俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム

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第7話 メッセージ

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残業前の小休憩で俺が席を外している間に、俺の好きな炭酸飲料をメッセージカード付きでデスクに置いて帰っていた日向ひなたさん。

 そんなかわいいことをされて、仕事がはかどらないわけがない。21時頃までかかるかと想定していたが、20時過ぎには終わらせることができた。
 
 このフロアではまだ何人かが仕事をしているため、俺は誰に言うともなく「お先に失礼します」とだけ言って職場をあとにした。

 俺はテレポートが使えるが、電車通勤をしている。家から会社までは徒歩と電車を合わせて片道約30分。毎回テレポートを使えばかなりの時間節約になる。

 でも俺はなるべくテレポートは使わない。クセになってしまうといけないからだ。最終的には歩くことすら面倒に思えてしまうかもしれない。

 でもその辺りの考え方は人によって全く違うだろうな。せっかく魔法が使えるんだからガンガン使わないと損だというのも分かる。

 もし魔法を使えることが周りにバレたらどうなるんだろう。悪の組織に追われたりするんだろうか。そして日向さんと一緒に逃げることになりバトル展開に。みたいな。

 というか、すでに日向さんにはバレてるんだった。その結果、日向さんと仲良くなれた。バレたのが日向さんで良かったな。

 電車に揺られながら、そんなことを考えているうちに家の最寄り駅に着いた。改札を通り、途中で牛丼を買って帰る。自炊しないわけじゃないが、たまにしかやらない。そして借りている1Kの部屋へ到着した。

 早速牛丼を食べる。食べながらふと昨日の今頃は日向さんと食事していたんだよなぁと思い出した。
 就職と同時に一人暮らしを始めてからもう3年が経つ。男友達とバカ騒ぎをすることもあるから、一人での夕食なんて特に何とも思っていなかったけど、今日はやけに静けさが気になってしまう。テレビをつけているのに。

 牛丼を食べ終えた俺は日向さんに今日の差し入れのお礼を伝えるため、あのコミュニケーションアプリを起動した。
 決して寂しいからではない。明日直接言えばいい。いや、今日のお礼は今日のうちに。

 アプリ上での日向さんとのメッセージ履歴を確認してみると、最後にやり取りしたのは1ヶ月前だった。その内容は、

『明日のミーティングの開始時間が1時間遅くなりました』

『わかりました!』

 以上である。なんというガッチガチの文章なんだろうか。おまけに会話のキャッチボールが1往復で終了。業務連絡なんだからこれが普通ではあると思うけど、こんなにもコミュニケーションをとっていなかったんだな。

 いやいや、会社の後輩の女の子にそんな気軽にメッセージなんて送れないって。
 仕事を教える合間にそれなりに雑談をしていたつもりだったんだけどな。
 とにかくハラスメントにならないように気を付けている。そして辞めないようにも。

 俺はスマホで手早くメッセージを入力していく。

『今日は差し入れありがとう! おかげで残業が早く終わりました』

 文字だとなぜか敬語を使ってしまう。なんでだろう。タメ口だと馴れ馴れしい感じが目に見えて、なんとなく避けているんだろうか。距離感、分かんねえ。

 送信ボタンを押して返信を待つ。電話とは違って返信のタイミングを個人で決められるのがいいと思う。返信してくれればの話だけど。

 送信してから30分が経ったが返信は無い。まだたったの30分だ。俺が気にしすぎだ。

 送信から1時間が経った。依然として返信は無いままだ。そもそも返信は早く来て当たり前ではない。相手には相手の都合がある。そうだ、これは普通のことなのだ。

 ここで俺は思い出した。そういえば日向さん、友達と約束があると言ってたっけ。
 時間は22時過ぎ。まだ外出中ということもあり得る。

 俺はベッドに寝転がってラノベの新刊を読むことにした。1行目を読んだ所でスマホから通知音が鳴る。日向さんからの返信だ! と思ったが、中学からの親友からだった。俺とは違う会社で働いている。

『オレ今日はいま同期の飲み会があって俺が今すげー今酔ってるわー』

 クッソどうでもいい内容だった。しかも文章がめちゃくちゃだ。文章も酔っているなんて、そんなことある?

 普段はラノベやゲームの情報交換をしたり飲みに行く約束をしたりするんだが、お互い彼女がいないからなのか、たまにこんなしょうもないやり取りをする。俺は『知らねーよ』とだけ返信をした。

 すぐさま通知音が鳴る。今度は何だと見ると日向さんからだった。

『返信遅れてごめんなさい! 友達と出かけていてさっき帰って来たばかりです!』

 さらにメッセージが届く。

『確か前にコーヒーはあまり飲まなくて、炭酸が好きと言ってたなーと思いまして買って来ました。残業早く終わってよかったですね!』

 確かにコーヒーはあまり飲まないけど、本当にいつ言ったんだろう。

 せっかくメッセージをやり取りする機会を作れたので、俺は思い切ってあるメッセージを送信した。

『ありがとう。それで明日の昼休みなんだけど休憩スペースで一緒に食事しない?』

 まるでデートの誘いのようだが、ただ単に昼休みに後輩と食事するだけだ。昼休みの時間は個人の自由なので、約束しておかないと時間が合わないことがある。

 あえて会社の休憩スペースで、というところも二人で過ごしていても自然に見えるポイントだ。

(俺は誰に言い訳しているんだろう)

『わかりました! 楽しみにしてますね!』

 そして俺が返信してメッセージのやり取りは終了した。
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