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30.エピローグ(1)
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『全部、アメリアと一緒にいるためにやったことだ。』
先日、リドル様が置いていった口述筆記魔具から出力された紙に印刷された文字を、何度も何度も読み返す。
これは本当にルバート様の言葉なのだろうか。
とても信じられない。
もう何年も前から、私との結婚を目標にされていたなんて。
夢を見ているんじゃないかと思う。
リドル様が帰られた後、父に確認したのだけれど、コーヒーが特別な魔力を得るのは、お互いが想いあっている間柄ではないとダメだと言っていた。
けれど、それを聞いた後でも、とても信じられない。
その紙が届いた後、ルバート様からは
『今すぐそちらへ向かう』
と連絡があった。
けれど、すぐと言っても、ここは辺境伯領だ。
三日はかかる。
早く会いたいけれど、全て夢だったらどうしようとも思ってしまう。
一度眠りについたものの、やはり眠れずに何度も紙の束を読み返すうち、外が白んできたのが分かった。
ここで待っていないで、せめて領都でお迎えしようかと思っていた時、外で馬のいななきが聞こえた気がした。
まさか、と思う。
まだ一日も経っていない。
窓を開けてみたものの、今日も霧が濃くて、何も見えない。
空耳だとは思ったけれど、どうせ眠れないのだと思い、上着を羽織って外へ出てみることにした。
家の門まで近づいた時、私は空耳でなかったことを知った。
そこには、一頭の馬を従えたルバート様が立っていらした。
供の一人も付けず、単騎でいらしたようだ。
ルバート様が、こちらに気づき、柔らかく微笑まれる。
「アメリア、すまない。起こしてしまっただろうか。」
聴き慣れた低い声が、私を呼ぶ。
ああ、もう二度と聞くことはないと思っていたのに。
胸がいっぱいで、言葉が出てこない。
私が首を左右に振ると、目の前までいらしたルバート様が、
「これが夢でないといいのだが。」
と呟かれた。
そして、次に
「触れてもいいだろうか。」
と尋ねられた。
夢を見ているのは、私の方かもしれないと思う。
夢なら醒めないでほしいと思いながら頷くと、ルバート様がふわっと包むように私を優しく抱きしめた。
「アメリア、すまなかった。ずっと誤解させていたようだ。俺の言葉が足りなかった。ちゃんと伝えるべきだったのに、本当にすまない。」
「いいえ、いいんです。私の方こそ、きちんと最後まで話を聞かず、遮ってしまって申し訳ありませんでした。」
ああ、あの時、ちゃんと最後まで話を聞いていれば、こんな苦しい想いをせずに済んだのにと思う。
でも、あの時は、まさかルバート様が私のことを気にかけてくださっているなんて思いもしなかったのだ。
「もう一度、やり直させてほしいんだが、いいだろうか。」
ルバート様はそう言って跪き、私の顔をじっと見つめた。
自分の顔が赤くなるのが分かる。
私が「はい」と返事をすると、ルバート様は大きく息を吸い、一度吐いた後、また大きく息を吸った。
「アメリア、これからもずっと側にいてほしい。俺と結婚してほしい。」
ルバート様の言葉が、真っ直ぐ心に届いた。
何か気の利いた返事をした方がいいのかもしれないと思ったけれど、「はい」と頷くことしかできない。
胸がいっぱいになる。
ルバート様が再び立ち上がり、私を抱きしめた。
今度は、さっきよりも少し強く抱きしめられる。
ルバート様の香りに包まれて、心臓がどうにかなりそうだ。
ルバート様が不意に腕を緩められて、私の肩に手を置いた。
促されるように顔を上げると、ルバート様の唇がいつかのように私の額に触れた。
そして、次に、私の唇に重なる。
全身の血が逆流して、沸騰してしまうかと思う。
「ああ、やっとだ。」
ルバート様が一人言のように呟いた。
