この魔法はいつか解ける

石原こま

文字の大きさ
上 下
10 / 10

10

しおりを挟む
「っていうかさ、さっきから見つめ合いすぎなんじゃないの?あれから何分たったと思ってるんだよ!」

「いくら婚約してるからって、その距離はどうかと思いますよ。」

「さっ、邪魔者は帰りますよー。」

 ぶつくさと文句を垂れる幼馴染のルークとウィリアムが、セレナに引きずられていくのを横目で見やる。

 魔法が解けたあの日と同じ中庭の四阿で、リリアーナを見つめる。
 これまでなら自分の立場を弁え、自重するところだが、今はそんなことどうでもいい。
 目の前に座る、愛しい婚約者から目を離したくない。

 十年前の、あの日のことを思い出す。
 婚約者を選ぶために開かれた誕生日会の会場で、リリアーナに出会ったあの日のことを。

 リリアーナは一人、中庭に佇んでいた。
 初めて見た時、妖精が迷い込んだのだと思った。
 咲き乱れる季節の花々を背景に、不慣れな様子で戸惑っている彼女の姿は、会場内で一際目を引いた。
 目を奪われたのは私だけではなく、一緒にいたルークとウィリアムも同じだったと思う。
 そして、誰かとぶつかり、転んでしまった彼女に一番最初に駆け寄ったのが私だった。
 あの時、一番最初に辿り着けて良かったと、心から思う。
 もし、別の人間が彼女を助け起こしてたなら、その者が魅了魔法にかかったかもしれないのだから。

 リリアーナに出会えたのは、私にとって幸運そのものだった。
 彼女を婚約者として認めてもらうためならば、どんな努力も惜しくはなかった。
 リリアーナに教えるためだと思えば、それまで苦手だった勉強も語学もダンスも、全てを頑張れた。
 あの幼い日にかけられた恋の魔法は、確かに私を成長させてくれたのだ。

 これまで、遠慮がちにしか目を合わさなかったリリアーナが、真っ赤に頬を染めて、私を見つめている。
 そんな彼女を抱き寄せ、その唇にそっとキスする。

 魅了の魔法は解けたかもしれないが、私がリリアーナを愛する気持ちは変わらないだろう。
 真実の愛という魔法は、永遠に解けることはないのだから。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

「俺が君を愛することはない」じゃあこの怖いくらい甘やかされてる状況はなんなんだ。そして一件落着すると、今度は家庭内ストーカーに発展した。

下菊みこと
恋愛
戦士の王の妻は、幼い頃から一緒にいた夫から深く溺愛されている。 リュシエンヌは政略結婚の末、夫となったジルベールにベッドの上で「俺が君を愛することはない」と宣言される。しかし、ベタベタに甘やかされているこの状況では彼の気持ちなど分かりきっていた。 小説家になろう様でも投稿しています。

冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした 義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。 そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。 奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。 そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。 うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。 しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。 テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。 ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

はずれの聖女

おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。 一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。 シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。 『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。 だがある日、アーノルドに想い人がいると知り…… しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。 なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

処理中です...