俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム

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第35話 観覧車の中で

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 結瑠璃ゆるりちゃんのドタキャンによって、観覧車に俺と如月きさらぎだけで乗ることになった。

(行動力お化けめ……、本当にやりおった)

 お化けは常に俺の近くにいたのだ。

 俺と如月だけの空間が少しずつ上昇していく。ほんの10分ちょっとだ。別に如月と気まずいわけでもないし、会話を楽しめばいいんだ。

「これは結瑠璃に仕組まれたわね。どうせアンタと二人きりにするためなんでしょうね」

「さすがにバレバレだよな」

「アンタも巻き込まれて災難だったわね」

「災難なわけないだろ。如月と二人で俺は嬉しいぞ」

「ホントにどうしてアンタはそんな恥ずかしいことを堂々と言えるの?」

「恥ずかしいこととは思ってないからだな」

 俺が即答すると、如月はため息をついて黙って俺を見ている。怖いから本当に急に黙るの止めてくれねえかな。

「ねえ、今日ジェットコースターの順番待ちの時にした話覚えてる?」

「異世界で俺が如月のしょうもない呼び出しに、毎回駆けつけていたって話か?」

「そうよ。その時に私が言ったこと覚えてる?」

「確か『俺を呼び出す理由を毎回考えるのが大変だった』だっけ」

「そうね。それを聞いたアンタは『理由って考えるものじゃない』と言ったのよ」

「なんか無理やり呼び出す理由を作ってるような気がしてな」

 俺がそう言うと如月は、呆れたような口ぶりでこう言った。

「ホントにバカなんだから……。いい? 理由も無く呼び出すわけにいかないから、無理やり理由を作ってたの。なぜだか分かる? 私がアンタに会いたかったからよ」

「確かにお礼のティータイムは楽しかったよな」

「ホンッットにアンタは……、まあそうやって素直に口に出すことが、いいところでもあるんだけどね」

 そう言った如月の表情は優しく、いつもの強気な姿勢は感じられない。

「じゃあ次は別の話をしましょうか。私はね、異世界で周りの人達から、勇者だと持ち上げられることが本当は嫌だったの」

「あんなに楽しそうにしてたのに?」

「たっ……確かにちょっとは楽しかったけど、やってることは結局のところ戦争だしね」

 さっきのちょっと照れた如月かわいかったな。

「でも私にはとてつもない力があって、それでみんなを守れるならやるしかないじゃない。そしていつからか、みんなが私を頼るようになっちゃって」

「まあ、そうなるよな」

「次第に私を心配してくれる人はいなくなってしまったの」

「そうか? 冒険者パーティーのみんなも如月カッコいい、強いと褒めたたえていたじゃないか」

「そうよ。『褒め称える』と『心配』は全く違うものよ。だって敵を圧倒するし、めったにケガしないし、ケガしても回復魔法ですぐに直しちゃうんだから、心配することが無いものね」

 如月は真剣な表情でさらに続ける。

「それでね、ある時ふと思ったの。『私を女の子として見てくれてる人いるのかな』って」

 如月は強かったし、何でも一人でできる印象があったから、なおさらだろう。

「でもアンタだけは違ったの。戦闘が終わる度に『大丈夫か? ケガは無いか? 女の子なんだから、もっと周りを頼ってもいい』って心配してくれて」

「別にそれくらい普通だろ。女の子が最前線に出ていたら心配にもなるってもんだ」

「もちろん他のメンバーもみんな、気にかけてくれていたとは思うけど、心配は言葉にされると嬉しいものなのよ」

 如月は俺の目を見て語る。

「それでね、この人ともっとお話したいと思ったの。でも私は素直じゃないから、アンタがテレポートを使えるのをいいことに、変な理由をつけて呼び出した後、お茶をごちそうするという、ワケのわからない方法をとってしまったの。嫌われるかもしれないのにね」

 俺は黙って如月の話に聞き入っていた。

「私、それが本当に楽しみでしかたなくて。話せば話すほどまた会いたくなる。それでこう思ったの。『想いを伝えよう』ってね。でも突然異世界から帰ることになって、心の準備ができていなかった私は伝えることができなかったの」

 俺は黙って如月の次の言葉を待つ。

「もう二度と会えないと思っていたから、会社で再会した時は本当に驚いたし嬉しかったんだ。でも私の悪いクセで、照れ隠しでつい素っ気ない態度になってしまう。それでも、久しぶりに会ったアンタは変わらず、思ったことを素直に言葉にして伝えてくれる人だった。だから私も今だけ素直になろうかな」

 如月の雰囲気が変わった。こんな如月は見たことが無い。

「ずっとあなたが好きでした。私と付き合ってください」

 シンプルな言葉だ。でもたまらなく嬉しい。如月は真っ直ぐに俺だけを見つめている。少し恥じらいが混ざっているように見えた。如月ってこんな表情もできるんだな。
 でも、俺はそれに応えることができない。

「如月、ありがとう。凄く嬉しい。ただ俺は如月とは仲のいい友達でいたいんだ」

 気持ちは本当に嬉しい。でもだからこそ、俺の正直な気持ちを伝えないといけない。

「振られちゃったか」

 如月はまるで他人事のように言う。

「気にしなくていいわよ。私は自分勝手だから、自分の言いたいことを言っただけなの」

「俺は慣れてないから、うまく伝えられなかったかもしれない」

「いいのよ。本当は私だって今日伝えるつもりじゃなかったんだから。それにフリーならまだ私にも可能性あるでしょ?」

 外はすっかり夜になっていた。俺と如月だけの空間は、ようやくてっぺんに到着しようとしている。ここから何を話せばいいんだろう。
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