この魔法はいつか解ける

石原こま

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 その時、初めて目が合ったと思った。
 正確に言うと二度目なのだろうが、少なくとも私は初めてだと思った。

 殿下の夏の青空のように澄んだ青い瞳が、真っ直ぐ私を捉えた。

「魔法が解けたのですね。」

 気づけば、そう声に出していた。

 ああ、やっと解放して差し上げられる時がきた。

 そう安堵すると共に、胸に去来する言いようのない寂しさ。
 唐突に訪れた終わりに頭がついていかない。
 けれど、これはずっと前から覚悟していたこと。
 これまで何度も頭の中で繰り返してきた台詞を告げる。

「おめでとうございます。ついに真実の愛を見つけられたのですね。」

 祝福しよう。
 そして、心からの笑みを見せなければ。
 殿下の愛が、この忌まわしい呪いの力を退けたのだから。
 まだ事態を理解できていない殿下に、ありのままを告げる。
 殿下が、私がかけた魅了の魔法にかかっていたこと。
 それは真実の愛に目覚めた時に解けること。
 私がこれまで殿下を謀っていたこと。
 椅子を降りて、跪く。
 王族を魔力で惑わすなど、到底許されることではない。
 今、ここで首をはねられても不思議はないのだ。

「ま、待ってくれ!」

 けれど、殿下はこんな時でさえ優しさを失わなかった。
 私を立たせて、元の椅子に座らせてくださった。
 魔法が解けた時、その場で母の両目を斬りつけた父とは違って。
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