俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム

文字の大きさ
上 下
5 / 58

第5話 昼休み

しおりを挟む
 次の日の朝。今日は寝坊しなかったので、いつも通り電車で出勤できそうだ。

 昨日はテレポートを4回も使ってしまった。朝寝坊して1回。家に忘れ物をして2回(1往復)。日向ひなたさんを送るために、俺の家から逆方向の終電に乗って1回。最後の以外は完全に俺のせいだった。だけど、最後の1回は本当にいい使い方ができたと思う。

 特に体調に変化は感じられない。ちゃんとMPマジックポイントが回復してそうだ。MPが存在するのかは知らないけど。

 そして俺、ここで重要なことに気付く。異世界でアレをするのを忘れていた。
『ステータスオープン』である。異世界ファンタジーの定番だ。自分の能力を可視化できるって、実はとんでもないことだと俺は思う。

 本当にステータスが存在するかは分からないが、他人との優劣もハッキリと見えてしまうから、無いほうがいいのだろう。

 でもせめてMPが存在するのかくらいは確認しておけばよかったな。俺の最大MPはどのくらいで、魔法1回でどのくらい減るのか把握すれば計画的に使えるのに。

 くっそー、手を前にかざして「ステータスオープン!」って言えばよかった。

——うん、出勤前に考えることじゃなかったな。さっさと駅まで行こう。


 今日は余裕を持って会社に到着することができた。そして席に着く。右隣にはいつものように日向さんがいる。左隣は誰も使っていない。

「先輩、おはようございます! 昨日はありがとうございました!」

「日向さん、おはよう。こちらこそありがとう」

 お互い、周りに聞こえない程度の声で話す。

「私、先輩に聞きたいことがあるんですけど」

「何かな」

「先輩、魔法使いましたよね?」

(え? ってどういうことだ? 俺、怒られるの? 禁止はされてないはずだけど)

「いつのことかな?」

「昨日、私を家の近くまで送ってくれた後です」

「ああ、あの後か! テレポートで俺の家まで帰ったよ」

 そうか、そういえば日向さん魔法を察知できるんだった。ということは、部屋の中で『ピキーン !』ときたんだな。でも怒られるようなことじゃないと思うんだけど。

「先輩も同じ駅で降りたということは、昨日送ってもらった所の近くに住んでいるんでしょうか?」

「えっ? うん、まあそうだね。わりと近い、かな」

「近いのにテレポートで帰ったんですか?」

「歩くより早いからね」

「魔法を使ったらすごく疲れるのにですか?」

「あとは寝るだけだから疲れてもいいかなって思ったんだよ」

「そうなんですね。家が近いのに疲れるテレポートで帰ったんですか……。それって——」

 日向さんにしては珍しく小声だった。しかも語尾に近づくほどさらに小声になったので、最後は聞き取ることができなかった。

「日向さん?」

「はい! なんですか先輩!」

 魔法に頼りすぎだと怒られるのかと思いきや、元気よく返事をした日向さんは何だかとても嬉しそうだった。


 そろそろ昼休みの時間になったが、俺は仕事をもう少しキリのいいところまで終わらせたかったので、遅めに昼休みをとることにした。
 昼休みは自分のタイミングでとることができる。チャイムが鳴って全員で一斉に、ということではないため、昼休みは一人で過ごすこともわりとある。

 同期の仲間達とは部署が違うため、昼休みに会社の休憩スペースで会うことがたまにある程度。確実に一緒に昼休みを過ごすためには約束をしなければいけないくらいだ。

 少し前に日向さんの同期の女の子達が誘いに来たので、日向さんは外食に行ったようだ。
 俺はコンビニへ行き弁当を買った。今日はきちんと温めてもらったので魔法を使う必要は無い。

 休憩スペースに陣取った俺は弁当を食べ始めた。他にも人がいるが、一人で過ごしている人もそこそこいる。お喋りが好きな人は複数人で過ごせばいいし、スマホを見たり、本を読んだり、仮眠をとることが好きな人は一人で過ごせばいいと思う。
『昼休み』なんだから、それぞれが休息だと思えることをするべきだ。

 そんな俺はどちらかというと一人で過ごしたい派だ。ただ、今日はなんだか寂しい。昨日の昼休みが楽しかったからだろうか。

 今までにも日向さんと昼食をとることは何度かあったけど、仕事の打ち合わせの延長線みたいな感じで、雑談をした覚えはあまり無い。つまらない時間を過ごさせていたかもしれない。

 弁当を食べ終えた俺は大手Web小説投稿サイトを開いて、フォローしている作品が更新されていないかチェックした。
 すると通知が来ており最新話が公開されていた。もう300話を超えている大長編だ。偶然見つけて、タイトルに興味を持ち第1話を読んだ俺はすぐにフォローをしたのだった。そのタイトルとは、

『異世界転移したけど、すでにハーレムができあがっていて最高だった! だけど全員が俺の命を狙ってくる件』
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...