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パチンと何かが弾けたような気がした。
気づくと微かに視界を遮っていた靄のようなものが晴れ、目の前に座る一人の令嬢と目が合った。
「魔法が解けたのですね。」
目の前に座る令嬢。婚約者であるリリアーナは、驚いたように目を大きく見開いた。
中庭を吹き抜けた風が木漏れ日を揺らし、彼女の一見深い瑠璃色に見えて、オパールのような光を隠し持つその瞳に一瞬の影を落とす。
「おめでとうございます。ついに真実の愛を見つけられたのですね。」
リリアーナはそう言って、花のように美しく、そして何故か泣き出しそうな表情で微笑み、目を伏せた。
「真実の愛?」
そう問うた私に、リリアーナが告げた言葉は、予想だにしない言葉だった。
「はい、この魔法は真実の愛に目覚めた時に解けるのです。いつか、この日が来るのは分かっていました。今までジーン様・・・いえ、ユージーン王太子殿下を謀った罪を償う覚悟はできています。」
そう答えると、リリアーナは静かに席を立って膝立ちになり、両の手を後ろに組んで、首を差し出した。
それは、刑の執行を待つ罪人の姿勢だ。
「ま、待ってくれ!」
慌てて彼女を立たせ、元の椅子に座らせる。
状況が理解できず混乱する私とは反対に、リリアーナの眼差しは何処までも穏やかだった。
理由を尋ねた私に、リリアーナは淡々と、予め準備していたかのような滑らかな口調で説明した。
私がリリアーナを婚約者に選んだのは、彼女が持つ魅了眼のせいであること。
初めて出会った時、彼女が無意識に魔法を使ってしまったこと。
そして、真実の愛だけがその魔法を解くことができること。
瞼を伏せた彼女の長い睫毛の先に、透明な水滴が光っていた。
夕日に照らされた彼女の姿はあまりにも美しくて儚くて、この世のものとは思えなかった。
だから、私はその言葉の裏に隠された、彼女の悲痛な覚悟など気付きもしなかったのだ。
気づくと微かに視界を遮っていた靄のようなものが晴れ、目の前に座る一人の令嬢と目が合った。
「魔法が解けたのですね。」
目の前に座る令嬢。婚約者であるリリアーナは、驚いたように目を大きく見開いた。
中庭を吹き抜けた風が木漏れ日を揺らし、彼女の一見深い瑠璃色に見えて、オパールのような光を隠し持つその瞳に一瞬の影を落とす。
「おめでとうございます。ついに真実の愛を見つけられたのですね。」
リリアーナはそう言って、花のように美しく、そして何故か泣き出しそうな表情で微笑み、目を伏せた。
「真実の愛?」
そう問うた私に、リリアーナが告げた言葉は、予想だにしない言葉だった。
「はい、この魔法は真実の愛に目覚めた時に解けるのです。いつか、この日が来るのは分かっていました。今までジーン様・・・いえ、ユージーン王太子殿下を謀った罪を償う覚悟はできています。」
そう答えると、リリアーナは静かに席を立って膝立ちになり、両の手を後ろに組んで、首を差し出した。
それは、刑の執行を待つ罪人の姿勢だ。
「ま、待ってくれ!」
慌てて彼女を立たせ、元の椅子に座らせる。
状況が理解できず混乱する私とは反対に、リリアーナの眼差しは何処までも穏やかだった。
理由を尋ねた私に、リリアーナは淡々と、予め準備していたかのような滑らかな口調で説明した。
私がリリアーナを婚約者に選んだのは、彼女が持つ魅了眼のせいであること。
初めて出会った時、彼女が無意識に魔法を使ってしまったこと。
そして、真実の愛だけがその魔法を解くことができること。
瞼を伏せた彼女の長い睫毛の先に、透明な水滴が光っていた。
夕日に照らされた彼女の姿はあまりにも美しくて儚くて、この世のものとは思えなかった。
だから、私はその言葉の裏に隠された、彼女の悲痛な覚悟など気付きもしなかったのだ。
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