この魔法はいつか解ける

石原こま

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 婚約者に選ばれたことで、私と父はそれまでとは違い、言うなれば共犯者のような関係になった。
 父は、それからも私に魅了魔法のことを色々と教えてくれ、またそれに関する書物なども惜しみなく提供してくれた。
 父が取り寄せてくれた資料や、変装して図書館で読み漁った文献によると、これまで歴史に登場する有名な魅了魔法の持ち主は三人。
 いずれも死刑になっていた。
 一人は火あぶり。一人はギロチン。一人は執行前に獄中で餓死。
 いずれもロクな死に方ではなかった。
 父は、私が魅了魔法を使いこなせるようになれば問題ないと考えていたようだったけれど、私は本能的にこの魔法が解けるものであることを知っていた。
 王太子殿下を惑わしたとなれば死刑は免れないだろう。
 だから、私は決めた。
 それまでの日々を、精一杯楽しく過ごすことに。

 王宮での日々は、まさしく夢のような日々だった。
 まだ幼かった私は、女の子が欲しかったという王妃殿下からは娘のように可愛がられたし、ユージーン殿下も忙しい中、毎日必ず一緒に過ごす時間を設けてくれた。
 ユージーン殿下は、勉強が遅れがちな私を心配して、ダンスや語学を教えてくれることもあった。
 それまで何も与えられてこなかった私にとっては、他の人が大変だという王妃教育も少しも苦にならなかった。
 初めて知る新しい世界に夢中になり、毎日の勉強時間が待ち遠しくすらあった。

 王立学園に通い始めると、私が婚約者に選ばれるまで最有力候補であったという、父の政敵の令嬢であるエリーゼ様を始めとする色々な方々から嫌がらせを受けることもあったけれど、処刑される未来が待っていると知っていた私にとっては、そんなことは全て些末なことに感じられた。
 いつか終わる夢のような日々の中では全てが美しく見え、ドレスにかかった紅茶が染めた布の鮮やかさにも目を奪われたし、引き出しに入っていた青虫さえ愛おしく感じた。

 この魔法が解けた時、私の幸せな日々は終わる。

 私はずっとそれを知っていたのだ。
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