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番外編 初めての
01-01 初めてへの道のりは思ったより遠い
しおりを挟む「うっわぁ…」
並べられたご飯をみてつい声がもれてしまった。
茶色いつやつやとしたタレがついて輝いているお肉、塩焼きっぽいお肉、赤黒っぽいタレがかかった薄く切られたお肉、白いとろっとしたものがかかったお肉。お肉、お肉、お肉。そこはお肉の山ができていた。
その周りに色々な種類の果物?っぽいのが1つずつ、たまに小皿みたいなのに入って置かれている。…うーん、なんともすごい迫力だ。
「どうだ?アキラが気に入りそうなのがねえか色々探してたんだ。特にこの薄い肉はドラゴンの肉なんだが、かなり美味い。」
「ふ、ふうん、そうなんだ。ドラゴンのお肉…」
ドラゴン……ドラゴンか。
こういう魔法とかがある世界では定番だと思うけど、生きてる姿じゃなくてお料理されてしまった姿が最初かぁ。
俺がなんとも言えない気持ちになっていると、ギゼルはなんだかワクワクした表情でこちらを見ている。
「ギゼル、色々用意してくれてたんだ。ありがとう。ドラゴンのお肉なんて初めてみたよ!」
少し戸惑ったものの、まあこれも異世界ごはんって感じでありだよな!
他の肉は、ちょっとまだ怖いから何肉かは聞かないでおこうと思う。お礼をいったらすごくニッコリと微笑まれた。
「まあ、ドラゴンの肉はそんな出回らねえからな。このまま食うか?こういう肉料理はパンに挟んで食べんのも定番だぞ」
「ん、一口食べてみて、味が濃そうだったらパンに挟もうかな」
「わかった、じゃあさっそく食うか」
ギゼルはそういってサッとお箸を手渡してきた。なんかお箸っぽいものがお皿のふちにあるなって思ってたんだけど、本当にお箸だった!こっちはお箸が普通なんだ? フォークとか、またはそれ以外の不思議なやつで食べることになるかと思ってたから、これは嬉しい!
「お箸!」
「お?そうだが…嬉しそうだな」
「うん。俺のところだとお箸じゃないのをメインで使ってる国もあるからさ。なんとなくこっちだとお箸は一般的じゃない気がしてたんだけど、違ったみたいで嬉しい」
「なるほどな。国によって、ってえのはあんまねえ。フォーク・スプーン・箸・串・トング・素手・包んでとか、各々好きに使ってんな」
「各々好きに……なんか良いな、それ」
自由な感じだ。貴族の人も砕けた話し方ってことだし、こっちってそういうのはかなり緩いのかも。マナーとかに厳しい世界じゃなくて良かった。
というか、各々好きに使っていい世界で、ギゼルが箸を使ってくれてることがちょっと嬉しい。
「あ、じゃあ早速食べてみるよ、ドラゴンのお肉。いただきます」
「おう、いっぱい食えよ」
にこにこしているギゼルに見守られながら、箸を使ってギゼルおススメの、ドラゴンのお肉を食べてみよう。
薄切りだけど一枚が結構大きいな…少し迷ったけどそのまま全部を口に入れる。
ん、味は甘辛いかんじだ。ちょっと濃ゆいけど…美味しい!噛めば噛むだけ薄いお肉から肉汁が出てくるのに、オイリーさはあまりなくて、さっぱりしている。なんだかいくらでも食べれそうだ。
「……………………………」
最初は、そう思ったんだけど…。いや、美味しい、美味しいんだよ、味はとっても美味しい…。
なのに…………ぜんっぜん噛み切れない!
んええ、なにこれ。
薄切り肉、なんならしゃぶしゃぶ用ぐらいうっすいお肉だったのに、全然噛み切れない。だけどそんなに硬いって感じじゃないし、なんで噛み切れないか分からない。
美味しかったし、なんなら最初はちょっと濃かったぐらいなのに、今はどんどん味が抜けていって、ほんのりとしか味がしなくなってしまった。
えぇ、これ、このまま、このまま丸のみすればいいのか?でも、なんかちゃんと消化できるのか、かなり心配になってきた。喉に引っかかったりしない、よな?
無理だ、飲みこむ勇気がでなくてずっと噛み噛みしている。
「アキラ…?」
俺が無言で噛み続けているせいで、ギゼルがすごい眉間にしわを寄せて訝し気にこっちを見ている。
どうしよう、口にお肉が入ってるせいで喋ろうか迷う。薄切りのお肉とはいえ一枚は結構大きいし。いやでも、この際行儀が悪くても喋らないとギゼルに変な心配させちゃうかもしれない…喋ろう。
「ぁの…かみきえないれす。まうのみして、らいようぶ?」
ううぅ、全然ちゃんと喋れてないけど伝わったかな。俺の体でこの強いお肉をやっつけられるかどうか、それが心配です。
それともみんなこんな感じで、噛んで噛んで、そのまま味がしなくなってきたら飲みこむっていう食べ方なんだろうか。あたりめとかジャーキーみたいな?
