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第12話 如月の魔法
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俺のためにスキンケア用品を選んでくれた如月にお礼をするため、俺から夕食に誘った。
如月は「お礼なんてしなくていいわよ。私がやりたくてやったことなんだから」と言ってくれた。俺はその言葉がたまらなく嬉しかったんだ。
「俺はこのまま家に帰ってもカップラーメンを食べてラノベ読んで寝るだけだ。それも楽しいけど、もっと如月と話したいんだ。付き合ってくれ」
「なっ! 付きっ……!」
そう言って慌てながら黙り込む如月。本当に表情がコロコロ変わる奴だな。
「だ、大丈夫よ。美味しい晩ご飯を食べたい、そういうことね。ちゃんと分かってるから」
如月の同意を得て俺達はレストランに到着した。もちろん人目を避けるため個室だ。
でも、一緒にいるのが如月なら別に知り合いに見られても構わないと思える。
そういえば日向さんと初めて職場以外で会ったのはちょうど1週間前か。
まさか俺が2週連続で女の子と食事に出かけるなんてな。自分でも驚いている。
日向さんと来た店ではないけど、ここも静けさと活気のあいだが心地よくて気に入っている店だ。
「へぇ、なかなかいいお店知ってるじゃない」
「たまたま知ってるだけだよ」
テーブル席に対面で座り言葉を交わす。
同期仲間との飲み会で来たことがあるだけなので、たまたま知ってるというのは本当だ。
「彼女とよく来てたりするのかしらね」
「彼女がいるだなんて言ってないぞ」
「ふーん、そう。彼女いないの。かわいそうに」
同情の言葉だが、口元は緩んでいる。
「半笑いでかわいそうとか言われてもな。如月はどうなんだ、彼氏いるのか?」
「もしいたらここまで来ないわよ」
その辺りは意外とキッチリしてるんだな。交友関係はどうなっているんだろう。
まあそれは置いといて、如月に確認しておかなければならないことがある。
「なあ如月。もしかしてこっちでも魔法が使えたりするのか?」
「使えるわよ。その代わり威力はものすごく落ちてるけどね」
「例えば?」
「そうね、火属性はガスコンロに火をつける程度で、氷属性は飲み物に入れる氷を作り出す程度で、風属性は軽いゴミをゴミ箱に入れられる程度ね」
「スケールダウンが半端ないな」
楽勝な相手にも最上級魔法をぶっ放しまくっていた姿からは想像できないほどに地味だ。
「回復魔法は使えるのか?」
「使えるのはさっき言った3種類だけね。あんなに修行したのにケチよね」
地味に便利だと思うけどな。さすがに回復魔法なんて使えたら神にだってなれるだろう。
「そういうアンタはどうなの? まさかまだテレポートが使えたりしないでしょうね」
「まさか。さすがにチート魔法だと判定されたのか、『手に持った物の温度を変えられる魔法』しか使えないよ」
俺は嘘をついてしまった。本当はテレポートも使えるんだ。でもテレポートを使えることは俺と日向さんだけの秘密にしておきたかったんだ。
「それは残念ね。またいろんな場所に行けると思ったのに」
異世界でもテレポートを使える存在は珍しいらしく、如月から冒険者パーティーにスカウトされた俺はよく如月にタクシー代わりにされていた。
異世界でもメッセージアプリのようなものがあって、俺はよく如月から呼び出しを受けていた。その時に届くメッセージはこれだ。
『集合』
2文字。たったの2文字である。そして予め決めておいた集合場所に俺がテレポートでかけつける。というのがお決まりだった。
異世界では俺に触れれば一緒にテレポートできていた。だがこっちでも同じようにできるとは限らない。
なんか次元の狭間みたいな所に迷い込んでしまったら嫌だから試す勇気は無い。
日向さんから冗談で冷蔵庫扱いされたのは凄くかわいかったけど、如月はガチでタクシー代わりにしてくるからな。
「それはそうと如月、魔法を使いまくってはいないだろうな」
「使うわよ。だってせっかく使えるんだからガンガン使わないと損じゃない」
如月らしい答えだったが、分からないでもない。
「そういうアンタはどうなのよ。『手に持った物の温度を変えられる魔法』なんて役に立つの?」
「それはもう便利だぞ! 先週だって自販機から出てきたぬるいジュースをキンキンに冷やしたし、電子レンジが壊れてたから昼休みに食べる弁当を魔法で温めたんだ」
「私に負けず劣らず地味ね……」
やっぱり楽しい時間は過ぎるのがあっという間で、そろそろ帰った方がいいかという時間になってきた。
食事代はもちろん俺が全額支払った。如月は「お礼ということだから、ありがたく奢ってもらうわね。ありがとう」と言った。
俺は如月らしいその言葉を聞けて再会できて良かったなと思った。
「今日は付き合ってくれてありがとうな。おかげで楽しい時間を過ごせたよ。なんか異世界の話ばっかりになって悪かったな」
「何言ってんのよ。アンタが悪いわけないじゃないの。だって私もすごく楽しかったんだから!」
如月は本当に嬉しそうな笑顔でそう言った。普段はめちゃくちゃなのに、たまにこんな顔をするから憎めないんだ。
