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第23話 初めてデートに誘う
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三人で海へ行った帰りの駅に、夏祭り花火大会の案内ポスターが貼ってあった。
夏祭りの思い出は、子供の頃に家族と行ったことと、高校生の時に男だけで行ったことしか無い。
もちろん家族と行っても楽しい。男友達だけで行ってもそれはそれで楽しい。だけど、女の子と二人で行った思い出もほしい。
いや違う、そんな誰でもいいからとにかく、ではない。
やがて電車が到着すると、俺達は三人分の空席を探して座った。並び順は、真ん中に俺、右に日向さん、左に如月。いつもの位置関係だ。
「今日はたくさん遊んだわね!」
「私、お休みを外で過ごすの久しぶりでした」
「俺もだ。久しぶりに外で遊んだな」
俺はまあ当然として、日向さんまでもが休日を家で過ごしているなんて意外だ。
「私ここで降りるから、二人ともまたね!」
如月がそう言って電車を降りて行く。俺は嬉しそうな笑顔を見せた如月を姿が見えなくなるまで眺めていた。
(本当にあの笑顔には魔法がかかっているよ)
ここからが俺の緊急ミッションだ。内容は『日向さんを夏祭り花火大会に誘う』こと。
その方法とは、「俺と夏祭りに行かない?」の一言を日向さんに伝えるだけ。簡単だ。
でもそこは俺。簡単にその一言が言えれば今まで恋愛に苦労していない。
それに日向さんは会社の後輩だということをどうしても考えてしまう。
『断られたらこれから気まずい』、『恋愛対象として見られていたなんてとドン引きされる』。それらの不安が俺の決断力を鈍らせていた。
何もしないと何も変わらない。如月が降りてから沈黙が続いていたが、俺は一歩踏み出すことにした。
「先輩、さっきの駅に貼ってあったポスター見ましたか?」
俺が口を開きかけたタイミングで、日向さんが先に口を開いた。
「いくつか貼ってあったね。何枚か見たよ」
「私も見たんですよ」
「そうなんだ」
……会話終了。日向さんは黙り込んでしまった。
情けない。俺は何を迷っていたのか。勘違いでも何でもいい。
「あのさ日向さん、来週俺と夏祭りに行かない?」
俺は誰も座っていない正面の座席を見つめたまま言った。そのまま日向さんからの返事を待つ。
「私、屋台でたくさん食べ物買いますよ」
「いいね、俺も腹いっぱい食べようかな」
「それに私、歩くのが遅いですよ」
「ゆっくりと見て回るのが楽しいよね」
「さらに私、最後まで帰らないんですよ」
「イベントは長く楽しみたいよね」
俺がそう言うと、視界の右端で何かが動いているようだった。俺が右を向くと、日向さんが真っ直ぐに俺を見ていた。思わず俺も日向さんの大きな目を見つめる。
「先輩! 私、すっごく楽しみです!」
その笑顔は今まで俺が見てきた中でも間違いなく一番の笑顔だった。
本当に素直に気持ちを伝えてくれる日向さん。それがあるからこそ俺も自分から踏み出してみようと思えたんだ。
電車が最寄り駅に到着した。日向さんの家の最寄り駅だ。俺の家は逆方向。
つまり、あとは帰るだけなのにわざわざ電車に乗って家から遠ざかっている。
理由は日向さんを家まで送るため。でもまだ夕方だ。夏なので外は明るい。
「先輩、いつも送ってくれてありがとうございます!」
「気にしないで。好きでやってることなんだから」
「えっ……!?」
(……あ、しまった!)
俺は失言をしてしまったのか!?
