お隣さんはオネエさん。

文字の大きさ
上 下
4 / 6
本編

リア充とオネエ

しおりを挟む
「遥はさ、彼氏つくんないの?」

ある日の午後、そんな素直で直球すぎる夏樹の言葉につい固まった。

「彼氏ぃ?」
「そ!彼氏!最近私たちとずーっと一緒にいるせいで南以外の他の男の人と話してないでしょ!」
「いやー…」

南くん以外の最近話した男性はいないわけではない。ただ、あれを男性と分類していいものか…

「なに、遥ちゃん彼氏できたの?」
「いやいやいや。」

スマホで音楽を聴いていて私たちの会話を一切聞いていなかった南くんが、何を思ったかイヤホンを外してどこかワクワクとした顔で私を見てくる。話を聞け、話を。

「もー!違うよ!彼氏つくんないのかって聞いてたの!」
「なーんだ、彼氏できたわけじゃないんだ。」
「そもそも遥は最近南以外の男と喋ってないって!」

いや、あるって。
だからね、夏樹。性別上男性とは毎日毎日話してるんだよ?心は女の人だけど。

「あるにはあるけど…」
「あるのー!?」

元から大きなまん丸の目を更にまん丸にして驚く夏樹につい苦笑いがこぼれる。

「ただあの人を男性として分類していいのか…」
「……へ?どうゆうこと?」
「…あー、ふぅん。遥ちゃん二丁目とか行ってるの?」
「違うからー!」
「え、なになに?二丁目っ?」

私の曖昧な言葉に勘の鋭い南くんは気付いてニヤニヤしながらそんなことを言ってくるが、夏樹の方は全く分かっていないようだった。

「あのね…」

隣にハルさんが引っ越してきたこと、最近仲良くなって毎日のように話してること、ハルさんがオネエだってことも順を追って全部夏樹たちに話した。

「…と、いうわけなんだけど…」
「へー!すっごーい!」
「遥ちゃんの周りには面白い人が寄ってくるんだね。」

苦笑気味にそう言う南くんに、そうだねあなた達含め、と嫌味を言ってやると、南くんはぺろりと舌を出して肩を竦めてみせた。

「ねぇねぇ遥?」
「ん?」

夏樹に肩を叩かれ何かと首をかしげる。

「私、その人に会ってみたい!」
「「……はぁ?」」

私の声と南くんの声が重なった。何を言っているんだこの子は、と夏樹を見て、その後にちらりと南くんの方を見れば南くんも同じような表情をしている。考えていることは同じなようだ。

「会いたいって…ハルさんに?」
「当たり前じゃん!その人って言ったらその人しかいないでしょ!」
「うん、なんか色々違和感あるけどねその日本語。」
「ほぼアメリカ人には言われたくないですー」

また目の前でイチャイチャが始まったので、(邪魔をするのは非常に申し訳ないが)私は短くため息をつくと、パンと手を叩いた。2人がこちらを見てから口を開く。

「夏樹、本当に会いに行くの?」
「もちろん!」
「南くんは?」
「夏樹が行くなら行かなきゃでしょ。」
「いつ行くの?」
「今日!」

ですよねー。そうなんじゃないかと薄々気付いておりました。無駄に行動力のある夏樹は、思い立ったことは今すぐに実行したいタイプの人間だ。

「分かった。今日行こう!」
「おー!」

夏樹は押しても引いてもその意見を曲げないことを知っている。ここはこちらが吹っ切れるしかない。それは南くんも分かっているようで、しょうがないなぁというように苦笑しながらため息をついた。

「いざ!遥宅!」
「おー…」
「遥ちゃん、顔、顔。」

大学が終わってまっすぐ私のアパートの最寄駅まで来た。夏樹の顔はワクワクと期待に膨らんでいるのに対し、私の顔は不安でしぼんでいる。ノリと勢いで連れてきてしまったものの、やっぱり本人の許可無くハルさんに会わせるのは如何なものか。

「早く行こー!」

正直今すぐに引き返したい。だが、自分で引き受けたのだ、なんとかしてハルさんに許してもらおう。そんなことを考えていると目の前で夏樹がぴょんぴょんと飛び跳ねてみせるのでウサギみたいだな、なんて思いながら自分のアパートへと向かった。

「ハルちゃん、おかえりなさい!あら?そっちのかわいこちゃんとイケメンくんは?」

アパートまで行く途中の道でばったりハルさんと出くわしてしまった。

「ハルさん…」
「この人が例のハルさん!あの、綾辻 晴翔さんですよねっ?」
「え?えぇ、まぁ。」

夏樹はハルさんにずいっと近づいて早口でそう言うと手を取ってブンブンと上下に振ってみせた。見知らぬ女の子にいきなり声をかけられ、いきなり握手をされたハルさんは目を見開いて、パチパチと瞬かせている。

「あー…夏樹?」
「あっ!ごめんなさい!いきなりなんて驚きますよね!でも噂のハルさんに会えて嬉しいです!」

そりゃあ驚きますわな。というかあんたはハルさんの熱烈なファンか何かか。

「夏樹、最近俺に似てきてない?」
「アメリカ人風フレンドリー?」
「何その単語。」

キャッキャとはしゃいでいる夏樹とそれに戸惑っているハルさんを見ながら私たちは真顔でそんな会話をした。するとハルさんが助けを求めるかのように私の方を見てきたのでこれは助けるしかない。