如月の笑顔には何か魔法がかかっているのかもしれない。
如月は「お礼なんてしなくていいわよ。私がやりたくてやったことなんだから」と言ってくれた。俺はその言葉がたまらなく嬉しかったんだ。
「俺はこのまま家に帰ってもカップラーメンを食べてラノベ読んで寝るだけだ。それも楽しいけど、もっと如月と話したいんだ。付き合ってくれ」
「なっ! 付きっ……!」
そう言って慌てながら黙り込む如月。本当に表情がコロコロ変わる奴だな。
「だ、大丈夫よ。美味しい晩ご飯を食べたい、そういうことね。ちゃんと分かってるから」
如月の同意を得て俺達はレストランに到着した。もちろん人目を避けるため個室だ。
でも、一緒にいるのが如月なら別に知り合いに見られても構わないと思える。
そういえば日向さんと初めて職場以外で会ったのはちょうど1週間前か。
まさか俺が2週連続で女の子と食事に出かけるなんてな。自分でも驚いている。
日向さんと来た店ではないけど、ここも静けさと活気のあいだが心地よくて気に入っている店だ。
「へぇ、なかなかいいお店知ってるじゃない」
「たまたま知ってるだけだよ」
テーブル席に対面で座り言葉を交わす。
同期仲間との飲み会で来たことがあるだけなので、たまたま知ってるというのは本当だ。
「彼女とよく来てたりするのかしらね」
「彼女がいるだなんて言ってないぞ」
「ふーん、そう。彼女いないの。かわいそうに」
同情の言葉だが、口元は緩んでいる。
「半笑いでかわいそうとか言われてもな。如月はどうなんだ、彼氏いるのか?」
「もしいたらここまで来ないわよ」
その辺りは意外とキッチリしてるんだな。交友関係はどうなっているんだろう。
まあそれは置いといて、如月に確認しておかなければならないことがある。
「なあ如月。もしかしてこっちでも魔法が使えたりするのか?」
「使えるわよ。その代わり威力はものすごく落ちてるけどね」
「例えば?」
「そうね、火属性はガスコンロに火をつける程度で、氷属性は飲み物に入れる氷を作り出す程度で、風属性は軽いゴミをゴミ箱に入れられる程度ね」
「スケールダウンが半端ないな」
楽勝な相手にも最上級魔法をぶっ放しまくっていた姿からは想像できないほどに地味だ。
「回復魔法は使えるのか?」
「使えるのはさっき言った3種類だけね。あんなに修行したのにケチよね」
地味に便利だと思うけどな。さすがに回復魔法なんて使えたら神にだってなれるだろう。
「そういうアンタはどうなの? まさかまだテレポートが使えたりしないでしょうね」
「まさか。さすがにチート魔法だと判定されたのか、『手に持った物の温度を変えられる魔法』しか使えないよ」
俺は嘘をついてしまった。本当はテレポートも使えるんだ。でもテレポートを使えることは俺と日向さんだけの秘密にしておきたかったんだ。
「それは残念ね。またいろんな場所に行けると思ったのに」
異世界でもテレポートを使える存在は珍しいらしく、如月から冒険者パーティーにスカウトされた俺はよく如月にタクシー代わりにされていた。
異世界でもメッセージアプリのようなものがあって、俺はよく如月から呼び出しを受けていた。その時に届くメッセージはこれだ。
『集合』
2文字。たったの2文字である。そして予め決めておいた集合場所に俺がテレポートでかけつける。というのがお決まりだった。
異世界では俺に触れれば一緒にテレポートできていた。だがこっちでも同じようにできるとは限らない。
なんか次元の狭間みたいな所に迷い込んでしまったら嫌だから試す勇気は無い。
日向さんから冗談で冷蔵庫扱いされたのは凄くかわいかったけど、如月はガチでタクシー代わりにしてくるからな。
「それはそうと如月、魔法を使いまくってはいないだろうな」
「使うわよ。だってせっかく使えるんだからガンガン使わないと損じゃない」
如月らしい答えだったが、分からないでもない。
「そういうアンタはどうなのよ。『手に持った物の温度を変えられる魔法』なんて役に立つの?」
「それはもう便利だぞ! 先週だって自販機から出てきたぬるいジュースをキンキンに冷やしたし、電子レンジが壊れてたから昼休みに食べる弁当を魔法で温めたんだ」
「私に負けず劣らず地味ね……」
やっぱり楽しい時間は過ぎるのがあっという間で、そろそろ帰った方がいいかという時間になってきた。
食事代はもちろん俺が全額支払った。如月は「お礼ということだから、ありがたく奢ってもらうわね。ありがとう」と言った。
俺は如月らしいその言葉を聞けて再会できて良かったなと思った。
「今日は付き合ってくれてありがとうな。おかげで楽しい時間を過ごせたよ。なんか異世界の話ばっかりになって悪かったな」
「何言ってんのよ。アンタが悪いわけないじゃないの。だって私もすごく楽しかったんだから!」
如月は本当に嬉しそうな笑顔でそう言った。普段はめちゃくちゃなのに、たまにこんな顔をするから憎めないんだ。
如月の笑顔には何か魔法がかかっているのかもしれない。
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