再び抱きしめられて、もうどうしていいか分からなくなっていると、ルバート様が私から手を離し、急によろけた。
先日、リドル様が置いていった口述筆記魔具から出力された紙に印刷された文字を、何度も何度も読み返す。
これは本当にルバート様の言葉なのだろうか。
とても信じられない。
もう何年も前から、私との結婚を目標にされていたなんて。
夢を見ているんじゃないかと思う。
リドル様が帰られた後、父に確認したのだけれど、コーヒーが特別な魔力を得るのは、お互いが想いあっている間柄ではないとダメだと言っていた。
けれど、それを聞いた後でも、とても信じられない。
その紙が届いた後、ルバート様からは
『今すぐそちらへ向かう』
と連絡があった。
けれど、すぐと言っても、ここは辺境伯領だ。
三日はかかる。
早く会いたいけれど、全て夢だったらどうしようとも思ってしまう。
一度眠りについたものの、やはり眠れずに何度も紙の束を読み返すうち、外が白んできたのが分かった。
ここで待っていないで、せめて領都でお迎えしようかと思っていた時、外で馬のいななきが聞こえた気がした。
まさか、と思う。
まだ一日も経っていない。
窓を開けてみたものの、今日も霧が濃くて、何も見えない。
空耳だとは思ったけれど、どうせ眠れないのだと思い、上着を羽織って外へ出てみることにした。
家の門まで近づいた時、私は空耳でなかったことを知った。
そこには、一頭の馬を従えたルバート様が立っていらした。
供の一人も付けず、単騎でいらしたようだ。
ルバート様が、こちらに気づき、柔らかく微笑まれる。
「アメリア、すまない。起こしてしまっただろうか。」
聴き慣れた低い声が、私を呼ぶ。
ああ、もう二度と聞くことはないと思っていたのに。
胸がいっぱいで、言葉が出てこない。
私が首を左右に振ると、目の前までいらしたルバート様が、
「これが夢でないといいのだが。」
と呟かれた。
そして、次に
「触れてもいいだろうか。」
と尋ねられた。
夢を見ているのは、私の方かもしれないと思う。
夢なら醒めないでほしいと思いながら頷くと、ルバート様がふわっと包むように私を優しく抱きしめた。
「アメリア、すまなかった。ずっと誤解させていたようだ。俺の言葉が足りなかった。ちゃんと伝えるべきだったのに、本当にすまない。」
「いいえ、いいんです。私の方こそ、きちんと最後まで話を聞かず、遮ってしまって申し訳ありませんでした。」
ああ、あの時、ちゃんと最後まで話を聞いていれば、こんな苦しい想いをせずに済んだのにと思う。
でも、あの時は、まさかルバート様が私のことを気にかけてくださっているなんて思いもしなかったのだ。
「もう一度、やり直させてほしいんだが、いいだろうか。」
ルバート様はそう言って跪き、私の顔をじっと見つめた。
自分の顔が赤くなるのが分かる。
私が「はい」と返事をすると、ルバート様は大きく息を吸い、一度吐いた後、また大きく息を吸った。
「アメリア、これからもずっと側にいてほしい。俺と結婚してほしい。」
ルバート様の言葉が、真っ直ぐ心に届いた。
何か気の利いた返事をした方がいいのかもしれないと思ったけれど、「はい」と頷くことしかできない。
胸がいっぱいになる。
ルバート様が再び立ち上がり、私を抱きしめた。
今度は、さっきよりも少し強く抱きしめられる。
ルバート様の香りに包まれて、心臓がどうにかなりそうだ。
ルバート様が不意に腕を緩められて、私の肩に手を置いた。
促されるように顔を上げると、ルバート様の唇がいつかのように私の額に触れた。
そして、次に、私の唇に重なる。
全身の血が逆流して、沸騰してしまうかと思う。
「ああ、やっとだ。」
ルバート様が一人言のように呟いた。
再び抱きしめられて、もうどうしていいか分からなくなっていると、ルバート様が私から手を離し、急によろけた。
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