「あ、えっと、俺が日向さんを毎回送るのは夜道を女の子一人で歩かせるわけにはいかないと思ってるからで、好きでっていうのは男として当然だからって意味で——」
俺は慌ててしまい聞かれてもいない解説をした。なんだか如月みたいだ。
「そ、そうです! 女の子を送るのは男性の義務です! ……そうなんですか?」
日向さんは日向さんで、言い切ってから俺に聞いてくるという斬新な試みをしている。
「ま、まあとにかく、来週を楽しみにしてるよ」
「は、はい! 私も楽しみにしてます!」
日向さんがマンションに入って行ったことを見届けてから俺は帰ることにした。
恥ずかしさから一刻も早くこの場から離れたかった俺は、過去一番の早さで駅に到着した。
夏祭りの思い出は、子供の頃に家族と行ったことと、高校生の時に男だけで行ったことしか無い。
もちろん家族と行っても楽しい。男友達だけで行ってもそれはそれで楽しい。だけど、女の子と二人で行った思い出もほしい。
いや違う、そんな誰でもいいからとにかく、ではない。
やがて電車が到着すると、俺達は三人分の空席を探して座った。並び順は、真ん中に俺、右に日向さん、左に如月。いつもの位置関係だ。
「今日はたくさん遊んだわね!」
「私、お休みを外で過ごすの久しぶりでした」
「俺もだ。久しぶりに外で遊んだな」
俺はまあ当然として、日向さんまでもが休日を家で過ごしているなんて意外だ。
「私ここで降りるから、二人ともまたね!」
如月がそう言って電車を降りて行く。俺は嬉しそうな笑顔を見せた如月を姿が見えなくなるまで眺めていた。
(本当にあの笑顔には魔法がかかっているよ)
ここからが俺の緊急ミッションだ。内容は『日向さんを夏祭り花火大会に誘う』こと。
その方法とは、「俺と夏祭りに行かない?」の一言を日向さんに伝えるだけ。簡単だ。
でもそこは俺。簡単にその一言が言えれば今まで恋愛に苦労していない。
それに日向さんは会社の後輩だということをどうしても考えてしまう。
『断られたらこれから気まずい』、『恋愛対象として見られていたなんてとドン引きされる』。それらの不安が俺の決断力を鈍らせていた。
何もしないと何も変わらない。如月が降りてから沈黙が続いていたが、俺は一歩踏み出すことにした。
「先輩、さっきの駅に貼ってあったポスター見ましたか?」
俺が口を開きかけたタイミングで、日向さんが先に口を開いた。
「いくつか貼ってあったね。何枚か見たよ」
「私も見たんですよ」
「そうなんだ」
……会話終了。日向さんは黙り込んでしまった。
情けない。俺は何を迷っていたのか。勘違いでも何でもいい。
「あのさ日向さん、来週俺と夏祭りに行かない?」
俺は誰も座っていない正面の座席を見つめたまま言った。そのまま日向さんからの返事を待つ。
「私、屋台でたくさん食べ物買いますよ」
「いいね、俺も腹いっぱい食べようかな」
「それに私、歩くのが遅いですよ」
「ゆっくりと見て回るのが楽しいよね」
「さらに私、最後まで帰らないんですよ」
「イベントは長く楽しみたいよね」
俺がそう言うと、視界の右端で何かが動いているようだった。俺が右を向くと、日向さんが真っ直ぐに俺を見ていた。思わず俺も日向さんの大きな目を見つめる。
「先輩! 私、すっごく楽しみです!」
その笑顔は今まで俺が見てきた中でも間違いなく一番の笑顔だった。
本当に素直に気持ちを伝えてくれる日向さん。それがあるからこそ俺も自分から踏み出してみようと思えたんだ。
電車が最寄り駅に到着した。日向さんの家の最寄り駅だ。俺の家は逆方向。
つまり、あとは帰るだけなのにわざわざ電車に乗って家から遠ざかっている。
理由は日向さんを家まで送るため。でもまだ夕方だ。夏なので外は明るい。
「先輩、いつも送ってくれてありがとうございます!」
「気にしないで。好きでやってることなんだから」
「えっ……!?」
(……あ、しまった!)
俺は失言をしてしまったのか!?
「あ、えっと、俺が日向さんを毎回送るのは夜道を女の子一人で歩かせるわけにはいかないと思ってるからで、好きでっていうのは男として当然だからって意味で——」
俺は慌ててしまい聞かれてもいない解説をした。なんだか如月みたいだ。
「そ、そうです! 女の子を送るのは男性の義務です! ……そうなんですか?」
日向さんは日向さんで、言い切ってから俺に聞いてくるという斬新な試みをしている。
「ま、まあとにかく、来週を楽しみにしてるよ」
「は、はい! 私も楽しみにしてます!」
日向さんがマンションに入って行ったことを見届けてから俺は帰ることにした。
恥ずかしさから一刻も早くこの場から離れたかった俺は、過去一番の早さで駅に到着した。
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