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番外編 初めての
01-05 初めてへの道のりは思ったより遠い
しおりを挟む「あの、魔法って俺でも練習したら使えるようになりますか?」
「こいつ、そこら辺の赤子よりよっぽど魔力に対して無防備だし、無意識で理解するとかはできてねえんだよな」
俺の実力をギゼルが追加で説明してくれる。
我ながら赤ちゃんより駄目って…しかも体格とか力とかも、そこら辺の人に負けちゃいそうだし、いいとこが全然無いよ。
これで感情が体に影響しやすいせいで泣き虫で怯えやすいんだろ……ああもう、本当にいいところがない!
契約魔になったら、何かギゼルを手伝えるかもって思ってたのに……むしろさらに足を引っ張ってる。いや、駄目だ駄目だ、ポジティブ、もう常にポジティブになるんだ、俺!心に熱い男の人を宿らせるべきかもしれない。
「なるほど…まあ無かったものを身につけていくには時間がかかるだろうけど、パッと見は精霊クラスだし、実際の素養もそうだと思うよ。ギゼルみたいな魔法爆発しがちなやつよりはよっぽど魔力も落ち着いてるし」
「うるせえっ」
「あれだ、魔力爆発させがちな奴の訓練で使われる魔術具とか練習をしてみればいいんじゃないか?そうすれば目に見えて変わるはずだ…後は、魔法学の本とかか?感覚派じゃないならそっちも必要になる。感覚派だったら逆に頭がいっぱいになって爆発させるかもしれないけどね」
ギゼルがジト目というには恐ろしすぎる目つきでヘッダさんを見ているけど、当のヘッダさんは余裕そうだ。
でも、そっか、全然可能性はあるんだな。
「練習すれば使えるようになるなら、俺、精一杯頑張るよ!」
気合を入れる様に手を握って力を入れる。何から何まで全部ギゼルのお世話になっちゃうし、早くギゼルの役に立つようになって、いつかはもっと頼られたい!
チラッとギゼルを見ると何やら顔を押さえていた……すごい目つきでヘッダさんを見過ぎて目が疲れたのか…?まあ、それは自業自得だな。
「はぁー、じゃあこのまま冒険者ギルドに俺の契約魔として登録して、さっさと帰るか」
あ、もう帰るんだ。……いや、副ギルドマスターだっていうヘッダさんを長々と付き合わせちゃうのも駄目か。ギゼルとヘッダさんのやり取りを見てるのも結構楽しいんだけどな、ちょっと残念。
「じゃあここでしようか。あ、その前に秘匿のアーティファクトを解除するね」
そう言うと、ヘッダさんはあの黒い箱をぱたりと閉めた。
やっぱりそれだけなんだ……よく見てみたけど魔力とかは蓋を開けた時と同じで、特に見えなかった。
冒険者ギルドに登録…契約魔としてだけど、王道的だよな、冒険者登録!どんな風に登録するのかワクワクしてきた。
「異世界についてのこと以外は全部廃棄してくれ」
「そうだね、契約魔ってことを開示するには邪魔だし」
俺が冒険者登録に浮かれている間、ギゼルは真面目な雰囲気のままです。呑気に、おんぶに抱っこでごめんなさい。
ヘッダさんが箱をひっくり返して底の部分を上に向けると、箱の色が一瞬で白に変わった。しかも、今までは蓋も何もない、箱の下側だった部分のはずなのに、そこには蓋ができていた。どういうこと…?まるで手品を見せられているような感覚になる。
いや、アーティファクトなんだから魔法というかなんというか。だけど魔力も感じないし…ただの手品ですって言われても信じちゃいそう。
その蓋を開けると、なかに小さな粒がいくつか入っていた。ビー玉みたいな感じで可愛い。ヘッダさんはその内の3つをギゼルに渡して、残りのビー玉はそのまま握り潰してしまった。
ひょぇぇ、あんまり硬くないのかもしれないけど、すごい。……いや、嘘です。とっても硬そうです。バキギュギギッみたいな音がしました。ヘッダさん、すごい。
握り潰されたビー玉は跡形もなくスッと溶けるように消えてしまった。そこだけはなんだか魔法ちっくだ。
ギゼルが受け取っていたビー玉もいつの間にか無くなっていた。特に音も聞こえなかったし、しまったのかな?
「よし、廃棄完了だね。じゃあ契約魔として登録するけど、契約証はどうする?」
「あー、一先ずこれ使ってくれ」
ギゼルはそう聞かれるのが分かっていたのか、紅い色の宝石みたいなのがついた黒色のチョーカーをヘッダさんに渡している。
「うっわ、お前……アキラが契約魔になってこっちに来たのは、今日なんだよな?」
「うるせえ、別にいいだろ」
一瞬真剣な声を出すヘッダさんと、不貞腐れたような態度のギゼル。…どうしたんだろう?
よく分からなくて、俺は首を傾げるしかできない。
ヘッダさんはそのチョーカーをどこかから取り出した台座に載せて、何やら魔力を使い始めた。とてもキラキラして風も回っている。
そんなキラキラさせながらも、俺の方を見てニコニコと説明してくれる。
「これはね、紅い魔石の中でも最上の部類だよ、魔石は基本暗いし大きいんだ。このレベルで小さくて綺麗なものを得ようと思ったら、お金を出すだけじゃあどうにもならないからね」
ぇ…え!?
