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第26話 繋いだ手
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夜空に花火が上がる。子供の頃に家族と見た時は両親と手を繋いで見ていた。そして俺は今日も手を繋いで見ている。隣にいるのは『かわいい後輩』。
とても静かな時間が流れている。花火の途中だからそんなはずはないのに。周囲のざわめきは聞こえない。
まるで俺達のためだけに上がっているかのようだ。
やがて夜空に輝く光は星と月だけになった。ここでようやく周囲のざわめきが耳に入ってくる。帰り始めた人達がそれぞれに花火の感想を言い合っていた。
「俺達も帰ろうか」
「まだ帰りません」
「でも花火終わったよ」
「私、最後まで帰らないんです」
そういえば俺が誘った時にそう言っていたことを思い出した。それに花火が終わってもまだ夜空には星があるじゃないか。俺達はこの場から動かなかった。
「私が初めて先輩に『魔法使えますよね?』って聞いた時のこと覚えてますか?」
「もちろん。あの時は本当に驚いたよ」
「あの時はまさか異世界帰りの人が同じ会社にいるとは思っていなくて。本当に嬉しかったんです。そして話を聞いてみたいなって」
俺が日向さんを見ると、日向さんは前だけを見ている。
「それで先輩を食事に誘ったんです。ホントに友達と楽しくおしゃべりするような感覚でした。先輩なのに友達だなんて失礼ですよね! あの時は気軽に先輩とお話することができていました。でも今はなんだか上手にできなくて」
その言葉を聞いた俺は、また何か思い悩ませていたのかと不安になった。
「あ、先輩のせいじゃないですよ! あれ? やっぱり先輩のせいなのかな。先輩が優しいからいけないんですよ」
「怒られる流れだったの!?」
俺は自分が優しいだなんて思っていない。ただ嫌われないように目立たないように振る舞ってきただけだ。
それでも確かに最近の日向さんの様子が、以前と変わったかもしれないとはなんとなく感じていた。
「このままじゃ先輩に嫌われちゃうって不安だったんです」
日向さんは今も前だけを見ている。その表情から気持ちは読み取れない。
「俺が日向さんを嫌いになることは無いよ」
俺は断言した。俺自身、それは間違いないと確信している。
「本当ですか?」
「もちろん!」
俺はその短い言葉をできる限り力強く伝えた。
「日向さん、俺は——」
「先輩、帰りましょうか!」
俺がそこまで言った時、いつもの日向さんの元気な声が俺に続きを言わせなかった。
俺は完全にタイミングを失ってしまった。いずれにしても日向さんが俺の言葉を遮ってきたんだ、今はまだその時ではないということだ。失敗すれば確実に何かが変わってしまう。
気がつけば遠くで花火会場の撤収作業が始まっており、俺達の周囲に人はいなかった。本当に静かな時間だったようだ。
「本当に俺達が最後になったね」
「私、十分に楽しめましたよ」
今度こそ俺達が帰ろうとして気がついた。日向さんと手を繋いだままだ。だからといって「ご、ごめん!」と手をふりほどくようなことはしない。
俺はそうだけど日向さんはどうするだろう。すると日向さんは手を離して俺の右側に来た。俺もそれを見て帰り道の方を向いた。
(まあそうだよな。普通のことだ)
屋台にはまだそこそこ人がいる。花火を見ている間に小腹が空いた俺は、日向さんに屋台に寄って帰ってもいいか聞いたところ、まだまだ食べたいものがあるとのことだった。
「行きも帰りも屋台で食べ物を買うって、同じことしてるね」
「フフッ、そうですね! でも違うこともありますよ」
「なんだろう、思いつかない」
「買う食べ物が違います!」
りんご飴とたこ焼き以外にもいくつか食べたが、それでもまだまだ食べたいものがあった。帰り道でも気になった屋台をまわっては食べ物を買い、日向さんと分け合うといった楽しみ方をした。
今日、日向さんと夏祭りに来られたことには大きな意味があったと思う。