「はいはい夏樹、落ち着いてー」

夏樹の肩に手を置いてゆっくり自分の方へ引き、ハルさんとの距離を離す。…のは南くんの仕事。

「南!」
「初対面の人を困らせちゃいけませーん。」

2人でそんな話をしている横でハルさんに声をかける。

「ハルさん、大丈夫でしたか?すいません、私の友達が…」
「いいのよ、助けてくれてありがとうね。それにしても面白いお友達ねぇ。」
「面白い友人だって私も思ってます。…じゃなくて、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ~!でも、なんであの子アタシの名前知ってるのかしら…前に会ったこと…あー、でも噂の、とか言ってたわよねぇ…」

うーん、と考え込んでしまうハルさんに更に申し訳なさがこみ上げる。

「違うんですハルさん、あの子には私が話したんです。そうしたら会いたいって言われたので連れてきてしまって…」

ごめんなさい!と頭を下げると、上からくすくすと笑い声が聞こえてきた。

「いいのよハルちゃん。アタシ、アナタのお友達と知り合えて良かったわ。あんな面白い子なんですもの。」
「えっ、」
「だから謝ることなんてないのよ。」

そう言って優しく頭を撫でてくれるハルさんに目を見開く。良い人だとは思ってたけど、ここまで良い人だとは…!嬉しさと申し訳なさが混じって涙が出てきそうだったがぐっとこらえる。

「ところでハルちゃん、あのイケメンくんはあの子の彼氏?」

南くんのことを言っているんだろう。目の前で繰り広げられているイチャつきを眺めながら頷いた。

「ふぅん…フリーだったら狙ってやろうかと思ったのに。」
「え?」

何か良からぬ呟きが聞こえた気がする。うん、気のせいだよね、うん。

「え?あぁ、何でもないわよ!幸せそうなカップルねって思って。名前はなんていうのかしら。」
「そ、そうですよね!えーと、女の子の方が佐藤 夏樹っていって、男の子の方が松原 南くんです。」
「そう、教えてくれてありがとうね。」
「いえいえ。」

こくこくと小刻みに頷いてまた2人を見る。
でもね、でもね、聞こえちゃったの。ハルさんの呟き。

「松原 南くん…美味しそうね。」

やっぱりそっち系の人なんだー!!
そりゃあオネエだったらそういうこともあるよね!いや、逆にないとおかしい気もしてきたよ!ごめんなさい世の中のオネエさん!

(南くん逃げて、超逃げて。)

しかしそれを口にすることはできず、私の内心は嵐の大海原並に荒れていた。

「んー!楽しかった!また来るね!」
「またおいでー!いつでも待ってるよ。」
「遥ちゃん、晴翔さん、今日はありがとうございました。」
「いーえ!アタシの方にもいつでも来て良いからね~!」

あれから私の部屋に来ると、ハルさん含め、4人でお茶会をすることなり、その時ハルさんの持ってきてくれた紅茶がどこのブランドだかは分からないけれどすごく美味しかった。多分今まで飲んだ紅茶の中で1番美味しいんじゃないかってぐらい。その紅茶を飲みながら4人で私たちの大学のこととか、夏樹と南くんの出会いのこととかいろんな話をして、気付いたらもう夕方になっていた。そろそろ帰ろっか、と2人が立ち上がったので私とハルさんは玄関まで2人を見送る。玄関のドアが閉まった後、ハルさんが微笑みながら口を開いた。

「面白くて、とっても良いお友達ね。」
「はい。すごく、すごく良い友人なんです。」
「…そう。良いことね。」

私が笑顔で頷くと、ハルさんはまたくすりと笑って私の頭をくしゃりと撫でる。

「ハルさん?」
「もう、ハルちゃんが可愛すぎて妹みたいに思えてきちゃった。」

ごめんなさいね、と笑うハルさんを見ていると妹と言われても怒る気にはなれず、むしろ嬉しかった。

「ハルさんの妹とか、楽しそうですね。」
「そう?まぁ退屈はさせないわねぇ、構い倒しちゃうもの。」

ふふん、とどこか自慢げに笑うハルさんはなんだか少しだけ子供っぽかったけど言ったら多分口をきいてもらえないから黙っておくことにした。

「さぁて、アタシもそろそろ帰るわね。今日は楽しかったわ、ありがとう、ハルちゃん。」
「こちらこそ楽しかったです。本当にすいません、ありがとうございました。」
「も~、謝らなくていいって言ったじゃない。」

ハルさんは眉を下げて微笑むと、じゃあね、と手をひらりと振って部屋を出て行った。

(妹かぁ…)

一瞬そんなことを考えたが、それは夏樹からのLINEで遮られた。
なんだろうと思ってLINEを開くとそこには数枚の夏樹と南くんの幸せそうなリア充ツーショット写真と短い文。

『南と帰宅デートなう♡ ハルさんのおかげでいつも以上に会話が弾んでる!ありがとうって言っておいて!遥もありがとうね!』

皆さん、一つ良いですか。

末永く爆発しろリア充。

私は眉間にここ最近1番深いシワを寄せて、スマホをぶっ壊さんとばかりに強く握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...