それにしたって、こんなに噛みきれなかったことないけどさ。
「ドラゴンの肉が噛み切れねえのか………出していいぞ」
まじまじと俺をみたギゼルは少し視線をうろつかせてから、俺の前に自分の手を差し出してきた。
ちょっとまって、そこに吐き出すのは嫌なんですけど。というか、結構珍しいドラゴンのお肉を吐き出しちゃうのも本当は嫌だ。
「のんらら、らめ?」
「わかんねえ。まず、ドラゴンの肉が噛み切れないっつうのが意味わかんねえし、飲んだらやばいのかも分かんねえから一応出しとけ」
「ぅぅ」
そっか、ギゼルにも分かんないなら一応飲みこむのは止めよう。
ギゼルが俺の前から手をどかさないどころか、このままだと口に手を突っ込んでドラゴンのお肉を引っ張り出しそうなので、差し出された手に、色々申し訳なく思いながらお肉を吐き出す。
「ぅぇっ………ギゼル、その、ごめんなさい」
謝りながら、吐き出したドラゴンのお肉の無残な姿をみる。いや、かかっていたタレがさっぱりとなくなっただけのお肉だ、何も無残じゃない、全然ダメージを受けた様子がない。
これが、ドラゴンのお肉か………つっよい! やっぱりドラゴンのお肉だから精肉されても強いんだ。
「っぅあ゛!?」
ちょっとまて!?食べた…食べた!?!?
ドラゴンのお肉の強さを実感していたら、おもむろに手のひらに吐き出したお肉をギゼルが食べてしまった!
俺は信じられない気持ちでギゼルを見る。
「なにしてんだよ!」
「あ?吐き出したことが申し訳ねえって顔してたからな、食った」
いやなに、なにその、それがどうかしたか?って顔は!! いや、そりゃあ、そのまま捨てられるか、クリーンとかで消されちゃうのかなって思って、少し申し訳ない気持ちだったけど。だけど、それにしたって、それにしたって食べなくていいだろ!
「いや、それは、申し訳ないって思ったけど、思ったけど…」
「まあ、そんな気にすんな、ちゃんと美味かったから」
「……それは絶対うそだ」
ニヤニヤしているギゼルをジト目で見る。そもそもは俺が悪いんだけど…くっそぅ。
ドラゴンのお肉は俺には無理だったみたいだから諦めて、塩焼きっぽいお肉を食べよう。なんか鶏肉っぽいさっぱりしたやつな気がする。
「ちょっと待て」
ん?白っぽいお肉を取ろうとしたらギゼルに止められてしまった。
「なに?どうかした?」
「見せびらかすだけ見せびらかして、食わせてやれないのも可哀想なんだが……お前にここにある肉は無理だ」
「……ぇ?」
ええ、なんで?
ポカンと口を開けてギゼルを見てしまう。ギゼルは苦々しい表情をしてた。
「なんで?ここにあるお肉は、全部ドラゴンのお肉並に強いの?」
「………ああ、そのな、ドラゴンの肉はここにある肉の中じゃあ一番やわいんだ。っつーかドラゴンの肉以上にやわいのを探すのは、かなり難しい」
「………」
絶句してしまった。それって、それって……もしかして俺は今後お肉が食べれない感じなのか?
「あー、あんまガッカリすんな。他の、果物や野菜はやわいから、今はそれで我慢してくれ。そんでそれ食ったら、ちょっと契約魔に詳しい奴に聞きに行こう。問題なさそうだったら肉は俺が小さく切ってやるからな、それを食えばいい。」
しょんもりと眉を下げたギゼルに提案される。
いや、お肉が食べれないのはギゼルのせいじゃない、むしろさっきまであんなにワクワクしながらご飯を出してくれたギゼルに申し訳ない。
そして申し訳なさと、お肉が食べれないかもしれないってショックを受けたせいか、じわじわと涙が滲んでくる。はあぁ、本当、俺の涙腺どうしちゃったんだ?こんなことで泣くなんて格好悪すぎる。
「ぁのさ、大丈夫、お肉が食べれなくたって平気だと思うから」
「…そうだな」
一応俺の言葉に頷いてくれたギゼルだけど、隣の椅子に座っていた俺を抱き上げて、そのままギゼルの膝の上で横抱きにしてくる。いや、本当に、大丈夫なんだよ。なぜか心より体の方が反応しているだけっていうか。
お肉とかもだけど、この自分の体とは思えない反応、そっちの方が不安になってくる。
「本当に大丈夫だから!なんか勝手に涙が出てきただけなんだよ」
「そうか。まあこれは俺がやりたいだけだから、アキラはそのままのんびりしててくれ。果物や野菜も、嫌だったり不味かったり、少しでも違和感があればすぐに吐き出せ、いいな?お前が嫌ってんなら、吐き出したのを食ったりしねえから。」
俺の言い分も特に否定はせず、のんびりと紫色の果物っぽいものの皮をむいたギゼルが俺の口元に差し出してくる。うう、いや、本当にギゼルがしたいならいいんだけどさ。
抵抗はやめて有難く甘やかされよう。そう思って紫のやつを食べると、これは食べた事ある味だった。ついさっき?と言えばいいのかどうか分からないけど、あのジュースの味だ。
「ありがとう。ちゃんと言うし、吐き出すよ。ん……美味しい!」
皮だけじゃなく、果肉自体も紫で結構毒々しい感じがあったけど、ぎっしりと大粒でぷるぷるしてて、味も濃い。これはかなり美味しい!