日向さんから距離を縮めてきてくれたんだ。だったら日向さんが完全にその気になるまで、俺も少しずつ距離を縮めていくだけだ。
とても静かな時間が流れている。花火の途中だからそんなはずはないのに。周囲のざわめきは聞こえない。
まるで俺達のためだけに上がっているかのようだ。
やがて夜空に輝く光は星と月だけになった。ここでようやく周囲のざわめきが耳に入ってくる。帰り始めた人達がそれぞれに花火の感想を言い合っていた。
「俺達も帰ろうか」
「まだ帰りません」
「でも花火終わったよ」
「私、最後まで帰らないんです」
そういえば俺が誘った時にそう言っていたことを思い出した。それに花火が終わってもまだ夜空には星があるじゃないか。俺達はこの場から動かなかった。
「私が初めて先輩に『魔法使えますよね?』って聞いた時のこと覚えてますか?」
「もちろん。あの時は本当に驚いたよ」
「あの時はまさか異世界帰りの人が同じ会社にいるとは思っていなくて。本当に嬉しかったんです。そして話を聞いてみたいなって」
俺が日向さんを見ると、日向さんは前だけを見ている。
「それで先輩を食事に誘ったんです。ホントに友達と楽しくおしゃべりするような感覚でした。先輩なのに友達だなんて失礼ですよね! あの時は気軽に先輩とお話することができていました。でも今はなんだか上手にできなくて」
その言葉を聞いた俺は、また何か思い悩ませていたのかと不安になった。
「あ、先輩のせいじゃないですよ! あれ? やっぱり先輩のせいなのかな。先輩が優しいからいけないんですよ」
「怒られる流れだったの!?」
俺は自分が優しいだなんて思っていない。ただ嫌われないように目立たないように振る舞ってきただけだ。
それでも確かに最近の日向さんの様子が、以前と変わったかもしれないとはなんとなく感じていた。
「このままじゃ先輩に嫌われちゃうって不安だったんです」
日向さんは今も前だけを見ている。その表情から気持ちは読み取れない。
「俺が日向さんを嫌いになることは無いよ」
俺は断言した。俺自身、それは間違いないと確信している。
「本当ですか?」
「もちろん!」
俺はその短い言葉をできる限り力強く伝えた。
「日向さん、俺は——」
「先輩、帰りましょうか!」
俺がそこまで言った時、いつもの日向さんの元気な声が俺に続きを言わせなかった。
俺は完全にタイミングを失ってしまった。いずれにしても日向さんが俺の言葉を遮ってきたんだ、今はまだその時ではないということだ。失敗すれば確実に何かが変わってしまう。
気がつけば遠くで花火会場の撤収作業が始まっており、俺達の周囲に人はいなかった。本当に静かな時間だったようだ。
「本当に俺達が最後になったね」
「私、十分に楽しめましたよ」
今度こそ俺達が帰ろうとして気がついた。日向さんと手を繋いだままだ。だからといって「ご、ごめん!」と手をふりほどくようなことはしない。
俺はそうだけど日向さんはどうするだろう。すると日向さんは手を離して俺の右側に来た。俺もそれを見て帰り道の方を向いた。
(まあそうだよな。普通のことだ)
屋台にはまだそこそこ人がいる。花火を見ている間に小腹が空いた俺は、日向さんに屋台に寄って帰ってもいいか聞いたところ、まだまだ食べたいものがあるとのことだった。
「行きも帰りも屋台で食べ物を買うって、同じことしてるね」
「フフッ、そうですね! でも違うこともありますよ」
「なんだろう、思いつかない」
「買う食べ物が違います!」
りんご飴とたこ焼き以外にもいくつか食べたが、それでもまだまだ食べたいものがあった。帰り道でも気になった屋台をまわっては食べ物を買い、日向さんと分け合うといった楽しみ方をした。
今日、日向さんと夏祭りに来られたことには大きな意味があったと思う。
日向さんから距離を縮めてきてくれたんだ。だったら日向さんが完全にその気になるまで、俺も少しずつ距離を縮めていくだけだ。
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