「しかもそれを綺麗に見目好く魔術具にしてるとくれば、流石の私もびっくりだよ。魔石は加工するのが難しいからねぇ、良い魔石になればなるほど職人の腕が問われるし、これについてる反射の魔術、愛がドロドロにつまってるようなも」
「うっせえよ、さっさと登録の準備しろ」
「えー?してるよ」
「こんな準備ごときお前なら一瞬だろうがよ」
「あははっ、真っ赤になってるアキラが可愛くて困るね?」
「……うるせえ」
顔がすごく熱い。
教えてもらったことを飲みこむのにかなり時間がかかったけど…あの、それは俺に渡すために用意していたってことで、いいの、かな。
俺はたまらなくなってギゼルにぎゅっと抱きついた。
そういう、手間も時間もお金も、全部俺に使いたいって思ってくれたのが嬉しい。試練で会うだけだった俺を、本当に必死に望んでくれてたんだ。分かってたはずだったけど、ちゃんと分かっていなかったのかもしれない。
もう、涙が出てきて上手く声が出せない。
「ぅっ、ぎぜ、る、ふぃっく、ぁりがと!」
「あーあー、くっそ。せっかくの可愛いアキラをこんな所で見せちまうなんて」
そういって俺に布をぐるぐる巻きつけてくる。本当に、これ好きだね、ギゼル。
「ありゃ、本気泣きさせちゃったか、ごめんよ。んー、本当にアキラは可愛いねぇ。ちょっと申し訳ないんだけど一瞬離れてもらうよ、この棒を握って少し待ってて欲しいんだ」
布でぐるぐる巻きなので分からないけど、ヘッダさんから受け取ったのか、棒を俺の手に握らせてくれる。それは、ちょうどボールペンぐらいの棒だった。
まだ涙が止まらない俺は、何の凹凸もないそれを持ちながら、大人しくソファーに寄り掛かって待つことにする。
ギゼルが離れてしまってちょっと寂しいけど、どう考えても俺たちのためにヘッダさんは頑張ってくれているし、なんならさっきの事だって俺を思って言ってくれたんだよな。多分茶化しつつも、こういう想いで渡されてるよって教えてくれている気がした。
深呼吸しながら早く涙が止まるように目をパチパチさせてみる。布が汚れちゃうのは……もう仕方ない。
「うんうん、OKだ。登録完了、お疲れさまー」
少しして登録が終わったのか、優しい声で呼びかけてくれる。顔を隠すようにぐるぐる巻きにされている布をもぞもぞ動いて解く。
宝石、じゃなくて、魔石なんだっけ?それには、なんだかよく分からないマークが浮かんでいた。
「ありがとうございます」
ちょっと声が変になっちゃったけど、ヘッダさんにお礼を伝える。
「いいんだよ、これも副マスのお仕事ってやつだから。はい、この契約証をつけてれば、一発で誰かの契約魔だって分かるからね」
ヘッダさんはチョーカーに直接触ることはせず、台座を滑らすようにしてギゼルの前に持っていった。
「ん、一発だな。魔術具に干渉もしてねえし、腐っても副マスか」
「いやいや、私もちゃんと副マスになれるぐらいには優秀だから。冒険者ギルトといえばどこの支部でも、脳筋のギルマス、巧妙の副マスって決まってるからね」
え、なんかすごい、ギルマスになるよりも副マスになれた方が嬉しそうな決まりだ。ヤニックさん、脳筋なのか…そう言われてみれば、そんな感じもする、のか…?
「そういう事が多いってだけで絶対じゃねえからな」
ヤニックさんを思い出しながら聞いていたら、あっさりとギゼルが否定していた。それはどっち…?ヤニックさんのことを否定してる?それともヘッダさん?あるいは、2人とも?
「よし、さっさと帰るぞ」
ギゼルはチョーカーをサッと取ると、すぐにどこかへやってしまった。こっちの世界では手品みたいなことができるのが普通なのか、それともマジックバッグとかの効果なのか。
「なんだ、ここで付けてかないの?」
「これ以上お前にアキラを見せてやるつもりはねえ」
「ケチだねえ。まあ、それも仕方ないか」
そのまま俺の方に向き直ったギゼルがまた俺をぐるぐる巻きにして、そのまま抱き上げてくる。
ぇえ!? せめてヘッダさんにちゃんと挨拶させてほしいんだけどな!?
「え、あの、ヘッダさん、色々ありがとうございました。また何かあったら相談させてください。よろしくお願いします」
「うんうん、いつでもおいで、ちゃんと受付にも言っておくから」
有難いなあ。早く色々できるようになって、何かお手伝いできればいいんだけど。
「…はぁ、手間かけさせて悪かったな。色々落ち着いたらまた指名依頼を受けるつもりは、一応ある。当分は待ってくれ」
「了解。まあ、当分は幽鬼のギゼルでいいんじゃないか?今はフローレスしか状況を分かってないだろうから、バレるまでは知らぬ存ぜぬでいいよ」
「あー、わりいな」
「ふふふ」
すごく気まずそうな声のギゼルと穏やかな声のヘッダさん。うーん、この2人のやり取り好きなんだけど、ちょっと妬けちゃいそうだ。すごいお門違いだけど、ギゼルの方に体を預けて変に騒ぎだしそうな心を落ち着かせる。頭では分かっているんだけど体が反応してしまいそうで嫌だ。
歩き出したギゼルはすごい音をさせて何かを蹴っ飛ばした。……何だろう……もしかして、扉?
扉を蹴破っていないか心配になりつつも、ヘッダさんはもちろん、誰にも止められることなく階段を駆け下りていくのが分かる。
うーん、本当にこれが異世界の扉の開け方なのか…。
多分ギゼルは、俺が行きに必死で早歩きしていた道を進んでいるんだろう。抱っこされてしまうなら、ぐるぐる巻きにされていた方が恥ずかしさが少ないのかもしれない。
一定のリズムでくる衝撃に、なんだか眠くなってくる気がする。俺はそのまま、眠気に抗うことなくゆっくりと目を閉じた。
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