ちゃんと噛み切れるのも嬉しいし、それがギゼルに伝わればと思ってにっこり笑いかける。
「おー、これは試練の場で渡したジュースの元のやつだな。基本どこでも取れるし、定番の果物だ」
ギゼルもニコニコしてこちらを見てくれるから、さらに嬉しくなる。現金なことに、俺の涙はすっかり止まった。
「へええ、これがどこでも食べれるなんて、嬉しいなぁ」
「いつでも食べていいからな。どうする?他のも食ってみるか?」
テーブルに用意していたお肉をバクバクと食べながらギゼルが聞いてくれる。まだこの果物は一口しか食べてないけど他のもチャレンジさせてくれるみたいだ。
どうしようかな。
「残ってもマジックバッグにしまえば時間経過しねえから、勿体ないとか気にしなくていいぞ。食いたいか食いたくねえかで決めればいい」
俺が悩んだのが伝わったのか先回りして教えてくれる。うーん、お言葉に甘えて色々食べようかな。
「さすがマジックバッグ!じゃあそっちにある小皿の、赤くて小っちゃいのがいっぱいのやつ、食べてみたい」
「おー、いいぞ、これはピルヒだな。薄皮ごと食えるから、このまま食ってみろ」
ギゼルすぐに小皿を取ってくれて、至れり尽くせりすぎる。
小皿の中にはコケモモみたいな果物、オレンジっぽいのが紫だし、これはどうなんだろう?一粒摘まんで口に入れてみる。
「…あっまぁい。そして、美味しい!」
見た目はコケモモで、味はしっかり熟された桃っぽい、美味しい!色々な種類を食べてみようと思っていたけど、つい小皿を手に持ってパクパクと食べてしまう。
これいいなあ。どの粒を食べても本当に甘くて、ハズレが無い。
「気に入ってんなぁ。それ、全部食っちまっていいからな、なんなら追加も出せる」
「あは、ありがとう。流石におかわりは大丈夫だけど、ここにあるのは全部食べるつもり。すごく美味しい」
俺がこのピルヒ?に夢中になっている間に、気づけばテーブルの上にあったお肉たちはほとんど無くなっていた。
……ギゼル、すげえ食べるんだな。
一品だけでもめちゃくちゃ量あると思ったんだけど、全部完食とはびっくりだ。見ただけでお腹いっぱいになりそうな量なのに……やっぱ体が大きいのには理由があるってことかぁ。
俺といえば、さっきはあんなにグーグーなっていたお腹もすっかり落ち着いて、小皿に入っていたピルヒを完食しただけで、もうご馳走様ですって感じだ。
「俺は結構お腹落ち着いてきたから、これ食べたらもうご飯は終わりで大丈夫だよ。ギゼルはどう…?もっと食べれたりする?」
「いや、俺も腹は落ち着いてきたから大丈夫だ。そこまで腹減ってたわけでもねえしな」
おおう…お腹空いてなくてもあの量を結構な速さで食べれちゃうのか……。
「そっか、じゃあすぐ食べるから」
「ん、まあゆっくりでいいぞ」
すぐ食べるとはいっても、せっかくの美味しいフルーツだし一粒ずつ食べようとは思ってるけど。
「でも、契約魔に詳しい人に会いにいくんだろ?」
「んー、まあ、そうなんだけどよ……ちょっとそいつに連絡しとくか。ギルドに行ってそいつがいなかったら話になんねえしな」
「アポ取れるなら、絶対取った方が良いよ」
なんの連絡も無しに人を訪ねるのは、相手の人がきっと困るよ。それでなくても契約魔について教えてもらいにいくわけだし。
俺がぽつぽつとピルヒを食べる中、ギゼルは何やらカードを弄り出して、それがぴかぴかと光っている。
うーん、なにやら文字っぽいのが見えるけど……さっぱり分からないや。もしかして異世界版のスマホだったり?
……暇だし、ピルヒのみをちゃんと味わおう。
薄皮を齧ったときにでてくる果汁が美味しい。あの紫の、名前何だったけ、あれよりもこっちのジュースを飲んでみたいな。ジュース屋さんみたいなのがあるのか、それとも果物やさんが宣伝もかねて作ってたりするのか。それとも、商会だっけ?そういうのなのか。
というか…そっか。俺、これから異世界で生活していくんだよな?…うわぁ、なんかドキドキしてきた。
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