」
あれ? なんだかこの流れに覚えがあるぞ。確か初めて日向さんに、俺が異世界帰りだとバレた日の朝にした会話と似てるな。一ヶ月以上も前の話だ。
「フフッ、先輩、前は電車が混んでるから遅刻しそうになったって言ってましたよね!」
まったく、一ヶ月以上も前の会話をなんで覚えてるんだ日向さんは。
「そういえば、その日でしたよね。私が先輩のまほ——」
俺は咄嗟に右を向き、それと同時に左手のひらで日向さんの口元を隠していた。
日向さんは『魔法』という言葉を口に出そうとしていたのだろう。でも如月は日向さんも異世界帰りだということを知らないのだ。
だってそれは俺と日向さんの『二人だけの秘密』だから。
俺は日向さんに小声で語りかける。
「魔法とか言ったらダメだよ。如月は日向さんが異世界帰りだと知らないんだからね」
俺の言葉を聞いて、日向さんが黙ってコクコクと小さく頷いた。
「はーいアウトー。セクハラ案件で通報ね」
如月が平然と言ってのけた。俺はセクハラには人一倍気をつけているんだと、ビシッと言ってやろうとしたが、言えるはずがなかった。
なぜなら俺は今も、日向さんの口元を手のひらで覆っているからだ。手に柔らかい感触がある。日向さんの唇に触れていた。俺はバッと手を離した。
「日向さんごめん!」
「い、いえ……大丈夫です」
「日向さん大丈夫? 嫌なら嫌とハッキリ言っていいんだからね。私が代わりに断罪してあげようか?」
「そんな重いことを軽く引き受けるなよ」
「アンタはどうしていつも女の子に不用意に触れちゃうの? 海に行った時だって私の——」
如月はそこまで言って黙った。またかと思ったが、そのまま俯いてしまった。
おそらく三人で海に行った時に、転びそうになった如月を俺が助けようとして、如月の胸を思い切り掴んだことを思い出しているんだろう。勝手に自分で思い出して恥ずかしがるんじゃないよ、かわいいじゃないか。
日向さんは日向さんで顔を真っ赤にして少し俯いている。やっぱり日向さんもかわいい。なんなんだこの職場は。最高かよ。
そしてそのまま始業時間に。なんかもう全てが中途半端でふわふわした状態で会話が終わってしまった。
俺は今日のうちに日向さんをデートに誘おうと考えていたが、意識してみると意外と職場で雑談できる機会が無いことに気がついた。
それでもなんとか、今週末に会う約束を取り付けることができた。日向さんは「誘ってくれて嬉しいです! すごく楽しみです!」と、笑顔で返してくれた。本当にどうしてこんなにも素直なんだろう。
詳細は帰ってからメッセージをやり取りして決めた。
いつの間にか俺も、自然に日向さんとのコミュニケーションが取れるようになっていたことに、自分でも驚いていた。
58
お気に入りに追加
584
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。
カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。
伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。
深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。
しかし。
お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。
伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。
その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。
一方で。
愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。
死へのタイムリミットまでは、あと72時間。
マモル追放をなげいても、もう遅かった。
マモルは、手にした最強の『力』を使い。
人助けや、死神助けをしながら。
10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。
これは、過去の復讐に燃える男が。
死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。
結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる