34 / 50
31.エピローグ(2)
しおりを挟む
「大丈夫ですか?」
咄嗟に支えて、そう尋ねる私に、
「さすがに疲れたな。」
と言って、ルバート様が笑った。
宿場ごとに休憩はとられたそうなのだけれど、普通三日かかるところを一日もかからずに駆けてきたのだ。
早く会えて嬉しいけれど、もう二度とやらないでほしいとお願いしなければと思う。
「どこか座れるところへ行きましょう。」
とは言ったものの、まだ夜も明けない時間であるし、寝ているはずの家族のことを思うと母屋に通すのも気が引ける。
そういえばと思いついて、ルバート様を勝手口近くの作業場へご案内する。
屋根もあるし、作業の途中などで休憩を取れるようになっているのだ。
「少しここでお待ちください。」
ルバート様をベンチにご案内して、勝手口からキッチンへと入る。
もちろん、コーヒーをご用意するためだ。
自分の魔力がどれくらい強いのか、コーヒーにどれくらいの魔法がかかるのかは分からないが、少しでもルバート様のお疲れを癒せればと思う。
祖母が祖父にやったようにはできないかもしれないが、少しでも力になれればいい。
そう願いながら、コーヒーを淹れる。
「お待たせしました。」
そう言って、差し出したコーヒーを受け取られたルバート様は、一口飲まれて、
「ああ、本当に美味しいな。体の底から疲れが取れていくようだ。」
と感慨深い表情で言って、微笑まれた。
やはり魔力が入っているのか、少し顔の隈も取れたような気もする。
そして、その後、
「いつも美味しいコーヒーを淹れてくれて、本当にありがとう。」
と言ってくださった。
「いえ、そんな・・・。私が勝手にやったことです。」
こんな風に感謝の言葉をいただくなんて思わなかったので、胸がいっぱいになってこれ以上返す言葉が見つからない。
「そういえば、俺もコーヒーの淹れ方を練習したんだ。だから、今度、アメリアに俺の淹れたコーヒーを飲んでほしい。アメリアの好きな味になっているはずだ。」
そう言って、ルバート様が私を見つめた。
深い海のような色の瞳に、私が映っている。
リドル様にコーヒーの秘密を聞いたのだろう。
私が今まで込めた想いも知られているのかと思うと、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「ぜひ、お願いします。」
顔が熱くなるのを感じながら、何とか言葉を紡ぎ出す。
そして、ルバート様の淹れてくださるコーヒーは、どんな味なのだろうかと想像する。
ルバート様は魔力がお強いから、きっと上手に淹れられるに違いないなどと思っていると、ルバート様がコーヒーカップを持っていない方の手で私を抱き寄せた。
これまで、ルバート様との間には周囲に誤解を生じさせないよう、適切な距離が保たれていたのだけれど、その反動だろうか。
ルバート様は、しばらく私を離すつもりがないようだ。
調子に乗って、私も少し体を預けてみる。
それから、ルバート様は、私がルバート様とクレア王女の婚約を勘違いした理由などについて、お話し下さった。
女子高等部では有名な話だったのだけれど、ルバート様曰く、色々な話が混ざって、間違った噂話として広まっていたのだろうとのことだった。
確かに、クレア王女は公爵家の子息と婚約していたが、それはルバート様の兄上であること。
そして、婚約者のために研究を頑張っているというのは、ルバート様ではなくソフィア様のことだろうとのことだった。
ついでに、ルバート様がいつから私のことを特別に想っていてくださったかなども、詳しくご説明いただくことになり、もう途中から身体中が熱でおかしくなりそうだった。
これも、今までの反動なのだろうか。
さっきから求愛の言葉が止まらないし、いつの間にかルバート様の膝の上に座らされているし、距離感がおかしい。
と、その時。
ガチャンと大きな音が響き、何かが落ちた音がした。
そこには驚き、固まっている父がいた。
「る・・・るる、る・・・ルバート様!?」
父の声に気づいたルバート様が、ガタッと音を立てて立ち上がる。
「セルフィス殿、こんな朝早くから申し訳ない。然るべき時に、また正式な挨拶に伺おうと思ってはいたのだが、この度、アメリア嬢に求婚させていただきたいと思ってだな。少し気が急いてしまって申し訳ない。」
ルバート様が父に何かおっしゃられている。
父の表情は見えないが、おそらく相当驚いているだろう。
しかし・・・
「お・・・おろ、おろしてください。ルバート様。」
ルバート様の腕に抱きかかえられたまま、私は必死で声を絞り出した。
これ以降、おかしくなってしまったルバートとの距離感に、私は終始悩まされることになるのだった。
もう、本当にどうしていいか分からない。
咄嗟に支えて、そう尋ねる私に、
「さすがに疲れたな。」
と言って、ルバート様が笑った。
宿場ごとに休憩はとられたそうなのだけれど、普通三日かかるところを一日もかからずに駆けてきたのだ。
早く会えて嬉しいけれど、もう二度とやらないでほしいとお願いしなければと思う。
「どこか座れるところへ行きましょう。」
とは言ったものの、まだ夜も明けない時間であるし、寝ているはずの家族のことを思うと母屋に通すのも気が引ける。
そういえばと思いついて、ルバート様を勝手口近くの作業場へご案内する。
屋根もあるし、作業の途中などで休憩を取れるようになっているのだ。
「少しここでお待ちください。」
ルバート様をベンチにご案内して、勝手口からキッチンへと入る。
もちろん、コーヒーをご用意するためだ。
自分の魔力がどれくらい強いのか、コーヒーにどれくらいの魔法がかかるのかは分からないが、少しでもルバート様のお疲れを癒せればと思う。
祖母が祖父にやったようにはできないかもしれないが、少しでも力になれればいい。
そう願いながら、コーヒーを淹れる。
「お待たせしました。」
そう言って、差し出したコーヒーを受け取られたルバート様は、一口飲まれて、
「ああ、本当に美味しいな。体の底から疲れが取れていくようだ。」
と感慨深い表情で言って、微笑まれた。
やはり魔力が入っているのか、少し顔の隈も取れたような気もする。
そして、その後、
「いつも美味しいコーヒーを淹れてくれて、本当にありがとう。」
と言ってくださった。
「いえ、そんな・・・。私が勝手にやったことです。」
こんな風に感謝の言葉をいただくなんて思わなかったので、胸がいっぱいになってこれ以上返す言葉が見つからない。
「そういえば、俺もコーヒーの淹れ方を練習したんだ。だから、今度、アメリアに俺の淹れたコーヒーを飲んでほしい。アメリアの好きな味になっているはずだ。」
そう言って、ルバート様が私を見つめた。
深い海のような色の瞳に、私が映っている。
リドル様にコーヒーの秘密を聞いたのだろう。
私が今まで込めた想いも知られているのかと思うと、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「ぜひ、お願いします。」
顔が熱くなるのを感じながら、何とか言葉を紡ぎ出す。
そして、ルバート様の淹れてくださるコーヒーは、どんな味なのだろうかと想像する。
ルバート様は魔力がお強いから、きっと上手に淹れられるに違いないなどと思っていると、ルバート様がコーヒーカップを持っていない方の手で私を抱き寄せた。
これまで、ルバート様との間には周囲に誤解を生じさせないよう、適切な距離が保たれていたのだけれど、その反動だろうか。
ルバート様は、しばらく私を離すつもりがないようだ。
調子に乗って、私も少し体を預けてみる。
それから、ルバート様は、私がルバート様とクレア王女の婚約を勘違いした理由などについて、お話し下さった。
女子高等部では有名な話だったのだけれど、ルバート様曰く、色々な話が混ざって、間違った噂話として広まっていたのだろうとのことだった。
確かに、クレア王女は公爵家の子息と婚約していたが、それはルバート様の兄上であること。
そして、婚約者のために研究を頑張っているというのは、ルバート様ではなくソフィア様のことだろうとのことだった。
ついでに、ルバート様がいつから私のことを特別に想っていてくださったかなども、詳しくご説明いただくことになり、もう途中から身体中が熱でおかしくなりそうだった。
これも、今までの反動なのだろうか。
さっきから求愛の言葉が止まらないし、いつの間にかルバート様の膝の上に座らされているし、距離感がおかしい。
と、その時。
ガチャンと大きな音が響き、何かが落ちた音がした。
そこには驚き、固まっている父がいた。
「る・・・るる、る・・・ルバート様!?」
父の声に気づいたルバート様が、ガタッと音を立てて立ち上がる。
「セルフィス殿、こんな朝早くから申し訳ない。然るべき時に、また正式な挨拶に伺おうと思ってはいたのだが、この度、アメリア嬢に求婚させていただきたいと思ってだな。少し気が急いてしまって申し訳ない。」
ルバート様が父に何かおっしゃられている。
父の表情は見えないが、おそらく相当驚いているだろう。
しかし・・・
「お・・・おろ、おろしてください。ルバート様。」
ルバート様の腕に抱きかかえられたまま、私は必死で声を絞り出した。
これ以降、おかしくなってしまったルバートとの距離感に、私は終始悩まされることになるのだった。
もう、本当にどうしていいか分からない。
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
【完結】強制力なんて怖くない!
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。
どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。
そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……?
強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。
短編です。
完結しました。
なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる